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中国、自動車メーカーの「60日払い」の抜け道を封鎖――検収3日、価格交渉中も代金先払いへ

    [無料]中国工業情報化部(工信部)と国家市場監督管理総局は2026年9月7日、自動車メーカーによるサプライヤーへの代金支払いを規範化する新たな通知を発表した。

    正式名称は「自動車企業によるサプライヤー代金支払いの規範化と支払期間管理の最適化を推進する通知」である。

    今回のポイントは、単純に「60日以内に支払え」と改めて求めたことではない。

    中国では2025年6月、主要自動車メーカー17社が相次いでサプライヤーへの支払い期間を60日以内とすることを表明した。

    しかし約1年を経て、中国政府が問題にしたのは、その「60日」を実際にはいつから数えるのかだった。

    検収を遅らせる。価格交渉を長引かせる。集中照合のタイミングを後ろへずらす。現金ではなく手形などを渡す。

    形式上は「60日以内」であっても、サプライヤーが実際に現金を受け取るまでの時間を延ばす余地は残されていた。

    そこで中国政府は今回、支払期間だけではなく、起算日、検収期限、価格未確定時の支払い、決済手段、報告・監督まで細かく規定する方向へ踏み込んだ。

    「60日以内」だけでは解決しなかった

    中国自動車市場では激しい価格競争が長期化し、その圧力がサプライチェーンにも波及してきた。

    完成車メーカーが販売価格を引き下げれば、自社だけですべての負担を吸収するとは限らない。

    部品メーカーへの値下げ要求、長期の支払いサイト、各種の非現金決済などを通じて、資金負担を上流へ移すことができる。

    こうした問題を受け、2025年6月には主要自動車メーカー17社がサプライヤーへの支払いを60日以内とすることを相次いで表明した。

    工信部によれば、その後、完成車メーカーの平均支払期間は短縮し、現金決済比率も大きく上昇した。

    それでも、成熟した多国籍自動車メーカーと比べれば支払い期間はなお長く、改善の余地があるとする。

    そして実際の運用を調べると、別の問題が見えてきた。

    「60日以内」という数字だけ決めても、その60日を数え始める時点が曖昧なら、実際の支払いは後ろへ延ばせる。

    60日の時計をいつから動かすのか

    今回、中国政府が細かく規定したのが、この「時計のスタート地点」である。

    原則として、サプライヤーが貨物、工事、サービスを納入し、検収に合格した日から支払期間を計算する。

    これまでは企業によって、納品、検収、請求書の受領、月次の集中照合、実車への搭載確認など、支払い期間の起算方法に違いがあった。

    とりわけ問題になるのが「検収」である。

    仮に「検収完了から60日以内」と契約していても、完成車メーカー側が検収そのものを長引かせれば、60日のカウントダウンは始まらない。

    名目上の支払期間と、実際にサプライヤーが資金を回収するまでの期間が乖離する。

    今回の通知は、この部分まで規制対象にした。

    一般部品は3営業日、実車確認でも5営業日

    一般的な自動車部品については、完成車メーカーが受け入れてから3営業日以内に検収を完了することを求める。

    3営業日を過ぎても検収を行わなければ、原則として検収に合格したものとして扱う。

    さらに、部品を実際の車両へ搭載して確認する必要がある場合でも、原則として5営業日以内に車両のラインオフ検査を完了する。

    これはかなり実務的な規制である。

    政府は、「60日以内に払ったか」だけを見るのではなく、「その60日を始めないために検収を引き延ばしていないか」まで見ることになる。

    継続的に納入される部品についても、月次の集中照合などを利用して起算日を後ろへずらすことを制限する。

    つまり今回の政策は、「60日」という支払期間の上限を設けるだけでなく、60日の前に隠れていた時間を削る制度でもある。

    価格交渉中でも支払いを止められない

    さらに注目されるのが、価格が最終確定していない場合の扱いである。

    自動車メーカーとサプライヤーの間では、継続的なコスト削減交渉が行われる。

    その価格が決まらないことを理由に、代金の確定や支払いそのものが後ろへずれる可能性がある。

    今回の制度では、価格が確定していなくても支払いを進める仕組みを設けた。

    継続取引の場合は、直近の契約価格の90%以上を基準として先に支払い、最終価格が決定した後に差額を精算する。

    継続取引ではない場合についても、業界平均価格や開発段階で設定した価格などを基準として70%以上を先に支払う仕組みとする。

    ここは今回の規制の中でも重要である。

    完成車メーカーが、「今年の値下げ幅がまだ決まっていない」ことを理由に、サプライヤーへのキャッシュアウトまで止め続けることを難しくするからだ。

    価格交渉をする権利そのものを奪うわけではない。価格交渉と支払いを切り離すのである。

    手形で「払ったことにする」慣行にも制約

    支払期間と並んで、中国のサプライヤーにとって大きな問題となるのが決済方法である。

