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【ものみ湯賛】釧路『天空の湯』で味わう、予想外のツルツル大作戦|東の果て釧路旅2025-2

これまでのあらすじ

東京で家を出るとき、私は柿をひとつ丸かじりしたきり、ろくなものを食べていなかった。それがどうだ。釧路に着いて、バスを乗り逃した果てに秋刀魚の洗礼を受け、夜は海鮮フルコースへと舵を切った。牡蠣、いくら、刺身、真だち、塩辛じゃがバター。胃袋に北の幸を詰め込めるだけ詰め込み、「ああ、これぞ旅の醍醐味」と、私はすっかりご満悦であった。
釧路編2話目。     ↓前回



「ものみ湯賛ゆさん

気ままな見物や旅を意味する “物見遊山ものみゆさん” に、「湯を讃たたえる」気持ちを込めました。

ここに綴るのは、湯の評価ではなく、湯との思い出です。

点数も星もつけません。ただその日、湯に浸かって感じたことだけを、ふわっと湯気のように書き留めておきます。


毎度のことであるが、私の旅には大きなテーマが一つある。
そう、『湯』である。

食ってばかりでは片手落ちだ。最後は湯で締めたい。そういう旅人なのである。夕食を済ませると、私は寒い釧路の街へ繰り出し、いざ『天空の湯』へ向かった。

ホテルグローバルビュー釧路は、釧路川沿い、幣舞橋に近い場所にある。
12階に天然温泉『天空の湯』があり、泡風呂、サウナ、屋上露天風呂まで備えた、なかなか気合いの入った造りだ。宿泊者は無料、日帰り入浴は1,000円とのことなので、今回はここに入ることにした。

ここで少し、釧路の宿事情の話をしよう。

実は釧路には、少なくとも私が探した限り、カプセルホテルがあまり見当たらなかった。都市部のように『駅前に何軒もある』という感じではない。考えてみれば、カプセルホテルというのは、ある程度の人口密度や、終電を逃した人や出張客が集まる街だからこそ成り立ちやすい宿泊形態なのかもしれない。群馬の高崎あたりでも、東京ほどは見かけない。つまり今回の釧路は、久しぶりにちゃんとしたビジネスホテル泊だったわけである。

いやあ、壁と扉があるって素晴らしいですね。

カプセルホテルももちろん嫌いではない。むしろ好きだ。だいたいサウナが併設してあって、徹底的に整った後、あのウナギの寝床みたいなところに潜り込んで『アトハネルダケ』となる。実に機能的である。

さて、そんな文明の恩恵に感謝しつつ向かった天空の湯であるが、現地に掲示されていた温泉分析書を眺めると、これがなかなか本格的だ。

分析書によれば、源泉名は「釧路パコの湯」。
泉質はカルシウム・ナトリウム―塩化物強塩泉(高張性アルカリ性低温泉)で、泉温は28.8℃、pHは8.48。主な成分としては、ナトリウムイオン 3581mg/kg、カルシウムイオン 3926mg/kg、塩化物イオン 12090mg/kgが目立っていた。
何が言いたいかというと、「塩気が強そうだな」と思わせる成分である。
ただ、この数値は風呂上がりに確認したため判明している。なぜズボラな私が成分をメモったかといえば、この後のささやかな悲劇の副産物である。


旅先の開放感のせいか、このときの私は、なぜか普段やらないことを思いついた。

『よし、全身をツルツルに剃ってから温泉に入ったら、さぞ気持ちいいのではないか』

今読むとかなり危うい思いつきだが、そのときは妙に名案に思えたのである。なぜそんなことを考えたのか、自分でもよくわからない。都の忙しさから遠く離れた解放感のせいか、自分を妙に清めたくなったのか、あるいは、ただの気の迷いか。

新しいカミソリを取り出し、まず髭を剃る。実に気持ちいい。
そこまでは普通だ。ところがその勢いで、腕もいくか、足もいくか、となり、気づけば私は全身つるんつるんになっていた。まるで水泳大会にでも出るのかという勢いである。誰に見せるわけでもないのに。


そして満を持して、天空の湯にダイブした。


……ん?


なんだか、ピリピリするぞ。

最初は『おお、効いてる効いてる』ぐらいの気持ちだった。温泉というのは、何かしら体に作用していそうなほうがありがたみがある。
しかし、その“効いてる”が、だんだん笑い事ではなくなってきた。ヒリヒリが、ビリビリにランクアップしていくのである。


そりゃそうだ。

今にして思えば当然である。高張性アルカリ性の塩化物温泉なのだ。肌に刺激をもたらしそうな条件がそろっているところへ、カミソリで肌のバリアを削った男が入ったのだから、そりゃしみる。

まるで因幡の白兎である。
しかも、ノー大黒天、ノーガマの穂。
顔を洗おうものなら『いててて!』と声が出るほどの塩っけで、これが“強塩泉”の威力かと身をもって学ぶことになった。


湯に入って癒やされるつもりが、まさか自ら全身にデバフをかけていたとは。

とはいえ、もう剃ってしまったものは仕方がない。私は方針を変えた。温泉に正面から立ち向かうのではなく、サウナと水風呂を往復し、痛みから少し距離を取る作戦に出たのである。


これが案外、悪くなかった。

冷たい外気に当たっていると、あれほどヒリヒリしていた肌も少し落ち着いてくる。なるほど、これは良い。
良いのだが、北海道の外気浴は容赦がない。じっとしていると、整う前に普通に冷えてくる。

しばらくすると塩梅がわかってきた。
サウナは何分がちょうどよいのか。
水風呂はどこまでが快楽で、どこからが罰ゲームなのか。
外気浴はどこまでが恍惚で、どこからが生命の危機なのか。


90分ほどゆっくりした。そして最後には、ちゃんと満足していた。


風呂から上がってホテルへ戻る道すがら、私は北海道おなじみのセイコーマートにも立ち寄った。あのオレンジ色の看板を見ると、もう旅先というより、少しだけ“現地の生活圏にお邪魔している”感じがして楽しい。

釧路の夜風に吹かれながら、コンビニに吸い込まれていく旅人。なんともよいではないか。


こうして釧路一日目は更けていった。

つづく

↓次回


記事:まるのすけ


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