闇 662(オーバーザトップ編)
闇 662(オーバーザトップ編)

2026/08/31 mon
※まず史実通りの広大な人生の一次プロット。これを書き切らないと、俺は次に進めない。
前回の章

二千二十四年五月一日、水曜日先勝。
とうとう五月へ突入。
ゴールデンウイーク真っ盛りの朝に目を覚まし、特にする事もないので冷蔵庫の中の食材の整理を始める。
鶏肉を肉団子にしたものを前に作って冷凍したままだったので、これを今回調理するか。
味付けに衣をつけて揚げるだけなので、楽でいい。
俺は料理過程を写真に一枚ずつ収めながら、ブログを書き始めた。
今回冷凍庫の中をどんどん整理していこうかなと鶏肉の肉団子柚子胡椒風味を作ってみました。

まずビニール袋を二枚重ねて、柚子胡椒、鶏がらスープの素、酢、ニンニクを入れます。

鶏肉団子を入れます。

ビニール袋を閉じて、よく混ぜこみます。そしたら冷蔵庫で1時間くらい放置。
いや、寝かせますw。

次に寝かせた鶏肉団子を冷蔵庫から出し、小麦粉を投入。

ビニール袋を閉じて、グルグル回します。

こうすると容器を汚さず、簡単にできるんですよね。

さあ油で揚げましょう。

最初は肉が柔らかく脆いのでしばらくそのまま揚げます。

ちょっとキツネ色になってきたなと思ったら、ゆっくりかき混ぜてあげましょう。

もうちょっと揚げるか。

はい、鶏肉団子の出来上がり。
うー、暇だ……。
何もする事がない休みって、結構苦痛だぞ?
ゲームをする気にならなければ、漫画も読み飽きた。
冷凍庫からグレンリベットを取り出し、ショットグラスに注ぐ。
柚子胡椒風味の鶏肉団子をつまみに酒を飲みながら横になった。
アマゾンプライムで映画のラインナップを眺めていると、シルベスター・スタローンの腕相撲の映画『オーバーザトップ』があるのに気付く。
これって俺が中学生か高校生の頃のやつだよな?
スタローンで連想するのが、同級生の篠ヤン。
去年の川越祭りで、渚を篠ヤンの働く居酒屋『大漁丸』へ連れて行った時の会話を思い出す。
同級生の篠崎が働く大漁丸へ入った。
「岩ヤーン、顔のペイントボロボロになっているよ?」
「渚姫をガードする為の勲章だ」
「えー、ひょっとして私、大事に扱われているー、感激ー」
こんな女といつも一緒にいたら、俺もいっぱい幸せを感じられそうだ。
篠崎はまだ出勤までもう少し掛かるらしい。
あ、そうだ。
このまま着物の格好で新宿へ帰る訳にはいかない。
一旦家に帰って着替えてくるか。
「ちょっと家に帰って着替えてくる! 夜になると、ここまで来るのに一時間以上掛かっちゃうから」
「本当に祭り凄い人だかりだもんね、気を付けて行ってきてね、岩ヤン」
俺は早歩きで実家へ戻り、一回シャワーを浴びてペイントを落とす。
急いでスーツに着替え、再び大漁丸に戻った。
いい感じで酔っぱらう神田。
その横で卑屈そうに笑みを浮かべる遠藤。
本当にこんなオヤジが一千万も金を神田の会社へ出したのか?
「ねえねえ、岩ヤン。篠ヤンってどんな人なの?」
「そうか、渚はまだ会った事ないんだもんな。うーん…、ミニシルベスタースタローンって感じかな」
「えー、何それー? 超受けるんだけど」
酒を飲みながら談笑していると、ようやく篠崎が大漁丸に出勤。
篠ヤンの顔を見た渚は、酒を吹き出すほど大笑いしていた。
よほどミニシルベスタースタローンがツボだったのだろう。
「え、どうしたのよ、この子こんなに受けて?」
「いや、篠ヤンがミニシルベスタースタローンだよって、俺が説明したからさ」
「たれ目の部分しか似てねえじゃねえかよ!」
渚と一緒に居る川越祭り。
こんなにも楽しいとは自分でも思わなかった。
「あーあ、どうせならあんな旦那じゃなくて、岩ヤンに貰ってもらえば良かったなー」
彼女の言葉に熱くなる股間。
今、この子の手を握ってもいいんじゃないか?
「……」
