
Geely、世界モデルで未来の危険を評価し走行軌跡を選択――ManeuverFlow、NAVSIM v2で90.1
[メンバーシップ限定]吉利汽車(Geely)研究院AIセンターと重慶大学の研究チームは2026年10月9日、自動運転AIが複数の走行候補を生成し、世界モデルによる未来予測を利用して評価・修正する新手法「ManeuverFlow」を発表した。
今回の研究が取り組むのは、自動運転AIが複数の走行方法を検討する際、計算負荷を抑えながら、将来の危険まで考慮して最適な軌跡を選べるかという問題である。
ManeuverFlowは、まず異なる運転意図に対応する走行候補を一度に生成する。次に、世界モデルが予測した未来のBEV(鳥瞰視点)特徴を利用し、それぞれの候補について衝突の危険性や走行効率を評価する。さらに、有望な候補を修正し、修正前後の軌跡を比較して最終的な走行方法を選択する。
NAVSIM v2のnavtestではEPDMS 90.14、NAVSIM v1ではPDMS 90.58を記録した。
重要なのは、走行候補ごとに世界モデルを繰り返し動かすのではなく、共通する未来予測を一度生成し、複数の軌跡評価に再利用する設計である。
自動運転AIは、なぜ複数の走行候補を必要とするのか
自動運転AIが走行軌跡を生成する場合、正解は必ずしも一つではない。
例えば、前方に低速車両が存在する場面を考える。
自車は、そのまま減速して追従することもできる。周囲の交通状況が許せば、車線を変更して通過することもできる。
さらに、同じ車線を維持する場合でも、減速を開始するタイミングや速度の変化には複数の選択肢がある。
こうした異なる走行方法を比較するには、自動運転AIが複数の軌跡を生成する必要がある。
しかし、従来のEnd-to-End(E2E)自動運転AIには、二つの問題があった。
一つは、生成した複数の軌跡が似通ってしまうことである。
例えば、64本の軌跡を生成しても、その大部分がほぼ同じ直進軌跡であれば、異なる走行方法を十分に比較できない。
もう一つは、候補を増やすほど、評価に必要な計算量が増えることである。
例えば、64本の候補それぞれについて、世界モデルで未来の交通状況を予測すると、大きな計算負荷が発生する。
ManeuverFlowは、この二つの問題を同時に解決しようとする。
64本の軌跡があっても、運転方法は一つかもしれない
従来の生成型自動運転AIでは、DiffusionやFlow Matchingを利用して複数の走行軌跡を生成する。
これらの手法は、複雑な軌跡分布を学習できる。
しかし、複数の候補を生成したからといって、必ずしも異なる運転意図が表現されるわけではない。
例えば、64本の候補がすべて、ほぼ同じ場所を通る場合がある。
研究チームは、この問題をMode Collapse、すなわち生成候補の多様性が失われる現象として捉えている。
また、あらかじめ決められた軌跡パターンを利用する方法にも限界がある。
例えば、直進、左旋回、右旋回などの候補を固定的に用意した場合、現在の道路状況では不要な候補にも計算資源を割り当てることになる。
狭い道路を直進する場面では、大きな旋回を伴う候補は不要かもしれない。
一方、複雑な交差点では、複数の進路候補が必要になる。
つまり、重要なのは、単に候補数を増やすことではない。
現在の交通状況に応じて、意味のある異なる走行方法を生成することである。
運転意図を、走行軌跡の分布として学習
ManeuverFlowは、Maneuver Gaussian Mixture Prior(M-GMP)という仕組みを導入した。
これは、異なる運転意図に対応する走行軌跡の分布を、複数のガウス分布として表現する方法である。
研究チームは、実際の運転者による走行軌跡を、移動距離、進行方向、速度変化などの特徴によって分類する。
例えば、同じ道路を走る場合でも、減速する軌跡、速度を維持する軌跡、旋回する軌跡では、動きの特徴が異なる。
M-GMPは、こうした軌跡の違いを、複数の運動パターンとして学習する。
ただし、ここでいう運転意図は、人間の心理的な意思を直接推定するものではない。
走行軌跡の形状や運動特性から分類した、運動パターンのことである。
そして、現在の交通状況に応じて、どの運動パターンから何本の候補を生成するかを調整する。
例えば、直進が自然な場面では、直進に近い候補へ多くの生成枠を割り当てる。
旋回が必要な場面では、旋回に対応する候補を増やす。
これによって、固定的な軌跡パターンよりも、交通状況に適した候補を生成しようとする。
Mixture-of-Expertsで、異なる走行方法を生成
ManeuverFlowは、M-GMPによって選択した運動パターンから、実際の走行軌跡を生成する。
この部分には、Maneuver-Mixture MeanFlow Field(M³F)という仕組みを利用する。
