クローゼットを手放して、娘の笑い声を選んだ日
我が家の女は、だいたいちゃっかりしている。
その証拠に、そっくりなローチェストが二つある。
もともとは、ひとつの嫁入り道具だったタンスだ。
婚礼家具を探していた時に一目惚れした、クローゼットとタンスのセット。
チェリーの木の色や模様に味があって、高額だったけど、両親にわがまま言って揃えてもらった。

南東向きなので、いつでもポカポカ暖かく、
植物たちもすくすく育ち嬉しそう。
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天真爛漫な母
買う前は、
「予算オーバーだなー」
「こっちの方が助かるんだけどなー」
と、低価格な家具を指差しながら、私をチラチラ見る両親だったが、最終的には渋々折れてくれた。
「一生大切にしよう」と心に決めた直後、耳を疑う母の一言。
「セットのドレッサーも買っておいたわ」
さっきまで予算がどうのと言っていた人とは思えない顔で、母は胸を張った。
母には姉が二人いる。
末娘らしく、欲しいものは最後にちゃんと手に入れてきた人だ。
私の結婚が決まると、嬉しいのとホッとしたのとで、母は完全に舞い上がっていた。
私は驚いて、「あれ?予算オーバーじゃなかったの?」と聞くと、
母は、「だって、女の子の嫁入り道具だから!」
答えになっていない返答に、
「初めからドレッサーを買うつもりなら、その予算内でクローゼットとタンスだけ買えば、私の心も両親の財布も痛まずに済んだのに。」
と、解せない気持ちが残った。
が、お祝いごとにはケチりたくない親心を無碍にすることも出来ず、ありがたく頂戴した。
「新居に入るだろうか。」と言う心配を胸に。
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私の野望
転勤先では、大抵、家族が増えることも考慮して、75平米ほどの3LDKが用意される。
家具に埋もれ気味だけど、なんとかスペースを確保して共存してきた。
が、いつか、娘たちに部屋をあてがう、中学入学時に、
この"スペース無い問題"には、正面から向き合わなければならないなと感じていた。
長女の中学入学前に購入した中古マンションには、夫婦部屋というものがあり、
東向きの8畳➕ウォーキングクローゼットという、十分な広さだった。
内見の時に、前住人のご夫婦が、ベッドを二つ並べているのを見て、
仲の良さそうな様子に心が温まったのを覚えている。
一方、私は夫婦一緒に寝る気はさらさらなかったが、この部屋を見た瞬間、心にメラッと野望が芽生えた。
「婚礼家具3点セットを並べた上に、私のベッドも置けるのでは?
そして、私だけの夢の部屋が叶うのでは?」

カバーを掛けて隠せば、何の問題もなくローチェストとして使える。
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次女の主張
夫もこのマンションが気に入り、購入を決めたら、
私は野望を叶えるべく、そそくさと、
夫には一番日当たりの良い南東角の和室を、
そして、東向きの6畳を長女、西の6畳を次女にと部屋割りをした。
そして、娘たちの部屋の壁には、それぞれが選んだ好きな色のアクセントクロスを貼り、
「準備万端、さぁ、入居だ!」
という時のこと。
その日は、雲ひとつない澄み切った青空。
午前のさんさんとした太陽を浴びて、東向きの8畳と6畳は明るくて清々しかった。
それに比べて西側の6畳は薄暗い。
それを見た次女が、電光石火の勢いで、
「私も明るい部屋がいい!」「お姉ちゃんばっかりズルい!」
と、言い放った。
一番広い8畳を主張したのだ。
体は一番小さいのに。
「でも、好きな色の壁紙だよ。可愛いよ」
「ここに机置いて、新しくベッドも買って置こうね」
と、鼻先に餌をぶら下げても、8畳にどかっと居座り、首を横に振るばかり。
母までも、
「次女ちゃんだけ暗い部屋なんてかわいそうよ」
と、いつもの、調子のいい加勢をしだした。
私に似て、これと決めたらテコでも動かない次女の性格は、
そこにいた全員、骨の髄まで熟知している。
仕方なく私は野望を諦めざるをえず、ウォーキングクローゼット以外の8畳を譲った。

果たしてそれで幸せなのだろうか。
けどこの鏡のおかげで部屋が広く見えて、
割と重宝している。
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3点セットのその後
そうなると3点セットのどれかを手放さなければならない。
娘の部屋に背の高い家具を置くのは、地震の時に心配だ。
私が婚礼家具と共に逃げ遅れるのは本望。
でも、娘が逃げ遅れるなんて、絶対あってはならない。
両親にも相談すると、次女に調子良く加勢した母は、ケツを拭かざるをえず、
「仕方ないね」
と、クローゼットを手放すことを承諾した。
そして、タンスは、この際、地震対策のために上下分けて私と夫の部屋、
ドレッサーはリビングのパソコン台にすることにした。
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次女の快挙
そもそも何故、私は長女を東、次女を西に振り分けたのだろう。
そこには、自分でも気付かなかった長女第一主義があり、次女はそれを見逃さなかった。
だからこそ、次女の主張をおざなりにしては、一生の傷が残る気がしたのだ。
次女の心の安定とクローゼットを天秤に掛けたら、そりゃ親としては娘を取るだろう。
それが一番健全だと思う。
こうして、我が家の陣取り合戦と、三代に渡る"ちゃっかり王選手権"は、
次女が見事二冠達成と言う快挙を成し遂げ、幕を閉じた。
次女が我が家で一番広い部屋で、ぐうたらとYouTube鑑賞に勤しみ、ゲラゲラと笑う声が聞こえるたびに、
あの一瞬の決断を間違えなかった自分にGJする。
そして、私は我が家で一番暗くて寒い部屋で、今夜も眠りにおちる。
次女の気に入って選んだアクセントクロスに見守られて。
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