銀河英雄伝説クラシック音楽一覧 │ (85)第73話「冬バラ園の勅令」🎼ショスタコーヴィチについても
OVA「銀河英雄伝説」で使われているクラシック曲をGoogleスプレッドシートにリスト化し、Webサイトで公開しています。
🔗 銀河英雄伝説クラシック音楽一覧 Musik und Szenen – ein Strauß gelber Rosen
このnoteではBGMを軸に、曲のことや物語のこと、ミッターマイヤーのこと、そのほか銀英伝に関するいろいろを書いていきたいと思います。
⚠️ネタバレを含みます。
今回は第73話「冬バラ園の勅令」です。
ショスタコーヴィチの音楽が今回から登場します。
あらすじ
ビュコックの戦死がイゼルローンのヤンにも届き、彼は自身の判断を悔いる。レベロは統合作戦本部長ロックウェルに暗殺され、自由惑星同盟は帝国へ全面降伏。宇宙暦800年2月9日、ラインハルトはついにハイネセンに降り立ち、20日「冬バラ園の勅令」により同盟は終焉を迎える。
曲について
🎼ドミトリー・ショスタコーヴィチ
この73話では、ショスタコーヴィチ(1906年9月25日~1975年8月9日)の音楽がはじめて登場します。
前話で自由惑星同盟軍は敗北し、本話ではついに同盟そのものが滅亡へと至ります。そんな転換期に、これまでのバロック・古典・ロマン派中心の曲から、近現代曲に移った、というようにも私には感じられます。
また、ショスタコーヴィチはスターリン体制下に生き、政治的な抑圧の中で創作を続けた作曲家です。生前は共産主義体制に適応した「優等生」と見なされていましたが、そのイメージは死後に大きく揺らぎます。没後4年で出版された『ショスタコーヴィチの証言』によって、体制への従属の裏に皮肉や悲しみを秘めた作曲家像が広く知られるようになりました。
もっとも、この本には偽作ではないかという指摘も出ています。それでも、作品の中に表と裏の二重性を読み取る見方は残り続けました。さらに1990年代には手紙の発見などもあり、彼の人物像は少しずつ見直されています。ショスタコーヴィチの交響曲は、そうした背景もあって、今でもさまざまな解釈が重ねられているそうです。
そのようなこともあってここでショスタコを採用した……かどうかは分かりませんが、ショスタコがいたのはこんな時代です。

ちなみにラヴェルは1937年12月28日没。
「わが征くは星の大海」(1988年)の時点でラヴェルはまだ著作権フリーではなかったが、どうしても「ボレロ」を使いたかったので使用料を払った、そしてどうせならいっそのことと録音し直した(井上道義&新日本フィルで。すごい)、ついでにニールセンやマーラーも……でしたよね。
そういえば 第57話「キュンメル事件」 から出てきた「展覧会の絵」。作曲者のムソルグスキーは1881年没なのでパブリックドメインになっていますが、使われていたのはオケ版でラヴェルの編曲。
そして今回のショスタコや、実はこちらも今回から登場するラフマニノフ、これらもフリーではなかったかと。2026-70=1956なので、ショスタコは今(2026年時点)でもまだですね。
このことついての制作側のインタビューなどは見たことがありませんが、経費を追加してでも使いたかったということなのでしょうか。というわけで、この先ショスタコが使われるのは何か意味のあることなのでしょう(勝手な憶測)。
⬜オープニング「Sea of the Stars」
歌・作詞 LISA / 作曲 川辺真 / 編曲 風戸慎介
01:30 ショスタコーヴィチ《交響曲第5番 第2楽章》
――イゼルローンに到着したヤン
Д. Д. Шостакович – Симфония №5, ор. 47: II. Allegretto
2楽章頭。3拍子の軽い感じの曲。
🎧曲を聴く17:25
他にはこちらで流れます。
▻第080話「回廊の戦い(中編)–万華鏡–」10:05🐺イゼルローン回廊へ侵入開始
▻「千億の星、千億の光」第12話「千億の星、ひとつの野心」12:45同盟軍の会議
ショスタコーヴィチといえば交響曲第5番でしょう。近現代曲音痴の私も知っていました。それは、第71話「マル・アデッタ星域の会戦(前編)」のチャイコの4番の4楽章のように、隣の高校の吹奏楽部から聞こえてきていたからです。
年表では「1937年 交響曲第5番」の前に「1936年プラウダ批判」とあります。これは、1934年と1935年に作曲されたオペラおよびバレエ音楽が、全ソ連共産党機関紙「プラウダ」紙上で、音楽的ではない、社会主義的ではない、そして形式主義的で左翼偏向的であると非難された事件です。
これにより彼は、作曲家としての立場を大きく揺るがされることになりました。
そうした中で書かれたのが、交響曲第5番です。当時はこの作品について、「批判に応えた創造的回答」であり、苦しみを乗り越えて明るい結末へ向かう音楽である、と説明されてきました。