品川春美のような可憐さはない。
本多麗美華のような可愛さもない。
ミサキのようなエロさは…、もっと種類の違うエロさはある。
もっと早い時期にこの女と会いたかった。
そうすれば結婚する事も、子を産む事も、アダルトビデオへ出演する事も、風俗で働く事だってすべて無かった事にできたのに……。
いや、ここまで人に騙され利用された俺が、どうやって渚を幸せにできる?
そうでもないだろ?
渚の存在がいれば、まず人に金を貸す事はなくなる。
それに俺が護らなきゃと言う意思が、深く物事を考えなかった俺にとっていいセンサーになったはずだ。
「じゃあ、旦那さんと別れたら、俺のところおいで渚」
冗談ぽくできるだけ笑顔で軽く言った。
遠藤が席を立ちあがり、愛想笑いをしながら「わ、私はこの辺で帰りますね。今日はありがとうございました」とそそくさと大漁丸を出ていく。
俺は軽く会釈を交わし、セブンスターに火をつけた。
「何だよ、遠藤さん。ここぐらい金を出してくれると思ったのにな」
「……」
あのオヤジ、ふざけんなよ、本当に……。
川越祭りに来て山車を曳きたいと、手ぶらで来てタダ酒を散々飲み、ここの会計まで一円も払わず帰りやがった。
神田もあんなの地元に連れて来るなよな。
大漁丸が混んできたので、俺がまとめて会計をする。
渚がお金を出そうとしたので手で制す。
いつかやらせてくれればいいさ。
心の中で、そう呟いた。
「岩ヤン、悪いな」
神田…、おまえは払えと言いたかったが、現金もっていないんだよな、この男。
「……」
本当に神田経由で、渚と知り合っていなかったらなあ……。
いや、あの女は適当で嘘つきでいい加減。
これまで仕事を紹介してくれと動いたのにドタキャンされて顔を潰されたり、自分がしでかしたダブル不倫騒動に巻き込まれたりと、碌な目に遭っていないじゃないか。
厄災を運んでくるだけの女、渚。
一度ぐらい抱いてみたかったが、連絡を取らないようにして正解だったのだ。
それに神田と未だつるんでいるのが一番のネック。
せっかくあのクソ野郎との関係を絶っているのに、また何かの拍子に連れて来られたら洒落にならない。
あれ、この鶏肉団子、我ながら中々いけるじゃないのさ。
それにしてもたかが腕相撲の映画と思って軽く見ていたけど、オーバーザトップって面白いな。
全盛期のスタローンの魅力だけでなく、作り方が相当考えられており、観る人間の思考を奪うようにできているのだろう。
腕相撲に興味無い俺でも、早送りせず普通に最後まで見てしまったぐらいなんだから。
腕相撲世界一のプロレスラースコットノートンも、この映画に出ているんだよな。
どこで出ているのか分からないが、彼がスタローンの許可を得て、この映画の主題歌を自分の入場テーマ曲にしているのは有名な逸話である。
腕回り六十八センチだったっけ?
正に化け物だよな……。
ノートンと俺の遭遇で思い出すのが、佐々木健介と藤田和之の両国国技館のIWGPの最悪の一戦があった最低の興行だった。
この日はゲーム屋『ワールドワン』時代を終えた俺と、系列店の店長だった『チャンプ』の有路と観に行った新日本プロレス興行。
未だ覚えているのが、とにかく裏切りに次ぐ裏切りの連続でうんざりし、会場の不満が爆発した酷いもの。
まず邪道&外道VS金本浩二&田中稔で、稔が足を痛めたふりをして金本を裏切り急襲。
若手の井上亘が泣きながら怒っていたのを覚えている。
だいたいインディ嫌いの新日本が何で外道のようなクソレスラーを、いつの間にか所属させているんだよという不満も持っていた俺。
まだ全日本プロレスへ行く前、プロレス雑誌を食い漁るように読んでいた俺は、外道になる前のブルドッグKTを知っていた。
コイツの何が嫌いかというと、千九百九十年九月一日に大宮スケートセンターで行われた全日本女子プロレスのブル中野対アジャコングの金網デスマッチをレフェリーとして裁いた一件。
