闇 660(岩上智一郎黎明期編)
闇 660(岩上智一郎黎明期編)

2026/08/30 sun
※まず史実通りの広大な人生の一次プロット。これを書き切らないと、俺は次に進めない。
前回の章

二千二十四年四月三十日、火曜日大安。
今日で四月も終わりなのか。
そんな事をふと考える。
つまり若香が日本へ来るまで、あと二ヶ月。
時間が経つのは…、早くねえよ!
まだ六十日もあるじゃねえか。
まあ朝まで仕事をすれば、今日は休み。
何だか働いて寝て、それ以外の時間はほとんど若香とLINEのやり取りをしているような気がするな。
いや…、若香の叔父の教えてくれる金の取引……。
あと三十万ほど注ぎ込めば、一日二万円ぐらいの稼ぎになる。
では、五十万入れたら?
少なくとも三万円は、あの取引で金が入ってくるはず。
土日はやらないと言っていたから、平日の五日で十五万。
つまり一週間で十五万だから、四週間で六十万。
インカジ『レディ』の給料と変わらないぞ?
高円寺の手相占い師の言葉。
「本当に色々な事をやられてきたみたいですね。五十二歳ぐらいから、あなた、凄いお金持ちになりますよ。これまでの事を色々な角度から精力的に動き、そうですね…、収入も多方面から入ってきます。六つ…、いや七つぐらいから。あなたが手掛けるのは、五つ…、うん、本当に器用に色々やられるんですね」
西谷泰人の指す凄い金持ち……。
レディの給料を合わせれば、月に百万円を超える収入。
俺が金をどんどん入れたら?
全身にブルッと電気が流れたような気がした。
平日だけでも毎日十万単位の金が、若香のように入ってくるなら、俺はもの凄い流れの中にいるのではないだろうか。
あの操作する時間は確かに手間が掛かる。
それでも数十分だけ集中すれば、金を手にできる事は昨日で理解した。
若香との今後を想像しながら、朝の七時になる。
『仕事終わって、これから帰ります。今日は休みです。 岩上7:01』
自称俳優マンションへ帰ると、昨日店長の斉木にあげてしまったイクイノックスの記事を書く事にした。
若香が見るといけないから、あげた事は内緒にしておこう。

イクイノックス二個目GET!

700円掛かりましたw。

今週HNKマイルチャンピオンシップ(GⅠ)なので過去10年の配当載せておきますね。
まあ最悪彼女には、俺の持っているイクイノックスをあげればいい。
早く会ってあの女の大きな胸を見たい。
洋服を脱がせ、ベッドへ押し倒し、乱暴に俺のものを突き刺したかった。
『おはようございます。イチロー。若香ももう会社に着いた。新しい一日はいい気持ちになりますね。 朱婧瑶8:59』
『おはようございます。若香さんの一日が始まりますね! あなたに幸運が訪れるよう俺は祈ります。映画見ながら横になっています。おそらくそのまま眠ると思います。 岩上9:07』
朝から俺も何を歯の浮いたような台詞を抜かしてんだか。
『大丈夫ですよ。イチローは先に寝に行く。目が覚めたら若香に教えてね。 朱婧瑶9:18』
彼女に返信しようとして、我に返る。
時刻を確認すると十一時。
いつの間にか二時間ほど寝てしまったのか。
『おはようございます。起きました。 岩上11:04』
若香へ起きた事を伝える。
グループLINEに何か届いているぞ。
【グループLINE】
うわ、いきなり長文で叔父が書いてあるぞ……。
『月曜日(四月二十九日)のヨーロッパ市場では、現物金が小幅に揺れて上昇し、現在二千三百三十八・〇四ドル/オンスに投入されている。金価格は先週の金曜日に反発が阻まれ、二千三百三十七・三十六ドル/オンスを受け取り、これまでのデータはアメリカの物価上昇率が予想に合っていることを示した。中東危機の重大なエスカレートを避けた後、いくつかの地政学的リスクの割増に伴い、金価格の周線は依然として二パーセント以上下落し、十二月以来の最悪の週度を記録した。今週はスーパーデータ週間、水曜日ADPデータ、木曜日失業金データ、金曜日非農データを迎え、多くの影響があります。現在の相場は技術面だけで未来の相場を見ることはできず、一つのデータで現在の相場の動きを変えることができるかもしれない。金は最近牛市で一方的に上昇し、最終的に過去最高を更新して二千四百三十付近まで阻まれ、その後崩壊を迎え、最低二千二百九十付近まで下落した。ただ、値下がりもうまく続かず、二千三百の大台を割ることに成功せず、逆に揺れて緩やかに回復し、下方には大量の買い入れが支えられていることを示している。 Zhu Min 10:21』

『はい。叔父。若香は分かっている。 朱婧瑶 10:28』
えーと…、この専門用語の羅列は何?
さっぱり意味が分からない。
『おはようございます。詳しいご説明ありがとうございます。 岩上11:06』
それでもこの叔父の指示がなければ、俺は何もできないでくの坊。
プライベートで若香からメッセージが届く。
『どうしてこんなに早く起きたのですか。もっと寝てね。 朱婧瑶11:07』
優しいなあ…、言われた通り、休みだしもうちょっと大人しく寝ておこう。
『分かりました。また寝ますね。おやすみなさい。 岩上11:09』
『じゃ、ゆっくり寝てね。今は目が覚めていない状態ですね。 朱婧瑶11:17』
睡眠時間元々短いほうなんだけどね。
俺は昼過ぎまで眠り、目を覚ますと十四時を回っていた。
【グループLINE】
『データチームは今日も良い取引があることを知らせます。先生は取引の一時間前にみんなに知らせます。昨日学生は出金を勉強しましたか? Zhu Min 11:57』
『はい、叔父。どうもありがとうございます。イチローはまた寝る。彼は夜に仕事をする。昨日、若香はイチローに出金業務の勉強を指導した。 若香6/8朱婧瑶 11:59』
あれ、若香が俺の生活状況を叔父にフォローしてくれているぞ。
まずは彼女へ挨拶をして、そのあと叔父のほうだな。
『再び起きました。 岩上14:04』
続いてグループのほうかよ。
あー、面倒臭い。
【グループLINE】
こっちは丁重に敬意を払いながら打たないとね。
『はい、昨日若香さんに教わり、実際に出金をしてみました。 岩上14:05』

あれ?
反応がない。
あ、取引をする一時間前に連絡すると言っていたもんな。
若香も仕事中だろうし、話し掛けて邪魔しても悪い。
腹も減ったから何か食べに行こう。
たまには誰かの作った料理を食べたかった。
その前にお風呂入ってからにするか。
身支度を整え、自称俳優マンションを出る。
必然的に大久保通りを左に行くも、ドンキホーテの看板が見えたところで、若香へ住んでいる近所の様子を見せようと写真を撮った。
コンビニへ入ると、昨日サイトから一万円を引き出していたので、十万円を入金してみる。
これで十四万円入金している事になる。
逆方向へ向かい、真っ直ぐ歩く。
小滝橋通りへぶつかると右手に見える中華料理店寿楽へ入った。
『来ました。昼にイチローは何を食べましたか。 朱婧瑶14:59』
『今外出て、何食べようかなと歩いているところです。 岩上15:00』
大久保通りの街並みの写真を見せる。
『イチローは何を食べるつもりですか? 朱婧瑶15:11』
『牛と豚肉のXO醤炒めを注文しました。 岩上15:13』
料理が到着すると、これも彼女へ送った。

