【連載小説】ECHO エコー 第百四十話「誤算」
【場面263 識・アルケー本社・七十七日目・深夜】
深夜の研究室に、端末の光だけが、灯っていた。
天井の照明は、落とされたままだった。
壁際に並んだ機材の待機灯が、点々と、暗がりに浮かんでいた。
空調の音だけが、低く、途切れることなく続いていた。
机の上には、書類の一枚もなかった。
使われている気配のない椅子が、いくつも並んでいた。
その一室の奥、最も暗い一角で、機械化された右腕が、静かに動いていた。
指先が、端末の画面を、なぞった。
一号、二号のシャードが、途絶えている。
「還め」低い声が、誰もいない部屋に、落ちた。「放っておけと言うたのに……」
声に、答えを探すような間があった。
「……律儀すぎるのも、困りものだな」
機械の指先が、端末の画面を、静かに閉じた。
部屋には、また、沈黙が満ちた。
空調の音だけが、変わらず、低く鳴り続けていた。
【場面264 還・レンズ・(不通:エコー・ログ)・東京某所・七十七日目・深夜】
還は、目を閉じた。
《ログ》
応答は、なかった。
《エコー》
応答は、なかった。
還は、しばらく、黙っていた。
《レンズ》
《還さん》すぐに、応答があった。
《ログとエコーに、連絡は取れるか》還は言った。
間があった。
《……応答が、ありません》レンズは言った。
《レンズ、エコーとログの向かった場所は分かるか》還は言った。
《名古屋に向かったことまでは、分かっています》レンズは言った。
《それより先は……》
還は、しばらく、黙っていた。
《明日、こっちに来れるか》還は言った。
《分かった》レンズは言った。《明日、落ち合いましょう》
通信が、途切れた。
還は、目を開けた。
「まさか……やられたんか」
還は、誰にともなく、呟いた。
第百四十話 了 / 次回 第百四十一話「線引き」
