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イベントレポート【ネイチャーポジティブのリアル:現場から見える実装のヒント】

こんにちは!Fabricのシニアサステナビリティストラテジストのトモコです。

2022年にCOP15で国際的に合意され、日本も国として「ネイチャーポジティブ経済移行戦略」を掲げる中、対応を急がれるネイチャーポジティブ達成への道。

しかし、現場では正直なところ「で、実際どうすればいいの?」と感じている方も多いのではないでしょうか?

  • 日本を代表する企業は今、ネイチャーポジティブのために何をしているのか?

  • どうやって自然・生物多様性・生態系との関係をストーリーに変えているのか?

  • バイオリージョナルな視点って、実際のビジネスにどう繋がるの?

Fabricでは先日、そんな問いに対して、業界・職種を超えて議論し、ネイチャーポジティブ戦略を企業のコアビジネスへと繋げるヒントを探るイベントを開催しました。製造業、不動産、建築、重工業、飲食など多岐にわたる業界から参加いただき、とても活発な対話が生まれました。


今回は、3名の実践者の方々に、サプライチェーン改革、ブランディング・ストーリーテリング、そしてエコロジーを軸にしたビジネス設計について、それぞれの現場から話していただきました。Fabric代表のジェームスからは、テクノロジーと自然再生の交差点について最新の知見を共有しました。

「知ること」から「やること」へ

イベントの冒頭では、私から、自然資本・生物多様性への企業対応が「開示・報告フェーズ」から「事業への実装フェーズ」へと移行していくことの重要性を共有しました。

TNFD(自然関連財務情報開示)やSBTN、CSRDといったフレームワークへの対応が進む一方で、「どうやって自然戦略をビジネス価値・競争優位性に翻訳していくか」が次の問いとなっています。

その問いを考えるための3つの軸を提示しました。

自然戦略が企業やその製品・サービスのUSPになっている一例として、積水ハウスの「5本の樹」プロジェクトを紹介。「我が家を世界一幸せな場所にする」というグローバルビジョンを起点に2001年からスタートし、20年以上にわたって継続。生物多様性への貢献が実際に販売商品・サービスと連動した取り組みとして定着している事例です。

4人からの現場のリアル、そして未来への示唆

美鳥さん:サプライチェーンの上流まで踏み込む、キリンのネイチャーポジティブ戦略

サステナビリティ・NPO運営・教育・環境省勤務など多様なキャリアを経てキリンに参画した美鳥さんは、キリングループのネイチャーポジティブへの取り組みを、自社管理地とサプライチェーン上流の両面から紹介してくださいました。

椀子(まりこ)ヴィンヤード(長野県上田市)の事例

長野県上田市丸子地区に2003年に開園した椀子ヴィンヤード。かつて遊休荒廃地だったこのエリアで草原環境の回復に取り組む中で、生物種が少しずつ豊かになってきました。農研機構・キリンホールディングス・メルシャンの3社による共同研究を通じて、絶滅危惧種を含む多様な生物も確認されています。さらに2024年には環境省の「自然共生サイト(OECM)」として認定。営農しながらビジネスをすることで生態系が回復していくという、国際的にも珍しいアプローチとして注目されています。

スリランカのサプライチェーン上流での挑戦

日本で紅茶に使用される茶葉のうち、スリランカ産は全体の輸入量の約40%を占め、そのうち約25%がキリンの「午後の紅茶」に使われています。複雑な農園(エステート)構造と民族的背景を持つサプライチェーンに対し、キリンは現地のステークホルダーを一堂に集めたフォーラムを開催。東京大学やスリランカの大学との共同研究契約を結び、生態系調査を継続実施しています。TNFDが開発するネイチャーポジティブ指標のパイロットテストを、自社管理外のサプライチェーン上流で実施した企業としては世界でも類を見ない事例として、現在進行中です。

美鳥さんが特に強調したのは「現地に連れていくこと」の力。会議室でいくら語っても動かなかった人が、現地の熱量を感じると変わる——そのプロセスを丁寧に設計することが、組織変革の鍵だと話してくださいました。

久保田さん:レストランをメディアとして捉える、Pizza 4P'sの生物多様性へのアプローチ

2011年にベトナム・ホーチミンで創業し、現在5カ国40店舗を展開するPizza 4P's。久保田さんは、「Make The World Smile for Peace」というビジョンを店舗デザイン・メニュー・体験・データ開示のすべてに一貫して落とし込むブランドづくりの実践を紹介してくださいました。

「ワンネス」という哲学を事業の軸に

Pizza 4P'sの根底にあるのは「One-ness(全ての繋がり)」という概念。人と人、人と地球、生物的な多様性—これら全てが繋がっているという思想を、ピザというプロダクトを通じてどう表現するかを常に問い続けています。各国の店舗コンセプトもそこから派生していて、カンボジアは「ゼロウェイスト(廃材活用)」、インドネシアは「生物多様性」をテーマに設計されています。

インドネシア店舗での実践

ジャカルタの森ビル14階に位置するインドネシア店舗では、メニューブックのカテゴリー自体が生物多様性に繋がる行動テーマ(オーガニック農業・サステナブルシーフード・ハウスメイドクラフトなど)で構成されています。

