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【連載小説】ECHO エコー 第百四十四話「糸口」


【場面271 還・新潟・住宅街・七十九日目・昼】

始発で東京を発ち、還は昼過ぎに現地へ着いた。
宮田の教えた住所は、駅からバスで二十分ほどの、古い住宅街だった。

番地の家は、すでに人手に渡っていた。表札は、篠田のものではなかった。
還は、隣の家を訪ねた。庭先で、老人が水をやっていた。
「篠田さんという方、ご存知ありませんか」還は言った。

老人は、じょうろを下ろした。
「篠田さんなら、いたねえ」老人は言った。「お母さんの、介護をしてらしたよ」
「今は」
「亡くなられてね」老人は言った。「その後、町を出られたと思うが」


「どちらへ、ご存知ですか」還は言った。
老人は、首をひねった。
「さあ。あんまり、付き合いもなかったから」老人は言った。「役場の方なら、何か分かるかもしれんが」
還は、頭を下げた。


役場は、もう閉まっていた。
還は、庁舎の前に立ち、閉まった窓口を見つめた。
明日、出直すしかなかった。

還は、手帳に「役場・転出届」と書き足した。
文字の下に、線を引いた。
決め手には、まだ、遠かった。


【場面272 堅田護・野瀬克己(電話)・東京・七十九日目・昼】

護は、東京の安宿の一室にいた。携帯を耳に当てた。
「野瀬か。俺や」
「どうやった」野瀬の声だった。

「篠田は、新潟に移っとる」護は言った。「母親の具合が悪うて、田舎に戻ったらしい」
「新潟の、どこや」
「そこまでは、分からん」護は言った。


野瀬は、しばらく黙った。
「新潟なら」野瀬は言った。「昔の仕事仲間に、一人おる」
「仕事仲間、いうと」
「まあ、堅気やない方の伝手や」野瀬は言った。「地元の噂には、詳しい男や」

「頼めるか」護は言った。
「電話一本や」野瀬は言った。「今夜のうちに、聞いてみる」
「頼む」
「お前は、そっちで待っとけ」野瀬は言った。「分かったら、すぐ連絡する」


電話が切れた。
護は、携帯をしまい、窓の外を見た。
昼の光が、狭い路地に落ちていた。
役所の手を借りるでもなく、ただの伝手だけで、どこまで届くか。
護は、それを、疑わなかった。


第百四十四話 了 / 次回 第百四十五話「食い違い」


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