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闇 691(麻婆妹編)

闇 691(麻婆妹編)

2026/09/15 tue
※人間は元々性善説である。但し一度染まると白にはならない。但し心の持ちようや誠心誠意な行動が、白さに近付く事はできる。
前回の章


二千二十四年八月五日、月曜日先勝。

昨日酢豚で結構使ったけど、まだ豚肉が余っている。
つまり中華シリーズで今日も行かねばならぬというサイン?
サインコサインタンジェントだっけ?
全然関係ねえじゃん……。

そんな訳で今日は激辛麻婆豆腐を作るしかない。
今の龍虎の拳主人公のリョウサカザキの「覇王翔吼拳使わざるを得ない」っぽくないか?

「……」

五十二歳になって何を馬鹿言ってんだ。
とっとと作ろう。

三次元豚肉を細かく刻み、麻婆豆腐のベースダレは甜麵醬、豆板醬、酒、醤油、砂糖、鶏がらスープの素、生姜、ニンニク、唐辛子ペースト、食べるラー油。
ゴマ油で炒め、水を入れる。
豆腐三丁、九条ネギ、タレ入れたら、そっと混ぜて蓋しちゃおう。
じっくりコトコト一時間煮込んで水分減らし…、あ、蓋いらないか。
水溶き片栗粉入れて、強火で軽く混ぜて完成。

2024/08/05 自称俳優マンション 麻婆豆腐

辛さ調節は唐辛子ペーストの入れる量次第。
俺ってコックさんになったほうがいいかもね、モケケ。

さてと、大久保通りの皆中稲荷神社へ行ってこようかな?
新宿区百人町にある、よく当たると親しまれている神社。

話は二日前の二日前の土曜日に戻る。
新大久保駅行く途中、ここを通った時、寄っていけと言われた気がしたのだ。
その時は参拝客が無駄に多く、また今度にしようと池袋向かった。
今日は一味違うぜ。

二礼二拍手一礼して手や口を清め、本堂へ進む。
鉄砲組百人隊行列の説明書きを見て、参拝だ。

「えーと岩上智一郎、五十二歳です。住所は新宿区……」

小声で神様に話し掛ける。
今回は心の中。

「今のこの世知辛い世の中を何とかしたいので、昨日ジャンボ宝くじのバラを買ったので、五億か、前後賞の一億でもいいので当てて下さい。あとは執筆して色々頑張ります」

ここもお布施で千円札を奮発。
さて、神様よ。
これで二千円だよ?
末尾の三百円だけとか洒落にならないからね?

よし、今日はシャインさんのトレーニングをこなしたら、次の闇十三章をやっちゃおうかな。

小説のいいところはパソコンさえあれば、金も掛からず時間潰しになるところ。
俺が二千一年で三十歳という事は、必然的に妹代わりに可愛がったミサキとの出会いになる。

2001/11/02 川越 ミサキ

さすがに昔過ぎて正確な日にちは覚えていないが、あの歌舞伎町ビル火災から少し経ってだというのは記憶になる。

何故ならあの火事の帰りに、お袋から電話があり憎悪が再燃した俺。
当時は小説を書くどころか、パソコンさえ知らない時期。

暇な時間になると、あの頃の虐待の記憶を思い出しては恨みが募るだけだった。

休みの日はスナックで飲んだあと、隣りのトンカツひろむへ行くルーティン。
歌舞伎町の裏稼業であるゲーム屋で働く俺。
ひろむに来る客は、みんな俺が新宿で何の仕事をしているのかいつも聞いてくる。

