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闇 692(伝説の風俗嬢編)

闇 692(伝説の風俗嬢編)

2026/09/15 tue
※人間は元々性善説である。但し一度染まると白にはならない。但し心の持ちようや誠心誠意な行動が、白さに近付く事はできる。
前回の章


二千二十四年八月六日、火曜日友引。

でったんが泊まりに来た時にたまたま買った子宝弁慶草。

七月十二日に買って、二十日に栄養剤あげて、二十六日に大きな鉢を買って引越しさせた。
お陰様でほら、葉っぱに更に葉っぱが生まれ、毎日愛情を注いでいる。

2024/08/06 自称俳優マンション 子宝弁慶草

それにしても、本当にこの植物気持ち悪い葉っぱの生え方するよな。

たまにはラッキーハウスの頃からプレイしているクラッシュロワイヤルでもやって、頭の回転でもしようかな?

「……」

いや、ちょっとこれ、毎日やると時間取られ過ぎるよね……。

五年以上継続している携帯ゲーム、クラッシュ・ロワイヤル。
アイパッド含めた三つの携帯電話を使い、三つのキャラを同時に駆使してやってきたけど、最近執筆にトレーニング、仕事と多忙過ぎる。

愛着もあり、システムも理想のゲーム。
本当に今でも大好きだ。

でも、ごめん。
もっと昔から好きだったものを始めてしまったんだ。
正直今は、また文章を書けるようになれた事が嬉しい。

弊害があるとすれば、インカジ『レディ』に移ってから、大山や片屋敷たちも巻き込んで作ったクランの『セブンスター』。
今じゃ五十人マックスの人数まで集まり、クランランキングも最上級のクラスまで行けた。
まだまだやり足りないんだけど、ここで辞める事にしよう。

何かを始めたら、何かを犠牲にしなきゃならない。
時間だけは平等に過ぎていくのだから。

日々邁進して頑張らないとね。

長い間本当にありがとう。
お世話になりました。

ゲームをアンインストールする。
何だか二十代の全盛期の頃みたいだ。

ワールドワンで仕事して、帰るとドリームキャストをやって時間を潰していたあの頃。
従業員の小山だけタバコを吸わなかったから、普段なら誕生日プレゼントにタバコを四カートン買って渡していたけど、彼にはドリームキャスト本体と、ソフトでシーマンもつけたから一万円を大幅に超えてしまった思い出。

地元の二つ上の先輩神田兼二さんにも、ドリームキャストを進め、一緒にファイヤープロレスリングでエディットレスラーをたくさん作り、団体まで作ってとにかく遊び尽くしたあの頃。

でも現役復帰して、総合格闘技に喧嘩を売ると決めてトレーニングを再開させてから、徐々に戻っていく自分の肉体の身体能力が嬉し過ぎて、一気にゲームを辞めた。

今、俺は十三年ぶりに小説を再開し、もうじき一ヶ月というところで本当の意味でエンジンが掛かってきている。
楽しくて仕方ないのだ、書く事が……。

何か贅沢な悩みだよね、これって。

次はいよいよ風俗嬢のまどかと出会う章。
五十二歳になった今でも、普通にセックスして我慢できずに射精してしまった女は、あの女だけなのだ。

初期に付き合った鈴木美千代も無理だった。
長く付き合った百合子も駄目だった。
不倫関係だった望とも逝かなかった。

共通するのは自慰行為をさせ、恥ずかしそうに喘ぎ声を出す姿を見ながら自分で擦って精子を出すだけ。
つまりまともなセックスで、俺が逝けたのはあのまどかだけなのだ。

これまでの生き方…、いや、母親に対する憎悪から、異性に対しどこか蔑むところが根っこにあった俺。
愛し合ったでなく、この女をやっつけた。
その感覚がどうしても強いので、これまで数えきれないほど抱いた女たちでも、すべて同じ結果だったのである。

ミサキと知り合ったあと、彼女への心を自分で認めようとしなかった。
その反動か、妹として可愛がるミサキ。
抱く女は別の女と、変に意識して性欲処理を繰り返していたあの頃。

そんな時期に、たまたま会ってしまった風俗嬢。

その前に、ミサキと一緒に飲んでいる時にできた因縁。
柔道の道場主とのあれからを書かないといけないな。
時系列的には……。

以前ミサキとスイートキャデラックで絡んできた柔道の道場主。
暇を持て余した俺は、あの時の借りを返さなきゃなと考えていた。

弟の徹也と貴彦に、知り合いで柔道を本格的にやっている奴がいないか聞く。
情報もそうだし、取っ掛かりが必要だ。

「蓮馨寺の前の川越水族館。あそこの三兄弟の一番下のター坊が柔道かなりいいところまで行ってるよ」

早速連絡を取り、ター坊を食事へ誘う。

保坂忠弘、仇名がター坊は俺から見たら七つ年下の後輩。
同じ小中学校ではあるが、年齢的に被りようがない開き。
背は俺より十センチ以上低いものの、重量級のター坊は百二十キロ以上の巨漢。

「兄さん、格闘技やってるんですよね? 俺も挑戦したいなと思っていまして」
「俺なんて何のツテも無いよ。それよりさ、柔道の道場主をしているメガネ掛けてて……」

俺は先日ジャズバーのスイートキャデラックで失礼な事を言ったオヤジの特徴を言った。

「ああ、◯◯道場ですね。あの人いつも偉そうで評判悪いんですよ」

これまでの経緯を簡単に話す。
ター坊は呆れたほうに「本当に柔道と総合じゃ別物なのに…。そりゃ先輩も怒りますよね」と同調してくれる。

とりあえずあの道場の舐め腐った道場生とやりたかった。

「気持ちは分かりますが、さすがに先輩行っちゃただの虐めになるし、柔道ルールじゃないと無理っすよ」
「なら柔道着も買うし、柔道ルールでいい」

「先輩、柔道の経験は?」
「高校生の頃授業でくらいかな」

西武台高校の体育の授業の時、大平先生に何度も挑み、左腕を脱臼までした事を思い出す。
そのぐらい実は格闘技って、俺は好きだったんだなあ。
部活動には一年生の担任の谷のせいで、二年生からは一切入らなかったけど。

高校入学早々、谷から「おまえは身長があるから絶対に部活へ入れ」と強制され、嫌がると殴られた。
始めは谷が顧問も務めるラグビー部。
あまりにつまらないスポーツなので、一日で辞めるとまた殴られた。
次に強制的に入れられたのはバレーボール部。
元々好きじゃなかったので一週間で辞めると、また殴られた。
その次はハンドボール部。
中学生の頃サッカー部でゴールキーパーをしていた俺は、始めサッカーをやれと言われたが、元旦しか休みのないクラブなどごめんだと必死に拒否した。
また殴られて仕方なくハンドボールへ入ったが、夏休みの終わりにサボり、行かなくなった。

