
BMW、車載アプリをAIで置き換える――斑馬智能・アリババと「No Touch No App」、新世代iX3に3つのAIエージェント
[メンバーシップ限定]BMWが中国向け新世代モデルで、車載アプリを人間が操作する従来型のスマートキャビンから、AIがユーザーの意図を理解してタスクを実行する新しい車内インターフェースへの転換を進めている。
中国の車載AI企業、斑馬智能は2026年10月15日、BMWの新世代モデル向けに開発したAIキャビンの詳細を発表した。
中核となるのは、アリババの千問(Qwen)大規模言語モデル(LLM)と、斑馬智能の元神AIを組み合わせた車載AIエージェントである。
中国向け新世代BMW iX3には、「用車専門家」「出行伴侶」「百科達人」という3種類のAIエージェントを用意する。
BMW、アリババ、斑馬智能が掲げる設計思想は「No Touch No App」。
画面に触れず、アプリを探さず、ユーザーがやりたいことをAIへ伝えれば、必要な機能やサービスをAIが呼び出して実行するという考え方である。
BMWはすでに中国のMomentaと運転支援AIを共同開発し、CATLなどと第6世代電池の工業化を進めている。
今回の斑馬智能との協業は、それらとは異なる領域である。
クルマが周囲の交通環境を理解するだけではなく、車内にいる人間の意図や要求を理解し、必要な行動へつなげる。
BMWのNeue Klasse(ノイエ・クラッセ)で、AIが担う領域がさらに広がっている。
10月15日、BMWが「中国との共創」を改めて強調
10月15日に開催されたBMW中国イノベーションデーで、BMWは新世代モデルの中国現地生産に向け、核心技術の研究開発から現地生産体系までの準備が整ったことを発表した。
今回、BMWグループ会長のミラン・ネデルコヴィッチ氏は、就任後初めて中国を訪問した。
同氏が示したのは、「世界で確固たる地位を築くには、まず中国で確固たる地位を築く必要がある。中国で確固たる地位を築くには、中国と共創しなければならない」という考え方である。
BMWの新世代モデルには、アリババ、Momenta、福耀ガラス、寧徳時代(CATL)など、中国企業の技術が幅広く採用される。
ただし、今回の斑馬智能の発表で注目すべきなのは、こうした中国企業との協業全体ではない。
BMWが車内のユーザーインターフェースを、AIエージェントを中心としたものへ変えようとしていることである。
3つのAIエージェントが車内の役割を分担
斑馬智能によると、中国向け新世代BMW iX3には、元神AIを基盤として開発した3種類のAIエージェントが搭載される。
第1が「用車専門家」である。
車両の機能や使用方法など、クルマそのものに関する要求を扱う。従来であれば取扱説明書を調べたり、車載メニューを探したりする必要があった場面で、AIがユーザーを支援する役割である。
第2が「出行伴侶」である。
移動や外出に関する要求を扱う。車両の内部機能だけでは完結しない、移動に伴う情報やサービスをAIが支援する方向を目指している。
第3が「百科達人」である。
知識や情報に関する質問に対応する。従来の車載音声アシスタントが得意としてきた限定的なコマンド認識から、より幅広い質問や知識要求へ対応領域を広げる。
この3つは、それぞれ独立したアプリというより、ユーザーの要求に応じて役割を分担するAIエージェントとして位置付けられている。
もっとも、今回の発表では、各エージェントが具体的にどの外部サービスを操作できるのか、複数の処理をどこまで自律的に完了できるのかは詳しく示されていない。
3種類のエージェントが用意されたことと、あらゆるタスクを自動実行できることは区別する必要がある。
「No Touch No App」――アプリを探す操作から、目的を伝える操作へ
今回、最も重要なのが「No Touch No App」という設計思想である。
従来のスマートキャビンは、スマートフォンに近い方向へ進化してきた。
大きなセンターディスプレイを搭載し、ナビゲーション、音楽、動画、車両設定などのアプリを配置する。
ユーザーは画面から必要なアプリを探し、起動し、メニューを選択して目的の機能を利用する。
音声操作が導入されても、多くの場合は個別機能を呼び出すための手段だった。
これに対して、BMWと斑馬智能が目指しているのは、ユーザーがアプリの存在や操作手順を意識しなくてもよい車内環境である。
ユーザーがAIへ目的を伝えると、AIがその意図を理解し、必要な機能やサービスを選択して実行する。
ここで変わるのは、単なる入力方法ではない。
従来は人間がアプリを選び、そのアプリに何をさせるかを決めていた。
新しい構想では、AIがユーザーの要求から必要な処理を判断し、機能やサービスを呼び出す役割を担う。
つまり、人間がアプリを操作する構造から、AIが人間に代わってアプリやサービスを操作する構造への転換である。
ただし「No App」は、車載アプリや外部サービスそのものが不要になるという意味ではない。
実際には、ナビゲーション、情報検索、各種オンラインサービスなどの機能が背後で動作する必要がある。
変わるのは、それらをユーザーが直接選択・操作する必要性である。
千問は言語理解、元神AIは車載エージェントの実行基盤
今回の技術構造を理解するうえでは、アリババと斑馬智能の役割を分けて考える必要がある。
BMWが採用する中国向けAIキャビンは、アリババの千問大規模言語モデルを基盤としている。
千問は、自然言語の理解、質問への回答、ユーザーの意図の解釈などを支えるAIモデルである。
一方、斑馬智能の元神AIは、その能力を車載環境で利用するための技術体系として位置付けられている。
車内では、単に質問へ文章で回答できればよいわけではない。
ユーザーの要求が車両機能に関するものなのか、移動サービスに関するものなのか、一般的な知識への質問なのかを判断する必要がある。
さらに、必要な機能やサービスへ要求を引き渡し、結果をユーザーへ返す仕組みが必要となる。
BMWが斑馬智能と共同開発するAIエージェントは、こうした車載環境特有の要求に対応するものである。
ただし、今回の発表だけでは、千問と元神AIの内部的な処理分担、車載側とクラウド側の計算分担、具体的なツール呼び出しの仕組みまでは確認できない。
大規模言語モデルを車内へ導入したことと、実際に車両や外部サービスを操作する能力を実装したことは、技術的には異なる段階である。