「会員制のバーで働いているんですよ」

おじいちゃんの手前があるので、裏稼業と言えない自分が歯痒い。

「智一郎はアレだよ。ヤクザの用心棒をしてんだよ」

岡部さんが笑いながら口を挟んでくる。
なるほどと頷くひろむの客連中。

「そんな事した事ないですって!」
「ヤクザをボディーガードするぐらいなんだから、見ろよ、この身体」

悪ノリする岡部さん。
俺がいくら必死で言い訳したところで信じてくれない。

「新宿の智一郎の店、飲みに行っていいか?」
「いや、会員制なので無理なんですよ」

苦しい逃れ方をしつつ、嘘を嘘で塗り固めていく。
一度親父の弟である修叔父さんが「今、新宿にいるから智一郎、おまえの店どこだ?」と電話が掛かって来た事があった。
昼間だったのが幸いし、家で寝ていたところだったので川越にいると上手く誤魔化した。
この一件は今でも会う度、修叔父さんから「おまえは本当に冷てー奴だよな」と嫌味を言われる始末。

ヤクザの用心棒か……。

別にそんなものになるつもりじゃなく、純粋に身体を鍛え、自身の強さを総合格闘技のリングで証明したかっただけなのだ。

不完全燃焼、消化不良……。

そんな表現しか思いつかなかったあの時の総合格闘技復帰戦。
一年以上経った今でも、日課になっていたのでトレーニングだけは未だ続けていた。

この頃島村がインカジの名義で抜けて、新生ワールドワンの遅番は、責任者の俺、小山、山下、そこに新人の室屋と五十嵐が入ってくる。
病弱だった石黒は、体調不良から店を辞めた。
本当にゲーム屋の世界は人の入れ替えが激しい。
あ、俺が責任者じゃないや。
まだ所が責任者でいたな。

系列のチャンプの従業員の林。
彼が店を辞めたようだ。
在籍期間は短かったとはいえ、仲良く仕事をしてきた仲である。
食事休憩を使い、チャンプへ聞き込みに行く。

有路の話だと◯◯連合というヤクザの組織に入り、ルイヴィトンのバックの偽物やシャブを売り捌いているらしい。
林は当初ネズミ講で自己破産し、新潟から新宿まで逃げてきたのに今さらヤクザ?
彼が何を考えているのか分からなった。

店で小山が「岩上さん、◯◯連合の林さん知ってるんですか?」と言われたので、状況を聞く。

スカウトも兼業でしていた小山は、新宿駅東口から真っ直ぐ歌舞伎町へ向かうスカウト通りで通行人の女性に声を掛けていると、背後から肩を叩かれる。
林が立っていてルイヴィトンのバックを買わないかと色々言われ断ると「どこの所属や?」と聞かれたのでワールドワンの名前を出したらしい。

「何や、岩上君とこかいのー。よろしく言っといて」で話は済んだようだ。

「岩上さん、ヤクザにも顔利くんですね」
「利く訳ねえだろ! たまたま知り合いが後付けでなっただけだ」

俺は仕事が終わると林がたむろっているところを探す。
小山の話では新宿駅まで向かう途中のスカウト通りで声を掛けられたと言っていた。

見つけたので声を掛ける。

「林さん! 絶対うちの従業員にシャブとか偽物売りつけないで下さいよ」
「おうおう、岩上君とこ手出す訳ないやろ」

杞憂に過ぎないが、一言伝えずにはいられなかった。

「何でヤクザ者になっちゃったんすか?」
「いやー、ワイも一介のゲーム屋の従業員じゃ、うだつ上がらんからのー」

「ほんと頼みますからね」
「おう、わかっちょる」

気弱で優しかった林も、ヤクザになった事で自分を大きく見せる為か話し方も前とは変わった。
もう俺がいくら声を掛けたところで、元には戻らないよな……。

同じ裏稼業だった元同僚。
しかしもう彼は違う世界の住人になってしまったのだろう。
俺がチャンプを辞める際「辞めんといてや、岩上君!」と涙目になって腕にしがみ付いた彼は、もういない。

