事業を「商品・サービス」と「ビジネスモデル」の2つに分けて考える #04
「ビジネスモデル」という言葉はビジネスの現場でよく使われますが、その意味は必ずしも明確ではありません。
「商品・サービス開発」と「ビジネスモデル開発」を混同したまま進めてしまい、事業がうまくいかない原因を切り分けられなくなるケースも少なくありません。
事業を考える際、
「商品・サービス」と「ビジネスモデル」は
明確に分けて検討する
必要があります。
そしてもう一つ重要なのは、
「ビジネスモデルは一度つくれば完成」
というものではない
ということです。
収益性を高め、時代の変化に対応し続けるためには、絶え間ない「最適化(Optimize)」が不可欠なのです。


「ビジネスモデル」は難しい?
「商品・サービス」は、目に見えます。手にとって触れる、あるいは体験することができます。
一方、「ビジネスモデル」は、目に見えません。触れることも、体験することもできません。
この「見えない」という性質こそが、ビジネスモデルをわかりづらいもの、イメージしづらい「難解なもの」と誤解させている最大の原因です。
しかし、目に見えないビジネスモデルも、適切な手法やフレームワークを使えば「可視化」することができます。難しいのではなく、ただ「可視化の手法」を知らないだけなのです。
いったん可視化できてしまえば、ビジネスモデルの理解はそれほど難しいものではありません。
事業を氷山にたとえると……
ビジネスモデルの本質をつかむために、「商品・サービス」と「ビジネスモデル」の関係を「氷山のメタファー(比喩)」で考えてみましょう。
「事業全体」を海に浮かぶ氷山とすると、海面から顔を出した "見える" 部分が、顧客が実際に触れ、体験する「商品・サービス」です。
そして水面下に広がる "見えない" 巨大な部分こそが、事業を根底から支える「ビジネスモデル」にあたります。「顧客」は、その海を進む一隻の船です。

船(顧客)は、まず海上に ”見える” 「商品・サービス」に惹かれて近づいてきます。しかし氷山が沈まずに浮かんでいられる理由、そして進む方向や安定性を左右しているのは、水面下に隠れた「ビジネスモデル」です。
事業が成功するかどうかは、この “見えない” 部分がいかに強固で、効率よく設計されているかにかかっています。
* * *
先ほどの概念図(フレームワーク)に、氷山のイラストを重ねてみてください。

「商品・サービス」と「ビジネスモデル」に分けて考えるフレームワークが、より直感的に理解できるようになるはずです。
「商品・サービス」と「ビジネスモデル」を切り分けて考えるメリットは?
事業をこの2つの要素に分けて捉えることで、それぞれを ”独立した変数” のように扱い、個別にブラッシュアップできるようになります。
具体的には、次の2つのアプローチから検証が可能です。
① ビジネスモデルを固定し、「商品・サービス」を磨く
ビジネスの仕組みはそのままにして、顧客ニーズに合わせて既存の商品を改良したり、新しいサービスを追加したりします。
こうして、顧客に提供する価値そのものを高めていきます。
(=商品・サービスの最適化)
② 商品・サービスを固定し、「ビジネスモデル」を組み替える
売るものは変えずに、価格体系・課金方法・利益構造などを見直します。
その結果、同じ価値をより効率的・効果的に顧客へ届ける方法を探ることができます。
(=ビジネスモデルの最適化)
このように要素を分解して検証することで、「事業が停滞している本当の原因」がどこにあるのかを見極めやすくなります。
闇雲な試行錯誤ではなく、的を絞った打ち手が取れるようになることが、最大のメリットです。

「ピボット」と「トランスフォーメーション」
「商品・サービス」と「ビジネスモデル」のどちらか一方を固定し、もう一方を集中的に試行錯誤するアプローチは、実務において非常に重要な役割を担っています。
1.新規事業開発における「ピボット」
新規事業開発の文脈では、この試行錯誤は「ピボット(軸を固定した軌道修正)」と呼ばれ、事業の成否を左右する鍵となります。
スタートアップのバイブルとも言われる『リーン・スタートアップ』でも、何を固定し何を変えるかの組み合わせによって、さまざまなピボットの「型」が紹介されています。
2.既存事業の変革における「トランスフォーメーション」
一方、DXによる既存事業のビジネス変革では、主に「商品・サービス」を固定したまま、デジタル技術を活用して「ビジネスモデル」を最適化・変革することが議論の中心になります。
これは「ビジネスモデル・トランスフォーメーション(BMX)」とも呼ばれます。
「商品・サービス」と「ビジネスモデル」をあえて切り分けることで、「既存の顧客に、いまの価値を、いかに効率よく・高収益な仕組みで届けるか」という本質的な問いに集中できるようになります。
事業創造は「3つのフェーズ」に分けて検討する

