熱中症対策提言シリーズ③「応急処置はActive Coolingで」
はじめに
少し季節外れに感じるかもしれませんが、来年の夏を少しでも安全に迎えるために、今年度のうちからぜひ検討していただきたいことを「熱中症対策提言シリーズ」として取り上げていきます。暑くなってからすぐに始められるものもあれば、設備やルール、作業方法など、時間をかけて見直す必要があるものもありますしね。
この記事を読んでほしい人
職場の熱中症対策に関わる方、安全衛生・総務・人事・現場管理の担当者、産業医・保健師などの産業保健職、救急対応や現場の教育・訓練を担う方に、ぜひ読んでいただきたい内容です。
この記事を簡単に要約すると
熱中症の応急処置として、首や脇、足の付け根を冷やすことは広く知られるようになりました。しかし、意識がもうろうとしているなど重症が疑われる場合には、それだけでは十分ではありません。救急要請と同時に、水をかけて風を送るなど、身体から積極的に熱を逃がす「Active Cooling」を始める必要があります。水道と送風手段、対応手順、役割分担を、来年の夏が来る前に準備しておきましょう。
第3回のテーマは、「応急処置はActive Coolingで」です。
第1回テーマ「長袖・長ズボンは安全か」
第2回テーマ「トイレを整備しよう」
今回のテーマは、熱中症が起きてしまった時の応急処置です。予防策を重ねても、熱中症の発症を完全に防ぎきることはできません。だからこそ、重症者を前にした時に、救急車を呼ぶだけでなく、救急隊が到着するまで何をするかを、職場としてあらかじめ決めておく必要があります。
まずは、首や脇、足の付け根を冷やす
熱中症の応急処置として、「涼しい場所へ移す」「衣服をゆるめる」「首や脇、足の付け根を冷やす」といった対応は、広く知られるようになりました。熱中症教育でも繰り返し伝えられており、まず行うべき大切な対応です。


意識がはっきりしていて、自力で水分を飲める人であれば、涼しい場所で休ませ、衣服をゆるめ、こうした部位を冷やしながら水分・塩分を補給することが基本です。
大事なのは、「熱中症かもしれない」と思った時点で、すぐに作業を止めることです。少し休めば大丈夫だろう、本人が大丈夫と言っているから様子を見よう、と作業を続けさせることが、重症化につながることがあります。
重症例では、いかに早く体温を下げるか
一方、意識がもうろうとしている、呼びかけに十分に応じない、ふらついて立てない、けいれんしているといった場合は、重症の熱中症を疑うべきです。
深部体温が40℃以上で、重い意識障害を伴う状態は、熱中症重症度分類の最重症であるⅣ度に該当します。重症化すると、意識障害やけいれんに加えて、肝臓・腎臓の障害、血液凝固異常など、命に関わる全身の障害を来すことがあります。
ここで最も重要なのは、いかに早く深部体温を下げられるかです。救急車を呼ぶことはもちろん必要ですが、救急車を呼んだからといって、冷却を止めて待っていてはいけません。救急隊の到着前から身体を冷やし始めることが、救命につながります。環境省「熱中症環境保健マニュアル」でも、熱中症の救命には早期の冷却が重要とされています。
氷嚢による局所冷却だけでは、冷却速度が足りない
熱中症発生時の応急処置として、扇風機や氷嚢で脇や足の付け根を冷やす方法はよく説明されています。太い血管が通る場所を冷やせば、効率よく血液を冷やせそうに感じるからです。
しかし、局所に氷嚢を当てる方法だけでは、重症例に必要な速さで深部体温を下げることは難しいと考えられています。冷やせる面積が限られることに加え、皮膚や皮下脂肪を介して、深い場所にある血管まで十分に冷やすことは簡単ではありません。
近年は、首・脇・鼠径部を冷やす方法よりも、全身を冷やすことの重要性が強調されています。山岳医による解説記事でも、従来の部位への局所冷却は冷却への寄与が小さく、全身冷却を優先すべきことが分かりやすく紹介されています。
もちろん、氷嚢を使ってはいけない、ということではありません。手元にある場合には、補助的に活用してよいでしょう。ただし、氷嚢を首・脇・足の付け根に当てているから安心、ではないということです。
重症例は積極的冷却
そこで必要になるのが、「Active Cooling(積極的冷却)」です。
これは、冷たいものを当てて様子を見るのではなく、水をかけて風を送るなどして、身体から積極的に熱を逃がす処置を指します。

