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闇 675(刑事と愛編)

闇 675(刑事と愛編)

2026/09/06 sun
※人生を振り返ろうって13年ぶりに書き始め、やっと地獄変が終わったぞーっ! とっくにプルーストの文字数を抜いていたのかよ。
前回の章


二千二十四年五月十六日、木曜日仏滅。

仕事をして部屋に帰り、寝てから料理を作る。

いつもと違うのは明日休みだが、心筋梗塞の定期健診で赤心堂病院へ行かなくてはならない事。
詐欺被害に遭って間もないのに、ここで三万の支出は痛いなあ……。

ベランダでタバコを吸っていると、今日は妙に肌寒い。
よっしゃあ、肉じゃがでも作るとするかね。


12年ぶりに肉じゃが作ると日々の愚痴りw

急に肉じゃが食べたいなあと思った。
しばらくこっち系の料理作ってなかったよな……。

過去のクックパッド見てみると。

肉じゃが by 新宿トモ。
寒い季節にピッタリな日本を代表する家庭料理肉じゃが。

これが確か最後に作った肉じゃが。
レシピID : 1945508 公開日 : 12/09/21 更新日 : 12/09/21。
約12年ぶりになるのかw

わざわざ材料揃えるのも面倒臭いなあ、特に買い物へ行くのが。

先日こなもんのマスターから新玉ねぎたくさんもらったしなあ。
こなもんのマスターは140万円の詐欺に遭ったばかりの俺にとてもよくしてくれるのだ、感謝感謝。

人参は先日カレーや人参の甘煮作る際、今度キンピラごぼう作ろうと人参の細切りとタケノコ千切りを冷凍保存しといたっけな。
ん、待てよ。キンピラごぼうって人参とゴボウじゃん! タケノコじゃないじゃんw。
勘違いしていた。ここで使っておいて正解。

そうそう先日青椒肉絲作った際、タケノコ大量に余ったので冷凍保存してあるのだ。
豚肉は今日たくさん買ってきたし、しらたきないけど春雨ならある。
インゲンもあるしなあ。

そんな訳である物だけでの肉じゃが開始。

豚肉、ジャガイモ、ニンジン、タケノコ、インゲン、春雨。こんなもんでいいか。

水入れて、醤油、砂糖、鶏がらスープ、みりん、塩、調味料なんてこのくらいでいい。
あとは蓋して煮込んで、完成。

明日は二年半前になった心筋梗塞の定期検査で川越の赤心堂病院へ。

また大量の薬を三か月分もらいに行かなきゃいけない。
ヤバいでしょ、この量w。
いつも三万円くらい掛かるのである。
つまり俺は三カ月で三万は最低でも用意できないと生きていけない身体なのだw。
こんな俺に詐欺で140万円盗った奴らは全員死刑にしろ。

ジャンボ鶴田師匠が亡くなって24年。25回忌 。

まあ俺はジャンボ鶴田師匠の手前もあるから、この程度で挫ける訳にはいかねえんだよ!

警察も動けよ、ボケ。
選挙の時以外無視してんじゃねーよ、馬鹿政治家共。

今だから言えるのが前に見てもらった30分25000円の手相鑑定。

この時52~53歳でいい出会いと金運の上昇が凄いとか言われていたのも実は詐欺で騙された中の精神的な部分にあったのだw。
みなさん、占い信じるのはほどほどにしましょうねw。

降りた事の無い駅で降りてみるよシリーズ。

今度時間ある時、また降りた事の無い駅で降りてみるよシリーズでも再開するかw。

煮込んでいる間にこの記事を書いていて、そこそこいい時間過ぎたので見に行ってみる。

うん、そろそろ頃合いか。
肉じゃがの完成。



久しぶりの割りにはそこそこ美味しいじゃないのさ。

さて、お風呂入ってタバコ吸って、そしたらインカジ『レディ』へ出勤しよっと。


二千二十四年五月十七日、金曜日大安。

インカジ『レディ』の業務を終えて、そのまま川越駅へ向かう。
山手線で池袋、そこから東武東上線で川越。

定期検診で赤心堂病院へ到着すると、セブンスターを加えながら写真撮影。

フェイスブックへ投稿すると、何故か縁を切った神田からコメントがあった。

『お前さ、心筋梗塞で病院いってんだから、タバコの写真はねぇーだろ! それが岩ヤンか! 何時迄も元気でな友。 神田』

友じゃねえし、仲良しアピールするなよ、気持ち悪いな。
俺は生涯おまえと会う事は無いから。

おまえに関わってなかったら、ロマンス詐欺で百四十万失っても痛くなかったんだよ!

いや、そうなるとその分、あの偽LBMAのサイトに金をさらにぶっこんでいたから、結果的に変わらないのか?
いやいや、三百万も四百万も、さすがにつっ込まないだろ?

いーや、俺はすぐ図に乗るからなー……。

「岩上さーん」

あ、白衣の天使からお呼びが掛かった。
はいはい、採血ね。
右腕を出したら、左腕も出しましょうか?

何と前の担当の塚越先生が退職してしまったらしく、今回から院長先生が直々に診てくれる事になった!
悪ガキのような顔をした塚越先生は、美人看護婦に悪戯でもしたのだろうか?