二学期が始まると、谷の逆鱗に触れまた殴られる。
それで観念し、サッカー部へ入ったのだ。

県内ベスト4ぐらいの実力のあった守屋先生のサッカー部。
本当に洒落にならなかった。
何で朝五時起きで学校へ行き、帰ってくるのは夜の十時を過ぎるのか?
俺は高校で彼女を作り、淡い楽しい青春を送りたいという願望が強いのに。

一日部活をサボった時は、守屋先生が滅茶苦茶怒り、学校前にある柳瀬川の橋から橋までを「いいと言うまで走ってこい」と命令される。
走るのが死ぬほど嫌いな俺は、せめて何週走ればいいのか聞いた。
すると五周と言うので卒倒しそうになる。

一周五キロ以上あるあの距離を、一日サボっただけで五周?
冗談じゃない。
俺を殺す気なのか?

「岩上、テメー、サボんじゃねえからな? ちゃんと走っているから、マネージャーにチェック行かすからな」
「わ、分かってますよ……」

あー、嫌だ嫌だ。
こんな暑い時期に何で川ッぺりを走らなきゃならないんだ?
それは俺が無断でサボったからか……。

一周終わり。
うわ、本当にマネージャーがチェックしているよ。
二週目…、あー死んじゃうよー。
まだマネージャーいやがる。
三週目…、あれ?
今回はいない。

待てよ?
これさ、テレテレ歩いて、あと一周すれば、時間的にちょうどいいんじゃないの?
汗の演出なら、柳瀬川の水がいくらだってある。
チクショウ、小銭持ってくれば、途中でマウンテンデュー飲めたのにね。

四週目を終えた俺は、川の水を頭から被り、凄い汗を演出する。
あとはゼイゼイ言いながらグランドへ戻れば、この嫌がらせ地獄とも卒業さ。

「はあ…、はあ…、守屋先生……。はあ…、走り終えました……」
「柴田! 中村! コイツのジャージを開けろ!」

え、何をいきなり言ってんの、この人?
しかも一個上の同じキーパーだからって、二人共従順に従ってんじゃねえよ、おまえら奴隷かよ?

「何で岩上、顔がそんな濡れてんのに、中のシャツが渇いて汗掻いてねえんだよ?」
「た、多分…、自分の場合、頭と身体の体温が違…、うぎゃっ!」

何だよ?
いきなり殴る事ねえじゃねえか。

何で守屋も見ていて注意しないんだよ?
先生だろ?
おかしいぞ?

ふざけんなよ、柴田。
一つ先輩かもしれねえけどよ、喧嘩なら負けた事ねえんだよな。
睨み返そうとして、この状況で誰一人味方のいない事に気付く。

よくよく考えてみたら、下衆なのは俺なのだ。
俺は泣きながらまた柳瀬川を一周させられた。

一年生が終わった春休み、もうこんな生活嫌だとサッカー部へ行かなくなり、同級生の連中は口も利いてくれなくなった。
小谷野だけが、気を使って話し掛けてくれたのは覚えている。
いや、あと何名かはいたけど、サッカー自体がこれで大嫌いになっていたので、どうでもよかった。

つまり俺はどのクラブでも本気で動いた事がないのだ。
二年生になり、暴力教師谷は担任を下ろされ副担任になった。
それでも意味の無い熱血ぶりは変わらず、俺を視聴覚室へ呼び出し、「何でおまえは部活を辞めたんだ?」と殴り出す。
あまりにムカついたので、俺も谷を殴り返した。
体格でいえば俺のほうが大きい。
チビで足が速いだけの谷は、俺に負ける。

「貴様…、教師に向かって……」
「うるせー! おまえのほうがもっと無抵抗の俺を殴ってんだろ!」

「サッカーが嫌なら、どこか別の部活へ入れ」
「嫌に決まってんだろ、バーカ。そんなんだから、担任を下ろされんだよ」

「何だとこのクソガキが!」
「うるせえよ、クソチビが」

先生に暴力を振るう俺も間違っていたが、谷の方もおかしい。
何故なら部活など所属せず、彼女を作って楽しそうに帰る同級生はたくさんいたのだ。

第二次ベビーブーム世代の俺たちのクラスは十四クラス。
学年だけで七百五十名の同級生。
全校生徒で二千人を超えるマンモス校。

それなのに、何故俺だけが強制的に部活をしなきゃならないのか意味がまるで理解できなかったのだ。

俺はケンタッキーフライドチキンで校則禁止なはずの時給五百四十円のアルバイトをひっそり開始して、一ヶ月半で店長代理を殴ってクビになった。
バイト料の八千円を握り締め、夏休みになると同じクラスで気になっていた永井泉の住む駅である武蔵浦和へ行く。

電話ボックスで彼女の実家へ電話を掛け、今駅にいるから来いと呼び出して人生初めてのデートをしたのだ。
しかし初めてヤキモチ焼きというのを自覚した俺は、泉に電話を毎日何時間も掛け、結局フラれた。
泣いているところをおじいちゃんからも「電話代がいくら掛かったと思ってんだ」と怒鳴られ、仕方なくガソリンスタンドの山口油材でアルバイトを始めた。

それから卒業まで俺は、彼女ができなかった。
幼稚園から中学生まで同じ学校だった松本美紀が、実家の目の前のホームラン劇場がシアターホームランになった時にできた一階のミニストップでアルバイトをした時、「格好良くなったね」と言われのぼせ上り、何回かデートした程度。

しかし自衛隊へ行き、自然消滅に近い状態になった俺は、フラれた永井泉が忘れられず、今でも好きだと告白。
でも北海道倶知安駐屯地に居た俺は、それ以上何もする事が。できなかったのだ。

当時テレホンカード五千円を給料日になると二枚も買って電話をしたのに、馬鹿な俺は自衛隊を辞め、川越に帰る数日前になって、スナック『パピリオ』で働く五つ年上のゆかりに惚れてしまう。

