
世界の自動運転規格統一へ――国際自動車工業連合会、AIモデルの変更履歴と安全検証を重視
[メンバーシップ限定]2026年10月21日、北京で開催された2026年世界スマートコネクテッドカー大会(WICV2026)で、国際自動車工業連合会(OICA)のフランソワ・ルディエ事務局長が、自動運転と車載AIの普及に向けた国際的な安全規制のあり方を説明した。
同氏が強調したのは、AIを搭載した自動車について、従来の車両と同様に明確な責任体系と安全検証を確立する必要があるという点である。
特に、AIモデルのバージョン、学習・検証データの出所、変更履歴を管理し、安全性に影響するソフトウェアの変更を適切な規制手続きの下に置くことを求めた。
ルディエ氏は、2026年6月24日に国連の自動車基準調和世界フォーラム(WP.29)が自動運転システム(ADS)に関する国際的な枠組みを採択したことを重要な進展として紹介した。
そのうえで、各国が独自の安全基準や検証手法を乱立させれば、自動車メーカーの開発、認証、生産、保守にかかる負担が増大すると警告した。
OICAが目指すのは、各国の法制度や道路環境の違いを尊重しながら、共通の安全要件と検証方法を基礎として、世界の複数市場で利用できる自動車を開発することである。
AIの性能だけでなく、信頼できる条件を明らかにする
ルディエ氏は、AIの活用が自動運転だけに限られないことを指摘した。
自動車の設計、生産品質の改善、予知保全など、AIは自動車産業のさまざまな工程で利用できる。
一方、技術の進歩を実際の製品として普及させるには、性能を実証するだけでは不十分である。
重要なのは、どのような条件で、その性能を信頼できるのかを明確にすることである。
例えば、ある自動運転システムが特定の道路で正常に走行できたとしても、それだけで異なる道路や天候条件での安全性が保証されるわけではない。
自動車産業では、安全要件、設計、試験、生産適合性、製品の追跡可能性などを通じて、製品に対する責任を管理してきた。
ルディエ氏は、AIもこの責任体系に組み込まれなければならないと説明した。
特に、制動や車両制御など安全性に関わる機能へAIを利用する場合、関連する規制や認証手続きに従う必要がある。
AIモデルにも部品番号と同じ追跡可能性を
講演で具体的に説明されたのが、AIモデルの管理方法である。
従来の自動車部品では、部品番号や製造ロットなどを記録し、問題が発生した場合に対象製品を特定できるようにしている。
ルディエ氏は、AIを利用する機能についても、同様の追跡可能性が必要だと説明した。
管理すべき情報として挙げたのは、AIモデルのバージョン、システムの構成、学習・検証データの出所、変更履歴である。
AIモデルは、同じ名称の機能であっても、学習データやモデルの更新によって挙動が変化する可能性がある。
そのため、どのモデルが、どの車両に、どのような構成で搭載されているかを把握する必要がある。
さらに、安全性に関わる問題が発生した場合には、対象となるモデルや変更内容を追跡できなければならない。
ルディエ氏が求めたのは、AIモデルを従来の機械部品と同じ技術として扱うことではない。
AIの特性に適した新しい検証手法を導入しながら、自動車産業が長年培ってきた安全管理と同等の厳格さを確保することである。
継続学習するAI、安全性に関わる変更を管理
AIを搭載した自動車では、ソフトウェアやモデルの更新によって機能を改善できる。
しかし、更新後のモデルが更新前と同じ安全性能を持つとは限らない。
ルディエ氏は、学習型AIについて、技術の進化を認めることと、安全管理を緩めることは別の問題だと説明した。
安全性に影響する変更は、適切な規制手続きの下で管理しなければならないという。
また、学習型AIのシステムには、自らの能力の限界を認識し、リスクを低減する仕組みが必要になると指摘した。
これは、AIが継続的に学習・更新できるという技術的な特徴を、車両の安全性や認証制度とどのように両立させるかという問題である。
例えば、自動運転AIが新しい走行データを利用して性能を改善した場合、その変更が既存の安全性評価にどのような影響を与えるかを確認する必要がある。
ただし、今回の講演では、AIモデルのすべての更新について個別の型式認証を取得することを義務付けると説明したわけではない。
求められているのは、安全性への影響に応じた変更管理と、規制当局による適切な監督である。
また、規制当局が安全性を評価できるようにする一方、企業の知的財産、データ保護、セキュリティーも尊重する必要があるとした。
国連WP.29、ADSの国際的な枠組みを採択
ルディエ氏は、2026年6月24日に国連WP.29がADSに関する国際的な枠組みを採択したことを、自動車産業にとって重要な進展として紹介した。
WP.29は、国連欧州経済委員会の下で自動車の技術基準や規制の国際的な調和を進める枠組みである。
その議論には、欧州だけでなく、中国、日本、米国などの政府・産業関係者も参加している。
ルディエ氏によれば、今回のADSの枠組みは、共通の安全要件、信頼できる検証方法、車両の使用開始後も続く責任という要素を組み合わせたものである。
自動運転車では、販売前の試験に加えて、実際の運用開始後に安全性をどのように管理するかが重要になる。
AIモデルやソフトウェアが更新される場合には、車両の出荷時点だけを評価しても十分ではない。
こうした特徴に対応するため、開発、試験、認証、運用後の管理を一連の仕組みとして考える必要がある。
ただし、国際的な枠組みの採択は、すべての国で同一の自動運転型式認証制度が直ちに施行されたことを意味しない。
今後、各国の法制度や認証手続きとの整合を進める必要がある。
各国独自の規制が増えれば、開発費が膨らむ
ルディエ氏は、各国の規制が互いに整合しない場合の問題についても説明した。
自動車メーカーは、世界の複数市場で販売する車両を開発している。
しかし、国ごとに異なる安全要件、検証手法、ソフトウェア構成を求められれば、市場ごとに別の開発や試験が必要になる。
その結果、開発、検証、生産、保守にかかる費用が増加する。
AIを搭載した自動車では、こうした問題がさらに複雑になる可能性がある。
安全性を評価する条件やモデルの変更管理が国ごとに異なれば、同じ基本技術を利用する場合でも、認証のための作業を繰り返さなければならない。
ルディエ氏は、こうした規制の不整合が、技術の普及を妨げる要因になると指摘した。
そのため、共通の安全要件と検証方法を可能な限り利用し、各国で必要な追加検証は、実際に異なる条件へ集中させるべきだと提案した。