それにしても院長先生は、俺が心筋梗塞で死に掛けた時、たまたま当直で俺を救ってくれた命の恩人。

今でもあの時の事は鮮明に覚えている。

漆黒の闇の中を漂う俺。
首根っこを掴まれ持ち上げられた感覚。
何だよ、意識あるじゃん?
まだ自我がある。
不思議と呼吸も楽になっている。
瞼をゆっくり開く。
見えるのは本川越駅前の十字路と信号。
誰だよ、俺の首を触った奴?
辺りを見ても誰もいない。
え、じゃあ今の何?
背後に誰かいる気配。
振り向いても誰もいない。
違和感に気付く。
起き上がれなかったはずの俺が立っている不思議な現状。
「……」
ジャンボ鶴田師匠が、俺の首根っこを持って立たせてくれたのか……。
何となく本能的に理解できた。
じゃないとこうして起き上がれているのが理解できない。
再び襲う心臓の痛み。
左腕は背中の肩甲骨から指先までビーっと電気でも流れているような痺れ。
呼吸も満足にできなくなってきた。
分かってますって、師匠……。
進め…、数センチでも前へ足を出せ。
少しずつ交差点が近付く。
信号は赤だったが、一台も車が通っていないので信号無視して進む。
今車が来たら、避けられないぞ。
まあいい。
とにかく一歩前へ。
交番が見えてくる。
もうちょっとだ……。
ガラス張りのドアに若い警察官の姿が見えた。
俺はドアへもたれ掛かり、取っ手を掴む。
支えていないと今すぐ倒れそうなほど、意識を失い掛けている。
必死にドアを開けた。
驚いた表情の警察官。
「ど、どうしましたか?」
「し…、心臓が…、く…、苦し…、い……。タ…、タク…、タクシーを……」
息も途絶え途絶え何とか口を開く。
右手で心臓を鷲掴むよう強く押さえ、左手は壁に。
手をついていないと倒れてしまう。
「タ、タクシーでしたら、すぐそこにタクシー乗り場があるので、運良ければすぐ乗れるかと……」
死に掛けていても人間は怒りが湧く。
この馬鹿お巡りが……。
俺は朦朧としながらも、溜めを作ってからドアを蹴飛ばした。
交番を出て数歩進む。
先ほどの怒りの蹴りで、体力が無くなったようだ。
前のめりに倒れてしまう。
必死に顔を上げる。
タクシーが一台停まっているのが見えた。
距離二十メートル……。
立てない……。
でも腕はまだ動く。
両肘を地面に付き、片方の肘を少し前へ進める。
肘を支点に身体を引き摺り、左右交互に繰り返す。
まさか自衛隊の時習った匍匐前進が役に立つとは……。
次第に姿勢を低くして第一から第五まである。
これは第四匍匐。
二十メートルの距離が何キロにも感じた。
まだ行けるって。
レスラーは何やられても壊れちゃいけないんだから……。
そうっすよね、鶴田師匠。
「どうかされましたか?」
タクシーの運転手が車から出てきて、近くまで来る。
「ち…、近くで…、もう…、申し訳…、ないです…、が……。せ…、赤心…、赤心堂…、病院まで……」
「だ、大丈夫ですか?」
這うようにしてタクシーへ乗り込む。
運転手が俺の足を持って車内へ入れてくれた。
本川越駅ロータリーから車なら一分も掛からない距離。
懸命に息を整える。
胸を何度も強く叩く。
「お客さん、着きました! 着きましたよ!」
俺は寝転がりながらスーツの内ポケットへ手を入れ、財布を取り出す。
千円札を取り出し、何とか手を伸ばし渡した。
「お客さん、お釣りです」
ここまで運んでくれたのだ。
声に出せない代わりに右手を左右に小さく振った。
せめてものお礼代わり。
タクシーから降りるのも一苦労。
左膝を地面につき、転がるように身体を投げ出す。
着いた。
やっと赤心堂へ着いた……。
掠れた視界の中、病院から白衣を着た人が走って来るのが見えた。
「動かないで!」
ここの当直だったさっき電話で話した医者だろう。
俺の左腕をまくり、注射を刺している。
