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清華大学×デンソー中国、世界モデルの「予測通りに車が動かない」問題を補正――難しい走行場面で評価得点14.09ポイント改善

    [メンバーシップ限定]中国の清華大学とデンソー中国の研究チームが、世界モデルを利用した自動運転AIにおいて、計画した走行軌跡と、実際の車両制御によって生じる走行軌跡の違いを補正する新技術「ExecutionBridge」を開発した。2026年10月15日、研究論文をarXivで公開した。

    今回の研究が取り組むのは、自動運転AIが計画した通りに、実際の車両が動くとは限らないという問題である。

    近年の自動運転AIでは、世界モデルを利用して、複数の走行軌跡を実行した場合の未来を予測し、その中から適切な軌跡を選択する研究が進んでいる。

    しかし、世界モデルが予測するのは、通常、計画した走行軌跡が実行された場合の未来である。

    実際には、車両の加速・減速特性、操舵応答、制御遅延などによって、計画通りの走行軌跡を実現できない場合がある。

    例えば、AIがある地点で減速する計画を生成しても、実際の車両が減速を開始するまでには時間がかかる。その結果、計画よりも前方へ進んでしまう可能性がある。

    ExecutionBridgeは、この計画と実行の違いを学習し、世界モデルが予測する未来を補正する。

    重要なのは、走行計画を生成するAIや世界モデル全体を再学習する必要がないことである。

    研究チームは、既存のPlanner、世界モデル、報酬評価モデルを固定したまま、車両制御特性の違いに対応する軽量な補正機構を追加した。

    自動運転ベンチマークNAVSIMでは、10種類の未知の車両制御設定を評価し、平均PDMSを87.976から88.589へ改善した。

    さらに、従来モデルのPDMSが80未満だった難しい走行場面では、32.038から46.128へ改善した。

    改善幅は14.09ポイントである。

    今回の研究は、自動運転AIが「どこを走るべきか」を判断する能力と、「計画通りに車両を動かせるか」という問題を結び付けるものである。

    同じ走行計画でも、車両によって結果が変わる

    自動運転システムでは、一般に走行計画と車両制御が異なる役割を担う。

    走行計画を担当するPlannerは、現在の交通環境を認識し、数秒先までの望ましい走行軌跡を生成する。

    一方、車両制御システムは、その軌跡を実現するために、ステアリング、アクセル、ブレーキなどを操作する。

    ここで重要なのは、Plannerが生成する軌跡は、車両に対する目標であって、実際の走行結果そのものではないことである。

    同じ走行軌跡を与えても、操舵応答の速い車両と遅い車両では、実際の移動経路が異なる可能性がある。

    減速についても同様である。ブレーキの応答や制御ゲインが異なれば、減速開始位置や停止位置が変わる。

    従来の自動運転システムでも、こうした違いは車両制御側で考慮されてきた。

    しかし、世界モデルを利用した走行判断では、もう一つの問題が生じる。

    世界モデル自身が、学習時に想定した車両の動き方を前提として、将来の交通環境を予測している場合があるためである。

    その結果、実際の車両制御特性が変わると、世界モデルが想像する未来と、実際に起こる未来が一致しなくなる。

    研究チームは、この違いを「Planning–Execution Gap」と呼んでいる。

    未来予測がずれると、走行軌跡の選択まで変わる

    世界モデルを利用した自動運転AIでは、複数の走行候補を生成し、それぞれを評価する方式がある。

    例えば、前方に障害物がある場合、減速して通過する軌跡と、横方向へ回避する軌跡を生成する。

    世界モデルは、それぞれの軌跡を実行した場合の未来を予測する。

    その未来に対して、衝突の危険性、走行可能領域からの逸脱、目的地へ向かう進行度などを評価する。

    そして、最も高い評価を得た軌跡を選択する。

    しかし、実際の車両が計画よりも遅れて減速する場合、減速を選択した際の未来は、世界モデルが予測したものと異なる可能性がある。

    この場合、世界モデルが予測した未来を基準に走行軌跡を選択すると、実際の車両にとって最適ではない軌跡を選んでしまう。

    つまり、問題は単に走行軌跡を正確に追従できないことではない。

    車両制御特性の違いによって、AIがどの走行軌跡を選ぶべきかという判断自体が変わるのである。

    実際の走行軌跡に置き換えても、問題は解決しない

    今回の研究で特に興味深いのは、直感的には正しそうな解決方法が、十分に機能しなかったことである。

    計画した軌跡と実際の走行軌跡が異なるのであれば、世界モデルへ入力する軌跡を、実際に走ると予測される軌跡へ置き換えればよいように思える。

    研究チームは、この方法を検証した。

    その結果、走行軌跡の幾何学的な誤差を減らすことはできた。

    しかし、走行判断の評価得点はほとんど改善しなかった。