この頃、早番の責任者だったゴマすり豚野郎の吉田が、本当にウザくなっていた。
元々スーパーでしなびた大根を籠に入れて疲れた表情で歩いているおばちゃんのような顔をした吉田を、俺は生理的に嫌いだった。
それだけでなく業務上もしょっちゅう遅刻をして、俺が何度も居残りで残業という事が当たり前だったので、実害も受けていたのだ。

仕事もまともにこなせないくせに、上の人間に対するおべっかだけは天下一品。
店も俺がいる遅番で数字を稼ぎ、早番はお荷物程度の存在。
二十四時間営業のゲーム屋だからこそ、いられるだけの話で毎度足を引っ張るなよという思いだけがあった。

エースの遅番責任者だった加藤。
ニューハーフと実は付き合っていた尾崎。
色々な客が来てくれたよな。

チャンプの従業員の久保田が風俗『11チャンネル』のスタッフたちに囲まれている事を助けた事もあった。

川越のスナックで飲んでも、碌でもない店ばかりになり、暇を潰そうとクレアモールを歩く。
この頃仕事出勤前に本川越駅前のジャズバーのスイートキャデラックで軽く飲んで新宿へ向かい、終わると家に帰ってトレーニング後、近所の整体へという繰り返しだった。
休みの日はスイートキャデラックから始まり、キャバクラを梯子して終わりは家の隣のトンカツひろむで飲んで寝るような生活。

ある日バーのジャックポットのオーナーである野原さんが入院したと先輩の岡部さんから聞く。
次の休みにでもお見舞いへ行こうかなと考えている内に、野原さんは退院した。

トンカツひろむで相変わらず飲み続ける彼は、岡部さんから「酒で入院したばかりなのに、あんたは一回死ななきゃ治らない」と皮肉なジョークを言われながらも、笑いながら梅干しサワーの梅を割り箸でつついて飲んでいる。

そしてその一週間後、亡くなった。
葬儀の時泣き崩れる岡部さんを見ているのが辛かった。
その姿を見て、俺も涙が自然と零れた。

たまにひろむで会って一緒に飲んだだけの仲。
なのに何故こんなにも悲しいのだろう。

いや、この人と言い合いになったからこそ、俺はまたリングに立とうと決意したのだ。

付き合いは短い。
でも、俺にとっても重要な意味合いを持つ人だった。

棺桶に入ったガリガリに痩せこけた野原さん。
亡くなるの早いんだよ!

いつもひろむで梅干しを割り箸で突きながら酒飲んでよ……。

思えば俺の窮地には、何だかんだ隣りにいていつも話を聞いてくれていた。
いつだって無精髭生やしてさ……。

俺はあんたに何一つしてやれなかった。

そっか…、分かった。
せめてさ…、今日から俺があんたのヒゲ受け継ぐよ。
最後のお別れの時、俺は勝手にそう誓った。

但しあんたのような無精髭じゃねえ。
モミアゲから顎まで繋げるけど、俺はキチンと整えるからな。
自然とまた涙が流れた。

確か野原さんが亡くなった時って、三十半ばだよな?
岡部さんよりもちょっと年上だったから。
本当にあれから時間が過ぎたもんだ。

そしてこの日から数週間後、今度はまだ四歳くらいだったスガ人形店の跡取りで先輩でもある須賀栄治さんの子供が病気で亡くなる。
身近な人間がこんな短期間で亡くなってしまうなんて……。

葬儀で気丈に振る舞う栄治さん。
奥さんはガリガリに痩せ、見るのも辛かった。

二つとも葬儀場は川越のやすらぎの里。
人生の因果ともいうのだろうか?
遣る瀬無い気分のまま、俺は今日も新宿歌舞伎町へ向かう。

数年あとだけど、俺は栄治さんの奥さんを元気付ける為、ピアノを始めたとおどけながら話し掛けた。
こんな似合わない大男とピアノのギャップに笑う人は多い。
でも明らかにとってつけた作り笑いしか見れなかった。