 明日になれば、俺は飛行機で地元へ帰らなければならない。もう時間がない。目を閉じてこれまでの北海道生活を振り返った。
 スナック『パピリオ』でのゆかりとの出会い。彼女のどこに俺は惹かれたのだろう。性格? 外見? いや違う。あいつの存在すべてだ。
 ちゃんと言おう。この気持ちを今日の夜に……。
 自分でもそうしたほうがいいのは分かっていたのだ。
 しかしその前にしなくてはならない事がある。
 駅前にある電話ボックス。
 俺は高校時代からの同級生である永井泉へ電話を掛けた。
「もしもし、泉か……」
「あ、岩上。元気だった?」
 明るい声の泉。これから俺の言う台詞にどんな反応をするのだ? 想像すると、怖くなった。
「ごめん……」
「ん、どうしたの?」
 しばらく無言になってしまう。こんなんじゃ駄目だ。俺はゆかりを好きになってしまっている。ちゃんと言え。じゃないと泉に対し、失礼だ。
「俺、好きな人ができた……」
「……」
 泉は黙っていた。謝るしか言葉が出ない。
「本当にごめん……」
 電話口で大きく頭を下げながら言った。
「まったく岩上らしいな~……」
「ごめん…。本当に……」
「しょうがないでしょ。そんな事、気にしないの。頑張って。じゃあね……」
 気まずい雰囲気の中、永井泉はすぐ電話を切った。ちゃんと口に出して付き合った訳じゃない。正式な彼氏彼女の仲でもなかった。それでも非常に心苦しい。

雪の降る中、俺はゆかりが出勤するのを三時間も待ち続け、彼女へ想いを告白した。

川越に帰って数ヶ月後、ゆかりは倶知安の自衛官と結婚したのを聞いてフラれた。
二十歳になるちょっと前に、松本美紀と再会し、キスまで交わし自信満々に告白したけど、またフラれた。

何か俺って、フラれてばかりいないか?
どうでもいい女からは、結構モテるのにな……。

でも自分で愛せる女と、思い切り恋愛がしたいんだよ!
不細工でモテない日本代表のゴリとつるんでいるせいなのか?

二十歳でようやく三つ年下の鈴木美千代と出会い、バージンを奪うが、彼女の親の度重なる使いパシリが嫌になり、口論の末別れた。
最後「私のバージン返してよ!」と泣きながら文句を言ってきたが、この女馬鹿なのかと思って無視して帰る。

それから職を転々として、ようやく全日本プロレスという初めて自分から本気で取り組める目標が見つかった。
プロテストにも合格し、あとはたまプラーザにある合宿へ行くというところまで来た時、実家に電話が掛かってくる。

全日本プロレス合宿数日前。
高校一年生の担任だった谷先生から電話が入る。
「岩上、元気でやっているのか?」
俺はこれから全日本プロレスの合宿へ行く事を伝えた。
当然喜んでくれると思ったが、谷先生の反応は違った。
「おまえ、その日何とかならんのか?」
「え、何とかならんのかって、どういう意味ですか?」
「その合宿へ行く日、その予定を外せないのかって事だ」
「はあ? 先生…、俺、その日に全日の合宿行くんですよ? 何があるんですか?」
「大川隆法総裁先生がな、東京ドームを借り切って大切な前夜祭をするんだ。岩上、おまえもそこへどうかなと思ってな……」
谷先生は高校教師でありながら、大川隆法の幸福の科学にどっぷりハマっていた。
「あのー…、先生…、頭、大丈夫ですか?」
「おまえは一体だな、プロレスを通じて世の中に何を訴えようとしているんだ?」
「先生…、ひょっとしてプロの世界をかなり馬鹿にしていませんか? 俺はあの世界に食らいついていくだけで、必死なんですよ!」
「だから大川隆法総裁先生が行う前夜祭にだな……」
「先生! ハッキリ言って本当に迷惑です! もう連絡してこないで下さい!」
感情的になり電話を切った。
西武台高校で生徒相手にもあんな事を説いているとしたら大問題だ。
榊先生に連絡をして、谷先生の現状を聞いてみる。
「ああ、岩上、大変だったなあ。谷さんは相手にするの止めときな。それより今度時間作ってうちにまたおいで」
谷の奴、高校でも宗教が何とかかんとかと謳っているのか?
何があったのか知らないが、どうしょうもない先生になったものだ。
宗教を妄信するのは個人の自由だ。
しかしそれを素晴らしいと相手の都合も考えずに強要するから、宗教自体が一気に胡散臭くなってしまう。
素直に俺の合格を祝福し、お祝いに酒でもご馳走するから会おうといった手段だったら、俺もここまで感情的にならずに済んだのだ。
「それより岩上、おまえ今度いつうちに来るんだよ?」
「そりゃあ先生に呼ばれれば、いつだって行きますよ」
榊先生は卒業したあとも交流があり、よく家へ招かれ奥さんの手料理をご馳走になっている。
娘の由香ちゃんも生まれて間もないし、あの子が大きくなった時俺はテレビに映るぐらいの活躍ができるようになっていないとな。
電話を切るとトレーニングウェアを着込み、ランニングへ出掛けた。

高校時代無駄な熱血暴力教師だった谷は、いつの間にか幸福の科学の宣教師として洗脳されていた。

本気を出せば、俺は凄いんだという自負。
しかしそれさえ小学時代の同級生大沢史博の酒乱により、警察に捕まって断ち切られた。

長い長い…、長過ぎる!
こんなんじゃ、十四章、伝説の風俗嬢出てくる頃は、文字数オーバーになるぞ?
え、でも…、大事な自分の軸と言うか……。

こんな内容一章で書くべきだったろ?
だって駆け足であの章は、十三年ぶりに書き出しちゃったし。
時系列時系列!
分かったよ…、消しゃあいいんでしょ、消せば!
でもさ、守屋先生って、まだ今もサッカー部の監督しているらしいぜ?
日本一になったんでしょ、西武台のサッカー部って?
ああ、とんねるずの木梨憲武の帝京高校時代の一つ年上のキャプテンだもんな。
憲武が、今調べたら、千九百六十二年三月九日生まれだから、守屋先生って俺より十歳上って事じゃん。
本当に凄いし、サッカー大好きなんだな。
そういえばさ、朝霞駐屯地に憲武みたいな顔した自衛官いてさ。
おい、脱線し過ぎなんだよ!
はいはい、とっとと柔道を書きますよ。

あーあ、結局俺はここまで出てきた女の中だと、永井泉が一番好きだったんだよね。
二回フラれたのか?
いや、北海道の時は、俺がごめんと自分から言っているから、あいつとはイーブンだ。
まああいつがこれ見たら、ふざけんなってキレるだろうけど。
でもさ、二千四年に初めて小説書こうってなって、ヒロインの名前に泉を使ったのは、紛れもなく彼女が好きだったからである。
おい、今は何年を書いてんだよ?
はいはい、二千一年でしたね、ふん。

