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ロスト・オブ・ジーニアス

天才は厨二病になった。
一人称が「私」から「僕」、
しまいには「俺」に変化したのだ。

「俺は今日の体育___」

「え、コイツ急にどうしたんだよ…」
そう言いたげな視線が突き刺さっていることすら気づかずに、”俺”を巧みに操り話を展開させていく天才。

気を遣えるクラスメイトたちは、
そんな明らかなイタさに見て見ぬふりをしてくれた。

その優しさを受容と勘違いした天才の病は、
更に加速していったのだ。

今日は、その中でも最も重い「自認胡蝶こちょうしのぶ」という症状について説明していこう。



胡蝶しのぶというのはまず、
去年4個目の映画が上映された「鬼滅の刃」のキャラクターのことだ。

常に笑顔を絶やさない一方で、
歯に衣着せずに毒を吐く。
そんな彼女に憧れを抱いてしまった。

天才、初めての「推し」ができる。

ひとまず、
彼女の特徴である「誰にでも敬語を使う」というのを、実践してみようと天才は決心した。

「母はどう思いますか?」

戸惑う家族を横目に、
「胡蝶モード」に完全に入り浸った天才は言葉を続けた。

「そういえば、俺のことはコレから姉さんと呼びなさい」

実は、胡蝶しのぶは実姉のことを「姉さん」と呼んでいるのだ。

天才には姉がいないので、弟にそう呼ばせようと試みたようだ。

しかし、そんな願いも「えっイヤだけど」の一言で星になってしまった。

それでも、敬語は真似できたのでひとまず目標は達成。

更に推しに近づきたいがために、今度は剣術の訓練を始めることにした。

「鬼滅の刃」のタイトルの通り、
登場人物たちは「刀」を武器として扱うのだ。

胡蝶しのぶももちろん例外ではないため、
早速真似ようと刀探しの旅へ。

でも、本物の刀はきっと、お財布どころかクレジットカードにもキツイだろう。

じゃあ、エセでいっか。

押し入れの奥から引っ張り出してきた木刀を片手に、蝶のように振りかざすーーーではなく、地道な訓練の方が”ぽい”ことに気づいた天才は、気配斬りを始めた。

気配斬りよりかは「気配避け」に近いかもしれない。木刀を振りかざしてもらい、感覚だけでソレを避ける。

いざ実践してみても上達することはなかったし、
「普通に危ない」ということで3日ほどで呆気なく中止となった。

姉さん呼びも許されないし、刀も扱えない。
それでも推しに近づきたいという念願は膨らむばかりで、天才の頭を悩ませた。

「じゃあもう、本人になるしかない」

学童のハロウィンパーティー当日。
胡蝶しのぶの羽織、髪型、隊服を纏った天才は友人と駄弁っていた。

ここまでくると厨二病よりかは、
ただのアニオタに近いかもしれない。

天才、人生初のコスプレに挑戦。

公式コスプレグッズは少々高いため、
祖母に手伝ってもらい、すべて自作することにした。

特に羽織が難しく、不規則な蝶紋を一から書く必要があった。

夏ごろから準備をしていたので、
完成度はかなり高い。準備満タン。

そう意気込んでいたが、
まさかの高学年のお姉さんと、仮装が完全に被ってしまった。

しかも、相手は断念した公式コスグッズ。
途端に揶揄われるのが怖くなった天才は、友人の傍で縮こまることしかできなくなった。

胡蝶しのぶへの道は、
完全に断たれたのであった。



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紹介なしで、エッセイだけでも大丈夫だそうです。


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