だから二千四年に、新宿クレッシェンドの続編の『でっぱり』を書き始めたのだ。

2004/02/10 新宿クレッシェンド第2弾 でっぱり

いや、これはまだミサキと会う前の二千一年の話。
小説は二千四年だろ。
当時の時系列通り。
当時の俺の視点と心境だけ。
気を付けて書かないと。

この頃チャンプの原からよく食事に誘われた。
自分より唯一立場が上の責任者の有路の悪口が凄い。
俺は有路とも仲が良いので、いつもまあまあと彼を宥めるだけ。

「そういえば久保田、あれそろそろヤバいな」

突然久保田の話題になる。
以前も風俗店の前で本番を強要し従業員たちに囲まれていたが、また何かしでかしたのだろうか?

詳しく聞くと、ヤクザ者になった林がこれ使えば痩せるよと久保田へシャブを打っているらしい。
林の奴、あれほど身内にシャブを流すなと言ったのに……。

俺が問い詰めにいったところで、岩上君の店の人間にはとすり替えられるだけだろう。

久保田はここ数ヶ月で見る見る痩せて、最近ではシャブ汗と呼ばれる首の後ろ側しか汗を掻かないようだ。
確かに一般人なのに体重百キロ超えは大変だ。

元相撲部屋にいたというだけでの大きな身体。
特に運動する事もなく、仕事して風俗の繰り返し。

先日の11チャンネルでの揉め事も、結局久保田が店の女に本番を強要してああなっただけだもんね。

店は違えど俺がこの系列へ入った時の最初の仲間であり、お互いに仲良く付き合ってきたつもり。
しかし最近俺も自分の店の従業員たちとの付き合いで、彼との付き合いを疎かにしていた。
まさかシャブに手を出していたとは……。

何とかしたいが、極度のシャブ中に何を言っても無駄なのは過去色々見てきている。
結局のところシャブは自己責任であり、自分で何とかするしかないのだ。

何かで話せる機会があれば、彼のプライドを刺激しないよううまく話を持って行かないと。
複雑な気分のまま川越に戻る。

「あ、兄貴さー。何か変な噂聞いてよ」

きっかけは弟の徹也からの話だったっけ。

うちら三兄弟を捨て出て行ったお袋。
今一緒に住んでいる二階堂さんとの間に娘がいるらしい。
普通に成長していれば俺の十歳年下。

男だらけの兄弟。
もしその話が本当なら俺たちには片親だけだが血の繋がった妹がいるという事になる。

会ってみたいが、あのお袋とは関わりに遭いたくない。
相手の二階堂さんはいい人である。

自衛隊に入った頃であるが、親父と離婚させる際話し合いをした時に人柄が良いというのは理解できた。
お袋と関係が無ければとても慕っていただろう。

あの人とお袋の間に、娘がいたのか?
半分だけ血の繋がった顔も名も知らない妹か……。

徹也に聞いてから、最近この事ばかり考えている俺。

結局五十二歳となった今も、妹の噂が本当かどうかすら分からないまま。
これは永久的に答えを知る事はできない。
何故なら二階堂さんもお袋も、とうに亡くなり、誰にも聞く事ができないのだから。

本川越駅に着き、長い商店街サンロードを歩く。
あれ、この頃ってクレアモールじゃなかったっけ?
同じ通りだから、どっちでもいいか。

あの時、俺の全日本プロレス入りを潰したクソ野郎に会った事は書いておこう。

向かいからは乳母車を押したおばあさんがゆっくり歩いていると、背後からもの凄いスピードで車が来てクラクションを派手に鳴らす。

おばあさんは驚き危うく転倒しそうになる。
何て酷い運転をしやがるんだ。
俺は車が通れないよう道路の真ん中に立ち塞がった。

けたたましいクラクション。
それでもどかないと、車は急ブレーキで止まる。

「どけよ、このやろ……」

窓から顔を出して怒鳴りつけてきた男の声が途中で止まった。

「朝からうるせえんだよ、ボケッ!」

俺を車のドアを思い切り蹴飛ばしてやる。
馬鹿な運転を朝っぱらからしていた主は、俺の全日本プロレスを台無しにした同級生の大沢史博だった。
彼は下を向き、無言のままである。