    10種類の未知の車両制御設定を評価した結果、従来のWoTEはPDMS 87.976だった。

    実際の走行軌跡を予測して入力を置き換える方式では、88.024となった。

    改善幅はわずか0.048ポイントである。

    さらに、研究チームはシミュレーションで正確な実行軌跡が分かっている場合も検証した。

    それでも、単純な置き換えでは走行候補の評価が十分に改善しなかった。

    これは、単に走行軌跡の予測精度を高めれば問題が解決するわけではないことを意味する。

    なぜ、正しい実行軌跡を入力すると判断がずれるのか

    研究チームが注目したのは、計画軌跡と実行軌跡の意味の違いである。

    計画軌跡は、車両制御システムへ与える目標である。

    実行軌跡は、その目標を受けた車両制御システムが、実際にどのように車両を動かしたかという結果である。

    この二つは、同じ位置座標の系列として表現できる。

    しかし、世界モデルにとっては意味が異なる。

    世界モデルは、学習時に「この計画軌跡を与えた場合、車両がどのように動き、交通環境がどう変化するか」という関係を学習している。

    そのため、実行済みの軌跡を計画軌跡として入力すると、世界モデルはそれを新たな目標として解釈してしまう可能性がある。

    例えば、ある制御システムでは、計画した旋回よりも実際の旋回が遅れるとする。

    その実行結果を新たな計画として入力しても、世界モデルは学習済みの制御特性に従って、さらに異なる未来を予測する可能性がある。

    つまり、正確な実行軌跡を与えたからといって、正確な未来が生成されるとは限らない。

    ExecutionBridgeは、計画軌跡を変更するのではなく、その計画から予測される未来の内部表現を補正する。

    これが従来手法との最も大きな違いである。

    1024組の「計画と実行」から車両制御の特性を抽出

    ExecutionBridgeは、二つの軽量な構成要素からなる。

    第一の構成要素が「Controller Encoder」である。

    Controller Encoderは、計画軌跡と実行軌跡の組み合わせを入力し、その車両制御システムに固有の特性を抽出する。

    今回の主な実験では、一つの制御設定について1024組の軌跡データを利用した。

    例えば、計画に対して操舵がどの程度遅れるか、加減速の応答がどのように異なるかといった情報が、計画と実行の差に反映される。

    ただし、Controller Encoderは、操舵ゲインや車両重量などの物理パラメータを明示的に推定するわけではない。

    複数の軌跡データから、その制御システムに共通する実行特性を、AI内部の特徴ベクトルとして表現する。

    学習時には、ある制御システムの複数の軌跡データを入力し、それとは別の計画軌跡がどのように実行されるかを予測させる。

    この方法によって、個々の走行軌跡を記憶するのではなく、制御システムに共通する特性を獲得する。

    学習後は、実行軌跡を予測するための補助的なネットワークを取り除く。

    実行時に利用するのは、制御システムの特性を抽出するController Encoderである。

    Latent Bridgeが、世界モデルの「想像する未来」を補正

    第二の構成要素が「Latent Bridge」である。

    Latent Bridgeは、世界モデルが生成した未来の内部表現を補正する。

    ここでいう内部表現とは、世界モデルが交通環境や自車の状態を予測する際に利用する特徴情報である。

    ExecutionBridgeでは、まず従来通り、計画軌跡を世界モデルへ入力する。

    世界モデルは、その計画を実行した場合の未来を予測する。

    次にLatent Bridgeが、Controller Encoderから得られた車両制御特性を利用して、未来の内部表現のうち、自車に関係する部分を補正する。

    このとき、周囲の交通環境に関する情報を無制限に書き換えるわけではない。

    自車に関係する内部特徴を限定的に変更し、その補正を既存の世界モデルへ反映する。

    そして、補正された未来を、従来の報酬評価モデルが評価する。

    つまり、世界モデルが想像する未来を車両制御特性に合わせて調整することで、走行候補の評価を改善するのである。

    重要なのは、既存のPlanner、世界モデル、報酬評価モデルを変更しないことである。

    ExecutionBridgeが追加するのは、車両制御特性を表す情報と、それを利用した未来の補正機構である。

     
     
    急速に進む中国のCASE(Connected&Cabin,Autonomous,Shared&Service,Electric)やAIについての最新情報。2018年から1日1本以上のレポート配信。毎朝8:00日刊中国モビリティレポートと適時号外レポート

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