
中国一汽、紅旗工場の運営コスト24%削減――AI工程管理とEmbodied AIロボットの実装進む
[メンバーシップ限定]中国国有自動車大手の中国第一汽車集団(中国一汽、一汽集団)は2026年10月14日、紅旗ブランドの製造拠点におけるデジタル化・スマート化の成果として、生産運営コストを24%改善し、車両1台当たりの投入工数を20.6%削減したことを明らかにした。
同日、中国一汽が紹介した中国の科学技術専門紙『科技日報』の報道によるもので、国務院国有資産監督管理委員会(国資委)が主催する国有企業取材活動を通じ、紅旗製造センターの生産改革や、Embodied AIロボットの開発状況などが紹介された。
注目されるのは、AIを生産現場に導入するという構想にとどまらず、工程管理、品質データ、設備保全を統合し、具体的な改善数値を示していることである。
さらに中国一汽は、車輪とロボットアームを組み合わせた移動ロボットの実生産ラインでの検証、四足歩行ロボットの実証運用、ロボット関節モジュールの自社開発も進めている。
中国一汽が掲げるのは、長年蓄積してきた自動車製造の経験をデータ化し、そのデータでAIを学習させ、AIによって生産現場を改善する循環である。
紅旗工場、生産運営コスト24%改善、投入工数20.6%削減
今回、最も具体的な成果が公表されたのは、中国一汽の紅旗製造センターに属する繁栄工場である。
同工場では、産業用ロボットアームや無人搬送車(AGV)が稼働し、車種や仕様の異なる車両を同一の生産ラインで製造する混流生産が行われている。
中国一汽によれば、紅旗製造センターは工程管理の仕組みとして、次の体系を構築した。
工程管理用の構成要素:176種類
品質管理条件のデータベース:2,157項目
管理対象の作業ステーション:3,566カ所
これらを製造現場の工程管理に適用し、品質問題が発生してから対処する方式から、問題の発生を事前に防ぐ方式への転換を進めている。
設備管理についても、各設備のデータを収集する管理プラットフォームを構築した。
設備の稼働状況や保全情報を一元的に把握し、交換部品の共有や拠点間の融通を進めることで、担当者による個別監視から、データに基づく予防的な設備管理へ移行しているという。
中国一汽が公表した繁栄工場の改善成果は次の通りである。
生産運営コスト:24%改善
車両1台当たりの投入工数:20.6%削減
品質問題:100%の追跡可能性を実現したと説明
生産運営コストと投入工数の双方で改善が示されたことは、工程管理と設備管理の改革が、単なるデジタル化にとどまらないことを示している。
ただし、今回の報道では、比較対象となる期間、コストの集計範囲、生産台数や稼働率の変化などは明らかにされていない。
また、24%という改善幅には、生産工程の再設計、設備運用、部品管理など複数の施策が関係していると考えられる。AI単独によるコスト削減効果として扱うことはできない。
品質管理を「事後対応」から「事前予防」へ
今回の生産改革で重要なのは、工程データと品質管理を結び付けている点である。
従来の製造現場では、作業者が定められた工程や作業手順に従い、完成品の検査や工程内の確認によって品質を管理してきた。
これに対し、中国一汽が目指すのは、製造工程で発生するデータを継続的に収集し、品質問題の兆候を早い段階で把握する仕組みである。
工程条件、設備状態、品質データなどを関連付けることで、問題が発生した場合の原因追跡だけでなく、問題が発生しやすい条件の把握にもつなげる。
報道では、現場の従業員が仕事の変化について次のように説明している。
「以前は、決められた工程指示書に厳密に従って作業していた。現在は、データを観察し、傾向を分析し、モデルを最適化することが仕事の中心になっている」
この発言は、中国一汽が進める生産改革の方向を端的に示している。
作業を決められた通りに実施するだけでなく、現場で得られた情報を使って工程そのものを改善する。
ただし、今回の報道では、どの工程にどの種類のAIモデルを導入しているのか、品質不良率がどの程度改善したのかといった詳細は公表されていない。
AIによる予測や判断が、どの範囲で自動化されているかについても、追加情報が必要である。
Embodied AI、実際の生産ラインで部品搬送を検証
中国一汽は、製造工程のデータ活用と並行して、Embodied AIロボットの開発も進めている。
一汽模具製造センターによれば、同社は「1+1+N」と呼ぶ技術開発体系を構築した。
これは、1つのEmbodied AI開発プラットフォーム、1つの汎用ロボットAI基盤、複数種類のロボット本体と主要部品を組み合わせる構想である。
個別の作業ごとに独立したロボットシステムを開発するのではなく、共通のAI基盤や開発環境を利用しながら、異なる形態のロボットへ展開することを目指している。
現在、車輪とロボットアームを組み合わせた移動ロボットについて、実際の生産ラインで次の作業を検証している。
部品のピッキング
部品の搬送
部品の棚への格納
いずれも自動車製造の物流工程や部品供給に関係する作業である。
また、四足歩行ロボットは、中国一汽の本社敷地内で実証運用を開始している。
ただし、車輪・アーム型ロボットについては実生産ラインでの検証段階であり、全面的な量産工程への導入が完了したという発表ではない。
四足歩行ロボットについても、具体的な業務内容や稼働台数、運用による経済効果は示されていない。
中国一汽がEmbodied AIを実際の製造現場へ適用し始めていることは確認できるが、ロボットによる作業の自動化率や、人手作業の代替規模を評価するには情報が不足している。
ロボット関節モジュール7種類を自社開発
今回の報道では、ロボット本体だけでなく、主要部品の開発についても言及された。
中国一汽は、波動歯車機構を利用する関節モジュールを7種類開発し、ロボットの主要な伝動部品について、自社で技術を管理できる体制を構築したと説明している。
波動歯車機構は、一般にハーモニックドライブ方式とも呼ばれ、産業用ロボットや精密な関節機構で使用される減速機技術である。
ロボットの関節には、モーターの回転を適切な速度とトルクに変換し、位置や動きを精密に制御する機構が必要になる。
こうした部品は、Embodied AIロボットの性能、耐久性、製造コストを左右する重要な構成要素である。
中国一汽は、今回開発した7種類の関節モジュールについて、主要な伝動部品の技術的な自主制御を実現したと強調している。
ただし、これは構成部品のすべてが中国国内で生産されていることを直接意味するものではない。
減速機、モーター、センサー、軸受などの調達先や内製比率、量産能力については明らかにされていない。
日本企業が長年技術を蓄積してきた精密減速機やロボット関連部品の分野でも、中国の完成車メーカーが独自開発を進めているという点で、今後の展開が注目される。