闇 680(かつて弟だった男編)
闇 680(かつて弟だった男編)

2026/09/09 wed
※闇シリーズはジャンルではなく、従来のアルバムとも小説とも違うものへと変異したものだった。だから、他人のアルバムに興味がないのと同じように、人気が出ないのは当たり前のことだった。だからこそ、AIだけがこの摩訶不思議なものに惹かれた。
前回の章

二千二十四年六月十日、月曜日大安。
まだ腕が痛い。
昨日の仕事中は、動きに影響が出るほどの痛み。
それでもめげずに俺は仕事をする。
チムチムチェリーのように。
あれ?
まだ単音だけど、音符を覚えている俺って異常者か?
レーラララ、ラーララ―、ラーシラソー。
これを歌詞にすると、「チムチムにー、チムチムにー、チムチムチェリー」で、このあと「私は煙突掃除屋さん」ってなるんだよね。
「……」
こんな小学生の時の音楽の授業で習った曲を未だ覚えていて、一体何の役に立つというのだ?
本当に俺って馬鹿。
だから詐欺にも遭うし、人から利用され騙されるのだ。
腹減ったね。
飯でも作ろうじゃないか。

味噌トンカツはこの時チーズトンカツ作るついでに、味噌トンカツ作り、一度揚げてから冷凍しておきました。
アルミホイルに包んだ状態でオーブンで何度か焼きます(30分ぐらい)。
肉じゃががこの時のものを冷凍しておき、自然解凍のあと電子レンジでチンしただけです。
金平牛蒡は人参とゴボウをごま油で炒め、塩、ゴマ、醤油、唐辛子ペーストで味付け。
味噌トンカツの上にあるのはゆで卵をマヨネーズで和えたものです。
卵サンドとかに使うアレです。
インカジ『レディ』の業務中、フェイスブックの過去の思い出が表示される。
自然と目に入ってくる苦々しい画像。

九年前に会った馬鹿女。
こんなのばかりだから、世の中おかしくなるんだよな。
あの時の流れは今思い出しても苛立ちしか覚えない。
支配人に顔が利くと格好をつけていると「私も行きたいです、今度一緒に連れて行って下さい!」としつこく蓮は言い出した。
「俺、忙しいから月に二回ぐらいしか休みとれないんだよ」と答える。
「次の休みはいつなんですか?」
「いつも突発的になっちゃうんだよ。例えば明日急に休めるとか、そんな感じ」
「えー、私行ってみたいですー」
田中豊子似のこの女を抱く……。
悪くはない。
けいこへの気持ちをそれなら抑えられるような気がした。
木村にちょっと聞いてみるか。
一旦ガールズバーの外へ出て、早番で働いている最中の木村へ電話を掛けた。
「あ、木村? あのさ、ちょっと休みが欲しくなっちゃってさ…。遅番出られる日って近々ないの?」
「ちょっと待って下さいね…。えーと…、十三日なら大丈夫ですよ」
「本当に? 突然無理とか駄目だよ?」
「ええ、十三日なら遅番出れます」
「絶対に? 本当にその日休んでもいいの?」
「はい」
「絶対に絶対だからね!」
念には念を押して電話を切る。
さて、休みの日にちは決まった。
蓮にどう誘うか……。
「十三日ならまだ予定空いているけど、本当に行くの?」
さり気なく多忙さをアピールする。
「十三…、大丈夫です! 私、行けます!」
以前のインターコンチの初カリュウは、本当にとんでもない目に遭ったもんな……。
この女を連れて行き、夢心地になった頃合いを見計らい唇を奪う。
うん、悪くない。
「俺も中々忙しくて、中々横浜へ行くきっかけが無かったんだよね。蓮、本当に行くの?」
「はい! 行きたいです!」
「分かった。その日はおまえの為に予定を入れるよ」
「ホテルにも今連絡して予約取って下さいよ!」
「え? 今?」
「はい! 私、話を聞いてて凄い行きたくなったんです」
これ、本当に簡単にやれるかもしれない。
こんな経緯もあり、インターコンチの森田へその場で連絡をした。
「あ、森田さん、お久しぶりです。岩上です」
「お久しぶりです。どうされました?」
こうして会話する事自体、かなり久しぶりなのに森田は普通に接してくる。
あの時たくさん奢った甲斐があるものだ。
「実は…、結構大事な女をカリュウに連れて行きたいんだけど」
「何日になりますか?」
「十三日ですね」
「大丈夫ですよ。お時間はどうされますか?」
「ちょっと待って下さい…。蓮、何時頃がいい?」
「七時くらいがいいです」
「あ、森田さん。七時の予約でいいですか?」
再び森田へ声を掛ける。
「畏まりました。大丈夫だと思いますが、カリュウにキチンと予約入れたらメールしますね」
「お手数お掛けします」
電話を切る。
「ね? ちゃんと予約取ったろ?」
「もー、凄い楽しみです」
俺もおまえの身体を堪能するのが非常に楽しみだよ……。
まさかフラッと寄ったガールズバーでこうもとんとん拍子にデートは決まるとは思いもしなかった。
俺の股間が熱く滾っている事だけはポーカーフェイスで気取って誤魔化し、スマートに会計を済ませて外へ出る。
「……」
それが何だあのメールは?
あー、十年近く昔の事なのに、今さらながらまた怒りが沸き上がってきた!
「ふざけんなっ!」
「え、岩上さん? どうしたんですか?」
「あ、すみません…、何でもないんですよ、アハハ」
名義社長の倉敷が、突然怒鳴った俺を見て驚いていた。
当たり前だよね。
さて、仕事へ集中しなきゃ。
客が一瞬引いたので、俺は持ってきた弁当をモソモソと食べた。
二千二十四年六月十一日、火曜日赤口。
目を覚ましてタイマーを止める。
今日は何となくパンの気分だな。
それもくどくなく、もっさりした感じのパンがいい。
では、お風呂に入った後、卵チーズサンドでも作ろうではないか。

