
一汽トヨタ「ユーザーをモルモットにしない」中国NEV高速開発モデルに突きつけた別の答え
[メンバーシップ限定]一汽トヨタは2026年8月26日、技術ブランド「IT'S TiME 4.0」を発表した。先に公開したレポートでは、同ブランドを、中国NEV市場で広がる「新機能・高スペック・高速モデルチェンジ・価格競争」に対し、HEV、QDR、維持費、残価という長期価値から異議を唱えるブランド戦略として整理した。
しかし、発表会全編を確認すると、その主張はさらに踏み込んでいた。
一汽トヨタは単に「トヨタは品質を重視する」と述べたのではない。中国自動車市場で進む高速開発そのものに問題提起し、「ユーザーをモルモットにしない」とまで明言。その一方で、Momentaの強化学習モデルや都市NOA、AIコックピットといった中国型スマート化を積極的に取り込んでいる。
ここから浮かび上がるIT'S TiME 4.0の本質は、スマート化への抵抗ではない。
中国のAIやソフトウェアを、トヨタが長年構築してきたQDR=Quality、Durability、Reliabilityの管理体系の中へ取り込もうとする試みである。
中国NEVの「速さ」そのものを問題視
発表会で一汽トヨタは、現在の中国市場についてかなり具体的な数字を示した。
2026年上半期、中国では600車種を超える新商品が投入され、1日平均では3.5車種、完全新型車だけでも73車種に達したという。一方、月販1万台を超えた新車はわずか2車種で、多くの商品は発売後3カ月ほどで販売が大幅に低下したと説明した。さらに、過剰なマーケティング表現や分かりにくい技術用語によって、半数を超える消費者が購入をためらっているとの調査結果も示した。
問題視しているのは、新車が多いこと自体ではない。
一汽トヨタはそこから、「更新速度を重視し、長期検証を軽視する」「新車の短期的な表现を重視し、ライフサイクル全体の品質を軽視する」という矛盾が急速に顕在化していると結論付けた。
そして、自らについては市場の風口を追いかけるために発売速度を優先し、信頼性や安全性を犠牲にすることはないと表明した。IT'S TiME 4.0を支える二つの中心軸として掲げたのが、「スマート」と「品質」である。
これは、「中国勢は速いが、トヨタは慎重」という程度の話ではない。
中国自動車産業がこの数年作り上げてきた、開発速度→新機能→新車投入→話題化→次の商品という循環そのものに対する異議申し立てである。
IT'S TiME 4.0は「技術」から「保有期間全体」へ
IT'S TiMEは2023年に第五世代HEVを軸として始まり、その後、三段階のハイブリッド体系やスマート技術、ソフト・ハードウェアへ対象を広げてきた。
4.0ではさらに範囲を拡大し、研究開発、製造、販売から、「買う・使う・買い替える」までを含む車両ライフサイクル全体を対象とする。
そこで提示した三つの価値は明確である。
第一がHEVによるコスト価値。購入価格だけでなく、燃料費、メンテナンス、安全・信頼性、残価までを含めて計算する。
第二がQDRによる信頼価値。品質管理を工場内だけの問題とはせず、サプライヤー、研究開発、製造、販売後までつなげる。
第三がトヨタ独自のスマート化による体験価値である。
つまりIT'S TiME 4.0は、何か一つの新しいパワートレインやADASを指すブランドではない。一汽トヨタ自身も、「単一技術の単純なアップデートではなく、ユーザーの全ライフサイクルを対象とするソリューション」と位置付けている。
ここが、現在の中国NEVの商品説明とはかなり異なる。
「ユーザーをモルモットにしない」
今回の発表で最も象徴的だったのは、耐久・検証について説明した際の言葉だろう。
「ユーザーをモルモットにしない」
一汽トヨタは、寒冷、高温、高湿、高海抜といった環境で実車検証を行い、耐久試験も国の最低基準を大幅に上回る条件で実施すると説明した。ECUやセンサーなどについても、高低温サイクルや長期間の使用を想定した試験を行うとしている。
これは中国自動車市場を考えるうえで非常に意味のある表現である。
OTAを前提としたSDVでは、発売後にソフトウェアを改善できる。その結果、「まず市場に投入し、その後アップデートする」という開発思想も成立しやすくなった。
一汽トヨタはその思想に真正面から異を唱えている。
OTAができることと、未成熟な商品を市場へ投入してよいことは同義ではない、ということだ。しかも、この考え方は機械部品だけに向けられたものではない。
QDRをソフトウェアとADASへ拡張
発表会ではトヨタ生産方式、ボルト締結、溶接、部品精度といった従来型の品質管理について長い説明が行われた。
しかし、現在の一汽トヨタがQDRの対象としているのはハードウェアだけではない。
ソフトウェア自動車の普及を受け、工場には車両ソフトウェアを検査する専用システムを設置。スマートドライビングとスマートコックピットを検査し、特に高度運転支援については出荷前の動的検査まで実施すると説明した。
ここにIT'S TiME 4.0の重要な変化がある。
従来のQDRは、エンジン、トランスミッション、ボディ、電子部品などが長期間壊れず、品質のばらつきが少ないことを意味してきた。
一汽トヨタは今、その考え方を、ADAS、AI、車載ソフトウェアにまで広げようとしている。
つまり、「AI時代になったのでトヨタの品質思想は古くなった」のではない。
むしろ、AIを自動車部品と同じように品質保証の対象にするという方向へ進んでいる。
だからMomentaを使うことと矛盾しない
ここで興味深いのがMomentaとの関係である。
一汽トヨタはスマート化を「ちょうどよい進化」と表現し、「実用的、使いやすい、使いたくなる」ことを重視する。そしてToyota Pilotについて、TSSとナビゲーション型運転支援を組み合わせ、自社開発と外部協業の双方を活用すると説明した。
bZシリーズではMomentaを採用する。ただし、一汽トヨタはこれを単純なアルゴリズム購入ではないと強調した。
Momenta側によれば、同社の運転支援ソリューション搭載車は110万台を突破し、実道路データは150億km以上。中国の都市NOA第三者サプライヤー市場では65%のシェアを持つとしている。bZ5にはMomentaの強化学習大規模モデルが搭載された。