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ドイツ自動車産業の労働者が一斉に抗議、産業そのものの変革を象徴|世界自動車朝刊2026年9月22日

    今日の結論

    9月21日の世界自動車産業では、自動車生産能力の世界的な再配置が鮮明になった。

    ドイツではVolkswagen、BMW、Boschの従業員が全国規模の抗議行動に入り、人員削減、工場移転・閉鎖への反発を強めた。Reutersによれば、Volkswagenブランド責任者Thomas Schäfer氏は、2024年に合意した対策では十分ではなかったとして、業績改善プログラムをさらに強化すると明言した。Volkswagenでは今月合意した再編だけでも、さらに5万人を削減する計画である。

    一方、サウジアラビアでは国策自動車メーカーCeerが初の量産モデルを公開した。PIFとFoxconnの合弁で、BMWがエンジニアリング、FoxconnがE/Eアーキテクチャを担い、Lear、Bentelerなど世界のサプライヤーをサウジ国内へ呼び込む。しかも当初のEV専業構想を修正し、将来はPHEVとICEVも持つ。

    欧州では広汽集団(GAC)がフランスへ正式参入した。2030年までにフランスだけでEV・HEV計12車種、200店舗を展開し、現在Magnaを使っている欧州生産能力をさらに増やすため、Magna以外の投資家とも協議する。

    ドイツでは余剰能力を減らす。

    サウジアラビアはゼロから産業を作る。

    中国メーカーは欧州の既存生産能力を探す。

    世界の自動車生産能力は単純に増減しているのではない。高コスト地域・企業から、資本、需要、政策支援を持つ地域・企業へ組み替えられ始めている。

    1. ドイツ自動車労働者が一斉抗議――Volkswagen「2024年の対策では足りなかった」

    ドイツ自動車産業の再編が、企業の決算や再建計画から社会問題へ一段階進んだ。

    9月21日、Volkswagen、BMW、Boschなどで働く労働者が全国規模の抗議行動を実施した。

    背景には、人員削減、生産拠点の移転、工場閉鎖の可能性がある。

    Reutersによれば、Volkswagenだけでも今月合意した再編でさらに5万人を削減する。

    数日前には2026年の利益率見通しを最大1%へ引き下げ、Porscheについて約60億ユーロの減損も発表した。

    昨日まで個別に追ってきた数字が、ドイツ自動車産業全体の雇用問題として表面化した。

    Volkswagen自身が「従来策では足りない」と認める

    今回もっとも重要なのは抗議そのものではない。

    Volkswagenブランド責任者Thomas Schäfer氏が従業員集会で、2024年に合意した対策で十分だと思っていたが、そうではなかったとの認識を示し、業績改善プログラムをさらに強化すると表明したことである。

