
理想、ついに「キッチン」まで売り始める――クルマの価値を荷室の外へ拡張
[無料]中国の新エネルギー車(NEV)では、冷蔵庫、大型ディスプレイ、マッサージシート、車載ベッドなど、「走る」以外の機能が急速に増えてきた。その代表格である理想汽車(Li Auto)が、今度はとうとう「キッチン」まで売り始めた。
理想は2026年9月24日、公式オンラインストア「理想商城」で「車載ポータブルキッチンシステム」の販売を開始した。価格は1,999元(約47,000円)。特定の理想車専用ではなく、車種を限定しない設計としている。
単なるキャンプ用テーブルではない。
荷室から引き出して展開すると、調理台、シンク、給水システム、収納、調理器具スペースを備えた「山野の小さなキッチン」へ変わる。
理想がこれまで掲げてきた「移動する家」は、とうとう車内だけでは収まらなくなった。

荷室を開けば、そのままキッチンになる
今回の商品でまず目を引くのが、クルマとの一体感である。
収納時は細長いボックス状になり、荷室の横幅のおよそ3分の1だけを使用する。現地で部品を組み立てる必要はなく、クルマから取り出して設置すれば使用できる。
キャンプ場などでは荷室から引き出し、天板や脚を展開する。
するとクルマの後方に調理スペースが出現する。
理想が公開した写真でも、L6のリアゲートを開け、そのすぐ後方で食材を切り、洗い、加熱調理できる構成になっている。
クルマからキャンプ用品を「取り出す」のではない。
荷室そのものを屋外生活の起点にする発想である。

組み立て不要、57~130cmの高さに対応
アウトドア用品で面倒なのが設営と撤収である。
理想はそこも自動車の商品開発に近い感覚で処理している。
キッチン本体には収納式の高さ調整脚を内蔵し、地面から57~130cmまでの高さに対応する。3組の工業用スライドレールを採用し、展開と収納に時間がかからない構造とした。
キャンプテーブルなどと組み合わせる場合には、脚の高さを手動で調整する。
つまり、現地へ到着してから複雑なフレームを組み立て、天板を取り付け、キッチンを作るのではない。
出す、広げる、使う。
自動車の荷室に常時積んでおくことを前提にした設計である。

0.6平方メートルの調理台、下には食器を収納
天板はスライド・反転式で、展開すると総作業面積は0.6平方メートルになる。
写真を見ると、食材を切るスペース、鍋などを置くスペース、シンク部分を分けて使える程度の広さが確保されている。
さらに天板の下には大型収納スペースがあり、鍋、食器、カップ、調理器具、調味料などをまとめて収納できる。
これも重要である。
キャンプへ行くたびに自宅から調理器具を箱へ詰め込み、現地で取り出し、帰宅後にまた片付けるのではない。
キッチンそのものを一つの収納ユニットとしてクルマへ積んでおける。
理想が言う「ポータブル」は、小さく折り畳めるというより、一つの完成したキッチンをそのまま運べるという意味に近い。

シンクだけではない、水道まで付けた
特に作り込まれているのが水回りである。
キッチンにはシンクと給水システムを組み込み、ペットボトルやウォータータンクから水を供給できる。
さらに付属の専用取水ホースを使えば、川などの水源からも取水可能としている。
蛇口は180度回転し、ボタン操作で水を出せる。ポンプの電源には単1形電池3本を使用する。
つまり、電源や水道設備のない場所でも、食材を洗う、手を洗う、食器を洗うといったキッチンとしての基本動作を成立させようとしている。
単に「屋外で料理できるテーブル」を作ったのではなく、水道のない場所へ水回りまで持っていくところまで商品化した。

IH調理器にも対応、使わなければ普通の天板に
調理スペースには、専用の埋め込み式IH調理器を設置できるスロットも用意した。
一方で別の調理器具を使いたい場合には、この部分を埋めて天板と同じ高さにできる。
理想の公開写真ではガス式の調理器具を置いて肉を焼く使い方も紹介されている。
つまり「理想指定の調理器具を使わなければ成立しない」という閉じた設計ではない。
電磁調理器を組み込んでもよいし、別のキャンプ用コンロを載せてもよい。
アウトドア用品としての汎用性も残している。

