
千里科技、AI内蔵4Dミリ波レーダーを発表――10 TOPSのNPUを搭載、点群密度10倍・ゴースト95%削減を主張
[メンバーシップ限定]中国の自動運転技術企業で吉利系(GEELY)の千里科技は2026年10月23日、高度な運転支援・自動運転システム向けに、新しいAI内蔵4Dミリ波レーダーの製品群を発表した。
最大の特徴は、レーダー内部に10 TOPSのAI演算能力を持つNPU(ニューラル・プロセッシング・ユニット)を搭載し、電波の信号処理から周囲の物体の認識まで、AIを活用する設計に転換したことである。
従来のミリ波レーダーでは、主に固定された計算手順や判定条件によって反射信号を処理してきた。千里科技は、これをデータから学習するAIモデルへ段階的に置き換え、レーダーの認識性能を継続的に改善できる仕組みを構築する。
同社によれば、従来世代の製品と比較して、点群密度は10倍、探知能力は40%向上し、マルチパスによって生じるゴーストは95%削減した。また、空間的な角度分解能力は12倍に高まったという。
さらに、レーダー内部で認識処理を行う方式と、取得したデータを車両の中央計算プラットフォームへ送信する方式の両方に対応する。
今回の製品は、単なるセンサーの性能向上ではない。自動運転AIが必要とする情報から逆算して、センサーのハードウェアと処理方式を設計するという、千里科技のソフトウェア・ハードウェア一体化戦略を具体化したものである。
自動運転AIに合わせて、レーダーそのものを設計
千里科技は今回の製品について、「AIモデルのために生まれ、モデルとともに進化する」という開発思想を掲げた。
従来の自動運転システムでは、カメラ、ミリ波レーダー、LiDARなどのセンサーがそれぞれ情報を処理し、その結果を車両の計算プラットフォームで統合する方式が広く採用されてきた。
しかし、自動運転AIが高度化するにつれ、センサーに求められる役割も変わっている。
従来は、前方に車両が存在するか、障害物まで何mあるかといった情報を正確に取得することが中心だった。
一方、現在の自動運転AIでは、周囲の物体の位置や速度に加え、複数の交通参加者の関係、物体の動き、走行可能な空間などを統合的に理解することが重要になっている。
こうした処理では、センサー側で情報を単純化しすぎると、AIモデルが利用できる情報まで失われる可能性がある。
千里科技は、従来のように完成したセンサーへ自動運転AIを適合させるのではなく、AIモデルが必要とする情報に合わせてレーダーの設計を進める。
具体的には、アンテナ配列、電波の送信方式、反射信号の処理、点群生成、物体検出、追跡・分類までを一体的に設計する。
その中核となるのが、レーダー内部に組み込んだAI演算機能である。
4Dミリ波レーダーとは何か
ミリ波レーダーは、車両から電波を発射し、周囲の物体から反射して戻ってくる信号を利用して、距離や相対速度などを測定するセンサーである。
カメラと異なり、周囲の明るさに直接依存せず、雨や霧などの環境でも一定の認識能力を維持しやすいという特徴がある。
一方、従来型のミリ波レーダーでは、物体の形状や高さ方向の位置を詳細に把握することが難しかった。
4Dミリ波レーダーは、距離、速度、水平方向の角度、垂直方向の角度に関する情報を取得し、周囲の物体を立体的に把握する。
例えば、高速道路を走行している際、前方にある物体が道路上の停止車両なのか、道路上方に設置された構造物なのかを区別するには、高さ方向の情報が重要となる。
4Dミリ波レーダーは、このような立体的な位置関係の把握を改善する技術である。
ただし、取得できる情報量が増えれば、信号処理も複雑になる。
道路のガードレール、橋梁、トンネル、建物などで電波が反射すると、実際には存在しない物体が検出されたり、複数の物体を区別できなくなったりする場合がある。
千里科技は、こうした問題をAIによる信号処理で改善する方針を示した。
ADCから物体認識まで、処理工程にAIを導入
今回の製品では、レーダーの認識処理にAIを広く導入している。
