【行こ行こ#79】根室へ、果てしない道とローカル飯|東の果て釧路旅2025-3
前回までのあらすじ
秋刀魚や海鮮フルコースに魅了され、最後は天空の湯で全身ツルツル大作戦までやってしまった釧路初日であった。いよいよ今日は、レンタカーで本土最東端の納沙布岬を目指す。↓前回
時刻は7時半。
目覚ましを止め、簡単な朝食を済ませ、私は歩いてニコニコレンタカーへ向かった。

ここから先が、いよいよこの旅の中核である。レンタカーを借り、根室を目指す。
外へ出る。
……もう冬じゃん、と思った。

いや、カレンダー上は11月である。確かに冬かもしれない。
群馬や東京の感覚で言えば、『秋も深まってきましたね』ぐらいの感覚だ。だが、釧路は違った。空気がキンキンに冷たい。
そんな空気の中、私はレンタカーを受け取り、受付の女性の柔らかな微笑みに見送られ、いよいよ根室方面へ出発した。

真っ直ぐな道
まず、出発前から少し気が重かったのが、『根室まで120キロ、しかも高速道路なし』という情報だった。
120キロを下道で行く…。
私の中では、そんなに走るなら当然どこかで高速道路に乗るものだと思っていた。東京から群馬へ帰るにしても、高速道路なしでその距離を走ると言われたら、ちょっとうんざりする。
しかもこちらは旅先で、慣れない土地、慣れない車、慣れない寒さである。
『なんで根室に行きたいの?』と聞かれても、はっきりした答えはない。地図を見れば、釧路より東へ行く機会なんてそうそうない。だったら今回、本土最東端まで行ってみるのは絶好のチャンスだと思ったのだ。
とりわけ用事はないのだが、「この国の東の果てにゆく」と考えると胸がワクワクした。
ところが、実際に走り始めてみると、これが妙な感覚なのだ。
真っ直ぐなのである。
いや、本当に真っ直ぐだ。真っ直ぐすぎる。
あまりにも真っ直ぐで、逆に不安になる。なお、一人旅で運転中につき、しばらく写真はない。
普通、運転というものは、もう少し右に曲がったり左に振られたり、信号で止まったり、十字路で周囲を気にしたりするものだと思うのだが、こちらの道はそうしたイベントが極端に少ない。
曲がり角すらない。十字路どころか、分岐そのものがほとんど現れない
これはもう、下道というより“高速道路みたい”である。
私がいつもの感覚で、無理のない速度で慎重に走っていると、地元の車はその横をびゅんびゅん抜かしていく。体感としては、もう頭文字Dである。いや、こっちは軽自動車でのんびりやってるだけなんですけど、そちらはそんな勢いで行って本当に大丈夫なんですか、と聞きたくなるようなスピードでかっ飛ばしていく。
しばらく走っていると、今度は妙な感慨に浸っていた。
「よくぞ、こんな道を作ってくれたなあ」と思ったのである。
昭和や平成の時代に、誰かが膨大なお金と労力を使って、こういう真っ直ぐで走りやすい道路を整えてくれたのだろう。そのおかげで、今の我々はこうして快適に移動できる。旅人である私ですらそう思うのだから、地元で暮らしている人にとっては、なおさらだろう。
インフラというのは、普段はありがたみを忘れがちだ。
道路があるのが当たり前、橋があるのが当たり前、水が出るのが当たり前、電気がつくのが当たり前。
だが、こういう土地へ来ると、その“当たり前”がどれだけ手間のかかったものなのか、急に見えてくる。
そして、見えてくると同時に、最近よく聞く「コストカット」だの「無駄を削れ」だのいう言葉にも、眉をひそめたくなる。
もちろん無駄は減らしたほうがいい。だが、未来の子供たちが「よくぞ作っておいてくれた」と思えるものまで削っていいわけではないだろう。
今まさに整えておかなければ、令和のずっと先に、ボロボロになったものだけが残るかもしれない。
まあ……。そんなことまで考えてしまうくらい、やることがないのである。
どうぶつの森
生まれたてのAIでも自動操縦できるんじゃないかと思うほど、退屈な運転の途中、大きな電光掲示板に英語でこう出ていた。
Animal crossing
動物注意、という意味である。
だが、これを見た瞬間、私はニヤニヤしてしまった。
だって『Animal Crossing』といえば、任天堂の大人気ゲーム『どうぶつの森』の英語タイトルではないか。