夜になれば照明まで用意する
さらに実用ランプも付属する。
内蔵リチウム電池で約5~9時間使用でき、USB Type-Cで充電する。理想は「柔らかく、まぶしくない光」と説明している。
写真ではキッチン脇からポールを伸ばし、ランタンを吊り下げている。
昼間に料理を始め、そのまま夕食まで過ごす。
そこまでを一つの利用シーンとして商品を構成していることが分かる。

「理想L6専用」ではない
そして今回の商品で意外に重要なのが、特定車種を選ばないことである。
広告写真には理想L6が使われているが、商品自体はL6専用品とはされていない。
ここには理想商城の位置付けの変化も見える。
自動車メーカーのオンラインストアというと、フロアマット、充電器、キーケース、車載収納用品など、そのメーカーのクルマを所有するユーザー向けアクセサリー販売が中心になりやすい。
しかし車種を限定しないポータブルキッチンなら、商品としての境界はクルマそのものから離れていく。
理想が売っているのは「L6のオプション」ではない。
クルマで出かけた先で何をするか、その体験そのものを商品にし始めている。

「移動する家」が車外へ出てきた
これは理想のブランドを考えると、突然現れた商品でもない。
理想は長年、ファミリー層を主要顧客とし、自社の大型SUVを単なる移動手段ではなく「移動する家」として位置付けてきた。
その結果、中国車では今や珍しくなくなった温冷庫、大型ディスプレイ、快適なシートなどを、早い段階から重要な商品価値として前面に出してきた。
そこでは「自動車として何が必要か」よりも、家族がクルマの中で何をしたいかから装備を考える。
今回のポータブルキッチンは、その考え方をさらに一歩外へ出した商品と見ることができる。
車内をリビングにするだけではない。
リアゲートを開ければ、そこから屋外へキッチンが広がる。
「移動する家」の生活空間が、ついに荷室の外へはみ出した。
国慶節・中秋節に合わせ、「キッチンを持って出発」
発売時期にも狙いがはっきり表れている。
理想は今回、「この大型連休は、キッチンを持って出発しよう」と訴求している。
2026年は中国の国慶節と中秋節が重なる大型連休を控えており、家族旅行やアウトドア需要を意識した投入である。
商品写真も、スペックを説明するだけのものではない。
山を背景に夫婦が料理し、食事をし、夕方にはランタンを灯す。
自動車を売る広告というより、その自動車を所有した後の休日を売る広告になっている。
AIチップを作る会社が、キッチンも作る
そして現在の理想を考えると、この商品にはもう一つ面白いところがある。
同社は自社AIチップ「M100」を量産車へ投入し、世界モデルやVLA、AI Agent、Embodied AIへ投資している。
理想は最近、「自動車の究極の形はロボット」とまで説明するようになった。
一方、その会社が1,999元の車載キッチンをかなり真剣に作っている。
一見すると、まったく別の方向に見える。
しかし理想の商品思想として見ると、必ずしも矛盾しない。
AI Agentであれ、温冷庫であれ、ポータブルキッチンであれ、出発点にあるのは、「ユーザーはクルマを使って何をしたいのか」という問いだからである。
AIの場合は、ユーザーが細かな操作を指示しなくても、目的を理解してクルマが実行する。
キッチンの場合は、クルマで山へ出かけた家族が、その場所で料理し、食事をするところまで商品側で支える。
技術はまったく違うが、「クルマを中心とした生活」を広げようとしている点では同じである。
自動車メーカーは、どこまでクルマの外へ出るのか
中国の新エネルギー車(NEV)競争では、航続距離、充電速度、ADAS、スマートコックピットといった車両性能だけでは差別化が難しくなっている。
そこで競争領域は、クルマを購入した後のサービスやエコシステムへ広がっている。
今回の理想の商品は、そのかなり分かりやすい例である。
1,999元のポータブルキッチンそのものが、自動車会社の収益を大きく変えるわけではない。
重要なのは、自動車メーカーがどこまでを「自分たちの商品」と考えるようになったのかである。
従来なら、自動車メーカーが担当するのはリアゲートを開けるところまでだった。
その先で使うテーブル、シンク、調理器具、照明はアウトドア用品メーカーの領域だった。
理想はその境界を越え、荷室を開けた後の時間まで自社ブランドの体験として設計し始めている。
温冷庫を車内に持ち込み、「移動する家」を作った理想。
今度はキッチンを荷室から引き出し、クルマの価値そのものを車外へ広げ始めた。
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