事業が停滞しているとき、その原因はおおむね2つに絞られます。
まず1つは、商品やサービスそのものに強みがないケース。
魅力が不十分なままでは、どれだけ努力しても成功は難しいでしょう。
この場合は「お客様にどんな価値を届けるか」という原点に立ち返る必要があります。〔 ⇒ 商品・サービスの最適化 〕
そしてもう1つ見落とせないのが、
商品は良いのに「儲かる仕組み」、つまりビジネスモデルがうまく機能していないケースです。〔 ⇒ ビジネスモデルの最適化 〕
私はこれまでビジネスプロデューサーとして多くの現場を見てきましたが、事業が苦しくなると、つい「新しいものを作ろう」と焦ってしまう企業が少なくありません。
しかし、商品力(提供価値)に問題がないのであれば、まず問い直すべきは「利益を生む仕組みが正しく構築されているか」という点です。
事業創造プロセスの「3つのフェーズ」とは?
これまでの経験をもとに、私は事業創造のプロセスを時間軸に沿って3つのフェーズに整理しています。
フェーズ① 商品企画: 商品・サービスを創る
フェーズ② 事業企画: 儲ける仕組みを創る
フェーズ③ 収益企画: より大きく稼ぐ仕組みへと進化させる

ここで押さえておきたいのは、新商品を開発してターゲット市場を切り替えるという判断は、事実上「フェーズ①からの再スタート」を意味するということです。
それには多大なコストと時間がかかり、新たなオペレーションや組織体制の構築も避けられません。
もし、いま提供している「商品・サービス」に確かな価値があるのなら、取り組むべきはフェーズ①への逆戻りではなく、フェーズ③の「収益企画」です。
つまり、既存のビジネスモデルを修正・発展させ、利益を最大化することに注力すべきです。
ビジネスモデルを「最適化(Optimize)」する
新規事業を立ち上げたばかりのときも、すでに事業が動いているときも、「これで儲かるはず」と設計した仕組みが思うように機能しないことはよくあります。
計画どおりに売れなかったり、競合の出現で売上が急落したりすることもあるでしょう。
ビジネスモデルは「進化し続ける未完成の設計図」
そもそも、最初から「ものすごく儲かる事業」を作り上げるのは容易ではありません。
ビジネスモデルにおいて本当に大切なのは、実戦を通じていかに修正を重ね、磨き続けられるかという点です。
その意味で、ビジネスモデルとは一度作れば完成する「設計図」ではなく、常に「進化し続ける未完成の設計図」だといえます。

テクノロジーの進化とともに、新しいビジネスモデルが次々と生まれています。
社会は常に動いています。生活者の価値観やライフスタイルも絶えず変化しています。
その変化を敏感に捉え、ビジネスモデルを柔軟に「最適化(Optimize)」し続けることは、企業にとってもはや生き残るための必須条件といえるでしょう。
アップル、グーグル、マイクロソフト、アマゾンといった世界的企業も、最初から今の姿だったわけではありません。
時代の変化に合わせて戦略や収益構造を絶えず「進化」させてきたからこそ、現在の地位を築くことができたのです。

「創ること」と「稼ぐこと」を切り分けて考える
ビジネスでしっかりと利益を上げるには、まず「事業創造プロセス」の3つのフェーズがそれぞれまったく異なるものだという認識を持つことが出発点になります。
フェーズ① 商品企画: 商品・サービスを創る
フェーズ② 事業企画: 儲ける仕組みを創る
フェーズ③ 収益企画: 収益を最大化させる
事業が停滞しているとき、どこでつまずいているのかを明らかにし、何をすべきかを考えるには、この3つを切り分けて捉える視点が欠かせません。
「より儲かる事業」へと転換するためには、何よりもまず、現状のビジネスモデルを正しく把握することから始まります。
「なぜ、今のままでは利益が出ないのか」
「どうすれば収益性の高いモデルへと変革できるのか」
この問いに真正面から向き合うことが、次の成長への第一歩となります。
「経営者の視点」で考える
では、これらを実際の業務にどう落とし込めばよいのでしょうか。
スケールアップしやすい仕組みを取り入れ、自社のビジネスモデルを真の意味で「最適化」するために、今何をすべきか。
そしてアップルやアマゾンのように、時代の変化を先取りして自社のビジネスモデルを「進化」させるには、何が必要か。
その答えのひとつが、事業の「儲けのメカニズム」を ”経営者の視点” で設計する「ビジネスモデル思考」にあります。