なるほど、そうか、「動物出没注意」は英語ではこう言うのか。
もちろん、その横にはきちんと鹿に注意、と表示も出ていた。だがこの時の私は、まだその警告を、そこまで深刻には受け止めていなかった。
山の方なら、鹿なんて群馬にもいる。
そのぐらいの感覚だった。
今思えば、だいぶ呑気である。そして、この呑気さが、帰りの“恐怖のドライブ”に向けた静かな伏線になっていたのだから、旅というのは油断ならない。
そんなこととはつゆ知らず、私は3時間ほどのドライブのあいだ、iPhoneのボイスメモに向かって、企画のことや思いついたこと、脱線したことをひたすら喋っていた。後で文字起こしして、企画を練るためである。
しかし、我ながらよく一人で3時間も喋れるものだ。
いや本当に。
普通の人なら音楽でも流して黙って走るところを、私は延々と一人で話している。企画の話をしていたかと思えば、別の記憶が蘇り、そこから脱線し、また戻ってきて、さらに別の脱線をする。
今回、メモも取れない車内での思考の一部を記事に織り込めたのも、このお陰というか、迷惑な記録というか…である。
セコマ
やがて私は、北海道の民にとっては当たり前で、旅人にとっては妙に心躍る場所に吸い寄せられていった。

セイコーマートである。略してセコマ。北海道に来ると、このオレンジの看板に安心感を覚える。まだ旅の二日目だというのに、もう「お、セコマだ」と通ぶって略してしまったりもする。

この店内の『ホットシェフ』というコーナーが特にお気に入りだ。ここには温かい弁当やホットスナックが並ぶ。しかも、ごはんは店内で炊いている。
今回買ったのが、温かいカツ丼、にんにく胡椒チキン、そしてポテトである。

うまい。
お店で作っているからなのか、一つ一つがきちんとしている。
とりわけポテトのうまいことうまいこと。以前札幌で初めてセコマに行った時などは、あまりの旨さに『次のセイコーマートでもう一個買った』ほどである。
土地ならではの店って、とても魅力的だ。
たとえば静岡の『さわやか』。あるいは大阪の『551』。ああいう店は、その土地にあるからこそいいのだと思う。もし何でもかんでも東京駅の地下で買えるようになったら、たしかに便利ではあるものの、少し寂しいのかもしれない。
根室グルメ開始
『道の駅 スワン44ねむろ』で教えてもらった『お魚食堂』。
なんかすごい名前だ。何を食べさせてくれるのかが、一発でわかる。

しかし実際に行ってみると、外観も店内も、どちらかといえば喫茶店っぽいというか、洋食屋のような空気もあって、いよいよ油断がならない。

店の方にいろいろ伺いながら、土地の名物らしい料理をいただくことにした。東京からやってきた群馬出身の田舎者だ。やっぱり海鮮が食べたい。
普通の海鮮丼とかじゃない。もっと物珍しいもの、そういうものを私は常に求めている。
まずは鮭のヒズ。漢字では『氷頭(ひず)』とも書くらしく、鮭の頭から鼻先にかけての軟骨を使った料理である。

甘酸っぱくて、なんだか正月のなますみたいな味である。
コリコリした歯応えが面白い。大根おろしとの相性もいい。派手ではないのだが、こういう一皿を食べると「思えば遠くへ来たもんだ」と思う。
確かグルメ漫画「美味しんぼ」にも出て来たような記憶がある。これと熱燗なんか良いだろうなと思うが、いかんせん今回は車での旅。飲酒は厳禁なのである。
次に、ニシンのルイベ。

口に入れると、まず冷たさが来る。続いて、味噌の香りがふわっと立ち上がる。しゃりしゃりした凍った歯触りが、あっという間に溶けていく。
ニシン独特の香りも、生臭いというより不思議な香ばしさがあった。
醤油とわさびをつけると、ぐっと“普通の刺身方向”に近づいて、それもまたうまい。
これも酒に合うだろう。我慢我慢。
そして秋刀魚飯。

これがまた、うまい。

前日のさんまんまに続いて、こちらも“うなぎの蒲焼き方面”の甘じょっぱい魅力を持っている。秋刀魚という魚は、焼いてよし、飯に乗せてよし、汁にしてよしで、本当に隙がない。
あまじょっぱい味というのは、どうしてこう人の心を撃ち抜くのだろう。
刺さる。群馬県人の味覚に、たいへん刺さる。
海の幸。それも、いかにも写真映えするものではない料理ばかり頼んで、私は大満足だった。ローカルフードを食べた時というのは、おいしさもさることながら、『旅そのもの』を味わっている気がする。
お店の方に礼を言って表に出る。セコマとお魚食堂。土地の味を堪能し、次はいよいよこの国の最東端、納沙布岬に辿り着くのである。。
つづく
次回↓
記事:まるのすけ
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