「意識ありますか!」
「ぁ……」
うまく声が出ない。
「意識をしっかり持って!」
「ぃ……」
「大丈夫ですか!」
「ぁ……、はぃ……」
ちょっとだけ声出た。
看護婦がタンカを運んでくるのが見えた。
あれ、少しだけ呼吸が楽になってきたぞ?
「足を持って! 早くタンカに!」
薄れゆく景色をしっかり見る為、心臓を強く叩く。
タンカへ寝ながら胸ポケットから携帯電話を取り出す。
こういうの九死に一生って言うんだったっけ?
万死一生のほうがいいのか?
あ、看護婦さん…、そんなタンカを揺らさないでよ。
決定的瞬間を撮るんだから……。
この瞬間の写真を撮っておかないと……。
夜間緊急出入口から入り、病院の薄暗い通路を進んでいく。
本当誰もいないなあ。
時刻は三時一分。
俺はフェイスブックへ撮った写真を投稿した。
とりあえず無事病院へ着いたという報告を載せておきたかったのだ。
赤心堂病院来ました
実家の部屋で苦しいと投稿してから、たった五十分しか経っていないのか。
仰向けになったまま天井を眺めたまま、タンカは奥へ進んでいった。
先生は薬を飲ませ、今は点滴を刺している。
注射、薬、点滴の三点セット。
呼吸が楽になっていく。
仰向けのまま点滴の減っていく速度を確認。
「先生、これが終われば帰っていいんですか?」
「え? まだ点滴を打ちますよ」
「今日の夜から仕事なんですよ。なので、次の点滴終わったら帰りたいんですけど」
目を真ん丸にした状態で俺を見る先生。
「あなたは自分がどれだけ重症なのか、分かっていないんですか? 家族を呼んで下さい。今薬や点滴で抑えているだけで、次発作が来たらいつ亡くなってもおかしくない状態なんですよ? よくここまで生きて辿り着いたと正直驚いています…。まだ夜中で準備ができていないのですが、朝一番手術の準備ができ次第、即手術になります。入院する必要があります。今はご家族へ連絡を」
「え、俺が死ぬ? もう苦しくないですよ?」
「それは薬や点滴のお陰です。まず家族へ電話してもらえませんか?」
家族…、誰に掛けるよ?
クソ親父へ…、ようやく話すようになったが、こんな形で借りを作るのか?
弟の徹也は…、関わりたくない。
貴彦…、いやいや選択肢にすら入らないだろう。
弟でも何でも無いのだから。
叔母のピーちゃんなんてもっと論外だ。
あいつが岩上家に未だ居座っているからこそ、ここまで家は壊れた。
癌細胞の大元である。
死の間際の選択肢で、俺はこんな選択しかできないのか?
この四人の身内ならまだ親父しかいない。
フェイスブックを立ち上げ、入院するようになった報告をする。
三時二十五分の投稿。
先生もまさか電話を掛ける前に俺がフェイスブックへ投稿しているなど、気付きも思いもしないだろう、フヒヒ。
俺は『岩上智』の携帯番号を出して、ベッドへ寝たまま電話を掛けた。
「おまえ、こんな真夜中に何だよ……」
「あー、親父? あのさー、何か死に掛けちゃったみたいでさー、今赤心堂病院にいるんだよね」
「はあ? 何だ、そりゃ?」
「うーん、よく病名分からないけどさー。先生曰く危なかったんだって。それで家族に電話しろって言うから、親父へ電話したの。詳しい事は先生と代わるから聞いて。はい、先生」
携帯電話を手渡す。
点滴を打ち終わり、エレベーターへ乗せられベッドへ寝かされる。
その間で分かった事があった。
まず俺の対応をしてくれたのは赤心堂病院の市川誠院長。
最初の三井病院を出たところでの電話に出たのがこの院長で、運のいい事に当直だった事。
症状を聞き心筋梗塞の疑いがあると判断し、五分と言っていたので注射とタンカを用意して待っていてくれた事。
つまり俺がギリギリのタイミングで間に合い、院長の機転により命を救われた形になる。