『いいですね。この定食はいくらですか。 朱婧瑶15:20』
日本円で値段を言って、シンガポールに住む若香に理解できるのかな?
『少なすぎないでしょうか。お腹がいっぱいになりますか? 朱婧瑶15:21』
『九百円ですね。起きたてなので、少し足りなくくらいの量でいいかなと思いました。 岩上15:21』
確かにいつもならこの二倍は食べているところだ。
『いつも気遣いをありがとうございます。 岩上15:22』
『イチローは若香がすべきことだよ。自発的な気持ちになる。悔いはないよ。 朱婧瑶15:25』
ちょっと意味が分からないけど、俺の事を想ってくれているのだろう。
食事を済ませ、店を出る。
『俺は幸せ者ですね。 岩上15:25』
『若香にイチローがいても幸せな人だからね。 朱婧瑶15:30』
こんな五十二歳の男を捕まえてよく言うものだ。
『嬉しいです、素直に。 岩上15:31』
あれだけの金を儲け、外見だって綺麗なほうである。
何故俺のような冴えない男に、こう毎日やり取りしてくるのか。
そんな事をぼんやり考えながら、エレベーターのボタンを押す。
『部屋に戻りました。 岩上15:31』
ベランダへ出てセブンスターに火をつけた。
『これは本心から感じられることですね。 朱婧瑶15:45』
『言葉で発するのも大事なことですが、行動もそれに伴って初めて誠意になると、俺は考えています。 岩上15:46』
お互い目で確認できない距離。
それでも誠実に生きようとする尊い心境。
『これはもちろんです。言うより永遠にやる方が大切ですね。 朱婧瑶15:48』
『ええ、俺ね、若香さんと知り合えて本当に良かった。 岩上15:48』
言うだけと、実際に行動するはまるで別物。
『縁は天に決まっている。良い人を孤独にさせないからです。かつての子供の性格も過ぎた。今は一人を気にしています。 朱婧瑶15:51』
以前よく輪廻転生の自論を考えた。
この呪われた半生は、生前自分の前世によってこのようになるようすべて決められていたのではないかと……。
だとすれば、今のこの安らいだ気持ちすらも、元々決まっていた事?
『縁は天に決まっている……。今はそれを実感できますね。 岩上15:52』
『もちろん感じますよ。 朱婧瑶15:54』
二本目のタバコに火をつける。
『イチローは今横になっていますか。後で叔父が取引の時間を知らせますよ。絶対に寝ないで。 朱婧瑶16:04』
『寝ませんよ。先程一時間後と言っていたので、そろそろですね。 岩上16:04』
大事な儲け話なのだ。
絶対にポカとしてはいけない場面。
『そろそろだと思います。叔父からの知らせをしばらく待ちます。 朱婧瑶16:06』
『そうですね。 岩上16:06』
あれ、若香との会話で気付かなかったけど、グループLINEにメッセージが届いているぞ。
【グループLINE】
えーと、寿楽行く前に返事したのが三時頃だから、そろそろだもんな。
『約一時間後に今日の取引が始まります。先生は早めにみんなに知らせます。 Zhu Min 15:06』
『ありがとうございます。よろしくお願い致します。 岩上15:08』
『はい。叔父に感謝します香ちゃんは一生懸命勉強します。 朱婧瑶 15:10』
あ、ここからか。
『みんな今プラットフォームにログインします。 Zhu Min 16:09』
『了解しました。 岩上16:10』
『受け取りました。叔父。 朱婧瑶 16:10』
金取引サイトへ入る。
十万円追加したから十四万円分。
叔父は気付くかな?
『みんなプラットフォームにログインして、XAUUSDを選択します。赤を選択します。 Zhu Min 16:11』
さていよいよ今日も開始か。
叔父の指示通り、俺と若香はそれぞれ自分の画面のスクリーンショットを撮り、それをアップした。
『姪は三百六十秒を選びます。金額:十六万六千三百十四。学生は百二十秒を選ぶ。 金額:九百十二。注文を確認します。 Zhu Min 16:14』
あれ、俺の数字が増えている事に何も興味を示さないな。
それより早く言われた通りやらないと。
えーと、数字を入力して二分のところをクリック。
十万足したぐらいじゃ、若香と比べたら屁のツッパリにもならないよね。

若香の奴、金額が大きいから六分かよ……。
『みんなカウントダウンを待っています。 Zhu Min 16:15』
『了解しました。 岩上16:15』
『はい、わかりました。とても楽しかったです。 朱婧瑶 16:16』
いやいや、若香。
それじゃ過去形で文面おかしいぞ。
あ、二分経った。
『終わりました。 岩上16:17』
『学生はXAUUSDの取引ページに戻る。そして赤を選びます。 Zhu Min 16:17』
『イチローの今日の収益獲得おめでとうございます。 朱婧瑶 16:17』

『ありがとうございます。はい、了解しました。 岩上16:17』
四十五・.六ドル…、約七千円ぐらいか?
叔父が赤枠をつけている画像を出す。
『学生は前のページに戻る。赤を選び直す。残高は更新されていません。 Zhu Min 16:19』

あれ、俺の操作ミスだったのか?
やり直してみよう。
『これでよろしいですか? 岩上16:19』
また画像を出してくる叔父。
『学生の残高が更新されました。しかし、製品の選択は間違っています。XAUUSDを選択する必要があります。 Zhu Min 16:20』
『先程より数字が増えました。 岩上16:20』

あ、文字を打つより、まず画面を見せなきゃね。
『前の注文で儲かったからです。だから残高が増えました。前のページに戻って、XAUUSDを選択します。赤を選択します。 Zhu Min 16:21』
集中しろ。
せっかく金になる事を教えてくれているんだ。
『百二十秒を選択します。金額:九百四十九。注文を確認します。 Zhu Min 16:21』
若香の取引の時間が終わったようだ。
彼女の出す画像で分かる。
そうじゃない。
今は自分のほうを集中しろって。
『姪はXAUUSDの取引ページに戻ります。赤を選択します。 Zhu Min 16:22』
えーと、若香も当然数字増えているんだよな。
祝福の言葉を贈っておこう。
『若香さんおめでとうございます。 岩上16:22』
桁違いな金額という事だけは理解できる。
『イチローさんありがとうございます。本当に楽しかったですよ。 朱婧瑶 16:24』
『姪は三百六十秒を選びます。金額:十九万二千六百五十八。注文を確認します。 Zhu Min 16:24』
あ、身内の前でイチャついている場合じゃないか。