    つまり今回の5万人削減が最終回答とは限らない。

    Volkswagenが置かれている環境そのものが、当初想定より速く悪化している。

    中国で利益が減る、欧州には余剰生産能力が残る、アメリカでは関税負担が増える、そしてEV販売比率が上がっても、ICEVより利益率が低い。

    EVが売れないことだけが問題なのではない。EVが売れても従来と同じ利益構造にならないことが問題になっている。

    「EV移行」と「雇用維持」が衝突

    この点は非常に重要である。

    ドイツ自動車産業は長年、高収益ICEV、エンジン・変速機、巨大な部品産業、中国での高利益によって大量雇用を支えてきた。

    EVでは構造が違う。

    エンジンも変速機も不要になる、部品点数も減る、中国市場から得られる利益も以前ほど大きくない、しかも中国メーカー自身が欧州へ入ってくる。

    つまりドイツがEV移行に成功しても、以前と同じ人数を、以前と同じ賃金で、以前と同じ工場に雇い続けられるとは限らない。

    この問題がようやく政治・労使問題の中心へ出てきた。

    労組側も「EVをやめろ」とは言っていない

    興味深いのは労組側の主張である。

    Reutersによれば、IG Metall側からは、経営陣がEV、デジタル化、電池技術への対応に遅れ、ドイツ自動車・部品産業を後れさせたとの批判が出た。

    つまり、EV化を止めろ、という話ではない。

    もっと早くEV・ソフトウェア・電池へ対応していれば、現在ほど苦しくならなかったのではないかという経営責任論になっている。

    同時に労組側は、中国との不公正競争への保護、EU補助政策の強化、電力価格引き下げ、段階的退職制度の継続、も要求している。

    企業再編だけでなく、欧州の産業政策まで一体で見直せという要求である。

    ドイツ自動車産業の問題はVolkswagenだけではない

    BMWとBoschでも抗議が起きた点を軽視できない。

    Volkswagenだけなら個別企業の経営問題と説明できる。しかしBoschも大規模な人員削減を進め、BMWもコスト圧力を受ける。

    つまり、ドイツという自動車生産拠点そのもののコスト競争力が問われている。

    昨日までのPorsche再編は、その最も目立つ一例だった。

    9月21日は、それがドイツ自動車産業全体の問題であることがより明確になった一日である。

    2. サウジCeerが初の量産車――「EV専業」をやめてPHEV・ICEVまで持つ

    そのドイツとは正反対に、自動車産業をゼロから作ろうとしているのがサウジアラビアである。

    サウジ初の本格国産自動車ブランドCeerは9月21日、初の量産モデルを一般公開した。

    「Exobot」と名付けたプレミアムセダンとSUVで、いずれもBEV。2027年初めにサウジアラビアで販売を開始する。

    Ceerはサウジ政府系ファンドPIFと台湾Foxconnの合弁会社である。

    Reutersによれば、FoxconnがE/Eアーキテクチャ、BMWがエンジニアリング、を提供する。

    さらにLear、韓国Shin Young、ドイツBenteler、中国Fangxinなどのサプライヤーが、政府の投資優遇策を背景にサウジ国内へ工場を設置している。

    サウジは「自動車メーカー」ではなく「自動車産業」を作ろうとしている

    ここがCeerを見るうえで重要である。

    完成車を一社作れば自動車産業になるわけではない。部品、金型、物流、エンジニアリング、人材、販売、サービス、これらが必要になる。

    サウジアラビアは過去にも自動車産業誘致を試みた。

    Jaguar Land Roverの現地工場構想は実現しなかった。

    Toyotaも2019年、労働コストの高さと現地サプライヤー不足などを理由に投資を見送った。

    今回はその弱点を、完成車メーカーと同時にサプライヤーまで誘致することで埋めようとしている。

    さらに重要なのは「EV専業」をやめたこと

    Ceerはもともと純粋なEVメーカーとして設立された。

    ところがCEOのJim DeLuca氏はReutersに対し、将来の商品群には、BEV、PHEV、ICEVを含めると説明した。

    市場需要の変化へ対応するためである。

    これは今週追ってきた世界的な流れと一致する。

    GMはEVへ一直線に進んだ結果、アメリカのHEV需要拡大を取り逃がしている。

    Volvoも完全EV化の時間軸を柔軟化した。

    そして今度は、まだ最初の車すら発売していないCeerまでEV専業をやめる。

    新興メーカーですら「EV一本足は危険」と判断し始めている。数年前のEVスタートアップとはかなり違う。

    失敗したEVスタートアップから学んでいる

    DeLuca氏は、Fisker、Arrival、LordstownなどEVスタートアップが相次いで失敗したことにも言及している。

    Ceer自身も急拡大を避ける。

    2028~2030年に量販5車種を追加、2028年から周辺国へ進出
    、2034年までに中東・北アフリカへ拡大する。

    かなり長い時間軸である。VinFastなどが短期間に世界展開を目指したのとは対照的である。

    潤沢な政府資金があるからこそ、逆に急がない。

    サウジの自動車産業戦略は、「石油国がEVを作る」という象徴的な話から、世界の技術と部品メーカーを集め、複数パワートレインを持つ普通の自動車産業を作る段階へ入った。

    3. GAC、フランス正式参入――中国勢の欧州戦略は「工場を探す」段階へ

    欧州ではもう一つ、生産能力の再配置を象徴する動きがあった。

    広汽集団(GAC)は9月21日、フランス市場へ正式参入し、AION UT、AION Vの2車種を披露した。

    Reutersによれば、GACは2030年までにフランスでEV・HEV計12車種を投入する。

    販売網も、2026年に50店舗、2030年に200店舗へ拡大する計画である。

    注目点は販売台数ではなく「どこで作るか」

    GACはすでに、フィンランド、ギリシャ、ポーランド、ポルトガル、スペイン、イギリスなどへ欧州展開を広げている。

    現在欧州向け車両の生産にはMagnaを利用している。

    しかしGAC France副CEOのCedric Lacour氏はReutersに対し、欧州で長期的に事業を行うには生産能力が必要だとして、Magnaだけでなく他の投資家とも欧州生産能力について検討していると明らかにした。