「あの時、院長先生に命を救って頂き、またこうして担当が院長先生になるなんて、本当に光栄です。塚越先生って、何か悪さでもしたんですか?」

「いえいえ…、当病院を退職したってだけですよ」
「本当にあの時は、イメージで言うと心臓がギューッて雑巾を絞るように…、そうですね、螺旋状に心臓が捻じれるような感じでした」

「あの状態から、ここまで数値も回復するなんて、中々ないですよ」
「多分、ハンバーグとミートソースを多く食べているから、健康優良児なんですよ、昔から」

「あ、ハ、ハンバーグとミートソース…。豚肉が好きなんですね」
「いえ、牛も好きですよ。ステーキは五番目に好きな食べ物なんですよ。あ、でもハンバーグが二番目で、ミートソースが三番目だから、ひょっとしたら豚肉のほうが好きなのかもしれませんね。これは新たな新発見です。院長先生のお陰ですよ!」

「ち…、ちなみに一番目というのは?」
「茄子です! 私がどのぐらい茄子が好きかを話しましょうか?」

「い、いや…、まだ患者さん待っているんで、この次にしましょう。まず、今回の検査結果なんですけど……」
「俺、そういう数値見ても全然分からないですよ」

「ま、まあそうなんですが、分かり易く言うとかなりいい数値です」
「え? じゃあもう薬飲まなくても大丈夫ですか?」

「いや、それは駄目です。薬を飲んでいるからこそ、この数値ですので」
「悪ガキ…、いや、塚越先生も薬飲まないと五年以内にまた心筋梗塞になる可能性大だって脅されたんですよ」

「そ、それはその可能性はかなりありますよ」
「じゃあ自殺願望は無いですが、薬を飲まなかったら五年以内に死ねる身体を持ったという事ですね?」

「でもそれだとあの時の痛みをもう一度味わうんですよ?」

「……」

嫌だ…、寝ている時にいきなり心臓へ杭を打ち込まれたような衝撃。
のたうち回ったのは、人生であれが初めて…、いや、二回。
それも両方心筋梗塞の痛み。

「ですから、ちゃんとお薬は毎日飲みましょう」
「はい」

無事検診を終え、処方箋で薬待ち。
三ヶ月分を一つの袋に入れるので、とても時間が掛かる。

だから保険証とお薬手帳を渡すと、俺はあとで来ますと寄り道が始まるのだ。
向かう方向は必然的に生まれ故郷の連雀町。

中央通りを進み、弘武堂スポーツに差し掛かる際、右手を見る。
以前先輩の神田兼二さんの働いていたゲームセンターモナコ二号店は随分前に潰れ、オマケに更地になっていた。