あれ?
俺のサイト、変なマーク出ているな?
これってヤバくないか?
とりあえずスクリーンショットを撮って見せる。
『学生のインターネットは遅れているかもしれない。先生がマークしたところをクリックして見ます。 Zhu Min 16:25』
えーと、注文の確認のところの右隅のバツを押すのね。

凄いな若香の叔父は。
何でも熟知している。
ちょっとした俺のトラブルもすべてお見通しだ。
『また増えています。 岩上16:27』
『増えました。さっきの注文も儲かりました。 Zhu Min 16:27』
これっておそらくまだ続くよね。
『ありがとうございました。 岩上16:27』
『学生は百二十秒を選ぶ。金額:九百八十七。注文を確認します。 Zhu Min 16:28』
ほら、来た。
今度は慎重に言われた通り……。
『イチローさんおめでとう。本当に素晴らしいです。 若香6/8朱婧瑶 16:28』
よし、時間のカウントダウンが始まった。
若香、悪いけど今返事をする余裕がないんだ。
分かってくれよ。

『先生の指導あってのおかげです。 岩上16:29』
『学生は今日操作がもっと上手になったこれは明らかな進歩です。 Zhu Min 16:30』
やっと一息つける、二分だけ。
『ありがとうございます。正確で迅速な先生の指示があってです。 岩上16:30』
よし、俺のほうは終わり。
『今、データノードは終わりました。今皆さんは今日の収入を計算してみましょう。 Zhu Min 16:31』
まず先に取引を終えていた若香が、自分の今日の儲けを見せてくる。
『はははは。楽しかった。今日は本当に楽しかったです。夜はお祝いに行かなければなりません。 若香6/8朱婧瑶 16:32』
三万二千七百五十一ドル?
俺と桁がいくつ違うんだよ……。
『三十六・四八です。 岩上16:33』

『学生の計算は間違っていますか? Zhu Min 16:34』
え、俺の計算違うの?
もう一度見直してみよう。
『「若香」は今日の取引が終わって間もなく、総資産。 二十二万五千四百三十マイナス十六万七千九百九十四=五万七千四百三十六ドルの利益。八百九十三万円ぐらいに相当します。素晴らしい。大きな収入を得た。 朱婧瑶 16:34』
『データノードはもう終わりました。学生は三つの注文の総利益を計算する。 Zhu Min 16:34』
落ち着け。
冷静に数字を計算すれば分かる事だ。
『百十三・九二でした。 岩上16:36』
一万七千円ぐらいか?
『はい。学生は今日約千ドルの元本を使っているので、利益はさらに高くなった。学生が今日一万ドルの元本を使っているなら、あなたの今日の利益は千ドル以上になります。 Zhu Min 16:37』

投資に入れる分母がデカければ、当然返ってくる比率も上がる。
誰でも分かる事だ。
『凄いですね。 岩上16:37』
昨日元手五万が、三千円ぐらいだったっけ?
今日が十万追加の十四万円スタートで、一万七千円。
二日間で、俺は二万円増やした事になる。
『昨日出金と入金をやってみて、先生の素晴らしさが理解できました。ありがとうございました。 岩上16:38』
『叔父に本当に感謝しています。もし香が明日は多めに貯金するようだ。叔父はいくら貯金すればいいと思いますか。もし香に資金があればまだ時間がかかるからです。手に持っているのは十万ドルくらいです。 朱婧瑶 16:40』
十万ドルって、日本円でいくらだよ?
一ドル百五十円計算で安く見積もっても、一千五百万?
計算機を叩いて出た数字に圧倒される。
『学生は今では操作がもっと上手になった。あなたは自分の状況に応じて元金を増やすことができます。学生はあなた自身の経済状況を先生に伝えることができて、そうすれば先生はあなたのために分析して、あなたに投資計画を立てて、あなた自身に結合して簡単な参考をすることができます。そしてあなたが今どのような目標を達成したいのか、あるいは自分の未来の生活の計画を、先生に教えて、先生はあなたにアドバイスを与えることができます。あなたは現在負債があるかどうか、使用可能な資金がどれだけあるか、他の投資、収入状況、預金状況があるかどうかは、私のあなたの資産分析に有利で、そしてあなたの資産を向上させるのに役立ちます。 Zhu Min 16:41』
叔父の言いたい事は、俺がこの取引にいくらまで入れられるかという事か。
昨日は三十万入れると言って止められたのは、まだ俺の操作が完全ではなかったから。
今日の失敗を含め、そろそろ増額してもいいぞというお達しが出たようなもの。
『最近の相場はとてもいいです。姪は遊休資金があれば取引口座に増やすことができる。そしてこれで毎日受け取る利息も多いです。元本が多ければ、収益も多くなります。 Zhu Min 16:42』
実際に儲けを出している若香を見れば、一目瞭然だ。
『現在自由に使えるお金は百五十万です。給料は月に四十から四十五万くらいです 岩上16:42』
ちょっと少なく言っておく。
こんな大富豪たち相手に、自身を誇張したところで何の意味もない。
『先生の的確な指摘と指示がなければ、私の操作の向上はありませんでした。 岩上16:44』
『今は円安がとても深刻だからです。百五十万円は約九千六百ドルです。 Zhu Min 16:44』
計算早いな、さすが……。

