全部見せても残るものが、コンサルティングの商品である
これまで自分が行ってきた経営コンサルティングについて、改めて考えている。
僕は、対話の中で見えてきた構造や可能性を、先に全部開いてしまうタイプだった。
相手が持っている資源
本人も認識していない強み
発言や事業構造の矛盾
実行を止めている条件
他者や別の事業と接続できる可能性
新しい仕事や事業の仮説
答えを少しずつ渡して契約へ誘導するというより、僕に見えているものを、まず相手にも見える状態にしようとしていた。
その結果、「それなら一緒にやってほしい」と言われることもあれば、「可能性は分かったが、結局何をすればよいのか分からない」と言われることもあった。
当時は、コンサルティングの前提や相性の問題だと思っていた。
僕だけが熱心でも進まない。相手にも、自分で考え、必要な情報を出し、何を選ぶかを決め、実行する意思が必要になるからだ。
ただ、今振り返ると、それだけではなかったのかもしれない。可能性を見せることと、その可能性を相手が扱える形にすることは、別の仕事だった。
全部見せることは、必ずしも親切ではない
全体像が見えると、選択肢が増える。選択肢が増えると、何を選ぶのか、何を諦めるのか、どこまで自分でやるのかを決めなければならない。
情報を得る代わりに、判断と責任を引き受けることになる。だから「全部見せること」は、必ずしも親切ではない。
情報を隠して一つの道へ誘導すれば、相手は動きやすい。全体を見せて自由に選んでもらえば、相手の判断は尊重できる。しかし、可能性を一度に渡した結果、相手が動けなくなるなら、それも十分な支援とは言えない。
僕が提供すべきだったのは、可能性を発見して伝えることだけではなかった。情報は開く。しかし、実行は段階化する。
相手だけでは扱いきれない可能性を整理し、現在地から実現できる順番へ変え、必要な人や資源と接続する。全体像は隠さないが、実行は一つずつ進め、結果を見て仮説を更新する。
この二つを両立させる必要があった。
自分が相談する側になって分かったこと
この数年、僕はコンサルティングの仕事から離れていた。
SNSの時代には、何を話すかだけでなく、誰が話しているかが大きく影響する。自撮りを載せ、毎日投稿し、自分を前面に出し続けるようなセルフブランディングは、性格的にどうしても合わなかった。
同時に、業界初のアプリ開発を始めた時期でもあった。他人の事業にアドバイスをするより、まず自分の事業を形にしなければならなかった。
そして実際に自分で事業を始めると、今度は自分がアドバイスを必要とする側になった。そこで分かった。
欲しかったのは、「この方法を使えばよい」という答えだけではなかった。
自分に欠けている観点は何か
業界について何を理解できていないのか
事業をどのような構造で捉えるべきなのか
いま見ている問題の外側に何があるのか
そもそも、自分がまだ何を知らないのか
前提となる観点や構造が欠けたまま答えだけを受け取っても、その答えがなぜ必要なのか、自分の事業にどう適用するのかを判断できない。素直に言われるがままにやる、という選択肢もあるが、提示された選択肢について、そもそも業界の慣習や常識の中で、将来的にどのように連関してくるのかがわからない。そのため判断ができない。
「このアドバイス」よりも、自分だけでは見つけられなかった問いや観点を得ることの方が重要な場合がある。
コンサルタントの価値は、正解を所有していることだけではない。依頼者がまだ見つけていない論点を発見し、事実と仮説を分け、複数の可能性の関係を見せることにもある。
コンテクスト・シンキングに、すでにあったもの
以前、僕は自分の考え方を「コンテクスト・シンキング」という名前でまとめていた。その中心にあったのは、難しい理論ではない。
「売上が上がらない」「人が動かない」といった目の前の困りごと、つまり、「問題」をそのまま「課題」にしないことである。
それらは、まず確認すべき事実である。事実の奥には原因があり、その原因の連続を遡らなければ、何を解くべきかは分からない。目の前の事実へ直接反応すると、的外れになるか、別の問題を大きくすることさえある。
だから、理想の状態は方向として先に置く。しかし、具体的な課題と最初の一手は、事実をできる限り洗い出すまで決めない。
理想は先に置く。しかし、課題と最初の一手は急いで置かない。
事実を集める「コンテクスト・リサーチ」、関係を整理して着手の順番を作る「コンテクスト・プランニング」、そこで見つかる「最初の一手」、実行して確かめる「コンテクスト・アクション」。名前をつけていたものは、結局この規律を仕事にするための流れだった。