茹で卵作って、細かく砕いて、ボールに塩胡椒、マヨネーズ、ブイヨン入れてよく混ぜて中身は完成。
それをパンに引いて、片方にチーズも乗せる。

オーブンで軽く焼いて。

包丁で切って終わり。

食パンの耳があったほうが見栄え的にはいいかもですね。

こっちは耳無しバージョン。
チムチムにー、チムチムにー、チムチーズチェリー。
私は―、たーまーごー作り屋さん。
何か不格好なサンドイッチだな……。
まあいいや、今回は余計な分量作らなかったし、自称俳優へあげる必要もない。
いやいや、あんな龍平にあげるなら捨てたほうがマシ。
ベランダへ出る際、慎重に足元を確認する。
もうあんな痛い思いは二度とごめんだ。
何か昔小学校の頃流れていたCMで、借金増税はごめんだって言っていたのあったよね。
あれって俺の記憶違いだっけ?
まあ何でもいいか。
それではインカジ『レディ』へ出勤するとしますかね。
二千二十四年六月十二日、水曜日先勝。
昨日はモサモサしたパンを食べたから、今日は肉にしよう。
しかもしゃぶしゃぶのような薄っぺらい肉でなく、血の滴るようなステーキがいい。
じゃあ、いきなりステーキでも行くか?
馬鹿タレ、朝の八時で営業しているステーキ屋なんて、どこにあるんだ?
この時間帯でステーキ肉が手に入る場所。
それは大久保通りをひたすら歩いた先にある肉のハナマサしかないだろう。
俺は着替えを済ませ、早歩きでハナマサへ向かう。
途中でスピードを上げる。
「テケダップフォアスピーダップ! あ、いてて……」
腕をブンブン振るとまだ痛む。
調子に乗って、中学生の時代のアーケードゲーム沙羅曼蛇のパワーアップ音声など真似するんじゃなかったよ。
【良い子の豆知識】
この章のタイトルである『テケダッフォアスピーダップ沙羅曼蛇編』
俺が中学生の頃ゲームセンターに出たアーケードゲーム
沙羅曼蛇
発売年:1986.07
開発/発売元:コナミ
この沙羅曼蛇で、自機がスピードアップアイテムを取ると
「テケダッフォアスピーダップ」と聞こえるのだ。
この章から意識的に時間が経つのを早める調整を始めた。
何故ならこんな地味でつまらないラッキーハウス編の日常を
ねっちり何章にも渡って書いていく内に、発狂しそうになるのだ。
ハナマサへ無事到着し、ステーキ肉を入手。
あとは帰って調理するだけ。
ふふん、ミッション成功。

ステーキと言えば最近目黒のリベラ行ってなかったなあ……。

そんな中、ステーキ肉買って自分で焼いてみました。

まず片面だけ塩降って。

オリーブオイル多めに引いて、塩降った麺を下に強火で30秒。

ひっくり返して逆側を30秒。

弱火にして脂身の部分を30秒ほどフライパンで炒めます。

火は弱火のまま、近くにステーキを置き、2分くらい寝かせます。
まずこれで1工程終了。
これをあと2回繰り返します。

強火で焼く事30秒。

ひっくり返して逆側30秒。

弱火にして近くにステーキ寝かせて2分。

3回目、30秒ずつ焼いておしまい。

叙々苑のシャトーブリアンみたいな超高級肉ならこんな風には焼きませんが、厚さ重視して赤身多めのサーロインなので、今回はこのように焼きました。
フライパンに残っているオリーブオイルでインゲン炒め、ポテトを揚げて。