冷水に全身を浸す「冷水浸漬」は非常に効率のよい方法ですが、一般の職場で、いつでも実施できるとは限りません。そこで、屋外作業や建設現場などでも実施しやすい方法として、「水道水散布法」があります。衣服をできるだけゆるめ、身体に水をかけ、扇風機などで風を送る方法です。水が蒸発する際に熱を奪う「蒸発」と、風によって熱を逃がす「対流」を組み合わせて、全身から熱を逃がします。
「水道水散布法」の詳しい方法は、厚生労働省から動画が公開されていますのでご参照ください。


厚生労働省も、職場における異常時の対応として、「全身を濡らして送風することなどにより身体を冷却」することを示しています。

「119番」と「冷却」を同時に始める
重症が疑われる時の原則は、シンプルです。
1. 意識を確認する
2. 意識がはっきりしなければ、ただちに119番通報する
3. 涼しい場所へ移動し、衣服をゆるめる・脱がせる
4. 救急隊を待つ間に、水をかけて風を送るなどの"Active Cooling"を始める
5. 一人にせず、呼吸や意識の状態を見守る
意識がはっきりしない人に、無理に水分を飲ませてはいけません。むせたり、誤嚥したりする危険があるためです。飲ませることよりも、救急要請と身体冷却を優先します。
また、対応にあたる人が「水をかけてよいのか」「服を脱がせてよいのか」と迷う場面もあるかもしれません。しかし、意識障害を伴う熱中症は、命に関わる緊急事態です。羞恥心や衣服の汚れへの配慮は必要ですが、救命を最優先に、タオルやシートで周囲から見えにくくする工夫をしながら、速やかに冷却を始めることが大切です。
補足 | 文献的背景
熱中症重症度分類で最重症となる「Ⅳ度」(深部体温40.0℃以上、意識障害(GCS 8以下))では、Active Coolingを実施しなければ死亡率が増加すると報告されており、熱中症の症状の悪化を防止するために必要な措置として、職場で熱中症のおそれのある作業者に意識障害(重 症度「Ⅲ度」または「Ⅳ度」)を認めた際には、速やかにActive Coolingの「身体の冷却」が必要である。具体的には、水道水散布法が簡便で効果的であり、建設業などの屋外作業での活用が望まれる。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/ohpfrev/39/2/39_142/_pdf/-char/ja
来年の夏までに、職場で準備しておきたいこと
Active Coolingは、専門的な医療機器がなければできないものではありません。けれども、いざという時に水道の場所、ホース、扇風機、送風機を探していては遅れてしまいます。
来年の夏までに、次の点を確認してみましょう。
◻︎水道・散水栓、ホース、バケツ、シャワーを使える場所はどこか
◻︎扇風機、送風機、ブロワーなど、風を送る手段があるか
◻︎日陰や冷房のある場所へ、無理なく移動できるか
◻︎横になれるスペースや、目隠し用のタオル・シートがあるか
◻︎誰が119番通報を行い、誰が冷却を始め、誰が現場を整理するか
◻︎新入社員、派遣社員、協力会社の作業者も含めて、手順を共有できているか
特に、屋外や暑熱環境で作業する職場では、実際に一度、対応を試してみることをおすすめします。ホースは届くのか、電源は使えるのか、扇風機はすぐ動くのか、休憩所まで何分かかるのか。机上で手順を作るだけでは分からないことが間違いなく出てくると思います。
おわりに
熱中症対策というと、水分補給、休憩、WBGT、空調、作業着など、発症を防ぐための対策に目が向きます。もちろん、それらは大切です。
ただ、万が一重症者が出た時、救急隊が到着するまでの数分間に何をするかも、同じくらい重要です。首や脇、足の付け根を冷やす初期対応を知っている職場から、もう一歩進んで、重症例には全身を積極的に冷やすという対応まで準備しておきましょう。
来年の夏、救急車を待つ時間を、ただ待つ時間にしないために。今のうちから、Active Coolingができる職場をつくっておきたいものです。
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