
日産、英国で自動運転研究を「走れるか」から「住民を運べるか」へ――ケンブリッジで移動サービス実証
[無料]日産は2026年9月28日、英国ケンブリッジで自動運転車を使った地域交通サービスの実現を目指す新たな研究プロジェクト「ADventure」を開始すると発表した。
何をするのか。
一言で言えば、これまで研究してきた自動運転車を、今度は実際に住民を運ぶ「移動サービス」として成立させられるかを試す。
自動運転技術そのものを開発、検証するだけではない。
自動車を運転できない人を病院へ連れて行く。既存の公共交通を補完する。住民が安心して利用できる仕組みを作る。自治体や通勤者、地域住民と一緒に、どこで、誰が、何のために使うサービスなら地域交通として機能するのかを設計する。
そしてプロジェクトの最後には、ケンブリッジの公道で自動運転モビリティサービスを実演する。
ここまでが今回の日産「ADventure」である。
車両自体は新しくない。
過去の英国での研究にも使ってきた2022年型「日産LEAF」ベースの自動運転実験車を再利用する。
つまり今回の主役は新しい自動運転車でも、新しいAIでもない。
研究対象そのものが「クルマ」から「サービス」へ移ったことが最大の変化である。
はじめに
日産自動車のニュース配信に登録しているので、今回のプレスリリース日本語版を2026年9月28日15:10にメールで受け取った。
しかしのそのメールで本件のタイトルについているリンクをクリックしてもリンク切れを起こして遷移しない。下にある「続きを読む」をクリックして、ようやく日産のページに到着。
ここまでですでに「三流企業かな?」と思わせるが、そこに書かれている内容を確認すると――
これを理解するのは極めて高いIQが必要となりそうな、何が言いたいのかよく分からないものになっている。
何でこんな訳が分からないプレスリリースをするんだろうと思って、念のため、英語版を確認すると――
いや、日本語版では極めて重要なところが抜けている。つまり、英語版が基準だった。今回、その英語版を参考にして、それを日本語で解説する。
日産がケンブリッジへ自動運転車を持ち込む
ADventureを主導するのは日産テクニカルセンター・ヨーロッパ(NTCE)である。
プロジェクト総額は300万ポンド。英国政府の支援を受け、Warwick大学のWarwick Manufacturing Group(WMG)、自動運転に関する社会理解を進めるPAVE UK(Partners for Automated Vehicle Education UK)などと共同で実施する。
最初の実証地域として選ばれたのがケンブリッジだった。
日産は英語版発表で今回の目的をかなり直接的に表現している。
自動運転車をケンブリッジへ持ち込み、「現実の地域社会にいる現実の人々」にサービスを提供するための研究を行うのである。
ケンブリッジは英国でも交通イノベーションや自動運転研究が盛んな地域で、すでに複数の自動運転プロジェクトを受け入れてきた。
しかし日産が目指しているのは、ケンブリッジだけで完結する実証ではない。
ここでサービスの形を作り、それを英国の別の地域でも再現できるモデルへ発展させる。
今回の研究対象は「自動運転車」ではなく「移動サービス」
今回の発表で最も重要なのがここである。
日産自身が英語版で、「車両技術だけを見るのではなく」と明記している。
ADventureが調べるのは、自動運転モビリティサービスが現実の環境でどのように運営できるのかである。
これは従来の日産の英国自動運転研究とは少し性格が違う。
自動運転車が道路を認識できるか。
交差点を通過できるか。
複雑な都市交通へ対応できるか。
そうした「自動運転車を走らせる」技術研究を積み重ねてきた次に、その技術を使ってどのような交通サービスを作れば社会で実際に使われるのかを調べる。
自動運転技術を完成させれば、自然にRobotaxiや無人シャトルが普及するわけではない。
誰を乗せるのか。どこからどこまで運ぶのか。既存のバスや鉄道とどう組み合わせるのか。利用者は自動運転車を信用するのか。高齢者や自分で運転できない人でも使えるのか。
技術の外側に残っている問題まで研究対象を広げる。
運転できない人を病院へ――具体的な利用場面まで想定
日産が英語版で挙げている例は非常に具体的である。
自分で自動車を運転できない人を、診察のため病院へ連れて行く。
これがADventureで想定する自動運転モビリティサービスの一例である。
自動運転車を所有者の代わりに運転してくれる高度な自家用車として考えるのではなく、移動手段を持たない人へ交通そのものを提供する。
そのため、今回の日産の自動運転はRobotaxiに近い方向へ向かっている。
ただし現時点で日産がケンブリッジでRobotaxiの商用営業を開始するわけではない。
料金体系も、一般利用開始日も、無人営業運行の開始時期も発表されていない。
今回行うのは、その前段階となるサービス研究と公道実証である。
重要なのは、自動運転の用途について「いつか便利になる」と抽象的に語る段階から、誰の、どの移動を解決するのかまで踏み込み始めたことである。
自治体、通勤者、住民と一緒にサービスを設計
ADventureでは日産の技術者だけでサービスを作らない。
自治体、通勤者、地域住民を研究に参加させる。
日産が設定した研究領域は大きく三つある。
第一が、都市や地域社会に合わせたモビリティサービスの設計である。
自動運転サービスが既存の交通ネットワークをどのように補完できるのか、地域によって異なる交通需要へどう対応するのかを調べる。
第二が、乗客の信頼である。
利用者が将来の自動運転サービスについて十分な情報を持ち、安心して利用し、自分もその交通システムの一部だと感じられるために何が必要なのかを調べる。
第三が、公道での技術検証である。
実際の道路環境で自動運転システムが安全かつ有効に機能することを確認する。