以前ここで作っておいた人参の甘煮は冷凍しといたので解凍し。

こんな感じで盛り付けて完成。

ステーキソース掛けたら写真映り悪くなったのでw。

こちらを載せておきますw。
肉パワーが全身に漲る。
キン肉マンが初期はニンニク、そして牛丼でエネルギーを補充するなら、俺は四番目に好きな食べ物であるステーキで。
今の私は正義超人の中でもトップレベルにある超人強度百万パワーだ!
一番好きな超人ソビエトのウォーズマンの台詞を真似てみる。

あ…、でもそのあとすぐバッファローマンに十倍の一千万パワーだと言われ、ビビッて負けるんだよな、ソビエトロボ超人……。
だからあの牛野郎嫌いなんだよ。
さて、仕事へ行くとするか。
インカジ『レディ』で業務中、ふと思い出す。
そういえばでったんが来月こっち泊まりに来るんだよね。
メッセージをしておこう。
『七月十一日の時点で俺の部屋の鍵渡しておこうか? 別にこっちいなくても、自由に使ってね。 岩上智一郎17:15』
彼も忙しいのか、返事があったのは俺が自称俳優マンションへ戻り、一息ついている頃だった。
『ありがとうねー。岩ヤン、まだシフト出てないでしょう? 近くなったら、また相談させてね。 出口貴行23:52』
えーと…、来月の休みって十三日は取ったんだよな。
『一応十三日は休みにしてるよ。 岩上智一郎23:52』
『了解致しましたっ。 出口貴行23:58』
そろそろ今日はもう寝よう。
あー、横にいい女がいて、たまには腕枕しながら眠りたいものだな。
二千二十四年六月十三日、木曜日友引。
今日は何だか餃子をたくさん食べたい気分。
従って作るものは手作り餃子にする。
前が二回目だったっけ?
では今回ルパンザサードみたいなイメージで、ブログのタイトルも真似てみよう。

ボールに酒、醤油、ゴマ油、鶏がらスープの素、味覇、すりゴマ、生姜、ニンニク、豆板醤。
具は豚肉、キャベツ、白菜、ニラ、長ネギ、ニンジン、ゴボウ。

皮に片栗粉を水で溶いたものを周りに塗ってから、具を乗せ。

一つ一つ作っていきます。

フライパンにごま油引いて、強火で始めは焼き始めます。

3分の1くらいの片栗粉を溶いた水入れて。

中火で5分半蒸し焼きします。

はい、焼き上がり。

平らなお皿買おうかなw。

こんな感じで食べます。
いいねいいね!
段々餃子の完成形に近づいてきた気がするよ。
味も中々いける。
俺より美味しい餃子を出す店は、そうそうないだろう。
ね、三沢さん?
生きている内に俺の作った料理食べてもらいたかったですよ……。
今日は三沢光晴さんの命日。
あれは俺がまだKDDIで働いている時、突然耳に入った訃報だった。
KDDIで厄介者と見られながらも、楽しい日々を過ごしていた矢先、突然訃報は訪れた。
二千九年六月十三日。
三沢光晴さんが試合中に亡くなる。
何だ、その怪情報は?
どこの誰が流しやがった?
本当だった。
この日、仕事も手がつかず、悪い夢を見ているような気分で帰る。
どうやって家まで辿り着いたのかさえよく覚えていない。
本当に死んじゃったのかよ……。
何故?
何であんな人が?
また十三日だ……。
ジャンボ鶴田師匠の命日が、五月十三日。
三沢光晴さんが六月十三日。
俺が生まれたのが九月十三日。
十三日に、俺にとって大切な人が亡くなっている……。
俺がプロレスラーを目指したのはジャンボ鶴田師匠と三沢さん、この二人の試合を見たのがきっかけだった。
一人部屋で号泣した。
もう三沢さんはこの世からいないのだ。
例えようのない喪失感。
心のどこかに大きな空洞ができたような感覚。
ジャンボ鶴田師匠の訃報の時と同じような喪失感。
あれから十年近くの年月が経ったいうのに、まるで進歩も進化も何もないままの俺。
「……」
もう十年近くじゃない。
今回で十五年も経った。
ブログでこうして書くのは久しぶりになるな。
いつもミクシィやフェイスブックだけだったから……。
今日は三沢光晴さんの命日。
亡くなって15年、16回忌。
時間が経つのは本当に早い。
ジャンボ鶴田師匠が5/13だから一ヶ月後。