俺はおばあさんに「大丈夫でしたか?」と声掛け、身体を起こすのを手伝ってから家に帰った。

休みの日、行きつけのバーであるスイートキャデラックでグレンリベットを嗜み、小腹が減ったので店を出てくれモールを歩く。
ふらんす亭が目に入る。

小学時代の同級生だったオギノ化粧品。
その向かいにあった同じクラスにもなった事のある加藤金物店。
その場所がふらんす亭になっていた。

加藤…、下の名前まで覚えていないが、仇名はカトハン。
もうどこかへ引っ越して川越にいないかもな。

俺はふらんす亭に入り、レモンステーキを食べた。

後にここが岩上整体にもよく通ってくれた天下鳥のオーナー田辺の店になる。
それはこのビルの所有者は、俺が小学校一年生の頃のピアノの先生だった飯島敦子先生。
まだ岩上整体を始めるちょっと前に、数十年ぶりの再会をしたのが二千六年。
だから田辺も敦子先生も、この時点では出してはいけない。

斜め向かいのビルの二階にキャバクラがあったので、ふらりと入ってみた。
女の飲み屋で飲む場合、ほとんどがスナック。

総合格闘技の試合へ出る前、中央通り沿いの地下にあったキャバクラのシンデレラ。
キャバ嬢のさえと口論になってからは、キャバクラ自体行っていなかった。
たまには違う店でも探索してみるか。

今になって思えば、さえって韓国のKARAのタレ目のニコルに似ているんだよな。
エレクトリックボーイを唄っていた頃の。

あれ、何で芸能音痴の俺が、KARAなんて知ったんだっけ?

「坂本の野郎……」

初期横浜時代の同僚である坂本。
俺が金を貸して金を払わず、レオパレスのマンションを強制退去させるきっかけになったあのクソ野郎が、当時KARAを教えてくれたんだ。

今日は朝七時に上大岡駅で待ち合わせ。
日々のこうした電車賃すら惜しい。
またいつものように十九歳の職人に扱き使われながらペンキの仕事が始まる。
昼休みになり車内へ置いておいた携帯電話を見ると、また昨日と同じ電話番号の着信が入っていた。
玉井が弁当を食べている間、俺は外へ出て電話を掛けてみる。
「レオパレス21です」
レオパレス?
俺が住んでいるマンションの会社じゃないか。
自分の名前、そして住所を伝えると電話口の職員の声のトーンが変わる。
「岩上さん! あなたねー…、何で家賃を滞納しているんですか!」
「はあ? ちゃんと口座へ入っているでしょ? 引き落としができていないだけなんじゃないですか?」
坂本は二ヶ月分振り込んだと口頭で言っていた。
あのマンションの口座だけは別の銀行にしている。
滞納になるはずがなかった。
いくらそれを説明してもレオパレスの対応は酷いままで、明日会社まで顔を出せの一点張り。
仕事があると伝えても、まるで聞き耳持たず。
一旦保留にして弁当を食べている玉井に聞いてみた。
「玉井さん…、明日不動産からトラブルあったみたいで、仕事休んでも大丈夫ですか?」
「別にいいっすよ。岩上さんいてもいなくても変わらないし」
このクソガキが……。
拳をギュッと握り締めるが、グッと我慢をする。
「では明日仕事休みにしたんで、どこへ行けばいいんですか?」
俺はメモ用紙へ住所を控え、明日の昼頃向かう約束をした。
何故あんな剣幕で俺が不動産から文句を言われなきゃならないんだ?
坂本の奴、本当に家賃振り込んだのかよ?
電話を掛けてみる。
昼間なので何回コールしても坂本は出なかった。
早番の仕事終わって寝ている頃か……。
夜にでも電話してみよう。