そういえばこの建物の二階に、妹代わりに可愛がったミサキのキャバクラ店『サクセス』があったんだよなあ……。

今でも思い出すミサキの柔らかい感触。
瞬間的に俺の脳内は、三十代前半の頃にタイムスリップしていた。

場所をスイートキャデラックから、ミサキのマンションへ移す。
恐らくこの騒動をオーナーは、ほとんど関係してないだろう。
不動産から報告程度はあったにせよ、わざわざペットを飼ったくらいでカンカンになって出て行けなんて無いはず。
まずはオーナーとの話し合いだが、不動産の一人相撲なのを確認する必要があった。
電話を掛け、これまでの経緯を話す。
「いやー、私も今回の件はキチンと家賃も滞納無く払ってくれている店子さんなんで、不動産から連絡聞いて驚いていたんですよ」
「ペットのほうはちゃんと知り合いへ譲渡し、今後飼う事はありません。本人も反省していますので、今回の件は何卒……」
「いえいえ、こちらこそよろしくお願いしますよ」
どこがカンカンになり出て行けなのだ?
温厚そうな喋り方には好感が持て、一つハッキリしたのが予想通り、不動産の一人相撲だったという事
「ご迷惑お掛けしたのは事実なんで、今から菓子折り持って謝罪を兼ね、ご挨拶に伺いたいのですが……」
「いやいや、そんな気を遣わないでも……」
「今回の一連の騒動で落ち度があったのはこちらです。本人も反省しておりまして、一言お詫びをしたいと申しておりますので、どうか貴重なお時間を少々よろしいでしょうか?」
オーナーとの電話を終え、ミサキに拳を突き出す。
「な? 何とかなったろ?」
するとミサキはその場で泣き崩れた。
ずっと不安な日々を過ごしていたのだろう。
「ほら、まだ安心するのは早いって。ケーキでも買いに行くぞ。あ、ちょっと待って。今日店を休み取るからさ」
俺は佐々木さんへ電話して、どうしても今日休みをもらいたいと伝える。
「え、岩上君! 来ないと抜きができないよ」
「すみません、どうしても今日だけ重大な要件ありまして。落ち着いたらまた連絡します。明日は必ず出ますから」
まだ何かを言い掛けていたが、構わず電話を切った。
ミサキはまだ泣いていた。
肩を震わせている。
思わず後ろから抱き締めそうになるのを堪え、頭をポンポンと優しく叩く。
抱き締める?
俺はどうしたんだ?
妹だと割り切り、これまで接してきたつもりだった。
コイツは妹代わりなんだ。
春美の顔が思い浮かぶ。
そういえばピアノもやらなくなっちゃったな……。
ケーキを買い、オーナーの元へ。
ケーキ代くらい出すと言うと、ミサキは頑なに拒む。
「こういうのは自分でちゃんとやらないと駄目だよ!」
「ああ、オマエがそうしたいならそれでいいと思うよ」
恥ずかしそう笑うミサキ。
うん、やっぱりコイツは明るい方が似合う。
オーナーの自宅は、俺の家からすぐだった。
徒歩十分しないで着くくらいの距離。
オーナーからミサキとの関係性を聞かれ、兄貴みたいなものと苦しい言い訳をしたが、名前を名乗ると「え、そこの岩上さんとこの長男さんでしたか」と嬉しそうに声を掛けてくる。
「おじいさんの甲子郎さんにはよくお世話して頂いて……」
おじいちゃんの顔もあり、一件落着と。
「いえいえ、こちらこそご迷惑をお掛けして大変申し訳ございませんでした」
挨拶をすませ、再びミサキのマンションへ戻った。
「どうだ? 俺が出て何とかなっただろ?」
「ありがとう! 今日は本当にありがとう!」
部屋に着くなりミサキは抱きついてくる。
柔らかく小気味良い感触。
シャンプーからなのかいい匂いがした。
このまま抱き締めたら……。
俺は何を考えているんだ?
コイツは妹なんだ。
妹が困っていたから俺がしゃしゃり出ただけの事。
「まだ一つ残っているだろ」
俺は頭をポンポンと叩き、ミサキを離す。
ヤバい……。
俺はミサキを女として意識してしまっている……。
俺ら三兄弟を捨て家を出て行ったお袋。
一緒にいる二階堂さんとの間に生まれた子供。
あくまでも噂だが、俺と十歳離れてた妹。
ミサキと出会い、勝手に妹と重ね合わせてきた。
「一度も口説いてくれた事ないよね」
ミサキから何度か言われた台詞。
一体ミサキはどう思いながら、俺に接しているのだろうか?
俺が雪喜を紹介しろと無理やりさせた時、何を考えていたのか?
複雑な心境の中、欲望と良心がぶつかり合う。
欲望?
俺はミサキを抱きたいのか?
今、彼女へ手を伸ばせば拒まれず受け入れてくれると思う。
コイツは確かに可愛い。
そして美人だ。
俺はミサキに何を求めた?
抱くとかじゃない。
男兄弟の中で生活してきて、妹がいたらどうだっただろう?
よくそんな思いがあった。
そこへ降って湧いたお袋の隠し子情報。
タイミング良く出会ったミサキ。
俺はこの子と、心の繋がりを大切にしてきたのだ。
何故俺は、自問自答して必死に自制しようとしているのか?
妹代わりじゃない。
すでに今、俺は女としてミサキを見てしまっている?
違うだろ!
そうじゃない!
ミサキは俺が勝手に妹代わりと決めた。
じゃあ何故女を感じている?
さっきいい匂いがするとかほざいていたじゃねえか?
何故口説かない?
目の前の女は今なら簡単に手に入るぞ?
ふざけんな!
今まで兄貴面して面倒見て、ここまで仲良くやってきたんだ。
それを相手が弱っているから?
違うだろ!
そんな卑劣な生き方してきてねえんだよ!
頭の中で二つの人格が喧嘩をしている。
二つ?
じゃあそれを見ている俺は何だ?
チラッとミサキを見る。
ハンカチで涙を拭っているところだった。
綺麗だなと素直に思う。
右手が少しずつ彼女の肩へ近付く。
このまま強引に抱き寄せてしまえば……。
相手が弱っている時につけ込むなって!
そんなもの、空き巣に入る泥棒と変わらないだろうが!
口説くなら、正々堂々と口説けよ!
「ミサキ……」
俺の言葉に振り向く彼女。
言え。
好きだった。
異性として気付いたら好きになっていた。
そう言ってしまえ。