つまり、サービス設計+社会受容+自動運転技術を一つのプロジェクトとして扱う。
単なる自動運転走行実験ではない理由がここにある。
使うのは新型車ではなく、2022年型LEAF
興味深いことに、今回のために新しい実験車を開発するわけではない。
使用するのは2022年型LEAFをベースとした既存の実験車である。
日産が開発した高度な自動運転技術を搭載しており、過去の英国研究プロジェクトでも使用されてきた車両である。
ADventureではこの車両を使って、想定される乗客の移動需要を評価し、実環境からデータを集める。
これは今回のプロジェクトの性格をよく表している。
新しいセンサーを発表するわけでも、新しい基盤モデルを発表するわけでもない。
すでにある程度走れる自動運転車を使い、「では、これをどうやって交通にするのか」へ進む。
技術デモからサービス実証への移行である。
技術、安全だけでなく「人が乗りたいと思うか」も検証
自動運転サービスを実現するには、事故を起こさないことだけでは足りない。
利用者自身が乗ることを受け入れなければ、交通サービスとして成立しない。
そこでADventureでは、WMGが持つ安全性とユーザー体験に関する知見も利用する。
WMG側は、地域住民と共同で安全なモビリティサービスを設計し、住民の需要と都市の交通政策の双方に適合させる考えを示している。
これは自動運転の社会実装で避けられない問題である。
技術者から見れば十分安全でも、乗客が怖いと感じれば利用されない。
逆に乗客が便利だと感じても、地域の既存交通との関係が成立しなければ持続的なサービスにはならない。
そのため今回の日産は、AIの認識率や走行性能だけではなく、利用者が自動運転交通を受け入れる条件そのものを研究する。
HumanDrive、ServCity、evolvADから何が変わったのか
ADventureは突然始まったプロジェクトではない。
日産は英国で長年にわたり、自動運転研究を続けてきた。
HumanDrive、ServCity、evolvADなどのプロジェクトを通じ、さまざまな道路環境で自動運転技術がどのように機能するかを検証してきた。
今回の日産も、その研究成果の上にADventureを位置付けている。
したがって今回の変化は、自動運転研究を一度リセットして新しい技術を始めることではない。
研究の問いが変わった。
これまでは、「自動運転車は現実の英国道路を走れるのか」という問いが中心だった。
ADventureでは、「その自動運転車を、現実の地域社会で人を運ぶサービスにできるのか」へ進む。
クルマが走れることと、交通として成立することの間には大きな距離がある。
日産は今回、その間を埋めようとしている。
最後はケンブリッジ公道でサービスを実演
ADventureには明確な到達点も設定されている。
プロジェクトの最後に、ケンブリッジの公道で自動運転モビリティサービスのデモンストレーションを行う。
これは英語版プレスリリースに明記されている。
したがって今回の日産は、住民へのアンケートや机上研究だけを行うわけではない。
地域需要を調べる。サービスを設計する。利用者の信頼形成について研究する。実車を公道で走らせる。そして最後に、自動運転モビリティサービスとして公道で見せる。
ここまでを一つの研究プロジェクトとして行う。
ただし、それはあくまでデモンストレーションである。
現時点では、その直後に有料の無人交通サービスを開始するとの計画までは発表されていない。
英国各地へ複製できるモデルを作る
ケンブリッジは最初の実証地域である。
日産が最終的に作ろうとしているのは、ケンブリッジ専用の交通サービスではない。
英語版では、英国各地で再現可能なサービスを開発するとしている。
ここにも今回の研究の意味がある。
自動運転車が特定の道路を走れるだけなら、その場所での技術実証で終わる。しかし、
どのように地域需要を調べるのか
既存交通とどう接続するのか
自治体とどう連携するのか
利用者にどう説明するのか
安全性をどう検証するのか
こうした一連の仕組みまでモデル化できれば、別の都市へ持っていける。
つまり日産がケンブリッジで作ろうとしているのは、自動運転車そのものだけではなく、自動運転車を地域交通として導入するための「ひな型」である。
日産の自動運転研究、ようやく「交通」へ
自動運転開発では、どうしても技術性能が注目される。
何キロ走ったのか。どこまで無人化できるのか。どのような道路へ対応できるのか。AIはどこまで複雑な状況を理解できるのか。
しかし自動運転車が実社会へ入る段階では、別の問いが必要になる。
そのクルマは、誰を、どこへ運ぶのか。
日産のADventureは、そこへ研究対象を移したプロジェクトである。
使う車両は2022年型LEAFであり、自動運転技術そのものについて今回大きな新技術が発表されたわけでもない。
だから一見すると地味である。
しかし日産が英国で積み重ねてきた自動運転研究の流れから見ると、意味は明確である。
HumanDrive、ServCity、evolvADなどを通じて「自動運転車を現実の道路で走らせる」研究を続けてきた。
その次にADventureで取り組むのは、「走れる自動運転車を、現実の人々が使う交通へ変える」ことである。
病院へ行きたいが、自分では運転できない人を運ぶ。
既存の公共交通では十分に届かない移動を補完する。
地域住民自身にサービス設計へ参加してもらう。
そして最後には、ケンブリッジの公道でその交通サービスを実演する。
自動運転車が走れることを証明する研究から、その自動運転車が地域社会で何の役に立つのかを証明する研究へ。
日産の英国自動運転プロジェクト「ADventure」で最も重要なのは、新しいクルマでも新しいAIでもなく、この研究目的の変化である。
いつの日か、日産本社が自分たちがグローバルで行っていることを日本語でしっかり説明できる日を祈念して。
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