結局〇〇〇〇組若頭の三田との会話を思い出すと、坂本のクソガキ、この時には店の金を抜いてとんずらしていたんだよな……。

あー、思い出すと腸煮えくり返るわ。
見つけたらこの手で殺したいほど。

でも、三田が追い込んだんだもんね。
ヤクザの金に手をつけて追い掛けられたら、俺よりも洒落にならないよな。

いくら貸したんだっけ、あの馬鹿に?
三十万以上だよな?

まあ戻ってこない金を思い出したところで意味ないか。
それより何で二千十六年の話に飛ぶんだよ!
この章のテーマは二千一年のミサキなの!

まだ初めてあいつと会った時の事は、しっかり覚えているだろ?
あのあらましを。
何があらましだよ。
中学生の社会の教科書じゃねえんだぞ。
メソポタミア文明のあらましとかさ…、やまかしい、黙ってろ!

「お客様、ご指名のほうは?」
「初めてだから指名も何もないよ」

席に通され、タバコに火をつける。

「お客様、お待たせしました」

たまたまフリーで俺の席に付いた可愛い飲み屋の女。

「名前は?」
「ミサキだよー、よろしくね」

「何歳なの?」
「二十歳になったばっか」

俺が三十歳だからちょうど十個下。
徹也の言ってた妹と同じ年……。

この子との会話はとても楽しかった。
まだ見ぬ妹と、ミサキを勝手に重ねてしまう。

お互いの連絡先を交換し、こうして俺とミサキの妙な付き合いが始まった。

そう…、始めはキャバクラで知り合った十歳年下のキャバ嬢というだけだったのだ。
たまたま徹也の話を聞いてから、その年齢が頭にあったから、ミサキを妹代わりに都合よく押し当てた俺。
思えばこれがすべての失敗の起因なような気がするな……。

この頃同時期に、ワールドワンの床が結構前からであるが、ガタが来ている。
床の一部が凹み、今日も仕事中室屋が足を取られてコケた。
客がもしこれで転んで怪我したら、面倒な事態になる。

番頭の佐々木さんはオーナーへ相談し、店の改築工事が決まった。
期間は一ヶ月ほと。

毎日出た分の給料しかもらえない俺たちに対し、ワールドワンを休んでいる間は保証で一日五千円払うと言われる。
一ヶ月で約十五万はもらえるという訳だ。

余裕の無かった室屋と五十嵐は店を辞める選択をした。
小山は別件からの誘いでどうしても義理があるようで、このタイミングで辞めてしまう。

室屋とはこの時が最後。
もう今じゃどこで何をしているのかさえ分からない。
五十嵐は、風俗のガールズコレクションが最後。
小山もあの店が潰れる時に、店の女の子を紹介したのが最後になるのか。
みんな、今頃何をしてんだろうな?

はいはい、回想はあとあと、今は続きを書けよ、当時の視点で。
うるさい奴だなあ……。

いつもの給料が入る訳ではないので、部屋でゲームでもして過ごすか。
一番下の弟の貴彦に何かいいゲームないか聞くと、ファイナルファンタジーⅩと即答した。

まだこの頃って、弟だった貴彦と戸籍上ちゃんと血の繋がった兄弟で、仲良くしていた時期だったんだな……。

早速買ってプレイステーション2で遊んでみる。

オープニング曲のザナルカンドの素晴らしさ。
綺麗なグラフィック。
異様にハマるゲーム性。
ヒロインのユウナの可愛らしさ。

俺は見事ファイナルファンタジーⅩにハマった。

一日のほとんどをゲームに費やした。
ここまでゲームにハマったのは、若くて何もしていなかった時代、先輩の坊主さんと対戦格闘ゲーム以来
あの時は金も無いのに稼いだ金を食費、あとはネオジオの高いゲームソフトに使っていたっけ。