ただ現在では、このような見方はやや単純すぎるのではないか、とも考えられています。表面的には体制に従った作品のように見えながら、その内側には複雑な思いや皮肉が込められているのではないか、とする解釈も有力なものの一つとなっています。
03:53 ドヴォルザーク《交響曲第2番 第4楽章》
――ムライたちがイゼルローン要塞に到着
A. Dvořák – Symfonie č. 2 B dur, op. 4, B. 12: IV. Allegro con fuoco
ショスタコではなくドヴォルザーク。2番、4楽章頭から。低い弦楽器が強く鳴ったあと、ピッコロ、フルート、オーボエが鋭く響く出だしが、不穏な感じ?!と思いましたが、そのあとは明るく活気のあるメロディーが続きます。
🎧曲を聴く40:46
ムライさんが来たことで、ピクニックが研修旅行になっただのの発言がありましたが、原作ではビッテンフェルトがこんなことを言っていたのですよ。「ほかにやることがなくて、戦争ごっこや革命ごっこをしている」(7巻第8章Ⅰ)。
この2番はあまり演奏されることがない曲のようで、YouTube動画も少なかったです。リンク先はイルジー・ビエロフラーヴェク指揮チェコ・フィルハーモニー管弦楽団(Jiří Bělohlávek/Czech Philharmonic)の演奏です。
銀英伝でも、使われているのは今回と105話のみ。次は第105話「混迷の惑星」でお会いしましょう…
05:30 ショスタコーヴィチ《交響曲第8番 第1楽章》
――ヤンにビュコック戦死を報告するフレデリカ
Д. Д. Шостакович – Симфония №8, ор. 65: I. Adagio
1楽章頭。チェロとコントラバスの低い音から始まり、緊迫感のあるメロディー、そして悲しく暗い雰囲気へ続きます。
🎧曲を聴く
第8番は、第二次世界大戦下に作曲された作品であり、ショスタコーヴィチの中でも特に深い絶望と荒廃を湛えた「戦争交響曲」として知られています。7番も戦争を描いたものだそうですが、それと比べるととあまりにも暗いため評判は非常に悪く、ジダーノフ批判(ソビエト連邦共産党中央委員会による文化、芸術に対するイデオロギーの統制)の対象となり、1960年まで演奏が禁止されたそうです。
これまでブルックナーとかマーラーとかチャイコなどの暗い曲がでてきたものですが、いやーこれは……
同じく1楽章の頭から流れるのはこちら
▻第078話「春の嵐」20:30フォークと地球教
▻第082話「魔術師、還らず」13:58ボリス・コーネフからの通信
▻「千億の星、千億の光」第12話「千億の星、ひとつの野心」20:19戦闘終了
▻「螺旋迷宮」第9話「捕虜と人質」17:30ケーフェンヒラーも人質になる
ちなみにこのあとには、キャゼルヌ夫妻の軽快なやりとりが続くのですが、そのときに夫人が焼いていたのが何のパイなのか、原作には書かれています。読んでみてください…物語とは特に関係ないことだと思いますが(7巻第8章Ⅰ)。
09:50 ショスタコーヴィチ《交響曲第10番 第1楽章》
――シュナイダーとポプラン
Д. Д. Шостакович – Симфония №10, ор. 93: I. Moderato
終わりの12小節。弦楽器とティンパニが薄ーく流れている上で、ピッコロが響き渡る。
二人は同年代だろうか、よいなあ。シュナイダーくんが「卿は」ではなく「貴官は」と言っているのもいいな。
🎧曲を聴く24:30
8番が暗いと書きましたが、10番も最初は音量が小さくて聞こえず、そして暗い…。ですが、このコーダ部分は暗いかというと、ここだけ聞くとそんなに暗くはない。そして美しいです。たぶん長調。
終わりの箇所が流れるのは今回のここだけ。あとはその暗ーい最初のところや、まんなかの激しい部分。
次の
▻第074話「前途遼遠」20:05民主主義の意義を語るヤン
では頭から流れますので、またそのときに…
13:15 ショスタコーヴィチ《交響曲第9番 第4楽章》
――レベロ暗殺
Д. Д. Шостакович – Симфония №9, ор. 70: IV. Largo
4楽章頭から。トロンボーンとチューバの重々しいユニゾンから始まる。そのあとは突然静かになり、ファゴットソロへ。暗い。
🎧曲を聴く17:13
リンク先のhr交響楽団では、キャプチャーが1~3楽章になっています。3、4、5楽章が続けて演奏されているようです。
物語では、同じ4楽章頭が流れるのはこちら。
▻第079話「回廊の戦い(前編)–不敗と常勝と–」1:30アッテンボローからビッテンフェルトへの返信
▻第095話「双璧相討つ!」1:30叛乱はいつのまにか既定の事実となっていた
▻第109話「黄金獅子旗に光なし」19:15ルビンスキーの死