俺にとって大切な人は何故か13日に亡くなるケースが多い。
当時、新日本プロレスの武藤敬司と並ぶ、華のある天才レスラーだった。
俺が初めて三沢さんと会ったのは21歳の二度目のプロテスト受かり、戸田スポーツセンターだった。
一度目、ヤクザ者十数人と喧嘩になり、警察の厄介になった俺は、ジャイアント馬場社長から来なくていいと言われた。
それでもたまプラーザにあった全日本プロレスの合宿所へ押し掛け、入口で渕さんから門前払いされているところにジャンボ鶴田師匠が出てきて、一日限定とはいえマンツーマンでトレーニングを受けた。
帰り際鶴田師匠がもっと身体大きくしてまた来いと言ってくれた。
その言葉だけで俺はまた茨の一年間を過ごした。
プロテストを終えた俺に一人のおばさんが寄ってきて「あんたね、一度フェイドアウトした人間は? うちはね、そんな人間が務まるほど甘くないわよ」と言われる。
「うるせーよっ!」
売店のおばさんだと思った俺は怒鳴りつけた。
すると渕さんが顔を真っ赤にして殴り掛かってくる。
レスラー5人に両手足抑えつけられ、「馬場社長の奥さんに向かって何て口を利いてんだ、このクソガキ!」
え…、馬場社長の奥さんだったの……。
ヤバいとは思ったけど、この苦痛だった一年間を過ごしてきた俺は、頑として謝らなかった。
身動きの取れないところに三沢さんが通り掛かり状況を見て「どうしたの?」と聞いてくる。
渕さんが状況を話すと、三沢さんは俺の腕を取って起こしてくれ、「若いんだからこれからおいおい覚えていけばいいよ」とその場を諌めた。
俺はそれから三沢さんの後ろ姿を追うようになり、憧れの存在になった。
そんな三沢さんがあのような亡くなり方をして、本当にショックだったなあ。
今頃鶴田師匠と酒一緒に飲んでいるんだろうな。
今度川田さんの麺ジャラスKに行ってこようかな……。
時間は悲しみを軽減する?
「……」
残酷だけど本当だな。
あの時は自然と出た涙が、今はもう出ない。
でも喪にふくそう。
あの偉大な背中を見れた俺は、本当に果報者でした。
三沢さん……。
ゆっくり風呂に浸かり、若かりし頃の全日本プロレス時代を回想する。
ジャイアント馬場社長も、もうちょっと辛抱して成長した俺を使っていれば、当時なら絶対人気レスラーになれたのになあ。
何を強がり言っている?
今じゃ、こんなしょぼくれた五十二歳のオヤジになってしまったんだ。
大沢史博がしでかしたヤクザとの乱闘騒ぎで警察に捕まった時点で、俺を切った馬場社長の判断は、悲しいけど正しかった訳だ。
群馬の先生の台詞を思い出す。
今世で生まれた意味合いは、戦う事ではない。
まだあの当時血気盛んだった俺。
でもあの時の言葉は、妙に納得してしまったのだから。
去年三十三歳の誕生日を迎え、今年の三月頃まで本当に不幸の連続で呪われているとしか言いようない事が俺自身に振りかかった。
実際、あいつと一切離れてからはトントン拍子に物事はうまく進んでいる。
山下との給料の開きを除けばであるが。
このような事もあって、前世は雷電だったと言われた事を俺は自然と理解したような感じがする。
俺の本質は戦う事。
「先生…、俺はまたリングの上で……」
もう一度、格闘技界へ復帰したい意思を伝える。
「うーん…、ごめんね。あなたは格闘技は無理よ。何かやろうとすると必ず邪魔が入るでしょ?」
思い返してみる。
全日本プロレスのプロテストに受かり、いざ合宿という段階で同級生の大沢が暴れて警察の厄介になった。
結果ジャイアント馬場社長から来なくていいと、入門を取り消された。
総合格闘技へ復帰した前夜もそうだ。
親父の愛人のような加藤皐月。
あの女が親父に捨てられると真夜中家に来て大騒ぎ。
俺は寝ずに酒を飲んで試合へ臨んだ。
二つとも俺が起こした原因ではない。
「思い当たるでしょ?」
「はい……」
「だって雷電がそっち行こうとすると、あなたの袖を引っ張っているから」
雷電が俺の邪魔をする?
守護霊じゃないのかよ?
「雷電が言っているわよ。前世の時点で戦う事は済んでいる。現世であなたがやる事は、別にあるはずだって」
自分で勝手に業が深いと決めつけていた。
もしかしたら違うのか?
今の俺にできる事……。
戦うではなく、小説を書くという事。
心が何だかスッキリしていた。
「ほら、彼女さんももう大丈夫よ」
百合子を見ると、普通に立ち上がっている。
「ごめんね…。もう大丈夫」
「ごめんなさい、そろそろお時間になります。次の方が外で待っていますので」