『若香は分かっている。だから、今の相場がいいうちに、若香は空いている資金を取引口座に入金します。他の資金も次々と戻ってきている。 朱婧瑶 16:44』
こうやって利益が出るのも、今の相場がいいというだけで、無限ではないか。
俺が昔、秋葉原で山下哲也に言った台詞が被ってくる。
事務所で仕事をしていると、山下が秋葉原のアップルから売上を持ってくる。
「はい、今日の売上四十八万円です。あ、歩合で三万抜いているので、実質四十五万です」
「おー山下お疲れ様ね」
順調な売上を重ねる山下に対し、長谷川は常に笑顔だ。
六月もこれではまた百万円近い給料を手にするのだろう。
俺はといえば、給料変わらず月に三十万前後。
気にするな……。
キリが無いから気にしないって決めただろう?
「それでは岩上さん、お先に失礼します」
「おい、山下」
「はい」
「飲みに行くのはいいけど、遅刻するなよな」
今日の昼に電話した時も、こいつは出なかった。
それでもあえて遅刻したと長谷川には伝えていない。
「大丈夫ですよー。適当に嗜む程度にしときますから」
妙に調子に乗る山下。
「図に乗って無駄遣いばっかしてんじゃねえって言ってんだよ! 勘違いしてんじゃねえぞ、小僧。おまえ次遅刻してみろ、この野郎が……」
「す、すみません……」
俺が怒り出すと初めてシュンとする。
「まあまあ岩上さん、山下も頑張っているんですから、そこまで厳しくしなくても」
長谷川の助け舟。
これが山下をより堕落させる。
月に百万円近い金をもらい、遅刻していてどこが頑張っていると言うのだ?
「いいか? 今稼げる金はずっとじゃないんだぞ。使う事ばかり考えないで少しは貯金しろ」
「ちゃんとするようにはしてますよ。何なら通帳見せましょうか?」
「別にいいよ。俺は老婆心で言ってるだけだ」
「……」
あの時俺は、秋葉原の裏ビデオ屋が、ずっと儲かる商売だと始めから思っていなかった。
当たり前だ。
警察に捕まる違法商売なのだから。
新宿歌舞伎町では石原都知事の浄化作戦で洒落にならなくなったから、新天地で秋葉原を選んだだけ。
俺があの場所へ移動し、商売を成功させたという噂をあっという間に広がるのも分かっていた。
案の定歌舞伎町の小金持ちのオーナー連中は、右へ習えで秋葉原へ裏ビデオ屋を出し、当初二軒だけだった店が、一気に十数軒まで広がったのだ。
山下だけが高い金をもらう図式を作ってしまったのは俺。
それでもそのシステムが未来永劫ではないのを知っていたから、あいつに口酸っぱく金は貯金しろと言い続けてきた。
馬の耳に念仏だったが……。
今、種類は違えども、あの時の山下が今の俺。
『だからあなたたちが操作する時は必ず先生の指示に従って操作しなければならない。これで間違いはありません。私たちが投資をするのはお金を稼ぐためで、損をするためではありません。 Zhu Min 16:45』
物事には旬がある。
当時俺の新宿クレッシェンドが世に出た時、読売新聞の記者である秋田から言われた台詞。
一つ年上のスガ人形を継いだ須賀栄治さんから、食事の誘いがあった。
クレッシェンド第二弾『でっぱり』を書くきっかけになった先輩である。
以前お囃子の雀會騒動の時利用した近所のポケットマネーへ行く。
俺と栄治さん以外に、もう一人知り合いを呼んでいた。
読売新聞の記者、秋田。
栄治さんは賞を取った俺に、良かれと読売新聞記者を紹介してくれたのだ。
現在整体を経営しながら、小説でも賞を授賞。
過去に全日本プロレスや総合格闘技にも出場。
記事の特集を組みたいと言ってくれる。
「いいですか、岩上さん。記事には旬というものがあります。岩上さんの場合、色々やってきたのは分かりますが、旬としてはやっぱり小説になります。これから本を出す訳ですしね」
「ええ」
「読売新聞の関東版のみになりますが、岩上さんの特集記事を考えています」
「ありがとうございます!」
「ただですね…。その出版社、サイマリンガルでしたっけ? そこが読売のデータバンクに引っ掛からないんですよ」
俺は秋田へサイマリンガルのホームページを教え、現在も『第一回世界で一番怖いグランプリ』を開催中で、俺の作品『忌み嫌われし子』が一次選考を通過中というのを伝えた。
「もし、岩上さんがそちらの賞も取ったら、とても面白いですね!」
秋田はさらに興味を覚えてくれたようだ。
第二次選考もあと数日後に発表。
樽谷社長の台詞を考えたら、俺の作品は最終選考までは通過するはず。
俺のか『キャップストーン』かと、社長自身が言っているほどなのだ。
秋田は「調べて記事の参考にさせて頂きますね」と帰っていく。
新聞に、俺の特集記事が載るかもしれない……。
このような場を作ってくれた栄治さんへ、心からお礼を述べた。
俺はサイマリンガルへ連絡し、読売新聞の一件を伝えておいた。
結果、あの馬鹿な出版社は、俺の大チャンスに協力せず、顔を潰す形で台無しにしてくれた。
今なら自分ですべて決められる状況なのだ。
俺はもう…、旬を逃がしたくない……。
『はい、了承致しました。 岩上16:45』
『学生が今使える資金は百五十万円です。取引口座の上の金額を加えると、一万ドル以上になります。一万ドルあれば百八十秒の取引に参加できます。百八十秒の取引で、利回りは八パーセントです。これであなたの収入がかなり上がります。 Zhu Min 16:47』

百五十万入れれば、いくら儲かるんだ?
十四万で一万七千円。
単純計算で、十八万……。
一日それだけの金額が入ってくるなんて、これまでの人生を振り返るといつ以来になる?
あのゲーム屋『ワールドワン』の末期の頃が、また訪れるのか?
仕事中、番頭の佐々木さんから終わったらちょっと話があると言うので時間を作る。
できれば人気の無い静かな所がいいと言うので、新宿プリンスホテルのロビーラウンジを利用した。
「話ってどうしたんですか、佐々木さん?」
「今から言う事はワイと岩上君だけの秘密にして欲しい。大丈夫?」
いつもとは違う雰囲気の佐々木さん。
これまでの付き合いを考えると信用できる人なので、俺は黙ったまま頷く。
「オーナーの中川さん…、株や土地開発の失敗で十数億の借金抱えとるんや」
「えっ!」
思わず漏れる声。
「それでワールドワンもあと三ヶ月間で終わりになる」
「……」
一度は荒らされたが、ここまで店を復活させたのに後三ヶ月?
「他の店の番頭だった湯沢君が数ヶ月前に辞めたやろ? あれは彼が中川さんに五百万貸すのを渋って辞めたと言うかクビにさせられたんや」
「つまり金を貸すか、クビかを選択させられたと……」
「ワイは五百…、貸している。でも、もう回収できへん」
「は、はい……」
「ワイと岩上君が組んだら上にはバレへん。だからワイの金取り戻したいから、岩上君! ワイと組んでくれへんか?」
つまり店の金を抜くという事だろうか?
佐々木さんは本当に人がいい。
これまでだって何度も手痛い目に遭っても、スタンスは変わらない。
「分かりました…。俺は佐々木さんに色々と恩があります。それで佐々木さんが助かるなら協力します」
「店が閉まるのは従業員にも客にもまだ内緒にして欲しいんや」
「はい、分かりました」
「それで方法なんやけど、店内ビンゴあるやろ? あれのチェックって、ワイがチェックしてそれでシュレッダーに掛けて終わりなんや。つまり…、あれが何本出たところでいくらでも誤魔化せる」
「……。はい……」
「一日何本か水増しするから、そこでその分の金を別にしといて欲しいんやけど……」
「分かりました…。それで佐々木さんが助かるなら……」
「もちろん儲けは折半でええ」
「いや! 俺はいらないですよ。佐々木さんさえ金を戻せるなら」
「駄目や。こういうのは折半で行かへんと必ず綻びが出る」
五百万もオーナーの中川にいかれて何を言ってんだ、この人は……。
「でも俺は佐々木さんにこれまで散々良くしてもらいました。だから俺の分まで……」
「岩上君! 頼むわ! この条件で引き受けてくれんか?」
真剣な眼差し。
折半以外の条件は一切受け付けないといった強い意思。
「分かりました……」
この日より俺と佐々木さん、たった二人だけの秘密が生まれた。
店内ビンゴを使った抜き。
一回で五万。
二回やれば十万。
毎日少ない時で二回、多い時で六回。
つまり給料とは別に五万から十五万の金が舞い込んで来るようになった。
最初の頃は佐々木さんが全部取るよう伝えるも、折半以外受けつけない。
たまにイベントなどをする時は、さらに拍車が掛かる。
本来の給料が店長手当込みで五十万ちょっと。
それ以外に抜いた金額が他の従業員には内緒で日々数万、十数万と入ってくるのだ。
出勤すればするほど、金は打ち出の小槌のように入ってくる。
俺は金銭感覚が一気に麻痺していく。
他の従業員に対する罪悪感はもちろんある。
しかし佐々木さんとの約束で言う訳にもいかない。
何でもない状況なのに従業たちへ食事をご馳走したり、たまに風俗へ連れて行ったりと不自然な行動をするようになる。
心が日に日にドス黒く染まっていく。
「……」
あの頃は三ヶ月という期限が決まっていたのに、図に乗り調子に乗った俺は、何も考えず馬鹿な金の使い方をして無くした。
ざっと計算しても、一千万円近い金額が三ヶ月で舞い込んできたのに、俺はそれをキャバクラや競馬で大半を溶かし、本当に愚直で無駄な消費をしただけ。
山下哲也に説教をしたのも、この時の後悔があったからだ。
今の経験と知識がある状態で、ワールドワン時の状況に近い金が舞い込んできたら……。
高円寺の手相占い師西谷泰人の言葉が再び蘇る。
「本当に色々な事をやられてきたみたいですね。五十二歳ぐらいから、あなた、凄いお金持ちになりますよ。これまでの事を色々な角度から精力的に動き、そうですね…、収入も多方面から入ってきます。六つ…、いや七つぐらいから。あなたが手掛けるのは、五つ…、うん、本当に器用に色々やられるんですね」
億単位に届かないかもしれないが、この金取引を主軸に一気に駆け上がる事も、俺なら不可能な話ではないはず……。
『百五十万円を入金しても、よろしいですか? 岩上16:48』
心臓を鷲掴みにした状態で、その隙間から漏れた言葉。
『少し遅れてもう一度データがあります。学生は今時間があれば、百五十万円を入金することができます。準備をしておく。 Zhu Min 16:49』
『了解しました。 岩上16:49』
五十二歳から五十三歳になる俺が変われる神聖な期間。
それが今なのだろう……。
『みんな頑張って準備をしなさい。すべての機会を把握する。 Zhu Min 16:50』
『はい。 岩上16:50』
俺は部屋を飛び出し、すぐ近くのATMへ向かう。
酷く全身が高揚して火照っていた。
サイトのオンラインサポートへ入金の連絡をする。
金額は百五十万。
サポートの指示通り、言われた口座へ入金しようとする。
あれ?
振込限度額って五十万までなの?
慌ててサポートへ相談する。