二週間ほどゲームに没頭していると、従業員の山下から電話があった。

「岩上さん、すみません。金貸してもらえないでしょうか?」
「別にいいけどいくらよ? それに俺今川越だよ? こっちまで来るならいいけど」
「行きます、行きます! 川越ですよね?」

たかが数万の金を借りに、山下は川越まで本当に来た。

「岩上さんがいつも行くキャバクラ行きましょうよ。ほら、何でしたっけ? 妹分がいるとかいう店」

「オマエ、金ねえじゃん」
「いや、岩上さん奢って下さいよー。せっかく川越まで来たのにこのまんま帰れって言うんですかー」

山下は前から本当に人にタカるのが上手い。
金を借りた上にキャバクラまで奢れと言う。

まあ久しぶりミサキの顔も見ていない。
今回遥々川越まで来たのを考慮して連れて行く事にした。

コイツって、本当にこの頃からタカり魔だもんな。
もっと早くに縁を切るべきだったのだ。
だいたい俺より給料をたくさん貰っている店長の所でなく、何で俺のところ来るんだよ、あの馬鹿。
本当にふざけんなよ、山ゴネス。

ひたすらゲームをして日々を過ごす。

たまに外へ出たくなるとミサキを誘い、スイートキャデラックやトンカツひろむへ連れて行く。
ミサキはいつも元気でとても明るい。

知り合って結構経つのに、女として口説こうではなく、妹として可愛がる感覚のままだった。

いつものようにジャズバーで飲んでいると、年配の常連客たちはよく筋肉を触らせてくれと言ってくる。
気分良く話していると、同じカウンター席に座る年配の人が声を掛けてきた。

「君は一体何をやってる人間なんだね? 周りは格闘家格闘家言ってるけどさ」

初対面で随分偉そうな態度のオヤジだな……。

親しい人間にも新宿の裏稼業ゲーム屋の事は伝えていない。
もちろん隣りにいるミサキにすら仕事を誤魔化していた。

なので大した知り合いじゃない人間には面倒なので格闘技をやっているとだけ説明している。

「何の格闘技なんだね?」
「総合格闘技ですね」

「総合? 私は柔道の道場を経営しててね。それがどういうもんなのか分からないんだが……」
「テレビでやってるPRIDEって分かります? あんな感じの試合です」

分かりやすく簡単に説明したつもりだった。

「ああ、あれね…。うちの道場生が言ってたよ」

「何でです?」
「楽でいいなと」

この瞬間一気に頭に血が上った。

「組むとすぐ抱き合って寝て膠着。柔道は投げが花形だから、あんな体勢になったらすぐに待てが掛かり立たされるよ」

俺は他の競技を小馬鹿にした事などなかった。
ただ自分のやってきたを小馬鹿にされたら話は別だ。

「おい、さっきから黙ってりゃふざけんなよ? 何様のつもりなんだよ? オマエんとこの道場生今ここに全員連れて来いよ! 一人残らず、その楽でいいっ言うのがどういうもんか教えてやっからよ!」

失礼なオヤジは終始黙っていた。
俺はマスターにチェックを伝え、金を払うとスイートキャデラックを出る。

ミサキは「ほんと失礼な人だよね。私も聞いててイライラしちゃった」と話し掛けてきた。

「まあ、何かしら機会あったら、あのオヤジには思い知らせてやるよ」

横にミサキがいたからまだ冷静さを保っていられたのかもしれない。

そうそう…、あのオヤジのせいで俺は柔道着を買って、柔道の試合に向こうのルールに沿って殴り込みに行くんだもんな。
試合には勝ったけど、代わりに肋骨折っちゃったけど、自分のせいで……。