M³Fは、MeanFlowとMixture-of-Experts(MoE)を組み合わせた軌跡生成器である。
MeanFlowは、生成過程を効率化するための手法であり、今回の研究では一回の変換で軌跡を生成する。
従来のDiffusion型生成では、ノイズから軌跡を生成するまでに複数回の反復計算が必要になる場合がある。
M³Fは、運動パターンごとに異なる専門ネットワークを利用し、複数の候補を一度に生成する。
例えば、減速に対応する運動パターンと、旋回に対応する運動パターンでは、異なる専門ネットワークが軌跡生成に関与する。
ただし、完全に独立したモデルを運転意図ごとに用意するわけではない。
共通の交通状況情報を利用しながら、運動パターンに応じて専門部分を切り替える。
これによって、異なる走行方法を効率的に生成する。
世界モデルは、候補ごとに未来を予測しない
ManeuverFlowのもう一つの特徴が、世界モデルの利用方法である。
従来の一部の手法では、走行候補ごとに未来の交通状況を予測する。
例えば、直進する場合の未来を予測する。
次に、左車線へ移動する場合の未来を予測する。
さらに、右車線へ移動する場合の未来を予測する。
候補が64本あれば、それぞれについて未来予測が必要になる場合がある。
この方式では、候補を増やすほど計算負荷が大きくなる。
ManeuverFlowは、異なる方法を採用した。
まず、現在の交通状況から、将来のBEV特徴を一度だけ予測する。
BEVとは、Bird's-Eye Viewの略であり、道路や周囲の物体を上空から見下ろしたように表現する方法である。
世界モデルは、現在のBEV特徴から、将来のBEV特徴がどのように変化するかを予測する。
この未来予測は、特定の走行候補に対応したものではない。
複数の走行候補で共有する未来情報である。
そして、それぞれの候補が通る場所から、必要な未来情報を取り出す。
つまり、未来予測は一度だけ行い、走行候補ごとに異なる情報を読み出す。
これによって、候補ごとに世界モデルを繰り返し実行する必要を減らしている。
未来のBEVから、軌跡に沿った情報を取り出す
例えば、二つの走行候補があるとする。
第一の候補は、現在の車線を維持する。
第二の候補は、左側の車線へ移動する。
世界モデルは、将来のBEV特徴を予測する。
そこには、道路の構造や周囲の交通参加者に関する情報が含まれる。
ManeuverFlowは、それぞれの走行候補について、将来どの位置を通過するかを計算する。
そして、その位置に対応する未来のBEV特徴を取り出す。
例えば、左車線へ移動する候補では、左車線上の未来情報を重点的に参照する。
現在の車線を維持する候補では、その車線上の未来情報を参照する。
研究チームは、この仕組みをTrajectory-Guided BEV Feature Probeと呼んでいる。
取り出した情報は、Trajectory Evidence Memoryとして保持する。
これは、走行候補ごとに、その候補を評価するための情報をまとめたものである。
つまり、共通の未来予測から、候補ごとに異なる評価情報を作成する。
ただし、重要な制約がある。
世界モデルが予測する未来は、候補ごとに異なる車両行動を条件として生成されたものではない。
そのため、自車が別の軌跡を選んだことで、周囲の車両や歩行者がどのように反応するかを、候補ごとに厳密に再現するものではない。
ManeuverFlowは、この制約と引き換えに、未来予測の計算量を抑えている。
五つの指標から、走行候補を評価する
ManeuverFlowは、走行候補の評価にMetric Prismという仕組みを利用する。
Metric Prismは、現在と未来のBEV情報を参照しながら、各候補について五つの指標を予測する。
対象は以下の五つである。
第一は、No At-Fault Collision(NC)である。
自車に責任がある衝突を回避できるかを評価する。
第二は、Drivable Area Compliance(DAC)である。
車両が走行可能領域から逸脱しないかを評価する。
第三は、Ego Progress(EP)である。
目的の経路に沿って、どの程度前進できるかを評価する。
第四は、Time to Collision(TTC)である。
衝突までの時間に関する安全性を評価する。
第五は、Comfort(Comf)である。
急加速や急減速などを考慮し、走行の快適性を評価する。
Metric Prismは、これらの指標を予測し、PDMに基づく合成スコアを計算する。
そして、複数の走行候補を比較する。
重要なのは、単一の安全性スコアを直接予測するのではなく、衝突回避、走行可能領域、進行状況、快適性などを分けて評価することである。
これによって、ある候補が高く評価された理由を、複数の要素から捉えられる。