「……。も、もう大丈夫なんだよね?」
「あ、ああ…。もう大丈夫だ。おまえも大家さんと直に会って話したろ?」
「でも、また不動産から電話が来たら……」
「……」
ここまで心を傷つけられ、被害妄想に駆られる日々を送ってきたのだ。
このタイミングで告白?
卑怯だ。
今彼女に必要なのは、安心させる事。
気持ちを伝える事ではない。
「ミサキ、安心しろ」
「え?」
自身の気持ちを誤魔化すように、乱暴に携帯電話を手に取る。
「不動産に電話すっから…。これで晴れて堂々とここに住めるだろ?」
「うんっ!」
ミサキの笑顔を確認してから電話を掛けた。
「おい、オメーらはよ。どういうつもりだ? オーナーと直に話したら退去も何も…、どこがカンカンなんだよ?」
「いや…、それはその……」
「いいか? オマエたちのした事はな…。仲介手数料を他の奴入れてせしめたいが為に、まだ二十歳そこそこの若い子に対しよってたかって追い出そうとしたんだぞ! 恥ずかしくないのか? 恥を知れ!」
「いえ…、あの……」
「ゴチャゴチャ言い訳抜かすな! 今から電話変わるから、本人に誠心誠意謝れ!」
携帯電話をミサキに渡す。
「……」
「ん、どうした?」
「何も言わないよ……」
「貸せ」
ミサキから電話を取ると、大声で怒鳴りつける。
「おいっ! オマエ、まだ分からないのか? 今から桜産業まで俺が乗り込むか?」
「は、はい! 今からちゃんと謝らせて下さい!」
携帯電話を耳につけたまま、しばらく無言のミサキ。
俺は黙って横顔を見ていた。
ミサキの瞳から大粒の涙が流れる。
これまで張り詰めた糸が、一気に切れたのだろう。
まるでダムが決壊して一気に水が噴き出したのように見えた。
「酷いですよ…。本当に酷いですよ……」
頭へ軽く手を置き、携帯電話を取り上げる。
「いいか? オマエたちのやった事はだな…。こういう事なんだ。今後コイツにつまらない真似してみろ? 俺が直に行くからな」
完全勝利って感じの終わり方。
電話を切るとミサキに微笑み掛け「もうこれで安心して眠れるだろ?」と優しく言う。
ミサキは無言のまま抱きついてきて、しばらくその体勢で泣いていた。
コイツ、結構胸デカいんだな。
俺は膨らんでしまった股間を彼女の身体につけないよう気がける。
いや、これで抱き締めてベッドへ押し倒せば……。
鼻を近付けミサキの匂いを嗅ぐ。
女の匂いがした。
一瞬春美の顔が浮かぶ。
あいつはもう俺なんて想ってもいないだろ。
それにミサキと春美はタイプが違う。
じゃあミサキにピアノを捧げるのかよ?
それは少し違う。
彼女が聞きたいと言えば、俺はいくらだって弾く。
でもそれはザナルカンドじゃない。
ミサキの為に新しい曲をマスターしてからの話だ。
まずはその空いた腕で抱き締めろって。
そして顔を上げさせ、唇を奪え。
この女をものにしろ。
身体が小刻みに震え出す。
何故震える?
このままじゃミサキに伝わるぞ?
好きだと言って、断られたら?
「……」
まだこのままの関係で仲良く過ごしたい。
ならやる事は一つしかないだろ?
そうだよな……。
彼女の頭の上に手を持っていき、優しくポンポンと叩く。
これ以上このままだと俺の理性が持たない。
いや、自分の本音を言い、もしも断られたらと怖かったのだ。
俺はいつだって臆病だ。
失う事を常に恐れている。
「ほら、飯食いに行くぞ」
「そんなお腹減ってない」
「俺が減ったの。いいから付き合え」
不動産の一連の件が終え、俺はミサキを連れてクレアモール商店街をひたすら歩く。
「どこ行くの?」
「まだ決めていない」
真っ直ぐ進むと大正浪漫通りになる。
「ねえ、まだ歩くの?」
「そろそろだ」
目に付いた寿司屋の看板。
店内へ入る。
「ミサキ、マグるぞ」
「何マグるって?」
「マグロをたらふく食う事だ」
「えー! 私イクラとか雲丹が食べたい」
「おまえはそれでいいよ。俺はマグロの赤身しか食えないの」
「じゃあ、何で寿司屋なんて入ってんの……」
「マグロだけは俺の好きなものベスト五位だからだよ!」
「馬鹿みたい……」
あのままコイツの部屋にいたら、理性が吹っ飛びそうで怖かった。
壊れない関係。
それは俺が兄らしく、少しお馬鹿でいる事。
「何を握りやしょ?」
「マグロの赤身で」
俺と板前のやり取りを見て、ミサキは笑う。
「本当にマグロしか食べないんだねー」
「かっぱ巻とか梅ジソ巻きも食えるよ」
魚介類が苦手は俺は、普通の寿司屋よりも回転寿司へ行ったほうがいいと思うくらい食べられるレパートリーが少ない。
「夜は店に出るんだろ? 俺は今日長くなる事も想定したから仕事休みにしたんだ。ミサキがいるなら飲みに行くよ」
もう残り少ない日数のワールドワン。
俺が休むイコール佐々木さんは金が抜けなくなる。
なので状況を説明するのが大変だった。
「うん、ほんと色々ありがとう……」
「少しは頼れる兄貴っぽいところ見せられたか?」
「本当にありがとう…。本当にありがとう……」
また湿っぽくなってきたので寿司屋を出る。
斜め向かいの化粧品加賀屋へ連れていく。
「あら、智ちゃん。今日は彼女連れ?」
「違うんですよ、おばさん。コイツは俺が可愛がっている妹分なんですよ。今日は元気無かったから、寿司食って、ここで何か化粧品買ってやろうかなと」
「へー、智ちゃん妹分なんているんだ?」
「ほら、ミサキ。おばさんに挨拶しろ。俺の同級生の母親で、ガキの頃から世話になってんだよ」
「はじめまして、ミサキです。いつも岩上さんにはお世話になって……」
「そういうのはいいの! ほら、ミサキ。口紅でも何でも好きなもの選びな。おばさんもコイツに何かお勧めの商品見せてやって下さい」
会計時ミサキはしきりに金を出そうとしたが、許さず俺はすべて支払う。
「じゃあそろそろおまえも店の準備あるだろ? そろそろ帰りな」
「ありがとう! 本当にありがとう!」
加賀屋の前で、彼女と別れる。
後ろ姿を見ながら、本当にこれで良かったのだと無理に自分を納得させた。