俺は心の中で泣きながら、闇十四章で載せるはずのここまでを消した。
時系列時系列って、本当にうるせえなあ……。

ター坊はいきなり柔道をやるという俺の意見に対し、心配そうな表情で口を開く。

「身体能力あるし体格凄いのも分かります。ただ無茶ですよ」
「少しは柔道で努力するよ。ター坊協力しろ」

近い内ちょっとした大会があるようで、ター坊の通う道場へ行く事になった。

まだワールドワンの床工事は時間が掛かる。
タイミング的にちょうど良かった。

柔道の基本的な事をター坊自ら教えてもらう。
後輩とはいえ真面目に習った。
力とスピードは本当に凄いと絶賛される。

「もし智さんが昔から柔道やってたら凄い事になってますよ」
「柔道は今だけだ。とりあえずあの道場の奴、柔道でぶん投げてやるだけだ」

柔道を実際やってみて関心したのが、重心の重さ。
プロレスは自ら飛んで受け身を取るが、柔道でそれをやったら負け確定。
しかも学校でも部活があるように柔道人口は本当に多い。
その中で国際強化選手…、オリンピック一歩手前の人間は化け物揃いなのが分かった。

ター坊の行く道場に一人国際強化選手がいたが、とんでもない体格をしている。
身長百九十センチ、百六十キロでアンコ型ではなく逆三角形。
プロレス界でも中々いない体格である。

腰を壊しチャンスを逃したと言っていたが、こんな化け物を壊せる奴が上にはいると言う事だ。
本当に柔道の世界は奥が深い。

あ、そうだ!
このタイミングで、当時お袋とバッタリ遭遇しているんだっけ……。

もう今では亡くなってしまったけど、俺とお袋が川越の街中でエンカウントした回数など、数えるほどしかないのだから。
いいか?
当時の三十代前半の時の視点と心境だぞ?
うるせえって、分かっているよ。

川越の大型商店街クレアモールを昼間に歩いていると、目の前で一台の自転車が急ブレーキで停まる。
顔を見た瞬間戦慄を覚えた。

そこには縁を切ったはずの俺を産んだお袋。
十年近く会っていなかったはず。

久しぶりにバッタリ会ったお袋は、何故か俺を睨み付けている。

左目の横にある傷が疼く。
幼少期無力だった頃、虐待によりつけられた二ヶ所の傷。
未だ鮮明に蘇る過去のトラウマ。

勝手に俺ら三兄弟を捨てて、離婚もせずに別の男と暮らしだし、おばあちゃんの悪口を言った。

「私が育てていれば、こんな馬鹿には育たなかった」

絶対に言ってはならない禁句を口にし、それ以来俺はこの人と縁を切った。

母方の仲町のおばあちゃんが亡くなった時、当時浅草ビューホテルで働いていた俺はそのまま駆け付けた。
礼服を着ていなかった俺を汚いものでも見るような目で、線香一本あげさせてくれなかった。

歌舞伎町の四十四人が亡くなった大火災の時、何故か俺の携帯電話番号を知っていて生死確認の連絡をしてきただけ。

それからしばらく経ち、偶然道端で出くわしたら睨み付けてくる。
一体、何なんだこの人は……。

臆するなよ。
無抵抗でただ殴られていたあの頃の俺ではない。
俺は強さを目指し、強くなったんだ。

何の為に強さを目指した?
強くならないと殺されちゃうと子供も頃思ったからだろう。

もう臆さない。
もう怯えない。
怖さなど何も感じない。

目に力を込めお袋へ睨み返す。

昼間なので通行人が多い為、次第に俺らを不思議そうに眺める野次馬たち。
しばらくして「あのひろむの若いのが偉そうに言ってたけどね……。覚えてらっしゃい!」それだけ言うと、お袋は踵を返しその場を去った。

突然十年ぶりに会い、何をいきなり怒っているのだ、あのキチガイは?
ひろむの若いのって、先輩の岡部さんの事を言っているのだろうか?

何ともいえない後味の悪さを覚えつつ俺は家に戻った。

「……」

あれは一体何だったんだろうな……。

おい!
分かっているけど、少しぐらい感傷に浸らせろよ。
分かっているって。
たださ、このあとの結末を書けば何故か分かるんだけど、お互い成長していない頃だったんだなあってね。
まあ、それはそうだよな。
五十二歳になってロマンス詐欺で百四十万円持っていかれて。
うるせえよ!
邪魔すんじゃねえって。

夜になり隣りのトンカツひろむへ行く。

岡部さんがいたので、昼間お袋と会った事を伝え、ひろむがどうのこうの言っていたが何かあったのかを聞いてみる。

「智一郎大変申し訳ない! ちょっと待っててくれ」

いきなり岡部さんは頭を下げて謝ってくる。
呆然としている俺に構わず、二階の階段を上がっていく。
一緒にひろむのおばさんが降りてきた。

事情を聞くと一週間ほど前、ひろむのおばさんが原寿司へ行くと、たまたまお袋と二階堂さんに遭遇したらしい。
おばさんにしてみたら、俺が小二の時出て行った以来二十数年ぶりの再会。