外道はアジャのリングアウト勝ちを宣言したものの、不自然な判定に物議をかもし、ファンからのブーイングを浴びる結果。
この時のコメントで、アジャは身内だか味方だから有利なような判定をしたと言っていたのを見て、何だこの素人野郎がと若い頃の俺は憤りを覚えたのだ。
そんな中途半端な奴が、『ビートたけしプロレス軍団』のオーディションに合格して始まったレスラー人生。
狭い了見だった俺は、この男がずっと今でも嫌いなままだった。
退屈な試合が続いた休憩時間になり、突然二年前に新日本を退団して泥沼の確執が続いていたはずの長州力が予告なしにリングへ乱入。
皮肉な事にこの場面がこの日の興行で一番湧いた。
永田裕志を始め、獣神サンダーライガーなど五人ほどのレスラーが呼応しリングに上がったが、永田に向かって「天下を取り損ねた男」と挑発した長州力の独壇場。
そのあと行われた柴田勝頼VS天龍源一郎では、試合途中柴田が粋がりながら天龍へビール瓶で頭をかち割ってみろと挑発。
瓶が砕けるほどの威力で実行した天龍。
それに対して失神した柴田。
有路と呆れながら「何なんだよ、あいつ?」と苦笑した。
さらにセミファイナルで組まれたカードの天山広吉&永田裕志VS蝶野正洋 & ドン・フライが最悪だったのだ。
ヒール軍団『ブラック・ニュー・ジャパン』を結成した蝶野。
試合中にメンバーが乱入を繰り返し、中西学がアルゼンチンバックブリーカーのまま担いで天山を控室まで消えたのを境に、リング上は永田一人の公開処刑。
ノートンを始め多くのレスラーが大勢で永田をいたぶる光景に、場内大ブーイングが跳ぶ。
いや、あれは本当にいい加減にしろといった怒声。
最前列升席で観戦していた俺は、飲み掛けの缶ビールを頭来てリングへ向かってぶん投げた。
その缶がスコットノートンの頭に命中。
ノートンは振り返り、俺のほうへ向かってきた。
何だよ…、超ヘビー級の化け物相手かよ。
俺は立ち上がり、右手の親指を横に突き出す。
襲い掛かって来たら、打突を突き刺してやろうと覚悟を決めた。
しかし升席より前にあった最前席に座っていたメガネを掛けたヒョロイかとんぼみたいなオタクの客が、ノートンに向かって「馬鹿野郎! 馬鹿野郎!」とずっと怒鳴っていた。
そのぐらいこの日の興行はフラストレーションが溜まっていたのだ。
そのオタクを見て足を止めるノートン。
いきなり喉輪を決めて圧迫した時、全レスラーが止めに入った。
リング上でグダグダ永田の制裁劇をしていたレスラーまでみんなが、ノートンとオタクを引き剝がそうと必死になる。
俺とノートンの幻の闘いは、一人のオタクによって救われたのだ。
あんな恐竜のようなレスラーに襲われたら、俺は一瞬で壊されていただろう。
その前に蜂の一刺しで、打突だけはお見舞いする腹積もりでいたが。
後日テレビ中継で、この場面は一切放送されていない。
これらの場面が重なった上での藤田と佐々木健介のインチキスリーカウント決着。
クライマックスで場内は暴動に近い怒りが爆発した日だった。
オーバーザトップを観ながら、こんな事を思い出している奴なんて世界中で俺ぐらいだろうな……。
あらら、鶏肉団子を気付かない内に全部食べちゃったよ。
もう一度作り直すか。
一旦再生を止めて、再び料理。
元は仕込んであるから手も汚れず、油でサッと揚げるだけ。
再びグレンリベットを飲みながら、続きを観る。
さて、映画も観終わったし、若香へ挨拶をしておくか。
『おはようございます。昨夜は夜中に目を覚ましてしまい、映画の「オーバー・ザ・トップ」を観ています。 岩上7:58』
ベランダへ出てセブンスターを吸っていると、一時間ほど経ってから若香のLINEが届く。
『どうしてもっと寝ないのですか。こんなに早く起きましたね。 朱婧瑶9:02』
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