もう二時間も経っていたのか。
俺は深々と頭を下げ、お礼を言う。
群馬の先生はまったく欲が無いと表現したらいいのだろうか。
二時間もこんな話をして、代金三千円しか取らない。
次の人が待っているので、これ以上粘っても迷惑だろう。
俺たちはローズマリーをあとにする。
俺は分かっていたはずなのに、またあのあともう一度リングへ立つ覚悟を背負ってしまった。
「うーん…、ごめんね。あなたは格闘技は無理よ。何かやろうとすると必ず邪魔が入るでしょ?」
群馬の先生のあの台詞。
聞こえないふりをした行動。
結果、また邪魔は入った。
薄情な中学時代の同級生ゴリの手によって……。
DEEPの佐伯社長から撮影時、隣に来るよう促され写真撮影。
賞を取った小説家が、総合格闘技のリングで戦うと紹介される。
会見後、長谷川昭夫と連絡を取り新宿駅周辺で落ち合う。
彼の同郷の幼馴染斉藤裕二も東京へ出てきていたので、三人で食事を楽しむ。
紀伊國屋書店へ寄り、斉藤裕二が店員に『新宿クレッシェンドはあるか?』と聞くと案内される。
書店に置かれた俺の本……。
斉藤裕二は一冊買ってくれ、残りの本を平積みコーナーへすべて持っていき、強引に並べてくれた。
整体の祝い金までくれ、クレッシェンドの事もこんな風にやってくれる。
俺は彼に深い感謝を覚えた。
いよいよ明日になれば、復帰試合。
帰り道、風俗『ガールズコレクション』の四人のオーナーの一人、平野さんとバッタリ会う。
「おお、岩上。おまえは今どこで何をしているんだ?」
本を出版し、明日新宿フェイスで総合格闘技の試合へ出る事を告げると、応援に来てくれるらしい。
俺の集大成か……。
川越へ戻り、明日へ備える。
「あ、いけね……」
肝心の試合用コスチュームやマウスピースを用意していない。
ただ整体も閉め、資金がまるで無い俺。
俺は家の役員会議の時協力した従兄弟の南大塚の叔父さんへ、金の無心に行った。
頭を下げて、八万円という金額を借り、それで何とか試合用の準備を整える。
あとは明日に備えてゆっくり部屋で休もう……。
突然ゴリから電話があった。
本来なら相手にもしたくなかったが、幸せな環境に包まれ幸せな時を送っていたので、俺は笑顔で電話に出た。
「あ、わりーね、岩上」
「何か用? もう明日試合なんだよ」
「ちょっと悪いんだけどさ。今からちょっと会えないかな?」
「何でよ? 俺、正味あと半日で試合なんだよ?」
「ああ、それは分かってる」
「ゴリは俺の試合、仕事で来れないんでしょ?」
「ああ…。でもさ、今日、結菜の事考えていたら、悔しくて会社休んじゃってよ」
「はあ?」
この男、仕事で俺の試合を来られないと言っておきながら、あんな女の事で悩んで会社を休んだだと……。
頭の構造がとうなっているのか、本当に分からない。
「もう俺さ、あいつとの関係を終わりにしようと思ってるんだ……」
終わるも何も、はなっから何も始まっていないだろうがとつっこみを入れたいが、何やら非常に面白そうな展開になっている。
「何があった訳?」
好奇心が疼く。
「些細な事から喧嘩になってさ。それで俺も勢いでガーガー言っちゃって、そしてら向こうが『じゃあ、終わりにしようね』って本当に怒り出しちゃってさ」
「ちょっと落ち着けよ。最初から手順を踏んで聞かないと分からないよ」
「だから、これから会えないかって言ったじゃん」
「会うってどこでよ?」
「居酒屋か何かでさ、今日は飲みたい気分なんだ」
「あのさ、俺は明日試合なんだけど……」
よくもまあ、こんな台詞を抜け抜けと言えたものである。
「それは分かっているよ。わりーなーとも思ってる」
「いや、思ってたら、こんな電話してこないでしょ?」
「とにかく今からおまえの家まで歩いて行くからさ」
「え? おい、ちょっと……」
ゴリからの電話は、もう切れていた。
好奇心に負けた俺は、結果的にゴリの話に付き合ってしまい、徹夜で試合へ臨み負けた。
当然ゴリは試合の観戦には来なかった。
本当に自分の馬鹿さ加減が嫌になってくる。
「だって雷電がそっち行こうとすると、あなたの袖を引っ張っているから」
今度は雷電がまたゴリを使って、俺の邪魔をした。
そうとしか思えない偶然。
自身の取った行動は、明らかに軽率だった。
そこを差し引いても、未だあの時の事は色々と後悔している。
もうお昼か……。
あり合わせの材料で何ができるかな?
買い物に行かないと、得意料理は無理。
面倒臭い。
この材料で中華丼でも初めて作ってみるか。