必要なのは、答えを急がず、事実と課題を分け、本人がまだ見ていない関係を発見するという観点である。
生成AIは、外部記憶になる
以前のコンサルティングでは、対話の中で多くの可能性が生まれても、その一部は記録されないまま消えていた。
議事録を作っても、話した内容を時系列に要約するだけになりやすい。次のミーティングでは別の話題が出て、以前の仮説との関係が見えなくなる。
生成AIを使えるようになった現在は、この部分を変えられる。
今後は、本人の同意を得たうえで、ミーティングや雑談を記録し、AIを外部記憶として使う。
確認された事実
そこから生まれた仮説
決定したこと
まだ決まっていないこと
次に実行すること
発言や関心の変化
過去の仮説と現在の状況のつながり
を継続的に整理する。
AIに経営判断を任せるのではない。僕が持っている観点を一貫して与えて、対話によって開かれた可能性を失わず、相手が扱える順番と大きさに変えるために使う。
「AIを壁打ち相手にする」という話とも少し違う。壁打ちは、相手に固定された観点がなければ、自分の考えを反射しているだけになる。言い換えれば応援してくれているだけの存在。観点は増えないまま、もっともらしい答えだけが整うこともある。
AIがあるから新しい方法を始めるのではない。以前から持っていた観点を、会話をまたいで失わず、検証し続けられるように外部におけるようになったのである。
僕の商品として残るもの
僕が提供できるのは、隠していた答えではない。
散らばっている情報を構造化する
本人が認識していない資源や強みを発見する
事実、解釈、仮説を分ける
複数の可能性に優先順位をつける
実現可能な順番へ変える
必要な人や事業、資源と接続する
実行した結果から仮説を更新する
全部を話してしまったら、売るものがなくなるのではない。
全部を話してもなお、自分の事業に適用したい。一人では整理できない。一緒に考えながら進めたい。そう思われる部分だけが、僕の本当の商品として残る。
ただし、この方法は、誰にでも向いているわけではない。
僕だけが熱心でも進まない。相手にも、自分の情報を出し、考え、選び、実行の負担を引き受ける意思が必要になる。
すぐに正解や手順だけが欲しい人、判断そのものを代行してほしい人、短期間で確実な成果を保証してほしい人には、おそらく合わない。
これは優劣ではなく、仕事の前提である。相性という言葉だけで片づけず、最初から公開しておきたい。
営業提案をそのものを最初の仕事にする
もう一度コンサルティングを始めるなら、無料相談で不足や不安を強め、長期契約へ誘導する形にはしたくない。
最初の対話そのものを、一つの完結した仕事にする。
まず「事業構造発見セッション」として、90分から120分の対話を行う。本人の同意を得て録音し、AIも使いながら、事実、仮説、資源、矛盾、まだ見えていない論点を整理する。そして、今の状態で扱える最初の行動までを資料にして共有する。
最初の数件は無料で提供したい。対価として求めるのは、録音と、そこから見えてきたアドバイスの構造を、この方法の検証に使わせてもらうことへの同意である。
その結果を見て、続けるかどうかは相手が選ぶ。
ここからは自分で実行する
必要な専門家へ依頼する
僕と継続して考える
今は実行しない
継続する場合は、月に一度、前回から変わった事実と理想の見え方を聞き、課題と次の一手を組み直す。料金は月8万円、年間で100万円前後を考えている。
この金額が妥当かどうかも、最初のセッションを通じて確かめたい。正社員を雇うより安い、といった比較で正当化するつもりはない。相手の判断や実行にどんな変化を生んだのかで、価値を見たい。
継続契約が生まれるとすれば、隠された答えを知りたいからではない。整理された可能性を実行に移し、結果を確認し、次の仮説へ進む過程を一緒に作りたいからである。
僕自身を売る前に、見方を公開する
セルフブランディングによって自分を売り続ける方法は、やはり僕には合わない。その代わり、僕がどのように事業を見て、どんな事実から何を疑い、どのように構造を発見するのかを公開する。
僕自身を先に信用してもらうのではなく、その見方に触れた人が、自分の事業にも必要だと判断したときだけ、仕事として接続する。
情報の形式で言えば、全体開示型である。
人が動く原理で言えば、価値発見でありたい。
価値を隠して契約へ誘導するのではない。価値と判断材料を開いたうえで、それを相手が扱える大きさと順番に変え、実行を支援する。
それが、これから僕がもう一度作ろうとしているコンサルティングである。