原さん、結構前に亡くなっちゃったんだよな。
俺があの人と関わり合ったのってさ、新宿クレッシェンドが賞を取った夜なんだよ。

おい!
分かっているけどさ、ちょっとぐらい聞けよ。

吉岡さんは仕事が朝早い為、ぼだい樹で離脱。
残りは俺ら同級生軍団のみとなった。
バーやら居酒屋やらを梯子して、一旦本川越駅前にある岩上整体の前まで来る。
「これからどうする?」
早めの時間帯から飲んでいるせいか、俺やゴリはともかく飯野君と熊倉は結構酔っていた。
そろそろお開きにしようかな。
裏にあるジャズバーのスイートキャデラックの階段から、誰か降りてくる。
バーの常連客である水野と日野だった。
外にいる俺の顔を見るなり、水野が嬉しそうに近寄ってくる。
「岩上さん、聞いたよ! おめでとう! さ、祝おう、祝おう!」
こちらに知人がいるのに、まったく気に掛けず水野はその辺を走るタクシーを止めた。
「さ、岩上さん! 飲みに行こう。飲みに」
強引な水野はタクシーへ乗り込みながら、俺の腕を掴む。
俺は飯野君たちの方向を見た。
「あ、岩ヤン、せっかく祝ってくれると言うんだから、楽しんできたらどうですか」
確かにこの流れじゃ、そう答えるしかないよな……。
巨漢の日野までタクシーへ乗り込んでくる。
「ごめんね、飯野君、熊倉」
あえてゴリの名前は出さなかった。
「ゆっくり楽しんできて」
俺を乗せたタクシーは発進する。
「最近いい寿司屋を見つけてね」
水野は妙に上機嫌。
以前俺が弾いたピアノを絶賛しておきながら、ザナルカンドというゲームの曲と説明した瞬間、手の平を返し卑下した事は未だ忘れていない。
あの店で、クレッシェンドを執筆中ああでもないこうでもないと邪魔をされた事もある。
日野に関しては整体の初診千円に対し、気に入らなかったら逆に千円あげますにしたらどうですかと、意味不明な事を言ってきたくらいだから、まあいいか……。
曲者五十代オヤジに挟まれたまま、川越日高線へ曲がり、月吉陸橋の手前を左折。
原寿司の前で、タクシーは停車した。
トンカツひろむがあった頃、ここの原さんはよく来ていたので顔見知りだった。
以前ここへひろむのおばさんが食べに来たところ、俺のお袋、二階堂さんと偶然会った寿司屋でもある。
以来お袋は家の隣のトンカツひろむへ堂々と来る事になり、岡部さんとおばさんを相当悩ませた。
あれから十年くらい経つのか……。
水野を先頭に、原寿司の暖簾を潜る。
「へい、らっしゃい!」
原さんの威勢のいい声が聞こえる。
「原さん、お久しぶりです」
「おー、智一郎じゃねえか。マグロしか食えねえのによく俺んとこ来たな、ワハハ」
水野と日野は、顔を見合わせて驚いている。
俺を真ん中にする形で、第二次宴が始まる。
「へい、何握りやしょ」
「私は白身がいいかな……」
「私は貝類を」
水野と日野は好きなものを注文しては、モグモグ食べている。
目の前にマグロがズラリと並べられた。
「智一郎は赤身だろ」
原さんがニヤリと笑う。
俺はウイスキーとマグロの赤身のみ。
水野は高価な日本酒を飲みながら、一人陽気に騒いでいる。
日野はボソボソと貝類やウニ、イクラをつまむ。
「じゃあマスターおあいそ」
「へい、しめて一万九千円」
当然ここは年上二人の奢りだろう。
すると日野は下を俯き、小声で「持ち合わせが……」とかブツブツ呟く。
はあ?
何抜かしているんだ、このオヤジ……。
さっきまでスイートキャデラックで飲んでいたじゃねえか。
金を持っていないのに来たのか。
「俺も少し出しますよ」
さすがに水野一人に出させるのも悪いので、俺は財布から七千円取り出しテーブルの上へ置いた。
赤身とウイスキーしか頼んでないし、これでも多いくらいだ。
「あ、あれ…、金が…、金が……」
水野は鞄をゴソゴソしながら、一向に金を出す気配がない。
五十過ぎて何なんだ、コイツら?
一緒に来た俺が馬鹿だったのだ。
知り合いの原さんのところで、無銭飲食など、さすがにできない。
俺は一万九千円の金を払い、店を出た。
背後から水野が声を掛けてくるが、無視して帰る。
金はまだいい。
ただ記念すべき貴重な日に、こんな気持ち悪い事をされたのが許せない。
岩上整体とスイートキャデラックの距離は徒歩二十歩程度。
先の話になるが、半年経ってもこの二人はバーへ飲みには行くが、俺のところへ金を置きに来る様子は微塵も無かった。
五十過ぎて二十歳くらい年下の人間にたかるオヤジ二人。
片方は角川書店下請け企業の専務。
もう一人は大学教授。
本当に呆れた。
この表現が一番適切だった。
この事は、生涯忘れる事は無いだろう。

今の俺より年上だったもんな、この二人……。

そうそう、思い出したろ?
ああ、忘れる訳ねえって。
たださ、これは二千七年の…、分かっているって。
トンカツひろむの続きを書きますよ。
たださ、この話とリンクしているだろ、ちょっとだけ。
はいはい、とっとと書きな。

「智ちゃんを始め、てっちゃんもたあちゃんも、みんないい子で元気に育っているから心配しなくても大丈夫だよ」
「いや、それは全然気にしていない」

そう返すお袋の言葉に愕然としながら、色々近況を話して別れる。

すると翌日お袋がひろむへ突然来たようだ。
居合わせた岡部さんに「お母さんは?」と聞くお袋。

プライベートでたまたま他の店でバッタリなら分かる。
トンカツひろむは、俺の家の隣りなのだ。

おばさん的には非常に体裁が悪く、岡部さんに居留守を使ってもらったらしい。
普通ならそれで話は終わるのだが、お袋は連日ひろむへ来た。

そこで岡部さんがおばさんの許可を取った上で機転を利かせ「大変申し訳ないのですが、隣りの岩上家とは智一郎を始め、そのお父さん、おじいさんともいい付き合いをさせてもらっています。私のような者が言うのも何ですが、このお店にはあまり来られないほうがよろしいのでは…」と言うと、お袋は烈火の如く怒り出し、ひろむを飛び出したようだ。

頭に血が上るとキチガイのように錯乱するのは、時間が経っても治っていないようである。
一応俺には言っとかないとと、おばさんと相談していう内に一週間経ってしまい、今日の昼間の一件に繋がった。

「智一郎、大変申し訳ねえ!」

平謝りの岡部さん。

「そんな謝らないで下さい」

別に岡部さんが悪いわけではない。
お袋の行動に問題があるだけなのだ。

見えないところで俺は、今も周りに気遣われて生きている。

亡くなっちゃったからさ、もう話をする事はできないけどね。
お袋…、俺は今も岡部さんと良好な関係を築いているからな。
あ、あとさ、去年の七月八日に、トンカツひろむのおじさんもそっち側行ったから、もし会ったら謝っておけよな?

死人に口なしなんて、生きている側の勝手な都合だ。
分かったな?

もう何でこんな色々思い出す訳?
柔道が進まないじゃん。
早く書け、いいから。

大会当日、スイートキャデラックで揉めた◯◯道場の道場生が相手。

俺は開始と同時に飛び付き腕ひしぎ十字固めを極める。
畳を叩く道場生。
靭帯を伸ばすではなく、相手の肘を腿の上支点に力を入れれば骨が折れるよう持っていき止めた。

「柔道ルール分からねえからギブアップって分かり易く言ってくれ」

今思うと、とても傲慢の塊だった俺。

◯◯道場主のオヤジは俺を遠くから睨んでいた。
これで少しは面目躍如できた。
相手側の土俵に乗っ取って始めた柔道。
かなり不利とはいえ、どう足掻いても勝つ必要があったのだ。

次の相手は柔道二段。

素人の俺は何度も足払いを掛けられ、体勢を崩さないようにするのがやっと。
タイミング良く宙に浮かされた時、プロレスの癖で受け身を取ろうとする自分がいた。
このまま畳で受け身したら、俺負けじゃん……。