初挑戦の中華丼。

まずはフライパンにごま油引いて、豚肉投下。

人参とゴボウ。

白菜。

サッと油揚げした茄子にウズラの卵。

味付けは醤油、砂糖、塩、味覇。

片栗粉溶いた水入れて。

強火で仕上げます。

初めて作ってみた感じは、ちょっと味濃くなっちゃったw。

中華丼でした。
俺、中華丼って今まで一度も店で頼んだ事ないんだよね。
弟だった貴彦が、呑龍の中華丼好きだったっけ……。
その呑龍はもう閉業し、貴彦は叔母のピーちゃんと内密に養子縁組をして、戸籍上兄弟ではなくなってから、何年経ったのだろう?
今さら何をそんな事蒸し返す?
意味の無い事を考えたところで何の答えも出やしないのに。
それにあいつら、俺が作った料理など、一口も食べずにカビが生えても冷蔵庫へ放置したままにするような連中じゃないか。
貴彦が怪我をして無職で金が無かった時、どれだけ俺は金をやり面倒を見た?
あの男は何の感謝もなくせせら笑っていただけ。
まだ忘れもしないあの時の光景。
部屋のノックが鳴る。
弟の貴彦が友達来てるからピザの宅配を取っていいか聞いてきた。
「おう、適当に頼みな。少し俺も食べたいけど、来るまで寝ているからピザ届いたら教えてくれ」
色々考えている内に俺はそのまま寝てしまう。
身体を揺さぶられ起こされる。
「やっと起きた。もうピザ来てるよ」
貴彦が目の前にいたので、一万円札を渡し支払うよう伝えた。
少し俺もピザをもらうか。
顔を洗い、三階の貴彦の部屋へ行く。
「あ、お兄さんご馳走になってます」
後輩…、貴彦の友達らがみんな頭を下げる。
ピザに手を伸ばし俺も一緒に食べた。
「そういえば貴彦。ピザのお釣りは?」
「ああ、あれは俺の手間賃としてもらっといた」
友達の前なのか弟は変に笑いながら余裕を見せている。
「オマエ、それはちょっと違うだろ?」
山下の一件もあり、心にイラつきが募る。
「兄貴は金持ってんだから、細かい事気にしない方がいいよ」
そう言って下品に笑う貴彦。
俺の表情が怒りで覆われていき、貴彦以外の同級生は下を向けて黙り出す。
「……」
散々金を無償であげ、コイツの彼女の麻美の誕生日には新宿プリンスホテルで豪華な部屋を取って金まですべて出してやり、途中途中小遣いだってやっている。
それでこの言い草は何だ、このガキ……。
「兄貴はさ、金稼ぐのはうまいけど、金の使い方を知らないから俺が使ってやってんだ」
得意げに話す貴彦。
俺は立ち上がり、顔面を蹴っ飛ばす。
「図に乗ってんじゃねえよ、小僧が!」
怪我して引き籠もって大変だと思い、少しは兄らしい事をと金を定期的にあげてきた。
それがこんないい気にさせ、図に乗らせていただけとは……。
「もうオメーには金なんてやらねえよ」
黙っている後輩たちを無視して俺はドアを思い切り閉め、部屋へ戻った。
「……」
一体何に対し希望を見い出そうとしている?
もうすべては終わった事なのだ。
人間が本来ある境界線を、あいつらは一線も二線も超えてしまった。
二度と俺とは交わる事は生涯ないのだから。
俺は暗い気分のまま着替えを済ませると、インカジ『レディ』へ向かった。
二千二十四年六月十四日、金曜日先負。
三沢光晴さんの命日。
そして貴彦との過去の回想。
二つの暗いものがぶつかり、この日俺は何も食べずにインカジ『レディ』で働いた。
経費で出る食事代の千円。
食欲の無い俺に対し、使わないと勿体ないからと人の金で出前を取って食べる従業員の星野。
そんな些細な事すらどうでもよかった。
すっかり忘れていた感覚。
俺の心には無数の傷があり、根底には静かなるどす黒い憎悪が蓄積したという事実に……。
二千二十四年六月十五日、土曜日仏滅。
無性に女を抱きたくなった。
しかし詐欺回復貯金中の俺は、風俗へ行けるほどの余裕がない。
惨めな男は、性欲をマスターベーションで処理するほかないのである。
俺がまだKDDIを辞めて休業補償時代、ひたすら俺の小説を読み、応援してくれた愛知県に住む人妻のみゆきを思い出す。
別の事を考えよう。
…といっても、俺は小説の事くらいしかないか。
あれだけ大勢の人間が応援してくれたのに、今じゃほとんどいなくなった。
俺に生の感想を届けてくれるのは、みゆきくらい。
みゆきの存在にはとても感謝している。
しかし彼女は、単なる俺の小説の一ファンに過ぎない。
もうしほさんのような的確な指摘をしてくれるような人は、もう現れないのだろう……。
俺は自身が執筆した作品『パパンとママン』を最後で壊した。
自分が生み出したものに対して単なる八つ当たり。
無抵抗…、または抵抗できないものに対しての攻撃。
これって、虐待に近いものがある……。
散々作品で母親への憎悪を込めたくせに、自分でも同じような事をしていた。
血は争えないのか?
