
中国NEV保有4897万台、整備人材は80万人超不足――NIO、200以上の修理工程を標準化しクラウド診断を全国展開
[メンバーシップ限定]中国で新エネルギー車(NEV)の普及が急速に進む一方、その整備を担う専門人材の不足が深刻化している。
2026年6月末時点で中国のNEV保有台数は4897万台に達した。しかし、NEVの専門的な整備技能を持つ人材は10万人余りにとどまり、必要な整備人材の不足は80万人を超えるとされる。
こうしたなか、中国のEVメーカー蔚来(NIO)は、整備技術者の育成、修理工程の標準化、クラウドデータを利用した故障診断、全国のサービスセンターによる技術情報の共有を進めている。2026年10月26日にNIOが配信したレポートで明らかになった。
それによると、同社は200以上の修理場面について標準作業手順を整備。技術者が作業工程ごとに記録を残し、修理品質を検証できる仕組みを構築している。
また、車両がサービスセンターに入庫する前にクラウド上のデータから故障原因を推定する遠隔診断や、全国の技術者が修理事例を共有するシステムも活用している。
2026年10月23日には、中国自動車メンテナンス業界協会が主催するアフターサービス顧客満足度調査で、NIOがNEVブランド部門の首位を獲得したと発表された。
ただし、顧客満足度の評価と整備技術の優劣は同じではない。
今回注目したいのは、NEVの普及によって自動車整備に求められる技術が変わり、NIOがその変化に対応するため、個人の経験に依存していた整備業務を、データと標準化によって組織全体の能力へ転換しようとしていることである。
NEV保有4,897万台、整備人材の不足は80万人超
中国ではNEVの販売拡大に伴い、実際に道路を走る車両の台数も増え続けている。今回の資料によると、2026年6月末時点のNEV保有台数は4897万台に達した。
一方、NEVの専門的な整備技能を持つ人材は10万人余りとされる。中国自動車メンテナンス業界協会の調査として、次の状況も紹介されている。
NEV整備企業は3万社未満
三電システムの修理能力を持つ店舗は3%未満
独立して電池の検査・保守を行える技術者は24.7%
NEV整備人材の不足は80万人超
三電システムとは、駆動用電池、駆動モーター、電力制御システムを指す。
これらの整備には、従来の機械整備とは異なる電気・電子技術や高電圧設備の取り扱いに関する専門知識が必要となる。
特に駆動用電池や高電圧回路では、誤った作業が重大な事故につながる可能性がある。
そのため、一般的な自動車整備の経験があるだけでは、NEVの高度な故障診断や修理を担当できるとは限らない。
なお、10万人余りという専門人材数、24.7%という技術者比率、80万人超という人材不足数は、それぞれ対象範囲や算定方法が異なる可能性がある。
今回の紹介記事には調査原典の詳細な定義が示されていないため、これらを直接組み合わせて整備能力の充足率を算出することはできない。
それでも、NEVの保有台数が急増する一方、高度な整備技能を持つ人材の育成が重要な産業課題となっていることは読み取れる。

自動車整備の主役が機械から電気・電子へ
今回のNIOの取り組みを紹介する記事では、23歳の整備技術者、楊洋氏が登場する。
楊氏はNIOの整備体系で最高ランクに位置付けられるDT技師の認定を取得している。
DT技師は、一般的な整備・保守業務に加え、難度の高い故障診断を担当する専門技術者である。
楊氏によると、自身が自動車整備を学んでいた頃、教育内容は機械系が約70%、電気・電子系が約30%だった。
しかし、現在のEV整備では、その比率が逆転しているという。
これは楊氏自身の経験に基づく説明であり、中国全体の整備教育課程を統計的に示した数字ではない。
それでも、整備技術の変化を象徴する発言である。
従来のガソリン車では、エンジンや変速機、排気系統などの機械的な不具合が整備の中心だった。
熟練技術者は、異音や振動、部品の状態などから故障原因を推定することができた。
一方、NEVでは、故障原因が高電圧システム、電力制御、電子部品、センサー、ソフトウェアなどに存在する場合がある。
さらに、特定の走行条件や制御状態でしか発生しない不具合もある。
機械部品の破損とは異なり、ある条件では正常に動作し、別の条件では異常が発生することもある。
そのため、電流や電圧の波形を測定し、車両の制御状態と照合しながら原因を絞り込む診断能力が重要となる。

90分で故障原因を特定、NIOが整備技能競技会を開催
NIOは今回、社内で第3回アフターサービス技能競技会を開催した。
全国のNIOサービスセンターから2,500人以上が参加し、そのうち整備技術者とサービス担当者の計44人が決勝に進出した。
競技の中心となったのは、電気・電子系統の故障診断である。
参加者は、配線や接続部、各種測定機器を使い、部品の動作信号を収集する。
さらに、異なる動作条件で発生する電流波形の変化を分析し、故障範囲を特定する。
通常なら2~3時間かかることもある診断作業を、競技では90分以内に完了する必要があった。
楊氏は競技会に向け、自宅にある新型ES8を分解して練習したという。
車両の構造や測定箇所、基準値などを繰り返し確認し、故障診断の精度と作業速度を高めた。
その結果、楊氏は電気・電子系整備部門で優勝。サービス担当者の熊循涛氏と組んだ団体競技でも総合優勝を獲得した。
技能競技会は個人の能力を評価する取り組みであり、それだけで全国の整備品質が証明されるわけではない。
しかし、NIOが高度な診断能力を持つ技術者の育成を重視していることを示す事例である。
200以上の修理場面を標準作業手順に分解
NIOの整備体制で特に注目されるのが、修理工程の標準化である。
自動車整備では、同じ不具合でも担当する技術者の経験によって、原因の特定にかかる時間や作業品質が異なる場合がある。
熟練技術者なら短時間で解決できる故障でも、経験の浅い技術者では診断に時間がかかり、適切な修理方法を選べない可能性がある。
NIOは、こうした個人差を減らすため、200以上の修理場面を対象に標準作業手順を整備している。
具体的には、修理作業を細かな工程に分け、技術者が決められた手順に従って作業を進める。
各工程の完了時には、写真などの記録を提出する。これにより、作業が正しく実施されたかを後から確認できる。
さらに、NIOは次の三段階による品質確認を導入している。
自己点検:作業を担当した技術者自身による確認
相互点検:別の担当者による確認
抜き取り点検:対象を選んで実施する追加確認
これらの確認結果は、作業記録と結び付けて追跡できる仕組みとなっている。
NIOは全国350カ所以上のサービスセンターを展開しているとされる。
拠点数が増えるほど、修理品質を個々の技術者の経験だけに依存することは難しくなる。
標準作業手順と作業記録を組み合わせることで、異なる拠点でも一定の品質を確保することが狙いである。
ただし、今回の資料では、標準化によって修理時間や再修理率がどの程度改善したかという定量的な成果は示されていない。