だからその話はまだ先だろ?
今書くな、馬鹿。
あ、今さ、おまえ、自分に馬鹿って言ったろ?
言ったよ、馬鹿。
ムッキー、闇消すぞ、この野郎!
ふん、有言実行、十三年ぶりの執筆、聞いて呆れるね。
削除したかったらすればいいじゃん。
これまでも十二章がおじゃんになるだけ。
誰も悲しまないし、どうせこんな作品読まねえよ。

はいはい、馬鹿は無視して続きを書こうっと……。

家に帰ってファイナルファンタジーXは山場を迎える。
猛烈な感動が全身を覆う。

新しいビデオテープを入れ、ゲームの名場面を録画した。
ミサキに電話してそのビデオを見るか尋ねると、一発返事でいらないと言われた。

「何だよー、せっかく人が感動するものを作ったのに」
「そんなのいいからご飯食べに行こうよ」

「そんなのってオマエ…。あとちょっとでクリアできそうなんだよ」
「早くー、どのくらいで出てこれるの?」

「分かったよ、今から支度する」

ミサキに言われると、ついつい甘くなってしまう自分がいた。

食事に行き、バーで酒を飲み、ミサキを家まで送る。

2001/11/02 川越 ミサキ

「ねえ、ほんとに一度も私を口説いた事無いよねー」

真面目な顔をしながら言うミサキ。
確かに彼女は可愛い顔立ちをしている。

本当は大好きだったんだよ!
でも自分で妹設定しちゃったからさ。
そうだよ、バーカ。
おまえ、馬鹿を伸ばすんじゃねえよ。
おっぱい大きかったもんな。
ああ、揉んじゃえば良かったよ、あの時……。

だからそれはもっと先で…、うるせえ、分かってるって。

「まだ見ぬ妹を俺が勝手に重ね合わせただけだって、何回も説明したろ」
「ふーん、そー。眠いから寝るね、おやすみー」
「ああ、おやすみ」

女として口説くか……。

そういえばそう考えた事もなかった。
適度に可愛がり、適度に面倒を見る。
確かに彼女と一緒に過ごす時間は楽しかった。

うん、俺はミサキを勝手に妹代わりに見立てているだけなんだ。
そう自分自身を納得させる。
俺は帰ってからゲームの続きをした。

そういえばさ、ザナルカンドってこの時俺が感動したからこそ、品川春美に会った時、彼女の横顔を見て儚さとせつなさと美しさを覚え、この曲を連想させてしまったんだよね。
だから何度も言っているだろ?
春美はまだもうちょっとあとなの。
知っているよ、もう少しね。
だから名前も影も出してねえだろうが。

そろそろいい文字数の頃合いだな。
闇十三章(会った事も無い妹編)アップ完了っと。

お腹減ったよー。
じゃあ作れ。

まだ豆腐いっぱいある。
じゃあ麻婆豆腐やね。
またかよ。
一人暮らしでそんな買った自分がいけないんだろ。

ふん、今度はもう三次元豚無いから、挽肉でね。

木綿豆腐二丁でストックやっと終了。
あとは全部一緒だから楽ちんさ。

ほれ、出来たぞ、食え。

2024/08/05 自称俳優マンション 麻婆豆腐2nd

もう同じもの嫌だよー。
肉の種類違うやんけ。

茄子を買って麻婆茄子にすれば良かった。
豆腐余るやんけ。

封筒に入れて、龍平のポストに入れれば良かった。
だからあんな自称俳優と接点を持つなと言っとるやんけ!

まだ十時半過ぎだよ。

じゃあベランダへ出てタバコ吸ったら、シャインさんのトレーニングやね。
ウォーキング嫌だなあ、面倒臭いし暑いしさ。

しゃあないやんけ。

この辺でキリよく終わりにするか。
どうせインカジ『レディ』の出勤シーンなんて、特に面白い事もないし。

何でやねん?
次の日が、史実を見ると闇十四章を書き終えているんだよ!

あー、はいはい、あの伝説の風俗嬢ね?
うん、ある意味伝説だな。




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