「……」

あの時好きって言えていれば、あいつも沖縄なんて行かなかったんじゃないのか?
岩上整体を始めた頃だもんな、ミサキが川越から沖縄へ移り住んだのは……。

久しぶりに彼女へメッセージを送ってみた。

『久しぶりー サクセスあったビルや、目の前パチンコ屋潰れて、更地になってた。 岩上智一郎10:13』

「……」

既読にもならない。

そりゃそうだよな。
今ミサキは向こうで彼氏もできたようで、楽しそうに暮らす写真をフェイスブックでもあげているほど。

逃がした魚は大きい。
ミサキとあの時くっついていたら、詐欺に騙される事もなかったのにな。

連雀町へ向かい歩いて行くと櫻井商店…、開いてない。
えー、まだ時間早いのかな?

すぐ近くの熊野神社へ入る。

鳥居を潜ると、踏み足健康ロードというここ十数年でいきなり観光客用に造られた歩道。
何も知らない人は、ここで裸足になってグリグリに引かれた石を上を歩いて喜んでいる。

宝池…、弁天池と呼ばれるここも、すぐ裏側は日活ポルノロマンの映画館だった。
そしてその頃、こんな池はなく、ここも急遽作った場所。

エロ映画館の裏の池で銭洗って、縁起いい訳ねえだろ。
一昔前、どれだけの精子があそこにあったと思うんだ。

でも楽しそうな観光客の笑顔を壊す権利など俺には無い。
偽りの幸せをせいぜい感じて喜んでいればいいだろう。

それにしてもおみくじやら、とにかく色々なものがゴチャゴチャ増えたな。

俺が子供の頃は、毎日蟻を掴またり、ダンゴ虫を丸めて笑ったりしていただけの空間だったのに。

熊野神社で一番変わり、金を掛けているのが拝殿裏にできたこのむすひの庭だろう。

昔は本当に何も無かった場所。
占いで使うような縁結びか開運、神恩感謝の水晶が三つ設置してあり、手を触れると機械音声で喋り出すのだ。

そういえばやった事ないな。
開運をやってみるか。

「あれ、壊れてる……」

仕方なく真ん中の縁結びの水晶に手を置く。

プールルルルルルル―。
チャリチャリ。

ん?
声が小さ過ぎて、何て言っているか分からない。

そもそもついこの間ロマンス詐欺で騙されたばかりの俺が、縁結びなど占ってもらってどうする?
こうスピリチュアルに目がないから、ズブズブの底なし沼にハマるのだ。

十数年前から変わったのは知ってたけど、何か変わり過ぎだぞ、熊野神社。

薬を作っている間、ヤスのカガヤカフェへ酒を飲みに行くと、櫻井さんは先に来てコーヒーを飲んでいた。

どうりで櫻井商店が開いてない訳だ。

まことやへ寄ると。カテーテル仲間の手島さんはいなかったけど、息子がいたので太麺焼きそばを食べる事にする。

店員に可愛い子いたので、ソフトクリーム奢る事に決めた。
変な噂流されないように、手島さんの息子にも食えとご馳走する。

携帯電話にメッセージが届く。
誰だよ?

『久しぶりー! 川越もだいぶ変わったね。 川窪愛13:25』

ミサキからだった。

新宿クレッシェンドの主人公赤崎隼人の亡くなった妹の設定。
岩上智一郎、徹也、貴彦の三兄弟ではなく、赤崎隼人、礼二、愛の三兄妹にしたのは、ミサキの本名を作品に出したかったから。

初恋の永井泉の泉を使い、当時たまたま惰性で口説いていた星めぐみの星を使ってヒロインの星泉誕生。
だからせめて初めて書く小説には、妹代わりに可愛がった愛の名前を使いたかったのだ。

この設定で思い出すのは、決まって巣鴨警察署で捕まった時の担当刑事出口さん。
あれは歌舞伎町浄化作戦の時だから、三十三歳になった二千四年。

新宿クレッシェンドを書いた年だ。

携帯電話が鳴る。
巣鴨警察署生活安全課の刑事、出口からだった。
「岩上か?」
「はい、そうですが…。何かありましたか?」
俺の番号に掛けておいて、いきなり「岩上か?」はないだろう。
出口らしいが。
「おまえのくれた本をたった今、読んだんだよ。『新宿クレッシェンド』だっけ?」
「あ、読んでくれたんですか。嬉しいですね」
あそこを出てからすぐ本を作り送ったが、まだ三日前の話だぞ?
送るのに最低一日は掛かるだろうから、この二日間で小説を読んでくれた計算になる。
警察って本当に暇なんだなと思ったけど、それ以上にすぐ読んでくれた出口の心意気が嬉しかった。
「大変だったんだな、おまえも……」
「え、大変って何が?」
「いや…、妹さん…、幼い頃に亡くしていたんだろ?」
「はあ?」
「だから…、おまえの妹さんだよ…。愛さんって言う子だったんだな……」
出口刑事は気を使いながら言葉を一生懸命選んでいるようだ。
「あの~、出口さん……」
「何だ?」
「巣鴨の時、俺の調書取ったでしょ?」
「ああ、それがどうした?」
「俺は男三兄弟だし、妹なんていませんよ。出口さんが言っているのは、『新宿クレッシェンド』の中の話でしょ……」
「だって…、妹さんがブランコで……」
「だから~…、はあ……。それは小説の中の話じゃないですか」
あまりの馬鹿馬鹿しさに、溜め息しか出てこない。
「何だ…、ビックリさせやがって、この野郎」
俺の書いた小説を読み、その設定を勝手に真実だと思い込んで電話をしてきたのである。
こっちが違うと説明すると、逆切れして「この野郎」呼ばわり。
まったく憎めない性格と言うか、この人は本当に天然だ。
だからこそ、留置所生活も楽しめた訳であるが。
「まあそれだけ感情移入して読んでくれたんで、こっちも光栄ですよ」
「岩上」
「はい?」
「おまえ、この小説は…、ひょっとしたら、ひょっとするかもしれないぞ」
「そう言ってもらえて嬉しいですよ。頑張りますから」
刑事までが俺の小説を絶賛してくれた。
これでまた一つ、自信がつく。
「おう、頑張れ。それとな……」
「何でしょう?」
「早いところ彼女と籍を入れてやれ」
「……。切りますからね、電話」
「なかなかいないぞ、あんな風に待ってくれる子なんて」
「それは充分分かってますよ。でも、今はまだ時期じゃないってだけです」
「そうか、なら早いところ式を挙げろ」
勝手な事を言いながら出口は電話を切る。
披露宴するのに、いくら掛かると思っているんだ、あの人は……。
携帯電話をスーツの胸ポケットへしまうと、俺はセブンスターに火をつけた。

いわばミサキの存在が、新宿クレッシェンドの文学賞受賞へ貢献してくれたのだ。

焼きそばまことやの先ほど可愛いと思った店員を眺める。
ミサキのほうが美人だ。

俺は手島さんの息子を睨みつけ、「おまえなんか全然羨ましくねえんだよ。チェックしろ。もう帰る」と会計を済ませる。
不思議そうな顔を眺める息子。
ふん、ミサキの力は偉大なんだよ。

すぐ喜んで返事をするのも駄目だ。
ここは少し心に余裕を持って、まずは時間を置こう。

立門前通りから中央通りへ行き、右折。
あれ、始さんの和菓子伊勢屋は、今日お休みか。

歩きながらミサキへ返信した。

『かなり変わったよ。俺は、新宿住んでるからたまにだけど、たまに戻ると本当に変わったなあ。 岩上智一郎14:12』

2024/05/14 Facebookメッセンジャー ミサキ

あの時ミサキと寿司屋へ行ってマグったなあ……。

そうだ、こんな時こそマグろう!
クレアモールを真っ直ぐ歩き、大好きな町鮨とろたくへ向かう。

もはや定番になっているけど、お決まりのルート。

とっくに薬はできているだろうけど、マグってマース!
茄子ってマース!