    帳簿上は売掛金が決済されても、現金ではなく商業手形やサプライチェーン関連の電子債権などを受け取れば、サプライヤーが自由に使える現金を即座に得られるとは限らない。

    特に資金力の弱い中小企業では、その違いが資金繰りへ直接影響する。

    今回の通知は、自動車メーカーがサプライヤーに対して商業手形やサプライチェーン手形などの非現金決済手段を一方的に受け入れさせることを抑制する。

    中小企業との契約で決済方法を明確に定めていない場合には、現金で支払うことを求める。

    また中小サプライヤーについては30日以内の支払いを奨励し、最長でも60日以内とする方向が示された。

    これは「いつ支払ったとみなすか」にも政府が踏み込み始めたことを意味する。

    部品だけでなく工事・サービスまで対象に

    対象も従来の部品メーカーだけではない。

    大型自動車企業とその100%子会社、支配子会社については、中小企業から調達する貨物だけでなく、工事やサービスについても60日以内の現金払いとすることが奨励される。

    自動車産業のサプライチェーンは、鉄鋼、電池、半導体、電子部品、内外装部品だけで構成されているわけではない。

    工場設備、ソフトウェア、開発支援、エンジニアリング、物流をはじめ、完成車メーカーの周囲には巨大な企業群が存在する。

    中国政府は今回、その資金循環をより広い範囲で正常化しようとしている。

    半年ごとの報告、第三者評価、政府検査へ

    そして今回、「自主的な約束」から大きく変わったのが監督方法である。

    自動車メーカーには、毎年7月末と翌年1月末までにサプライヤーへの支払い状況を工信部へ報告することが求められる。

    それだけではない。

    第三者機関による定期的な評価も実施し、結果を公表する仕組みを設ける。

    さらに、未払金残高が大きい企業、意図的に支払期間を長期化させている疑いのある企業、中小企業から苦情が繰り返し寄せられている企業などについては、工信部、国家市場監督管理総局などが共同で監督・検査を行う。

    問題が確認されれば是正を求め、法令違反があれば処分につなげる。

    したがって今後は、企業による自己申告 → 第三者評価 → 行政による監督検査という複数段階の監視になる。

    「自主宣言」から制度による監督へ

    2025年6月の主要17社による「60日以内」の表明は、中国自動車産業にとって一つの転換点だった。

    しかし、あくまで各社による自主的な約束という側面が強かった。今回の通知は、その次の段階である。

    60日以内に支払う、だけではない。

    いつから60日を数えるのか、何日以内に検収するのか、価格が決まっていなくても、いくら先に払うのか、何を使って決済するのか、誰が実績を報告し、誰が評価し、誰が検査するのか、まで制度化し始めた。

    これは、2025年に始まった「60日払い」を実際に機能させるための、いわば第二段階である。

    問われているのは中国自動車産業の資金循環

    背景にある問題は、自動車メーカーとサプライヤーの契約条件だけではない。

    中国自動車市場では、NEVを中心として激しい価格競争が続いてきた。販売価格を下げても、自動車メーカー自身がその負担をすべて引き受ける必要はない。

    サプライヤーへ値下げを要求する。支払いを遅らせる。現金ではなく手形などを使う。

    そうすれば、完成車メーカーは自社のキャッシュフローを維持しながら競争を続けられる。

    逆に言えば、その一部はサプライヤーによる事実上の運転資金融資で支えられることになる。

    特に規模の小さい部品メーカーほど資金調達力は弱く、支払いが数カ月遅れるだけでも経営への影響は大きい。

    完成車メーカーの販売台数が伸びていても、その裏側でサプライチェーンの資金繰りが悪化すれば、産業全体として持続可能とは言いにくい。

    「内巻」のコストをサプライヤーへ転嫁させない

    工信部は今回、長すぎる支払期間を自動車産業における「非理性的競争」の典型的な表れとして位置づけている。

    ここが今回の政策を理解するうえで重要である。

    中国政府が止めようとしているのは、価格競争そのものではない。技術革新や生産効率向上によって価格を下げる競争まで否定しているわけではない。

    問題視しているのは、完成車メーカーが競争力を維持するために、取引上の強い立場を利用してサプライヤーへ過度な負担を移す構造である。

    2025年には「60日以内」という数字を業界に受け入れさせた。2026年には、その60日の前後に残っていた抜け道まで塞ぎ始めた。

    検収を遅らせない。価格交渉中でも一定額を払う。非現金決済を押し付けない。実績を政府へ定期報告する。

    中国の自動車産業政策は、「もっと作る」「もっと売る」ことを後押しする段階から、激しい競争によって生じた産業内部のひずみを修正する段階へ明確に移りつつある。

    今回の支払い規制は、その象徴的な政策の一つである。

    完成車メーカーが価格競争を続けることはできる。しかし、その競争の資金をサプライヤーに負担させることは認めない。中国政府が今回引いた線は、そこにある。

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