公開された技術構成では、主に次の処理工程が示されている。
ADCサンプリング:受信したアナログ信号をデジタルデータへ変換する。
1D FFT:信号を解析し、物体までの距離に関する情報を抽出する。
2D FFT:物体との相対速度に関する情報を抽出する。
点群検出:反射信号から物体に対応する点を検出する。
3D FFT:角度方向の情報を解析する。
4D FFT:垂直方向を含む空間情報の取得に利用する。
点群後処理:ノイズや不要な反射などを処理する。
追跡・分類:検出した物体の動きを追跡し、種類などを判定する。
パラメーター最適化:処理結果を踏まえ、各種パラメーターを調整する。
これらの工程すべてをAIだけで処理するという意味ではない。
FFTなどの従来から使われている信号処理技術を基盤としながら、物体検出、角度推定、点群の強化、追跡・分類などにAIモデルを組み合わせる構成である。
千里科技は、固定された判定条件への依存を減らし、実際の走行データから学習したモデルを利用することで、複雑な反射環境への対応力を高めるとしている。
10 TOPSのNPUを内蔵、レーダー内部でAIを実行
今回の製品で特に注目されるのが、10 TOPSのNPUをレーダー内部に搭載したことである。
TOPSは、AI演算装置が1秒間に実行できる演算回数を示す指標であり、10 TOPSは毎秒10兆回の演算能力に相当する。
ただし、TOPSは演算精度や計算方式によって意味が異なるため、この数字だけで実際のAI処理性能を比較することはできない。
千里科技は、このNPUを利用し、レーダー内部でAIによる物体検出、角度推定、点群強化、追跡・分類などを実行する。
従来のレーダーにも信号処理用の半導体は搭載されているが、今回の製品はAIモデルの実行を前提とした専用演算能力を備える点が異なる。
レーダー側で認識処理を実行できれば、中央計算プラットフォームへ送信するデータ量を抑えたり、中央側の演算負荷を軽減したりできる可能性がある。
一方、中央側で複数のセンサーの情報を統合する場合には、レーダー内部で処理を完了させず、より詳細な情報を送信する方式も必要となる。
千里科技は、この両方の要求に対応できる製品として開発した。
一つのハードウェアで3種類の処理方式に対応
千里科技のAIミリ波レーダーは、三つの利用方式を想定している。
1.エッジ処理方式
レーダー内部のNPUを利用し、信号処理から物体検出、追跡・分類までを実行する。
車両の中央計算プラットフォームには、処理済みの認識結果を送信する。
この方式では、中央側で処理する情報量を抑えられるため、車両の計算能力や通信帯域に制約がある場合にも対応しやすい。
2.衛星型アーキテクチャー
レーダー側ではデータ取得と必要な前処理を行い、取得した情報を車両の中央計算プラットフォームへ送信する。
中央側では、カメラや他のセンサーから得た情報と組み合わせ、AIモデルによる統合認識を実行する。
千里科技が重視するのは、複数のセンサーが取得した情報を、個別に物体認識を完了させる前の段階から統合する方式である。
この方式は、一般に前段階融合と呼ばれる。
各センサーが独立して判断した結果だけを統合する方式と比較し、より多くの情報をAIモデルが直接利用できる可能性がある。
ただし、その分だけ中央計算プラットフォームの処理能力や、センサーとの通信帯域が重要となる。
3.エッジ処理と中央処理の併用方式
レーダー内部で認識処理を実行すると同時に、中央計算プラットフォームにもデータを送信する。
この方式では、中央側で複数のセンサーを統合する処理と、レーダー内部の独立した認識処理を並行して実行できる。
千里科技は、異なる車両の電子・電気アーキテクチャーに対応できることを製品の特徴としている。
ただし、レーダー内部で独立した認識処理が可能であっても、それだけで車両全体の安全性や冗長性が保証されるわけではない。
通信、電源、制動制御などを含めた車両システム全体での検証が必要となる。