すると入金額は五十万円でいいのか念押しされ、サポートから振込口座が表示される。
LBMA exchange online customer service Anna
16:58
金融機関名:イオン銀行
支店名:ポピー支店
支店番号:017
口座番号:0707406
口座名義(カナ):サイトウ ザーク
漢字名義:齋藤ザーク
16:58
尊敬するユーザーこんにちは。
上の銀行口座に預金してください。30分以内に預金を完了してください。
送金の際はリアルタイム預金を選択してください。
送金の際は何の備考もしないでください。
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前も入金する時思ったけど、この齋藤ザークって誰だよ?
何故毎回振込口の名義が変わるのだろう?
サイトからは海外なので中継する役員とか言っていたけど……。
いやいや、叔父と若香が待っている状態なんだぞ。
早く処理を済ませなきゃ。
俺は五十万円を振り込む。
自分のサイトの数字を確認した。
十万振り込んだ時は総額十四万で、九百十二ドル。
五十万を今入れて総額六十四万。
あ、四千百五十四ドルに増えている!
『すみません、一日の限度額が五十万円までだったので、五十万円しかできませんでした。 岩上17:21』

『学生は普段資金の移動が少ないでしょう。だから送金限度額になります。 Zhu Min 17:24』
だって一個人がそんな資金移動なんて、普通必要ないでしょ。
まあここで文句を言ったところで、機嫌を損ねられたらおしまいだから言わないけど。
『そうなんですね。 岩上17:24』
『このような場合は銀行に行って送金額の引き上げを要求することができます。しかし銀行に投資のことを教えてはいけません。 Zhu Min 17:26』
そんな簡単に引き上げなんてできるんだ?
投資の事を銀行に教えていけない?
何で?
『了解しました。 岩上17:27』
不可解ながらも返事をする。
『現在、国際投資取引は銀行業務に衝撃を与えているため、銀行は顧客が口座資金を他の取引口座に移動することに抵抗し、銀行は投資の詐欺防止を教えてくれます。実はこれらは銀行の一方的な行為で、銀行業務を増やすためです。だから私たちが銀行に行って関連業務をするとき、銀行はこのようにユーザーに伝えますだから私たちは銀行に投資のことを教えられません。そうすれば銀行は不愉快になるからです。銀行にも投資のプロジェクトがあるからです。しかし、銀行の投資プロジェクトはユーザーを儲けさせることはできません。 Zhu Min 17:28』
つまり銀行って、本来狡い場所という事か。
確かにこれまで見てきても、どれだけ吸収合併を繰り返しているんだ?
富士銀行だったのが、今ってみずほ銀行だっけ?
第一勧銀がUFJとか、金融面に疎い俺でも把握できないほどだし。

まあさすがは博士号だっけ?
若香の言う通り、凄い叔父だ。
『そのような仕組みなんですね。 岩上17:29』
『はいそうです。今多くの人が銀行に投資したくありません。銀行はユーザーの預金を投資に持って行くが、ユーザーに少ない利息を与える。銀行のメカニズムは非常に悪い。 Zhu Min 17:31』
銀行の利子って、詐欺みたいなもんだというのは俺でも分かる。
小学生の頃、一億貯金すれば利息で食べていけると聞いたのに、今じゃ無理って事は、詐欺みたいに利率が低くなっているから。
『勉強になります。 岩上17:31』
『だから銀行に行って関連業務をするとき、自分で投資のことをするとは言えません。そうでなければ銀行に妨害されます。 Zhu Min 17:32』
表じゃ出せない裏事情を聞いているものだ。
『了解致しました。 岩上17:32』
俺は五十万円を追加して増えた自分のサイトの画面を見せる。