3つのキーワード
「ビジネスモデル思考」の詳細については、本連載の中で改めてじっくりと解説していきます。
今回の記事では、まず以下の3つのキーワードを頭に入れておいてください。
氷山のメタファー
経営者の視点
ビジネスモデル最適化
事業を安定して続けるために
今後、仕事の中で「ビジネスモデル」という言葉に出会ったときは、ぜひ氷山のイメージを思い出してみてください。

海面に顔を出している小さな部分が「商品・サービス」── お客様から ”見える” 部分です。
そして、水面下に広がる大きな部分が「ビジネスモデル」── お客様からは ”見えません” が、事業を支える根幹となる仕組みです。
「商品・サービス」は、氷山のほんの一角にすぎません。
その下にある「ビジネスモデル」がしっかりしていなければ、事業を安定して続けることはできないのです。
(第5話につづく)
まとめ
ビジネスモデルの本質をつかむには、「氷山のメタファー」で捉えるとわかりやすいです。
事業を「商品・サービス」(海上に見える氷山)と「ビジネスモデル」(水面下に隠れた氷山)の2つに分けて考えることが大切です。
社会の変化に合わせて、「経営者の視点」でビジネスモデルを柔軟に「最適化(Optimize)」し続けることが重要です。
〈次回の予告〉
(第5話)「商品・サービス開発」と「ビジネスモデル開発」は何が違う?
9月17日(木)11:00 ごろ公開予定
「商品・サービス開発」(海上の氷山 = 見える)と「ビジネスモデル開発」(水面下に隠れた氷山 = 見えない)は、何がどう違うのか。
新規事業の立ち上げや既存事業の変革に取り組む際、この2つの違いを混同してしまうと、どれだけ画期的なアイデアがあっても「売れるけれど儲からない」あるいは「仕組みは立派だが誰も欲しがらない」という罠に陥ってしまいます。
事業創造に欠かせない「商品・サービス開発」と「ビジネスモデル開発」の違いを、実体験を交えながら丁寧に解説していきます。
「商品・サービス開発」と「ビジネスモデル開発」では、持つべき “視点” が根本的に異なります。
・商品・サービス:「○○○の視点」で開発する
・ビジネスモデル:「経営者の視点」で開発する
第5話では「氷山のビジュアル」と以下の「フレームワーク」を使って、「商品・サービス開発」と「ビジネスモデル開発」の違いを紐解いていきます。



▼本連載のもとになっている書籍はこちら
<リクルートで学んだビジネスモデル発想法>
ビジネスモデルを見える化する ピクト図解 目次
はじめに
Part-1 ビジネスモデルを見抜く
1 ビジネス想像力クイズ
2 ピクト図解とは
3 ビジネスモデルを解読する
Part-2 ビジネスのアイデアを発想する
4 ダイアグラム発想法
5 アナロジー発想法
6 アイデアの風呂敷をたたむ
おわりに

📘「ビジネスモデル思考」が身につくnote
事業における「儲けのメカニズム」を体系的に理解し、実務に活かす思考法 ── 「ビジネスモデル思考(Business Model Thinking)」を、ピクト図解®(ビジネスモデル専用の図解)を使って深く掘り下げていきます。全20回連載(予定)。
▼こんな方におすすめ
商品やサービスの企画・開発に携わっている方
新規事業の立ち上げを担当している方
経営者や事業責任者と仕事をする機会の多い方
ワンランク上の法人営業を目指している方
ビジネスモデルそのものに強い関心をお持ちの方
▼第1話から順に読みたい方はこちら
「ビジネスモデル思考」が身につくnote【第1話】
#ビジネスモデル思考
#ピクト図解
#ビジネスモデル専用の図解
いいなと思ったら応援しよう!
noteだからこそできる「新しい表現方法」に挑戦していきます。応援よろしくお願いします!