すっかりご機嫌になり赤心堂病院へ戻って薬を受け取る。
さて、明日は仕事だし新宿へ帰ろう。

あ、ミサキから返事来たぞ。

『そうなんだー! 私も川越行く事あれば行ってみよ。 川窪愛15:42』

ありゃ、俺と会いたいではなく?
彼女のフェイスブックを眺める。

「はあ……」

まだあのプロレスリングノアにいるレスラーの杉浦貴似の猿顔の彼氏と、一緒に写っている写真ばかりじゃねえかよ……。

プロレスリングNoah プロレスラー 杉浦貴

絶対俺の方がいいじゃねえかよ、ミサキ!

いやいや…、五十二歳で裏稼業勤務。
心筋梗塞で死に掛け、詐欺には遭い金を失い、こんな男と彼女はくっつかなくて良かったんだ。
川越…、いや、新宿の地からおまえの幸せを祈ろうじゃないか。

電車に乗ってから思い出す。
あ、成田山川越別院行ってお祓いしなきゃと思ったら、忘れて東武東上線乗っちゃった。

久しぶりに生臭坊主の有原照龍の顔を見たかったんだけどね。

昨日の夜から寝ずに病院来て、酒を飲みっ放しだったのでウトウトしてしまう。
不意に目を覚まし、電車から飛び降りる。

すると何故か朝霞台駅だった……。

え、俺は何をやってんの?
池袋まで行かないと帰れないでしょ。

いつだったっけ?
確か前もこんな感じで降りて、西武池袋線ならまだ帰れると乗ったら途中で寝て、起きたら保谷という変な駅
あの時は終電で漫画喫茶に泊まったんだよね。

ラッキーハウスの時だっけ?
それともレディに入ってからだっけ?

あー、モヤモヤする。
蘇れ、サヴァン症候群記憶力よ。

思い出した!
あの時は岡部さんと寿司屋の江戸銀行って、西武新宿の終電で帰ろうとしてだった。

ちょっとした自己嫌悪。
西武新宿線の最終電車へ乗ったら、途中で寝ぼけて飛び起きて降りてしまった狭山。
調べると、西武池袋線経由だったらまだ電車があったので、仕方なく所沢駅まで向かう。
生涯初めて乗る西武池袋線。乗っている内にまた睡魔に襲われた。
気付けば電車は、保谷駅という辺鄙なところで停まっている。
何で車両の中に誰もいないんだ?
ジッと座っていると、駅員が来て「もう電車は終わりですよ」と無理やり駅の外へ出された。
一体どこなんだ、ここは?
携帯電話で調べると、どう考えても新宿には帰れないとんでもない場所で出されたようだ。
こうなったミスを総括すると二つ原因がある。
一つは西武新宿線本川越で最終電車へ乗ったのに、寝ぼけて狭山で降りてしまう愚行。
さらに西武池袋線所沢から池袋までの最終列車へ乗れているのに、途中寝てしまいUターンで保谷駅に置き去り。
ここからだと大久保までタクシー代二万ぐらい掛かってしまう。
しょうがなく漫画喫茶へ久しぶりに入り、朝まで過ごす。

でも、今日は同じ失態をしても、まだ夕方の五時前。
もう漫画喫茶のような狭い空間など、誰が泊まるかっていうんだ。

自称俳優マンションへ無事帰ると、とりあえず眠る。

十時過ぎに目を覚まし、今日の赤心堂病院から始まった地元川越の一日をブログで書いた。

リオでも抱きに行こうかな。
いやいや、今日だけでいくら使ったよ?

病院で三万以上。
ヤスの店で七千円。
まことやで二千五百円。
とろたくで五千七百円。

洗体エステ行ったら、追加で一万二千五百円。
駄目だろ、さすがに。
はあ…、何だか虚しいよー……。

そういえば文学賞取れた時、巣鴨警察署へ電話して出口刑事を出してくれと言ったら、他の署へ移動していたんだよな。
どこへ移動したのか聞いたら、個人情報でと教えてくれなかった。
公務員の何が個人情報だよ。

そこの留置所でお世話になった岩上だと言うと「あら、あの岩上君?」なんて電話口の府警は言っていたが、絶対出口刑事に伝えてもいないんだろうな。
何故ならあの性格なら、絶対に俺の携帯電話に連絡をしてきたはずだから。

あー、あんな汚らしい顔をしたおっさん刑事の事はもういいや。
その代わりミサキ、悪いけど今日だけはおかずになってもらうからな!

俺はミサキを裸を想像しながらオナニーをして、また眠る事にした。





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