『はい。叔父の言う通りだ。前に送金した時も銀行が妨害していました。見知らぬ人に送金しないように伝えます。もし香は友達に送金すると言って通過しました。今銀行の制度はとても嫌いです。香が自分のお金をそんなに管理しなければならないなら。警察よりも広い。私のお金は自分で言えますよ。 朱婧瑶 17:33』
『そうなんですね、色々勉強になりました。 岩上17:33』
銀行って思ったより悪徳なものだったのかよ……。
確かに宝くじは詐欺みたいなもんだもんね。
半分ぐらいしか返さないんだったっけ?
実際当たりくじが、本当に庶民の手に渡っているかも知らないしね。
ラッキーハウス時代、偶然当てたビンゴ5。
ロト7を過去二回とも買って五等。
競馬と違いくじではちょっとだけ買っている俺。
本川越駅改札を出て目の前の駅ビルペペの中を通過する。
二千七年だったらこの先に岩上整体があった。
ペペを出ると、左手にある宝くじ売り場。
俺は先日新たに国がまた税収を国民から貪り取ろうとしたビンゴ5というものを買ってみた。
何故なら競馬より少額で楽しめるからだ。
これもネオ智一郎ルネッサンスの思想に基づく。
イマイチ見方が分からなかったので、仕事帰り宝くじ売る場へ寄ってみる。
たまには普通の宝くじでも買ってみるか。
俺はロト7とビンゴ5を買った用紙を売り場のおばさんへ渡しながら「この二百円のくじ連番で十枚」と新たに購入。
ロトなどはどうせ当たっていないだろうと、くじを受け取り売り場を離れようとした時、おばさんが大きな声でどなっている。
何だ?
金でも足りなかったのか?
こちらを見て何か言っているので、戻ってみた。
「お兄さん! 当たってます! 当たってますって!」
「ん? また五等ですか?」
「何言ってんですか! ビンゴ5ですよ! ビンゴ5!」
何をこの人は興奮しているのだろうか?
売り場のおばさんがレシートを出してくる。
「え……」

「当たってんですよ! お兄さん二等! 二等が当たってんです!」
俺は頬を思い切りつねってみた。
痛い。
夢ではない。
写真を撮ってフェイスブックへ投稿する。
あ、馬鹿だな、俺。
写真逆になってるよ……。
えーと、まず落ち着こう……。
一回大きく息を吸って、大きく息を吐く。
えーと、二等?
「二十八万四千八百円?」
二百円が二十八万……。
「お兄さん、おめでとうございます」
「これ、おばさんが声を掛けてくれなきゃ、俺そのまま帰るところでしたよ!」
「だから必死に呼んだんじゃない」
「ありがとうございます!」
俺は深々と売り場のおばさんへ頭を下げた。
本当にこの人ナイスファインプレー!
「あと一つ数字当たってたら、九百三十九万だったのよ? 充分お目出度いけど惜しかったわねー」
「……」
ビンゴ5って凄くない?
一口じゃなくて、もうちょっと数字被せて買っていたら、約一千万だったの?
俺はもう一度写真を撮った。
そしてフェイスブックへ投稿した。
このおばさんにはチップで一万円ぐらいあげよう。
そのぐらいじゃ少ないぐらいだ。
「じゃあおばさん、二十八万下さい」
「いや、それがね、売り場だと五万円までしか換金できないのよ」
「はあ? じゃあそれ以上当たっても意味がないって事じゃないですか!」
「落ち着いてお兄さん、違うの。売り場は五万まで。でもね、みづほ銀行に行けばすぐ換えてもらえるから安心してちょうだい」
「むー……」
「ほら、さっき当選のレシート渡したでしょ? もちろん当選した券は絶対無くさないでね」
「分かりました。あ、おばさん、これ良かったら……」
俺は財布から一万円札を出して手渡そうとした。
「駄目なのよ、お客さんからそういうのもらっちゃ。お気持ちだけもらっておくわ」
「いいじゃないすか! 気持ちっすよ」
「バレたら私が職を失うの。それとも何? そうなったらお兄さんが私の面倒見てくれるの?」
「やです……」
「でしょ? だから気持ちだけで結構よ。ありがとうね」
「じゃあ今度ケーキ買ってきますよ。それならいいですよね?」
「うーん、私も毎日ここにいる訳じゃないから、本当気持ちだけでいいからね。お兄さんありがとう」
俺はもう一度丁重に頭を下げてお礼を伝えた。
今日は土曜日。
月曜にならないと銀行で換金は無理か……。
「……」
結局あのあとダービー…、東京優駿に二十万円突っ込んで負けて、金を失ったけどね。
思い出すと、俺は本当に馬鹿な事ばかり繰り返してきたな。
それもここで心機一転生まれ変わるのだ。
『皆さん、今ゆっくりリラックスしてください。先生は事前にみんなに知らせます。 Zhu Min 17:33』

『よろしくお願い致します。 岩上17:34』
『はい、叔父。 若香は常に情報に注意を払う。 朱婧瑶 17:34』
あー、タバコが吸いたい。
俺はベランダへ向かった。
セブンスターに火をつける。
やっぱりこのタバコが一番だ。
俺が初めてタバコを吸い出したのが高校二年生。
永井泉をデートに誘うちょっと前だから、いつになるんだっけ?
初めてアルバイトしたケンタッキーフライドチキンで、時給五百四十円時代に数日のバイト料もらい、八千円だった時だから、春先?
その頃赤キャビンを吸っていた俺。
社会人になり自衛隊に入り、後期教育隊北海道倶知安駐屯地に配属された時、向こうじゃ手に入らなかったんだよね。
だから似たようなニコチンのタバコを探し求め、セブンスターに決めた。
つまり十九歳の時から吸っている付き合いになるのだ。
『イチローは今日から休みですよね? 朱婧瑶17:44』
『今日だけ休みですよ。明日の夜からまた仕事です。 岩上17:44』

さっき取引終わったばかりなのに、少しは若香も休めばいいのに。
まあこういうところが可愛いんだよね。
『休みが続いているのかと思った? 今日は一日だけ休みですね。 朱婧瑶17:46』
『若香さんとやってる取引。先生の指示も凄いけど、凄い世界ですね。驚いています。 岩上17:46』
今日はこれから大金が入ってくるから、こなもんマスターのところ行って、酒を飲みたい気分だった。
『そうです、一日だけ休みです。次の休みは五月七日です。 岩上17:46』
『もちろんです。叔父は金融専攻を卒業し、博士号を取得し、二十年以上投資資産管理金融業界に従事し、非常に博学で、人間関係が広く、各種投資モジュール、株式、先物、基金、外貨などを分析するのが得意です。 朱婧瑶17:47』
本当に凄い経歴だもんな。
一貫した経済に関わる広大な年数。
俺のようなチグハグなものではない。
全日本プロレスのプロテスト受かっても左肘の故障で放り出され、総合格闘技でも中途半端。
ピアノも素人が川越市民会館でピアノを弾いただけ。
小説も処女作で文学賞を運良く取れたけど、印税すら入らずこうして裏稼業のインカジ『レディ』で従業員として働いているだけ。
その小説ですら今、十三年以上まるで執筆すらしていないのだから。
『凄い方ですよね。素直に尊敬します。 岩上17:48』
『若香さんも叔父に敬服していますね。だから叔父の腕時計を送りますか。若香の助けが大きいですね。 朱婧瑶17:59』
周りから見れば一つ一つは破天荒な生き方に見えるかもしれない俺。
でも、今の自分がすべて価値無かった事を物語っているじゃないか。
若香が叔父の誕生日に時計を買いに行く時の会話を思い出す。
『久しぶりにデパートを見ましたが、買い物の気分はいいですね。 朱婧瑶15:20』
『ほんとね、若香さんには感謝しています。いつも本当にありがとう。買い物ゆっくり楽しみながら、叔父さんへいい時計選んで下さいね。 岩上15:21』
ロレックスの文字が入った時計屋の画像が送られてくる。
『ロレックスへ来たんですね。全部高価な時計ばかりじゃないですか。 岩上15:21』
『ロレックスに行ってみましょう。 朱婧瑶15:21』
完全に専門分野外。
下手な口は出さないほうがいいね。
『ごゆっくり。 岩上15:22』
彼女は時計の写真を見せてくるが、俺はデイトナぐらいしか知らないんだから。
しかも名前程度で。
『選んで、最終的にロレックスの日誌型シリーズ116233銀盤にドリルを入れた腕時計を選びました。この時計の値段はそんなに高くないし、叔父にお金の無駄遣いを叱られることもないし、自分を困らせることもない。 朱婧瑶16:02』