また、2楽章がこちらで流れます。
▻第095話「双璧相討つ!」21:22🐺おれが正帝、卿が副帝
▻「千億の星、千億の光」第7話「初夏、風強し」9:50オフレッサーにきらわれる
以上のみです。
8番と同様(そして7番も)、この9番も第二次世界大戦のさなかに作られた「戦争3部作」の最後の作品。当局はベートーヴェンの「第九」のように戦勝を祝う壮大な曲を期待していたにもかかわらず、実際は軽妙で皮肉にみちた30分にも満たない小規模な曲で、その後、例のジダーノフ批判を受けることになったそうです。
この4楽章は重々しいですが。
この暗殺を予測したヤンはすごいな…これまでのクーデターのことなども。そしてヒルダも内乱で潰れると言っていたし、いろいろなことがあたっている。
でもヤンは自分のことは予測できなかったのかな。
14:25 ショスタコーヴィチ《交響曲第5番 第4楽章》
――ラインハルトがハイネセンへ
Д. Д. Шостакович – Симфония №5, ор. 47: IV. Allegro non troppo
全楽器が鳴る堂々とした華やかなコーダ部分(私がさんざんお隣の高校から鳴るのを聞いた曲)。金管が鳴り響き、テンポは遅く引き伸ばされ、華やか、圧倒的です。
🎧曲を聴く48:59
ラインハルトが、歴史上初めてハイネセンの地表を踏んだ銀河帝国の皇帝となります(7巻7章Ⅱ。尚、原作のここに病院船に関するビッテンフェルトの「うけねらい」(by双璧)のエピソードが入っています)。
そして正しい人には寛大なラインハルト。
20:02 ショスタコーヴィチ《交響曲第15番 第2楽章》
――レベロ殺害者が罰せられる
Д. Д. Шостакович – Симфония №15, ор. 141: II. Adagio – Largo
2楽章頭。金管楽器の暗いコラールで始まる。
🎧曲を聴く8:31
レベロを殺害したロックウェル大将以下11人の叛乱者たち。帝国風にひざまずいているのがまた滑稽ですね…。
このときの軍幹部は出払っていて、ファーレンハイトだけでした。声が素敵すぎる。
曲はヒルダの発言のところから流れ、ラインハルトはビュコックのことを「あの老人は山の清水であった」と回想します(原作では「新雪」でした)。そのあたりでは、チェロのソロパートになっています。シリアスな曲です。
同じく2楽章頭から流れるのはこちら。
▻第084話「失意の凱旋」7:10ヤン暗殺犯が消滅
▻「朝の夢、夜の歌」Kap.Ⅲ 8:08お葬式の帰り
15番はショスタコ最後の交響曲。1971年作曲。
伝統的な4楽章の形をとっているが、合奏よりもソロなどが目立つ室内楽的なオーケストレーション、さまざまな作曲家の作品からの引用、ショスタコーヴィチ流の十二音技法などの技法が光る作品とのこと。
23:50 ラフマニノフ《ピアノ協奏曲第3番 第1楽章》
――🐺冬バラ園の勅令
S. Rachmaninov – Концерт № 3 для фортепиано с оркестром ре минор, соч. 30: I. Allegro ma non tanto
1楽章のエンディング12小節ほどのところ。ピアノのキラキラしたメロディーから入り、最後はしずかに途切れるように終わります。
🎧曲を聴く18:05
自由惑星同盟は滅び、人類を支配するのは銀河帝国だけという勅令です。
左右にロイエンタールとミッターマイヤーをしたがえ、ヒルダから勅令書を受けとるラインハルト。同盟のおじさん議員とはえらい違い…めんくらっちゃいますよね、みとれちゃいますよね。
そしてヤンは「だからこそ」とつぶやく。
ラフマニノフはこのピアノ協奏曲3番のみです。
1楽章の頭から流れるのはこちら
▻第078話「春の嵐」10:50カリンとユリアン
▻第082話「魔術師、還らず」8:23シェーンコップ、ポプラン、アッテンボロー
▻第109話「黄金獅子旗に光なし」8:47気持ちを確かめあうユリアンとカリン
2楽章の頭から流れるのはこちら
▻第078話「春の嵐」6:34戦略を練るヤン
▻第083話「祭の後」2:16ヤンを見つけたユリアン
⬜エンディング「歓送の歌」
歌・作詞 小椋佳 / 作曲・編曲 星勝
今日は6月1日。あと約1時間半で2時55分。82話まで書きたかったのですが、ショスタコ調べでなかなかすすみませんでした。
BGMリストについて
BGM全曲をスプレッドシートでリスト化し、該当曲がアニメで流れる箇所からYouTubeで聴けるようにリンクを張っています。
今回ご紹介した第73話「冬バラ園の勅令」のリストが見られるのは こちらです。
このnoteをお読みになって曲に興味を持たれた方や、アニメを見て「聞き覚えはあるけれど曲名が思い出せない」「この曲をフルで聴いてみたい」と思ったとき、ぜひご活用ください。

