江戸・明治に学ぶ、旅の楽しみ(⑤町場・社寺・親戚への日帰りの旅)
当時の人口の85%を占めた農山漁村に住む人たちも旅を楽しみました。
年貢や税金に苦しんでいただけではありません。てくてく歩いて社寺や温泉、京・大坂・江戸へと出かけたのです。
彼ら彼女らの旅を、数ヶ月間の旅、数週間の旅、日帰りの旅、湯治の順で見ています。
この記事のテーマは、日帰りの手軽な旅。ヘッダーは1904年の川崎大師の参道、にぎわっていますね(米国会図書館)。
1.頻繁だった日帰りの旅(=お出かけ)
彼ら彼女らも、超繁忙期の田植え時期を除いては、一年を通じて日帰り旅行をしていました。
目的は、諸々の用事(買い物、イベント、親戚訪問)と参詣。
買い物は、何でも揃う城下町(城がなく陣屋だけの藩もありました)か宿場町。私たちと同じで、ちょっとお出かけする先があったのです。
2.城下町・宿場町へのお出かけ
私が日記を読んでいる名主(千葉県流山市在住)の領主は、江戸に住む旗本でした。
交通機関は徒歩だけでしたが、江戸までは頑張れば日帰り圏。
名主は領主の御屋敷との行き来だけでなく、薬を買ったり、駕籠を修理してもらったりと近くの宿場町ではできない用事をこなしていました。家人もお灸などで出かけました。
江戸は異次元の繁華街。村を出て江戸で住んでいる親戚もいたので、行きたかったし行きやすかったのでしょうね。
一方、宿場は大名などの荷物の取り次ぎと彼らを泊めるのが本来の業務でしたが、鍛冶屋や大工、石屋、湯屋に髪結い、医者・獣医、按摩、魚屋、酒屋、もちろん飲み屋もあり、城下町に負けない便利さ。しかも、お侍様が少なくて気楽。
名主の村では、年末の買い出しはもちろん、婚礼などのときも宿場へ買い出しに出かけました。


3.日帰りの社寺参詣
巡礼の旅とは異なり、足が悪い人なら足の神様など、信心している神社仏閣へ毎月決まった日に出かけました。縁日です。
私の祖母は、孫の眼病の平癒を願って「瀧谷のお不動さん」(大阪府)へ縁日ごとに出かけていました。信心深い祖母で、毎月参詣することで自身も心の平安を得ていたのかなと思っています。
縁日に参詣する風習は薄れつつあるようですが、縁日には特別な御朱印、授与品などが用意されているためか、今も出かける人は多いですね。

4.イベントでお出かけ
年始や盆礼などの年中行事、誕生後のお七夜(孫抱き)などの通過儀礼で親戚や知人を訪問しました(集まる楽しみ:待ち遠しい年中行事)。祭りは、宵宮に行って一泊(集まる楽しみ:祭りで親戚の絆を強める)でした。
また、相撲や芝居などの興行を見に行ったり、江戸から招いた鍼灸師を訪ねたり、行商人から紀州漆器を買ったりで、近村へと出かけました。
村人たちにも、娯楽があったのです。

5.用がなくても出かけた親戚の家
特定の伯父伯母やいとこなどの家へも出かけました。
当時の人たちには相談できる年長者が指定されていました。
孤立した核家族ではなかったのです。
今となっては、重要な仕組みかもしれませんね。
男子が成人したときの烏帽子親、女子が成人あるいは結婚したときの鉄漿親(かねおや、初めてのお歯黒を指導した年長女性)など義理の親・後見人がいました。
私が住んでいる松本市では、最近まで、結婚する時に仲人とは別に、カネオヤを立てました。カネオヤは、若夫婦の生涯の相談相手。
当時は歩いて移動したので、しばしばカネオヤの家に泊めてもらうことになりました。
これは当時のセーフティーネット。
旅先とはいえないかも知れませんが、親類縁者の家は大切な行き先でした。
ストレス解消の場、更には問題解決の場として機能したようです。
今の時代、甥や姪に頻繁に来られるとちょっと迷惑かもしれませんが、年に数度、親類縁者が相互訪問するのは、ありだと思います。
私は、親戚が多い大阪へ行くときには、幹事役をしてくれるいとこへ声を掛け、集まるようにしています。長い付き合いなので、会話は気晴らしになり、悩みごとも話せます。

Arnold Genthe, Travel views of Japan and Korea (1908)
まとめ
江戸・明治時代の村人たちの日帰りのお出かけは、町場(城下町・宿場町)でのショッピングであり、信心する社寺への参詣であり、イベント(興行や行事)の見参加参加でした。私たちと同じです。
ただ、成人式や結婚式の時に相談相手となる年長者が決められていて、用がなくても行けたというのがよい仕組みだったと思います(相手によっては、ウザいでしょうけどね)。

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