咄嗟に身体を反転させ畳についた際、俺の左肘が肋骨にめり込む。
鈍い音がする。
肋骨が今ので折れたようだ。

痛みで少し起き上がれなかったが、審判が声を掛けてきたので無理して立ち上がる。

「君! 大丈夫なのか?」

顔色を変えて様子を伺う審判。
対戦相手は俺の身体の異常事態に気が付いているようだ。

「何でもないっすよ。おい、続きをやろうぜ、兄ちゃん」

それでも普通に試合をやろうとする俺に対し、怯えの色が見えた。
明らかに相手は腰が引けていた。

痛みを我慢しながら相手に組み付き、右腕で後頭部を押さえ下に押す。
左腕を絡ませ、右腕も回そうとすると開いては必死に堪えた。
力技で強引に両手を相手の背中でクラッチする。
柔道、相撲だと五輪砕き、プロレスだはダブルアームスープレックスの体勢。

抵抗しながら膝を畳につける相手。
俺は渾身の力で持ち上げながら身体を反り、ダブルアームスープレックスでぶん投げた。

「一本!」

審判の手が上がったのが見える。
痛みで身体を真っ直ぐにする事もできない。

頑張って立ち上がり、何とか礼を済ます。
試合を終え戻ろうとすると、先程の審判が声を掛けてくる。

「長年柔道に携わってきましたが、決まり手がダブルアームスープレックスなんて初めて見ました。いいものを見せてもらいました」

肋骨を折ってまで拾った勝利。
俺のただの意地だった。

病院へ行き痛み止めの薬をもらいに行くと、医者から座薬を出される。
ケツに薬を入れるのをどうしても抵抗あった俺は、痛みを我慢しながら身体を丸めて寝るしかない。
伸ばすと肋骨が折れているので丸まるしかないのだ。

その状態でファイナルファンタジーⅩをやってクリアした頃、ワールドワンの床工事が終わった。

俺って凄くない?
二段の有段者相手にダブルアームスープレックスで、一本だよ?

骨折ったけどな。
本当に痛かったよ、あれは。
多分ヒビだったのが、投げて身体を反った時に完全に折れたの分かったもん。
はいはい、次書きな。

ゴマすり豚野郎の吉田の祖母が亡くなったと言うから、会った事ないけど一万渡したりさ、当然あの馬鹿香典返しも何もないよ?
あと佐々田健太という歪んだ心を持った屑が従業員で入って来るんだよ、ワールドワンに。

辞めた従業員の小山の彼女の緑がさ、11チャンネルで風俗嬢しているんだけど、ワールドワンには客でよく来てくれていたんだ。
俺に懐いていたからね。
そしたら佐々田健太の奴、店行ってあの子を指名しようとしているんだよ。
頭引っ叩いて止めたよ。

でもその緑も、小山と別れてから岩上整体の時、菓子折り持って来たじゃん。
ああ、創価学会の宣教師となってね。

携帯電話が鳴る。
知らない番号からだ。
誰だろう?
岩上整体の広告に、俺の番号なんて載せていないしな……。
うちの患者から直接聞いて、紹介されたのかもしれないな。
とりあえず出てみる。
「あ、岩上さんですか?」
聞き覚えのある声だが、誰だろう?
「えーと…、どちら様で?」
「緑です!」
緑、緑……。
誰だっけ?
「えーととですね…。私、存じ上げないのですが……」
「えー、忘れちゃったんですか? よく新宿で、小山とご飯に行った緑なんですけど……」
「あ、あの緑ちゃんか!」
裏稼業ゲーム屋ワールドワン時代だから何年ぶりだ?
小山の話では、シャブをいくら言っても分からないから別れたと、随分前に聞いたような……。
「岩上さん、今はまだ新宿なんですか?」
「いや、全然違うよ。地元の川越で整体を開業しているんだ」
「えー、凄い! じゃあお祝いに行かなきゃ」
「いやいや、新宿でなく埼玉県の川越だよ? お気持ちだけで……」
「えー、私お祝いに行きたいですー。住所教えて下さいよ」
ここまで言うなら仕方ないか。
俺は岩上整体の住所を教えた。
小山とは別れたはずだよな?
まだ風俗の十一チャンネルで働いているのかな?
こんな数年も経って、何故俺に関わろうとするんだろう?
ひょっとして小山と関係無くなったから、俺に……。
いやいや…、シャブ中でしょ……。
それに風俗嬢……。
いや、偏見など無いが、元従業員の彼女とはさすがに……。

こしじの岩沢さんが来たので、丁重に施術を済ます。
「あら、先生。まだお酒飲んでいらっしゃらなかったのですか?」
綺麗に間隔を開けて並べた七本のグレンリベット。
この内の六本はお祝いで岩沢さんがプレゼントしてくれたものだ。
「いえ、何か勿体なくてしばらく飾っていたいなあと思いまして。あの時は本当にありがとうございました」
「いえいえ、先生にはお世話になっていますからね」
この人が突然飛び込みで岩上整体へ来てくれて、本当に良かった。
何より心遣いがとても嬉しい。
岩沢さんを入口まで見送る。
姿が見えなくなるなって、ドアを閉めようとしたところだった。
「岩上さーん!」
大きな声で俺を呼ぶ声が聞こえる。
ん、誰だ?
元気のいい女性が、こちらに向かって走ってくる。
常にニコニコした笑顔。
小さな身体。
ワールドワン時代の従業員、小山の元彼女だった緑。
本当に川越まで来たのか。
「岩上さん、お久しぶりー。あ、本当に看板に岩上整体って書いてある」
「ほんと久しぶりだね。緑ちゃんは相変わらずだね」
こんな子が本当にシャブをやっているのかと思うほどだった。
ん、いつの間にか緑の隣に男性が立っている。
「はじめまして、岩上さん」
「はい? えーと……」
「あ、紹介しますね、私の旦那さんなんです」
「えー!」
これには本当驚いた。
小山と別れたまでは聞いていたが、結婚?
風俗は?
もちろん辞めているよな……。
でも待てよ?
小山と別れ、結婚したという緑が俺に一体何の用だ?
「はい、これお菓子です」
「あ、ありがとう」
一応整体内へ招き入れた。
「岩上さん、聖教新聞ってご存知ですか?」
聖教新聞…、どこかで聞いた事があるような……。
ゲッ、宗教じゃん!
元従業員の元彼女から風俗嬢プラスシャブ中、そして結婚して創価学会?
え、何なのその華麗なる転身ぶりは……。
「一応知ってはいるけど……」
「岩上さん、聖教新聞取りませんか?」
「い、いや…、大丈夫」
「聖教新聞は、ちゃんとした作家さんを使って、ちゃんとした小説の連載も載っていて……」
いやいや、私も一応プロなんですけど……。
ガラガラ……。
ドアが開く。
小輪瀬絵里さんが立っていた。
天使にしか見えなかった。
「あ、患者さんいるのでしたら……」
俺は彼女の手首を掴み、強引に中へ入れる。
「大丈夫ですよ! 知り合いなだけで。さ、どうぞ、小輪瀬さん」
「岩上さん、聖……」
「緑ちゃん、ごめん! 患者来たから」
慌てて声を遮った。
こんな駅前で宗教どうのこうの何て噂立ってみろ。
うちなど一撃で潰れてしまう。
小輪瀬さんの施術を開始する。
あれ、緑たち待合用の椅子に座っているぞ……。
あの…、患者様が今来ているんですけど……。
またドアが開く。
見た事のない顔。
新規の飛び込み患者か。
「小輪瀬さん、高周波このままにしておくので、ちょっと待って下さい」
「はい、本日はどうされましたか?」
「首を寝違えてしまって…、広告見て来ました」
「あ、それでは問診票を書いてお待ち下さいね。只今他の患者さんいますので」
急いで小輪瀬さんの施術を続ける。
「忙しそうな時に、先生ごめんなさい」
「何を言ってるんですか、小輪瀬さん。そんな事全然気にしないで下さい」
彼女の身体を楽にしていく。
美容師って立ちっ放しだから、肩とか凝るよね。
あなたからもらったオリジナルグラスは、とても大切にしています。