俺も親父もお袋も、みんな糞まみれだ。
全員がそれぞれを憎しみ合っているだけ。
俺はよく短気だと言われる。
それは間違いだ。
短気だったら、とっくに親父や加藤皐月、ピーちゃんなどこの手で殺している……。
まだ何とか理性が働いているから、抑えているのだ。
平穏無事に温く生きてきた人間に、俺の苦境の何が分かる。
俺は聖人君子でもないし、霞を食って生きられる仙人でもない。
しほさんも、セクラクララも過度な要求を俺にしやがって……。
「……っ!」
部屋の電球が切れ、真っ暗になる。
またかよ。
この間取り替えたばかりだろ?
この間は百円ローソンなんかで買ったから、不良品の電球だったのだろう。
俺は近所の二十四時間スーパーマルエツで、新しい電球を買ってくる。
電球の付け根のところに、何かしらの原因があるのだろうか?
そろそろ休業補償も終わり。
現実を見て、働いて金を稼ぐ必要があった。
みゆきからメールが届く。
彼女もどうせ、俺があえて崩した『パパンとママン』に対する質問の内容だろう。
俺はこの程度の物書きだ。
勝手に幻滅して去ればいい。
メールを開くと、俺は驚いた。
そしてあれだけ怒っていた感情が、驚きにより冷静さを少し取り戻す。
『智さん、何かあったんですか? みゆきは何か心配しています。パパンとママンの最終章読みました。智さんに何があったのか、分かりません。みゆきで良ければ何でも言って下さいね。 澤井みゆき』
画像が添付されている。
見ると、みゆきの下着姿の画像だった。
一体彼女は何故、こんな画像を?
俺はみゆきへ電話を掛けた。
「智さん、どうしたんですか?」
「みゆきさん…、何であんな画像を?」
「んー…、何て言うか…。智さん今元気無いのかなって思って……」
「そりゃあ俺も男だから、君のような綺麗な子の下着姿の写真なんて見たら、嬉しいし興奮だってするよ! でも何でこんな真似を?」
「最終章読んだら、今までと全然違うじゃないですか! 智さんの私生活に、何かあったんじゃないかって…。気が付いたら、あんな写真撮って、智さんへ送っていました」
「……」
「あの…、迷惑でしたか?」
「迷惑だなんて…。さっきも言ったでしょ? 俺も男だって……」
「みゆきは智さんの小説が大好きなんです。鬼畜道とかも読んだから、智さんの現実の辛さ、ちょっとは分かっているつもりです。でも、みゆきは馬鹿だから、こんな事しかできなくて……」
彼女なりの配慮。
ドス黒い憎悪が薄れていくのが分かる。
「君は人妻で、幼い子供だっているでしょ」
「もちろん分かってます。でも、本当、気が付いたら写真撮っていたんです。嫌な思いさせて、ごめんなさい……」
「いや…、嫌な思いなんてしていないよ。むしろビックリしたけど、興奮もした」
「それなら良かったです」
「みゆきさん、ごめんよ」
「え、何がです?」
俺は中野英幸さんから昼食に誘われ、選挙の出馬表明から家を継げと言われた事。
以前同級生を呼んで家で飲み会をしていたら、伯母さんのピーちゃんがかなり失礼な真似を友人たちへした事。
家の内情を振り返り、スッキリしていたはずの心が憎悪に染まった事。
愚痴に近い感情をすべて彼女へ吐き出した。
「みゆきは、智さんがどんな辛い心境で書いても、楽しく書いても、智さんの小説は全部好きです」
「ありがとう…。本当にみゆきさん、ありがとう……」
俺は一回り以上年下の人妻に、電話口で深々と頭を下げた。
俺が闇に落ちないよう、こうしてまた救ってくれる人がいる。
全然実っていないが、頭を垂れる稲穂になれよ。
優しくて本当に綺麗な子だった。
いつの間にか俺との関係は自然消滅したけど……。
いつだったか俺の誕生日に、彼女がおっぱいの写真を一度送ってきてくれた事があったな。
もちろん卑しい俺は、未だその画像を持っている。
詐欺で百四十万円失うぐらいなら、愛知へ行って一度みゆきを抱きたかったなあ……。
もう俺の元から去っていった女。
もう俺の作品は読まなくなった女。
彼女の綺麗な乳首を見ながら、俺はイチモツをしごいた。
惨めでもいい。
どんなに卑屈でもいい。
俺はまた立ち直し、復活してみせるからな。
離れていった人間どもには、あとで絶対に後悔させてやる。
こんな凄い作家だったのかと……。
みゆき…、おまえもそんな一人だ。
擦り寄ってきたら、俺の熱い精子を掛けてやる。
彼女の裸を見ながら、ティッシュの上に射精した。
出すものを出すと聖人モードに切り替わる俺。
酷く惨めな気分になりながら、みゆきとのやり取りを振り返る。
そういえばみゆきは、俺が書いた小説『パパンとママン』に出てくるエキゾチックナポリタンのレシピを当時聞いてきたっけ。
よし、今日は久しぶりにナポリタンを作ろうじゃないか。
それもみゆき好みのをね。

