社会福祉法人の経理がExcel管理表を手放さない方が正解だと思う3つの理由
社会福祉法人で会計とICTを20年やってきた経理実務家です。
決算が確定して監査が近づくこの時期、結局Excelの突合シートで数字を追いかけている、という方は多いのではないでしょうか。私もそうです。「クラウド会計やSaaSに全部移すべき」というDXの声を聞くたびに、Excelを使い続けている自分が少し古いのかな、と感じることもありました。でも20年やってきて、今はむしろ逆の結論を持っています。
今日は、社福経理がExcel管理表を手放さない方がいいと私が思う理由を、3つ書きます。
私の結論:Excelを手放すのではなく、上にAIとSaaSを「重ねる」
先に結論を書きます。
社福経理の正解は、Excelを捨ててSaaSに移ることではなく、Excelを土台に残したまま、その上にAIとクラウドを重ねることだと感じています。
DXというと「古い道具を新しい道具に置き換える」とイメージしがちです。でも実際の現場でやってみると、全部を入れ替えるよりも、使い慣れたExcelを真ん中に置いて、足りないところだけ新しいツールで補うほうが、ずっと無理がありません。
何年か前、クラウド会計に全面移行した同業の知人と話したとき、「結局、最後はExcelに落として突合してる」と聞きました。先進的に切り替えたはずの人ほど、最後の確認はExcelに戻ってくる。これは偶然ではなく、社福会計の構造そのものに理由があると思っています。
理由①:社福会計の三層構造は、Excelの「列を増やす」発想と相性がいい
社会福祉法人の会計は、法人全体・拠点区分・サービス区分という三層構造になっています。同じ収入でも、どの拠点の、どのサービスのものか、という単位で見ていく必要があります。
この「縦に項目、横に区分を足していく」感覚は、Excelで列を増やしていく作業とほとんど同じです。拠点が増えたら列を足す、サービスが増えたら欄を足す。現場の都合に合わせて、表のほうを変えていける。
SaaSの多くは、あらかじめ決められた定型の項目に数字を流し込む作りです。きれいですが、社福特有の集計をしようとすると「その項目がない」場面が出てきます。現場の集計が先にあって、道具が後から付いてくる。 この順番を守れるのが、Excelの一番の強みだと感じています。
理由②:制度改正のスピードに、SaaSが追いつかない時期がある
社福の経理は、制度改正と隣り合わせです。加算の要件が変わる、様式が差し替わる、計算方法が見直される。しかもその通知が、対応の直前に出ることも珍しくありません。
SaaSは、こうした改正にアップデートで対応してくれます。ただ、その反映を待つ時間が読めない時期があります。締切は動かないのに、ツールの更新が間に合わない。あの焦りを、私は何度か経験しました。
その点Excelなら、式を自分で直せます。新しい計算方法を聞いて、その日のうちに突合シートを組み替える。これができるかどうかは、制度に振り回される社福経理にとって、思っている以上に大きな安心材料です。誰かの更新を待たずに、自分の手で間に合わせられる。
加算の要件が変わった年、私は通知が出たその週末に、古いチェック表の式を一から組み直したことがあります。正直しんどい作業でしたが、月曜には新しい基準で回せる状態になっていました。完璧なツールが用意されるのを待つより、手元のExcelを自分で直したほうが、結局は早かった。そういう場面が、社福経理には何度も訪れます。
理由③:監査や行政指導のときに、「式を遡れる資料」が一番強い
監査や指導のとき、求められるのは「なぜこの数字になったか」の説明です。結果だけでなく、そこに至る筋道を示せるかどうか。
ここでExcelの突合シートは強い。セルをクリックすれば、どのセルを足して、どう計算したかが式で残っています。聞かれたその場で、数字の出どころを遡って見せられる。
中身の見えないツールだと、ここで詰まることがあります。「正しいはずですが、計算過程は分かりません」では、説明したことになりません。自分で説明できない数字は、自分の数字とは言えない。 監査の場で何度かヒヤッとして、私はそう思うようになりました。
行政の指導は、ミスを責めるためというより、根拠を確かめるために来ます。だからこそ、結果の正しさよりも「どうやってその数字に辿り着いたか」を示せることが効いてくる。式が見える、というだけのことが、いざという時にいちばん頼りになります。
例外:法令対応のスピードが命の領域は、クラウドに寄せる
ここまでExcelを残す話をしてきましたが、全部をExcelで抱えればいい、とは思っていません。
給与計算、年末調整、電子帳簿保存法への対応。このあたりは、法令への追従スピードそのものが品質に直結します。自分で式を組むより、専門のクラウドサービスに任せたほうが、ミスも手間も確実に減ります。私もここは割り切って、ツールに頼っています。
Excelを残す領域と、クラウドに預ける領域。この線引きを自分の中で持っておくと、DXの議論に振り回されずに済みます。全部か、ゼロか、ではないんですよね。
無料のExcelテンプレも置いています
社福経理の現場で「あったら助かる」と感じたExcelテンプレを、無料で配布しています。
拠点別予実管理表
給付費突合せ管理表
月次決算チェックリスト
給与計算チェックシート
資金収支予算管理表
どれも「Excelを残す前提」で、社福会計の科目体系に合わせて作った突合・管理のテンプレ集です。ダウンロードはnoteの記事から直接できます(登録不要)。
おわりに
私は今でも、決算確定の最後の1日は、Excelの突合シートで全数チェックをしています。20年使い込んだこの表は、私にとって古い道具ではなく、自分の考え方がそのまま形になった「自分の言語」のようなものです。
Excelは時代遅れの道具ではなく、AIと組み合わせれば、まだまだ社福経理の最強装備でいられる。
新しいものに置き換えることだけがDXではないと思います。使い慣れたものを真ん中に残しながら、足りないところに新しい力を重ねていく。そのやり方も、立派な前進だと感じています。また書きます。
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