    ここが今日の最大のポイントである。

    BYDだけの現地化ではなくなった

    先週はBYDが、長期的には欧州に完成車工場3カ所、電池工場1カ所、が必要になるとの見通しを示した。

    中国メーカー各社が欧州の既存工場を探しているとの話も出た。GACまで同じ方向へ動く。

    つまり中国メーカーの欧州現地化は、BYDという特殊な巨大企業だけの戦略ではなくなりつつある。

    関税、将来の現地調達規則、物流費、為替、ブランド認知。

    これらを考えれば、一定規模以上を欧州で売るなら現地生産が合理的になる。

    ここでドイツの余剰能力とつながる

    今日の一つ目のニュースでは、ドイツメーカーが工場閉鎖・移転を検討している。

    三つ目では、中国メーカーが欧州で工場を探している。

    この二つは別々ではない。

    欧州には、設備はある、熟練労働者もいる、サプライヤーもいる、しかし既存メーカーには生産能力が余る。

    中国メーカーには生産能力が足りない。

    すると、既存工場を中国メーカーが買う、借りる、共同利用するという再配置が合理的になる。

    StellantisとLeapmotorの関係や、Magnaの受託生産もその延長線上にある。

    中国メーカーの欧州進出を「中国から車が輸入されてくる」とだけ見ると、この変化を見誤る。

    次の段階では、欧州の工場で、中国ブランド車を、欧州の労働者が作る。

    それが普通になる可能性がある。

    今日の小さな変化

    昨日の朝刊で取り上げたPorscheの「追加約4,100人削減案」について、重要な訂正材料が出た。

    Reutersが確認した社内メモによれば、PorscheのMichael Leiters CEOは9月21日、従業員に対して、

    既に合意済みの約9,000人削減を超える追加4,000人規模の削減計画はないと説明した。

    Handelsblattは、Volkswagen監査役会がさらに4,100人程度を余剰とみていると報じていた。

    これに対してPorsche経営側は、現在の再編計画はPorsche自身の監査役会で承認済みであり、変更を想定していないと明確に否定した。

    したがって昨日版の「さらに約4,100人削減案」は、Volkswagen監査役会側でそうした試算・議論があったとの報道までが確認できる事実であり、Porscheが追加削減を決めたわけではないと整理し直す必要がある。

    ただし既存の約9,000人削減とVolkswagen全体の5万人追加削減という大規模再編自体は変わらない。

    むしろ今回の食い違いは、Volkswagenグループ全体が求める追加合理化と、Porsche経営側が現在合意している削減規模との間に緊張があることを示している。

    今日の読み筋

    9月22日版のキーワードは、「工場は消えるのではなく、持ち主が変わる」である。

    ドイツでは自動車工場と雇用が余り始めている。

    Volkswagenは5万人をさらに減らす。Boschも人員を減らす。BMWでも労働者が将来を懸念する。

    一方、サウジアラビアは自動車工場とサプライヤーをゼロから作ろうとしている。

    中国メーカーは欧州で生産能力を探している。BYDは完成車3工場と電池工場を想定する。GACも追加能力を探す。

    これは世界の自動車生産能力が単純に縮小しているわけではないことを意味する。

    場所と持ち主が変わっている。

    20世紀後半、自動車産業は日本、韓国、中国へ順番に広がった。その際も欧米から工場が完全に消えたわけではない。

    新しい企業が新しい地域へ生産能力を追加し、古い企業が自らの規模を調整した。

    現在はさらに複雑である。

    中国メーカーが欧州へ行く。

    サウジ企業がBMW、Foxconn、ドイツ・韓国・中国・アメリカのサプライヤーを組み合わせる。

    欧州企業は中国資本や中国技術を利用する。

    企業の国籍と工場所在地がどんどん離れていく。そしてパワートレインでも同じことが起きている。

    CeerはEV専業をやめる。GACはEVだけでなくHEVも持ち込む。欧州メーカーもHEV・PHEVを再評価する。

    世界の自動車産業は、EVへ一直線に移行する、中国で作って世界へ輸出する、欧州メーカーが欧州工場を使う、という数年前の単純な未来像から離れた。

    9月21日は、ドイツの労働者抗議、サウジCeerの初公開、GACの欧州生産探索という三つの材料から、車種や技術ではなく「世界のどこで、誰が、何を作るか」という産業地図そのものが描き直されていることが見えた一日である。

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    急速に進む中国のCASE(Connected&Cabin,Autonomous,Shared&Service,Electric)やAIについての最新情報。2018年から1日1本以上のレポート配信。毎朝8:00日刊中国モビリティレポートと適時号外レポート

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