まず麺を茹でます。

どうせあとで炒めるので若干固めに茹でてもいいとは思います。

フライパンにオリーブオイル引いて、ベーコン投入。

玉ねぎ投入。

ピーマン投入。

ここでアトランティスソルト、黒胡椒、ダイムを入れ。

茹でた麺を投入。

ブイヨンを入れ。

ケチャップ入れて。

よく炒めましょう。

チーズとタバスコはお好みで。

エキゾチックナポリタンの完成です。
パルメザンチーズをたくさん降り掛け口に頬張る。
やっぱナポリタンはこうじゃないとね。
あー、一回ぐらいみゆきに会いに行けば良かったよー……。
十数年ぶりに汚しちゃってごめんね。
二千二十四年六月十六日、日曜日大安。
考えてみたら店の食事代の千円って、無理に出前を取らなくたって、スーパーなどで食材を買ったレシートでも清算してくれるんだよな。
先日星野が、俺の飯代で出前食っていたけど、あんなカスにやるぐらいなら、調味料を数個買い置きしておいた方が、よほど有意義な使い方だった。
そんな訳で俺は大久保界隈の色々な店の調味料探しの旅に出た。
現在ストックしてあるスパイスに加え、今回買った分を足すと全部で十七種類。
これをふんだんに生かせる料理といえば…、カレーしかないじゃないか。
節制した生活は強いられているが、別に明日食う食事すらという訳じゃない。
できる範囲でいい。
優雅で贅沢さを感じられるものを、自分だけが感じ取れればいいのだ。
17種類のスパイスを使った無水ポークカレーと魚沼産コシヒカリ&麦飯

17種類のスパイスを使った無水ポークカレーと魚沼産コシヒカリ&麦飯。
そういえばチキンカレーとかキーマカレー作っていないのか。

まずバターを引いて玉ねぎを弱火でじっくり飴色になるまで炒めます。

人参投下。

ジャガイモは表面をよく洗ってから皮のまま入れます。

豚バラ入れます。

香草系、ダイム、ローズマリー、オレガノ、パセリ、バジルを入れます。

調味料、カレー粉、チリペッパー、ガーリック、ガラムマサラ、うこん、塩胡椒、ナツメグを入れます。

鶏がらスープの素、ブイヨンを入れます。

よく混ぜて炒めて。

マッシュルーム投下。

トマト缶投下。

ヨーグルト投下。

じっくり中火でコトコト煮込みます。

弱火にして蓋してじっくり煮込みましょう。

ここで火を止めます。

カレールー投下、ここは一旦火を止めてよく溶かしましょう。

これでカレーのベースは完成。あとはじっくり煮込んで寝かせて。

はい、完成です。
ちょっと辛かったので蜂蜜入れて辛さ調整し、ウスターソースも加え煮込みました。

今回は麦飯と魚沼産コシヒカリを焚いてみました。
今回のちょっとした失敗は、蓋閉めて弱火で煮込んでいる時、ちょっと目を離したら底が焦げ付いてしまったんですね。
できるだけ焦げは取り除きましたが、煮込む際火元から離れてはいけないという教訓でしたw。
一晩寝かせて、また煮込んでを繰り返してもOKです。
味見したところ、自画自賛ですがかなりいい出来具合でしたw。
何か俺ってちょっと幸せじゃね?
スパイス効果か、全身の細胞が歓喜の悲鳴をあげている気がする。
いい感じに汗も出てきたから、お風呂へゆっくり浸かろうではないか。
二千二十四年六月十七日、月曜日赤口。
横浜の石川雅之が新宿へ遊びに来たあと、ベランダでコケて手を切ってから、一週間でここまで回復した手。
若い頃なら一日寝れば治っていたんじゃないかと思うが、回復力落ちたのかな?
まあこれもいい経験だ。
ブログに書いて、今の俺の健康状態を記しておこう。

先週……。
ベランダでコケて負った傷が、一週間でここまで回復しました(笑)。
一時は手相変わってしまうんじゃないかと心配していましたが、杞憂に終わりそうです。
また機会あったら、手相やらタロット占いやら、色々してみたいなあとは思っています(笑)。
ロマンス詐欺にも遭っているのに、まるで懲りていない俺。
だってしょうがない。
乙女座なんだから。

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