店内の「バイオダイバーシティミュージアム」では、発酵やチーズ製造と生態系の繋がりをプロジェクションマッピングで可視化。知識としてではなく、体験として生物多様性を伝える仕掛けが随所にあります。2024年12月にオープンしたホーチミンの新店舗では、店内のコンクリートを掘り起こして農地に。スタッフ全員で農地をつくり、昆虫の科学者を招いて生態系の変化を半年ごとにモニタリングしています。

久保田さんが強調したのは「遊び心」の大切さ。大人になると土で遊ぶ機会がなくなるけれど、子供の頃に戻るような体験が人の心を一番動かす—その確信が、Pizza 4P'sのあらゆる取り組みの根底にあると感じました。

小林さん:頭ではなく体で理解する、リジェネレーションへの入り口

エコロジカルミームとリジェネラティブリーダーシップジャパンの2つの法人を運営する小林さんは、「人と自然の関係の再構築」をテーマに、企業・リーダー向けのフィールドプログラムや環境再生の実践を行っています。

フィールドで「腑に落ちる」体験をつくる

小林さんが問うのは、「リジェネレーションを頭でわかっている人が、本当に体で理解しているか」という問いです。丸の内の総合デベロッパーの社員を東京郊外の流域へ連れ出し、「まちづくりをしているこの会社の事業が、どのように水の流れや生態系と繋がっているか」を実感する研修プログラムを実施した事例を紹介。スコップ1本で水路をつくるだけで水の流れが変わり、鳥が戻ってくる—その体験が、事業の意味やストーリーテリングの質を根本的に変えると話してくださいました。

「積極的に人が関わる」リジェネレーション

自然保護の議論では「人はなるべく関わらない方がいい」という発想が根強いですが、小林さんが目指すのはその逆。人が自然の営みに積極的に関わり、再生を担っていくリジェネレーションのあり方です。鳥取県での企業研修や埼玉県春日部での環境再生型コミュニティ農園など、地域に根ざした実践を積み重ねています。

ジェームス:計測・データ・トークン化自然資本をめぐるテクノロジーの最前線

Fabric代表のジェームスからは、「ビジネスにおけるエコシステム再生の未来」と題して、生態系の科学的計測・モニタリング技術の進化と、それがビジネス・投資に与えるインパクトについて共有しました。

IoTデバイス・ドローン搭載LiDARカメラ・環境DNA分析・AIを活用した生物ネットワーク分析など、継続的なデータ取得の精度と範囲が劇的に拡大。エコシステムの健全性を「ネットワーク科学」として可視化することで、どの生物種・拠点が生態系全体のレジリエンスに最も重要かが分かるようになりつつあります。

また、カーボンクレジット・グリーンボンド・自然クレジットのトークン化による「生態系への経済的な繋がり方」の変化にも言及。計測技術の精度向上とともに、自然資本市場のスケールアップが加速していくという見通しを示しました。

対話から見えてきた共通点

心に響くネイチャーポジティブのストーリーとは?

スピーカーのお三方が共通して強調したのは、「想像できる特定の場所と結びついていること」の力でした。メルシャンの椀子ヴィンヤード、Pizza 4P'sが直接訪れる農家、奥多摩の流域—いずれも「どこか」が具体的に見える。その具体性が、会議室では生まれない感情的な繋がりを生み出します。

そして、「遊び心と感性を忘れないこと」。久保田さんが話した「土で遊ぶ体験」や、小林さんの「フィールドで体に落とし込む」プロセスは、どちらも「論理より先に感覚を動かす」アプローチです。ネイチャーポジティブは、頭で理解するだけでは組織を動かせない——そのことがゲストのリアルな経験から伝わってきました。

日本だからこそ発信できるもの

もう一つ議論が盛り上がったテーマが、「日本のアセット」です。

  • 里山文化: 人が関わることで自然が豊かになるという共存の考え方は、リジェネレーションの概念と深く重なります

  • 「気候風土」のコンセプト: 土地の気候・風土・人の営み・産業が一体として形成されてきたという日本的な自然観は、海外の視点からは非常に新鮮に映ります

  • OECMとしての営農地: 「農業をすることで生態系が回復する」という椀子ヴィンヤードの事例は、農業と保全を切り離してきた国際的な議論に対して、日本から発信できる新しいスタンダードの可能性を示しています

「日本が素晴らしいというだけでなく、その素晴らしさが世界と繋がっているということが大事」(久保田さん)—グローバルなフレームワークに準拠するだけでなく、日本の実践と自然観から世界に届けられるものがある、という視点が共有されました。

おわりに

「他の企業の話から自社だけでは思いつかなかったヒントが得られた」
「やっぱり会議室だけでは生まれてこないアイディアがある」
「とてもいい学びになったが、自社の取り組みにどのように活かしていけばいいのかはまだ模索の余地がある」

参加者からの声

「フレームワークを知っている」から「実際に動いている」への移行。それは理解だけでは起きにくい。特定の場所へのコミットメント、現場で体を動かす体験、感性に刺さるストーリー。そういうものが重なったとき、はじめて組織の中に本当の変化が生まれてくる。今回のイベントを通じて、改めてそれを実感しました。

Fabricでは、こうした実装フェーズの支援を続けています。「自社の取り組みをどう進めたらいいか」と感じている方は、ぜひ一度お話ししましょう!

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