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経理が追うのは財務会計、理事長が求めるのは管理会計——社福でずれる3つの理由

社会福祉法人で会計とICTを20年やってきた経理実務家です。

6月は賞与や報酬改定で慌ただしく、経理が「数字」と向き合う時間が一段と増える時期です。そんな中で、私が20年かけてようやく言葉にできたことがあります。それは、経理が一生懸命に追いかけている数字と、理事長や施設長が本当に見たい数字は、実はずれている、ということです。

今日は、その「ずれ」がなぜ生まれるのかを、財務会計と管理会計という言葉を手がかりに、3つの理由として書きます。


私の結論:経理は財務会計を追い、経営者は管理会計を求めている

先に結論を書きます。

経理が追い求めているのは財務会計で、理事長や施設長が本当に求めているのは管理会計です。この溝を埋めることが、これからの社福経理の役割だと感じています。

言葉の整理を一つだけ。財務会計とは、決算書のように「外に出すための数字」です。監査や行政提出、WAM NETへの報告など、ルールで形が決まっています。一方の管理会計は、「自分たちの判断のための数字」です。どの拠点が苦しいか、この加算は取りに行くべきか。決まった形はなく、経営判断のために自由に組み立てるものです。

私自身、長いあいだ財務会計ばかりを見ていました。きっちり締めて、監査を通すことが経理の仕事だと思っていたからです。でも、それだけでは経営者の問いに答えられない場面に、何度もぶつかりました。

理由①:そもそも、二つの会計は「向いている方向」が逆

財務会計と管理会計は、同じ「会計」でも、向いている方向が正反対です。

財務会計は外向きです。法人の外にいる人——所轄庁、監査法人、評議員、地域——に対して、「この法人は正しく運営されています」と示すための数字です。だから正確さとルールへの準拠が何より大事になります。

管理会計は内向きです。法人の中にいる人——理事長、施設長、現場の管理者——が、明日の判断をするための数字です。多少ざっくりでも、早く、判断に使える形で出ることのほうが価値を持ちます。

外に示す数字と、中で使う数字。求められる性質がそもそも違う。 ここを混同すると、「決算はきれいなのに、経営の相談には使えない数字」が出来上がってしまいます。私が長く作っていたのは、まさにそれでした。

その「外に示す」相手も、一枚岩ではありませんでした。銀行、福祉医療機構、公認会計士、税理士。それぞれ見ている場所が違います。

理由②:社福は財務会計の義務が重く、経理の目が外を向きやすい

社会福祉法人は、財務会計の負担がとても重い業態です。

資金収支計算書を軸にした独特の会計、拠点区分やサービス区分という三層構造、毎年の監査、WAM NETへの報告。やるべき「外向きの仕事」が山のようにあります。これらは法令で決まっているので、後回しにはできません。

すると何が起きるか。経理の意識が、自然と外向きに固定されていきます。期限のある提出物に追われ続けると、「中の判断のための数字」を作る余力も発想も、後回しになってしまう。これは担当者の怠慢ではなく、業態の構造がそうさせているのだと思います。

私も、決算と監査を乗り切ることで一年が終わっていく感覚を、長く持っていました。財務会計をこなすだけで精一杯で、管理会計まで手が回らなかった。社福経理が管理会計に弱いのは、財務会計が重すぎるから。 これが二つ目の理由です。

理由③:経営者が本当に聞きたいのは、財務会計では答えられない

理事長や施設長が経理に投げてくる問いを思い出してみると、その多くは財務会計では答えられないものでした。

「どの事業所がいま苦しいのか」 「この加算は、コストをかけてでも取りに行くべきか」 「来年も今の体制を続けて大丈夫か」

これらはすべて、未来と意思決定に関する問いです。決算書は過去を正確に映す鏡ですが、未来の判断材料そのものではありません。経営者が求めているのは、拠点ごとの収支や予実、加算の損益といった、管理会計の数字なのです。

たとえば加算ひとつ取るにしても、経営者が知りたいのは「取れば報酬がいくら増えるか」だけではありません。配置を増やすコスト、要件を維持する手間まで含めて、差し引きで法人にプラスになるのか。これは決算書のどこを見ても書いていない数字です。拠点ごとに分けて、コストとリターンを並べてはじめて見えてきます。

決算をきれいに締めた直後に「で、どこが苦しいの」と聞かれて、すぐに答えられなかった年が私にもあります。正確な決算は作れても、経営の相談には使えなかった。経営者が欲しいのは過去の正しさではなく、未来の判断材料だった。 あのとき、自分の数字の向きが外にしか向いていなかったことに気づきました。

その「お金の動き」を実際にどこで読むかは、こちらにまとめています。


例外:財務会計が軽くていい、という話ではない

ここまで管理会計の大切さを書いてきましたが、財務会計を疎かにしていい、という意味ではありません。

むしろ逆で、正確な財務会計という土台があるからこそ、管理会計は信頼できる数字になります。日々の仕訳や区分が曖昧なまま拠点別の収支を出しても、その数字は経営判断には使えません。財務会計は管理会計の足場です。

順番として、財務会計をきちんと回せるようになった次の一歩として、管理会計に手を伸ばす。この順序は外さないほうがいいと感じています。

無料のExcelテンプレも置いています

社福経理の現場で「あったら助かる」と感じたExcelテンプレを、無料で配布しています。

  • 拠点別予実管理表

  • 給付費突合せ管理表

  • 月次決算チェックリスト

  • 給与計算チェックシート

  • 資金収支予算管理表

このうち拠点別予実管理表は、まさに「中で使う数字」=管理会計の入口として作ったものです。財務会計の数字を、経営の相談に使える形に置き換える第一歩に、使ってもらえたら嬉しいです。

ダウンロードはnoteの記事から直接できます(登録不要)。

おわりに

経理が一歩、財務会計から管理会計へ踏み出すと、見え方が変わります。「数字を締める人」から、「数字で経営の相談に乗れる人」へ。理事長や施設長との会話が、ぐっと近くなります。

経営者が求めているのは、正しく締められた過去ではなく、明日を決めるための数字です。

財務会計で土台を固めつつ、その上に管理会計を一枚重ねていく。社福経理の次の伸びしろは、きっとそこにあると感じています。また書きます。
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