気持ちを込めて施術していると、入口方面から声が聞こえてくる。
「選挙、春先に終わってしまいましたが、どこか押している党とかって、あったりするんですか?」
え、うちの患者にいきなり何を言っているの?
「いや…、ちょっとそういうのは……」
「私たちはとても勧めているところなんですけど、日本を素敵な方向へ変える政党があるんですね。お時間あったら……」
「おい、緑ちゃん、頼むから止めてくれっ!」
気付けば大声を出していた。
「え、岩上さん聖教新聞は……」
「ほんとごめん、緑ちゃん。俺のところは無宗教だし、この中で宗教を勧めるのは本当に止めてくれ。…で、患者さんいるんで帰ってもらえないかな」
「岩上さん、私たちは導きによって……」
「ふざけんなっ! 創価だか聖教だか知らないけど、宗教活動は仲間内だけでやれ! 関係ない人間は、宗教なんて迷惑なだけだ。立派な教えがとか言うんだろ? そんな立派な教えが、何故人をここまで怒らせるんだ? おまえらみたいな存在は本当にクソ迷惑なだけだ。聖教新聞なんか取ったところで、クソ拭く紙にもならねえよ」
緑は発狂したように喚き出す。
俺は旦那の胸倉を掴み、片腕で持ち上げた。
「おい…、宗教だか何だか知らねえけど、これ以上俺の城で騒いでみろ。目玉繰り抜くぞ? 早く嫁連れて出ていけっ!」
宗教夫婦に続き、飛び込みの新規患者まで一緒に出て行ってしまう。
俺は創価学会自体、気にした事はなかったが、これで大嫌いになった。
それにしてもシャブ中の風俗嬢を結婚させ、あそこまで前のめりに宗教活動するようになった訳を無関係な立ち位置で知りたいなあとは思う。
俺は入口から外に向かって、一袋分塩を撒いた。

長いんだよ!
今は二千一年なの!
これって二千七年だろ?
これを書きたかったら、とっとと進めろよ!

はいはい、この当時さ、海老通りにラーメン馬鹿一代って、本当に名前通り馬鹿な店があってさあ。
だからそういうのを書けよ、時系列通りに。

自衛隊の朝霞駐屯地時代の同期、富田との再会……。

あー、はいはい。
あの富田ね?
本当に屑になってしまった。
それも採用決定でしょ。

あと番頭の佐々木さんから、UFOキャッチャーで取ってほしいものがある話。
それと早番の大倉が、吉田にタカられる話。
ヤクザになった林の弟が、ワールドワンに来て粋がる話。

「……」

どうした?
あまりこれは書きたくなかったけどさ、まあ前にも触れたし書くしかないんだよね。

番頭の佐々木さんから、チャンプの久保田が店をクビになったと聞いた。

仕事を終え、事情を聞きに行く。
原が言うには、ここ毎日のようにサラ金の取り立てが店に来ていたらしい。
十日で三割の高利貸し、通称トザンにまで手を出してしまった久保田はそれでクビになる。
何でそんなにしてまでシャブを……。

しかしそれがシャブ中なのだ。
もはや救う救えないの話じゃない。

俺がチャンプを辞めた後に入った従業員の飯塚が「岩上さん! 岩上さんならワンポイント二万で彫りますよ」と声を掛けてきた。
彼は有名な彫何とかの入墨を彫る元彫師らしく、会う度同じ科白を言ってくる。
身体に入墨やタトゥーなどまったく興味が無い俺は、いつも適度にやり過ごす。

クビになった久保田の動向が気になるが、俺では助けられない無理な領域にいるのだろう。

さて、いよいよ伝説の風俗嬢登場じゃん。
よく頑張ったよ。
この話を書ければ、十四章も文字数ちょうどいいんじゃないの?
ああ、そうだな……。

お硬い街川越に珍しく風俗店ができたようだ。
家から近いので入りにくいが、かなり興味があった。

サンロード沿い、湯遊ランドの先にある雑居ビルの三階にできたヘルス。
俺は休みを利用して行ってみる。
入る際、辺りをキョロキョロ見回してからなので、かなり挙動不審に知らない通行人から見られただろう。

可愛い系で胸の大きなマドカという子を指名する。
実際に見てみると写真より良い女である。

プレイの途中、マドカの股間へ俺のをつけた。

「だ、駄目だよ! 本番禁止だから」
「先っちょだけ」

そう言いながら近付くと、マドカは大きな声を出して感じだした。
俺は興奮しながら徐々に中へ入れる。
大きく揺れるマドカの胸。
気が付けば完全なセックスの形になっていた。

何も言わず俺を受け入れるマドカ。
五分もしない内に、俺は射精してしまう。

生まれて初めての事だった。

今までどれだけ女を抱いたのか自分でも覚えていないほど数を抱いたが、まともに逝けた事が無い。
俺はどうしてもこの女が欲しくなった。

結構可愛い系というか、美人系なのかな?
何でなのか、二千二十四年になった今でも未だ分からない。
たださ、この女だけは何故か我慢できずに逝ってしまうんだよ。
分かったから、とっとと続け書け、馬鹿。
馬鹿って言うな!
これから文字に魂を込めるところなんだから。