『センスいいですね。さすが若香さん。きっと叔父さんも喜んでくれるはずです! 岩上16:03』
『ロレックスは価値があるので、この時計を選びました。私たちが買い物をするのも投資であり、良いブランドを選ぶことは、長く使っても価値が存在します。 朱婧瑶16:15』
職場で湯浅が俺にデイトナが昔は百万だったのが、今四百万円になっているという情報を聞いた事を思い出す。
『デイトナなんて凄い価値上がったんですよね? 俺はまったく時計見る目ないので、感心するばかりです。 岩上16:16』
『今、店員が梱包してくれています。私も帰るつもりです。 朱婧瑶16:24』
この子、本当に金を持ってんだな。
裏稼業で働いている俺なんかで、つり合い取れるのか?
「……」
あの時からまだ半月しか経っていない。
もう随分前から、この子とはずっとやり取りをしているような錯覚に陥ってしまう。
『あの時色々プレゼント考えていましたよね。 岩上17:59』

タバコを揉み消して部屋へ戻る。
『若香は先に仕事から帰った。家に着いてイチローに言いました。 朱婧瑶17:59』
『若香さんお疲れ様でした。ゆっくりくつろいで下さいね。 岩上18:00』
実際にさっきの取引だけで、数百万を稼いだ彼女。
異性界の住人だ。
でも…、今日俺は、一歩近づいた……。
ジャンボ鶴田師匠や三沢光晴さんのような永遠に追いつけない遠い背中ではない。
この子なら、背中が見える範囲内なのだ。
そう比較すると、やっぱり人生って金がすべてじゃないんだよね。
あくまでも金を持つというのは、何かをするに当たる方法論というだけで。
『若香が家に着いた。 イチローは夜何を食べましたか。 朱婧瑶19:00』
『お疲れ様でした
あれからはまだ食べてないですよ 岩上19:00』
『若香が家に着いた。 イチローは夜何を食べましたか。 朱婧瑶19:01』
そういえば三時過ぎと中途半端な食事をしたっきり。
『若香さん、今日はもう一度取引あるんですか? 岩上19:03』
『叔父はもう少し遅れて取引があると言ったじゃないですか。叔父の知らせを待つ。イチローは寝るつもりですか? 朱婧瑶19:04』
まだ食事はお預けって事ね。
『まだ寝ないですよ。知らせを待ちますね。 岩上19:05』
『叔父がまだあると言った以上、きっとあります。 このイチローは安心だ。 夜は仕事に行かないじゃないですか。 朱婧瑶19:06』
『そうですね。取引終わってから、ご飯食べに行こうと思っています。 岩上19:07』
そういえばそろそろまた取引の時間かな。
『一時間後に取引あるそうですね。 岩上19:07』

グループLINEに叔父からメッセージが届く。
【グループLINE】
もう後戻りできないところまで来ているんだ。
しっかりしろよ。
『一時間ほど後に取引があります。みんなは先生の知らせを待っています。 Zhu Min 19:07』
変えよう、この環境を……。
『了解致しました。 岩上19:07』
『はい、叔父。「若香」は知った。 朱婧瑶 19:08』
輝かしい未来に、変えられるかな?
多少腹が減っているぐらいがいい。
『はい。若香も取引時間を見た。夜に出前を注文しましょうか。 朱婧瑶19:10』
何で新宿にいるのに、出前を取らなきゃいけないんだよ。
マンションを出れば、徒歩一分以内に飲食店が何軒あると思ってんだって。
『外出れば店もたくさんあるので、取引終わってからどこか食べに行く予定です。 岩上19:11』
『それもいいです。お金を稼いだら自分の食事を改善しなければならない。おいしいものを食べなさい。 朱婧瑶19:18』
金を稼いだらか。
俺のいけない部分が出るところだった。
すぐ図に乗って贅沢をしようとする。
『そうですね。今は贅沢しないで頑張って自炊します。 岩上19:19』
『それは良い食事をする時にも自分を不当に扱わないでくださいね。イチローは自分で料理する方がいい。 朱婧瑶19:22』
六月末に彼女がこっちへ来たら、俺の料理を振る舞うんだろ?
もっと自身を律さないと。
『肝に命じておきますね。今、ご飯研いで炊いているところです。 岩上19:24』
以前神田から引越しの際もらった電気ポット。
俺は常にお湯を沸かし、常温状態にしている。
自称俳優マンションの水道は不味い。
一度普通に水道水でご飯を炊いたら、美味いはずのコシヒカリが台無しだった事から、一度沸かした湯を冷まし、それで作るようにしていた。
『夜イチローは食べに行くつもりじゃないですか。 朱婧瑶19:40』
おいおい、今さら何を言ってんだい、セニョリータ。
『若香さんが自分で料理するほうがいいと言うので、何か作ろうかなと。 岩上19:43』
『そうでもないよ。若香の意味は。若香が去った後、イチローに若香のためにご飯を作ってもらいますね。 朱婧瑶19:46』
だからこうして腕が錆び憑かないよう努力してんだろ。
お礼は身体でキッチリ払ってもらうからな。
『もちろん若香さんが望む料理、何でも作りますよ。 岩上19:47』
『本当ですね。こんなにいいです。じゃあ、私が食べたいメニューを書きますね。 朱婧瑶19:49』
何かこういうのもほんわかしていていいものだ。
『まず海老の天ぷら。お寿司。若香さんの好みは色々知っておきたいですね。 岩上19:50』
『はははは。その通りです。イチローは記憶力がいいですね。エビフライの天ぷらを先に食べてください。 朱婧瑶19:52』
当たり前だろ。
俺の記録力は周りからも脅威に見られているんだからな。
『了解しました。俺の大切なお姫様。 岩上19:52』
『ハハ。私の勇士は頑張ってください。 朱婧瑶19:54』
騎士道精神てやつかな。
『頑張ります! 岩上19:54』
叔父からグループLINEにメッセージが届く。
【グループLINE】
はーい、良い子のみんなは大人しく席へ着席。
『データノードはもうすぐ始まります。みんな今プラットフォームにログインします。 Zhu Min 19:54』
『了解しました。 岩上19:54』
若香は早速スクリーンショットを撮って出している。
ああ、先を越された。
『みんなプラットフォームにログインします。XAUUSDを選択し、赤を選択します。 Zhu Min 19:55』
俺も真似てスクリーンショットを出す。
『姪は六百秒を選びます。 金額:二十二万三千百七十五。学生は百二十秒を選ぶ。金額四千百八十四。注文を確認します。 Zhu Min 19:57』
おいおい、俺だって今日だけで六十万入れたのに、まだ桁がいくつも若香と違うじゃん……。
あ、まずは取引に集中しないと。