「マドカ…、真面目に付き合ってくれないか? こんな仕事しなくても、俺が頑張って稼いでくるから」

真剣に真面目に気持ちを伝える。
マドカは少し考えてから口を開く。

「私ね…。ヤクザ者の女なんだ……」
「ヤクザじゃ、オマエを幸せにできない。だから別れろ。俺が幸せにしてやる」

その言葉に泣き出すマドカ。
俺は黙ったままセブンスターに火をつけて待った。

「あのね…、本当に嬉しいんだけど、私の彼氏ね…。今、刑務所入っているの……」

辿々しく話す。

「それなら余計だ。そんな刑務所行くような奴とは別れろ」

「この仕事するの、私初めてなんだ…。彼が入った時、待つって自分で決めて…、覚悟してこの業界に入ったの…。だからごめんなさい…。こんな私に本当に嬉しい…。嬉しかった……」

諦めたくなかった。
しかしこの子の心境も考え、今日は帰る事にする。

この出会いから俺はマドカの事で頭が一杯になった。
ワールドワンで働いていても、どこか上の空。

俺は余っていた発泡スチロール性のボード板を適度な長方形の大きさに切り、仕事中ポスカを使って絵を描き出した。

2001年に描いた頃の草原の絵

何故こんな絵を描いたのか、自分でも分からない。
イメージ的に暗い草原に佇む俺を頭の中で描き、そのまま絵をしてみた。
店の作業用に透明のクリアシートもあったので、空気が入らないよう絵を包み、水が溢れても大丈夫なようにする。

「岩上さん、絵上手いんすねー。いきなりそんなの描いてどうしたんですか?」

山下が覗き込んで声を掛けてきた。

「うるせぇ、何だっていいだろ! ほら、一卓さんINで呼んでるよ」

慌てて誤魔化す。
妙に落ち着かない。

俺はこの日も川越へ戻ってから、マドカと会いに風俗へ寄る。

「どうしたの、これ」

描いた絵をとても喜ぶマドカ。

俺は毎日のように風俗へ行き、連日彼女を抱く。
小出しにしながら徐々に口説く。

あれだけ色々な女を抱いて逝けなかったのに、マドカだとすぐ射精してしまう。

性欲からか、心が欲しいのか。
混沌とした感情を抱えつつ、その為だけに様々な絵を描いた。

「ねえ、マドカ。源氏名と本名が同じなのは分かった。あとさ、苗字も知りたい。それと連絡先も」

「うーん…、ちょっとそれは待って…。あなたにだけ私は本番を来る度受け入れてしまっている…。彼を待つと決めてこの仕事を始めたのに…。携帯電話の番号はいいよ、交換しよ」

彼女なりの葛藤。
しかし心の中で揺れ動いているのも分かった。

「分かったよ。今日はもうこれ以上何も言わない…。俺はこれからも君の為に絵を描くし、できる限りここに来てマドカを抱く」

余裕なんてまったく無い。
だけど彼女の前では余裕を見せたかった。
少しずつ心が解れればいいのだ。

焦っちゃ駄目。
自分に言い聞かせるよう心の中で呟く。

まだお袋が家にいた幼少の頃。
俺は強制的に八個の習い事を通わされた。
ピアノ、習字、絵画教室、水泳スクール、学習塾、体操教室、合気道。
当時は一杯一杯でよく覚えていない。

だが幼い頃に習ったものは、三十歳になった今でも覚えているのだろう。
絵を描くようになって自覚できた。
マドカは俺の絵を喜んでもらってくれた。

それだけのスキルを持たせてくれたのは皮肉な事にお袋。
あの頃お袋は家を出ていくまでは、俺へ彼女なりに期待をしていたのだ。

今となってはお互い空回りで、修復不可能ではあるが……。

出て行って続けたのはピアノだけ。
あれは先生がいつも俺の愚痴を聞いてくれ、甘やかしてくれたから続けただけなのだ。

高校を卒業し、ピアノの先生へ会いに行った時の事を思い出す。

何故先生の家族は汚いものでも見るように俺に関わるなと言ったのだろう?
あれだけ俺を可愛がってくれた先生の家族たちなのに……。

未だにいくら考えても分からなかった。

多分さ、俺が飲み屋の女よりも、風俗の女の方が偉いって、おそらくマドカを見てしまったからなんだと思う。
うん、そりゃそうだ。
だって誤魔化しがないんだもん。
頭は確かにあまり良くないけど、一生懸命だもんな。
うん、本当に何だか哀れに感じるほど必死だった。
ものにしたかったか?
うん、身体の関係だけかもしれないけど、この子だったら本当に良かったかもしれないな。
ああ、あんな事さえなければな。
言うなって!
ネタバレになるだろ、馬鹿。
さあ、早く残り書いちゃいな。

今日辺りマドカも落ちるんじゃないか……。

風俗嬢に恋して真剣に口説いているなんて、近所のTBB総合整体の先生にしか言えなかった。

あの時から空けて二日が過ぎている。
マドカにも考える時間をあげたかったのだ。

明日、仕事終わったら帰りに寄ろう。
この手で抱き締めたかった。

川越に着き、マドカの店へ向かう。

おかしい……。

いつもなら一階の入口に看板があるのに無い。
俺はエレベーターで三階まで行く。

店は営業している雰囲気がまるでなかった。
恥ずかしさも手伝ったが、地元の知り合いに何か知っているか聞き回る。
もちろん俺が行ったというのは内緒にして、川越に風俗ができたんですよねとトボけた感じで……。

家の目の前にある映画館ホームランを継いだばかりの社長をする櫻井さんが知っていた。

「昨日さ、あそこ警察にパクられたんだよ。湯遊ランドの先のビルだろ?」
「え、パクられた?」

「店の女の何名かは、隣の屋根づたいに逃げたのもいたらしいよ」

「……」

格好つけて余裕なんて持とうとするんじゃなかった。
マドカは間違いなく警察に捕まった。
もちろん店も……。

俺は先日マドカの携帯電話を聞いている。
駄目元で電話を掛けてみたが、警察に押収されたのか電源が入っていない。
警察へ面会行くにも彼女の本名すら俺は知らないのだ。

結局この日を境に、マドカとは連絡がつかないまま終わってしまった。

セブンスターに火をつける。
大きく煙を吹き出した。
部屋に戻ると、俺は闇十四章(風俗嬢へ捧げた絵画編)をアップする。

もうとっくに出てきているだろうけど、今頃幸せに暮らしているのかな、あの子……。

今日はシャインさんのトレーニングを休もう。
たまには俺の身体も休息が必要だ。

気取ってんじゃねえよ。
そろそろインカジ『レディ』へ行くから時間が無いだけだろうが。

まだ風呂に入るぐらいの時間あるよ。




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