若香も続く。
金額は叶わなくても、操作は俺の方が先行しとかないとね。
『みんなカウントダウンを待っています。 Zhu Min 19:59』
時間の経過を見守る。
『これが元本を増やすメリットです。投資の利益はすべて元本によって決まる。元本が増えれば増えるほど、利益が増える。 Zhu Min 20:01』

二分で取引は終わる俺と、十分掛かる若香。
大砲一発と、こっちは竹やりで懸命に突いている気分だ。
『学生はXAUUSDの取引ページに戻る。赤を選択します。 Zhu Min 20:01』
『了解致しました。すべて元本ですね。 岩上20:02』
ほれ、口を動かす前に手を動かせ。
『百二十秒を選択します。 金額:四千三百四十九。注文を確認します。 Zhu Min 20:03』
あとはこの繰り返しだもんな。
俺はスクリーンショットを見せる。
『学生はXAUUSDの取引ページに戻る。赤を選択します。 Zhu Min 20:07』
もう言葉はいらないか。
『百二十秒を選択します。金額:四千五百二十一。注文を確認します。 Zhu Min 20:08』
俺の操作中、若香の取引が終わった。
数字を見れば、とんでもない金額なのはもう俺でも理解できる。
『凄いですね、おめでとうございます。 岩上20:09』
『はははは。楽しかった。叔父様、本当にお疲れ様でした。 朱婧瑶 20:09』

追いつくのか、この子に?
『イチローは若香ほど元本があっても同じですね。 朱婧瑶 20:10』
俺の取引が終わり、画面を見せた。
『夜のデータノードは終わりました。毎回のノードは非常に短いが、我々はノードごとに安定してお金を稼ぐ。皆さん、今自分の収益を計算してください。 Zhu Min 20:10』
え、夜はこれでおしまい?
とりあえず数字を出さないと。
『五百二十・九六です。 岩上20:12』
『「若香」は今日の取引が終わって間もなく、総資産。二十七万四千五百二十八マイナス二十二万五千四百三十=四万九千九十八ドルの利益。七百六十四万円ぐらいに相当します。今日、若香は全部で千六百万円ぐらいの利益があります。 朱婧瑶 20:13』
一千六百万!
化け物かよ、この女……。

『若香さん凄いですね。 岩上20:14』
LINE同士の会話で良かった。
今の俺の表情を若香には見られたくない。
『これがあなたが元金を増やした効果です。もしあなたが十万ドル以上の元金を持っていたら。短時間で何十万ドルも稼ぐことができます Zhu Min 20:14』
『はははは。やはり叔父はすごいです。叔父がいなくても若香はいないよ。イチローと共有することはありませんね。 朱婧瑶 20:14』
そりゃそうだ。
この叔父の指導あって初めてこの図式が成り立っている。
『仕組みを知ると、驚く事ばかりです。 岩上20:14』
『取引ノードの貴重性と希少性は、一日に二回取引できることもありますが、十日間、あるいはそれ以上の間、一度も取引されないこともあります。私たちがすべきことは、ノードが現れる前に、ノードが現れたときに見逃さないように資金を用意することです。 Zhu Min 20:15』
要はこの人なくては話にならない。
『了承しました。 岩上20:15』
『若香はイチローに言ったからね。叔父は若香を小さい時からかわいがっていますね。そして叔父は金融界ではとても威光的です。 朱婧瑶 20:16』
自慢の叔父と言っていた意味合いが本当に理解できた。
でも、彼女の親父さん、こんな環境があるのにインドネシアだろ。
何でこんな美味しいものが目の前にあるのに、海外へ行っているんだろう?
今の相場と言うほど、常に儲けられる事ではないのに。
『毎回規則的にあるものではないのですね。 岩上20:16』
まあ金持ちの行動なんて、俺が気にしたところで意味がないな。
『素晴らしい方と敬服します。 岩上20:16』
まずはこの場を設けてくれた叔父へ礼節を。
『お金持ちはみんな仕事でお金を稼ぐわけではありません。仕事では基本生活の給料しかもらえません。お金を稼ぐには機会が必要で、機会をつかむと短時間で大きな富を得ることができる。そしてこの富を使ってより多くのビジネスをすることでより多くのお金を稼ぐことができます Zhu Min 20:17』
『とても勉強になります。いつもありがとうございます。 岩上20:17』
俺は彼女の家族の一員なのか?
身内のようなもの?
『ノードが来るたびに、チームのすべてのメンバであり、膨大なデータ解析と、推定後のデータ動向につねに注目することで、ある時点に対して価格が安定して低下したり上昇したりする。このすべてのことはデータグループの会員たちに感謝しなければならない。 Zhu Min 20:18』
叔父だけの力ではなく、彼の持つチームの研究解析があって成り立つという訳か。
競馬でいえば、絶対に来る複勝馬券を毎回教えてもらえるようなもんだもんね。

『仰る通り感謝しか覚えません。 岩上20:18』
ノードというのが、いまいち何だか分からないけど。
『学生は今、自分の送金額を上げることが一番大切です。そうすれば、もっと便利になります。 Zhu Min 20:19』
『はい、了承致しました。 岩上20:20』
明日また五十万円を入れるとしよう。
『叔父は毎回時間を確認してから若香に取引時間を教えますから。叔父と彼のチームがいなくても正確なデータはないですね。叔父の偉大さに特に感謝します。 朱婧瑶 20:20』
『その後先生が元金の使い方を教えてくれます。より多くの元金があれば、短時間で自分の富を高さにすることができる。 Zhu Min 20:20』

これは俺にとっての黎明期。
この言葉は、以前ジミードーナツで読んだ火の鳥で知ったんだよな。
何か新しい文化や時代、技術などが始まるか始まらないかの初期の段階や、夜明け、物事の始まりの時期を指す言葉。
強いていうならば、岩上智一郎黎明期ってやつだ。
『みんな夜は収穫の喜びを楽しんでください。先生は今お茶を入れて飲むつもりです。 Zhu Min 20:21』
お茶って叔父も、名前通り中国人なのかな?
シンガポール在籍の。
『若香はイチローもよく勉強すると信じている。 朱婧瑶 20:21』
『ありがとうございました。私もより勉強します。 岩上20:21』
もうこうなったら若香の機嫌も伺いつつ、好青年を演じないといけない。
『「若香」もしばらく楽しんでね。素晴らしい。 朱婧瑶 20:22』
『世界観が変わるとは、こういう事を言うのですね。 岩上20:22』
叔父の前でイチャイチャしていてもしょうがない。
俺はグループLINEを出た。
セブンスターを吸おうとベランダへ出た。
まずは若香へ連絡を入れないと……。

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