[第四話]石動墓石店の宇宙錬金術 (前回までのあらすじ付き)【AI創作小説】
前回までのあらすじ
人の悪意に触れると、相手が禍々しい姿に見え、激しい耳鳴りに襲われる高校生・石動蓮。クラスメイトの御子柴司がそばにいると、そのすべてが一瞬で消えることを知った蓮は、彼の隣に不思議な「静けさ」を感じていた。
一方、祖父・源造から渡されていた石が、周囲の“嫌なもの”を吸い取っていたことも判明する。秘密の蔵で行われる「還流」、そして源造の口からこぼれた謎の言葉――「常世」。
さらに、蓮のタイガーアイを調べた源造は呟いた。
「……早すぎるな」
そして――
「明日から、それ一つで学校へ行くな」
蓮はまた、新たな一日を迎える。
第4話「澱み」
朝食のテーブルにつくと、源造がふいに、小さな石を差し出した。
淡い緑色の、見慣れない石。
「……二つ?」
「昨日言ったろ。それ一つで行くな、と」
蓮はフローライトを手に取る。ひんやりとして、タイガーアイよりずっと軽い。
「これは?」
「そいつは吸わん。散らかったもんを、少し見やすくするだけじゃ」
それだけだった。源造はそれ以上説明しない。
蓮が石を光にかざしても、ただ淡い緑が透けて見えるだけで、何が「見やすくなる」のか、想像もつかなかった。
「それでも足りん。昨日の小僧から離れるな」
「……御子柴くん?」
「あの小僧のそばは静かなんじゃろ」
源造はそう言うと、味噌汁の椀を持って立ち上がった。蓮はフローライトを、ポケットの中でタイガーアイと一緒に握った。
登校して早々、蓮は違和感に気づいた。
廊下ですれ違う生徒たちから流れてくる嫌な感じが、今までとは少し違う。
嫉妬に似た何か。苛立ちに似た何か。焦りに似た何か。
全部「悪意」という一つの塊に見えていたものが、微妙に色や濃さを変えて感じられる。
ある人からは黄ばんだ靄が、別の人からは灰色がかった重い波が、それぞれ違う質感で流れてくる。
何が違うのかは分からない。ただ、同じではないということだけは分かる。
むしろ気分が悪くなった。
分かるようになったぶん、情報が増えただけだった。教室に着く頃には、蓮はすでに少し疲れていた。
昼休み。
息苦しさに耐えかねて、蓮は司の後を追った。
――また追ってる。
これじゃ、本当に利用してるだけじゃないか。
その自覚が、足取りを重くする。
司がいつもの場所で足を止め、教科書を開く。蓮が近づくと、一瞬だけこちらへ目をやった。何も言わずに、また視線を戻す。
御子柴くんは、ボクのための道具じゃない。
分かっている。分かっているのに、足が止まらない。
突然、スマホが震える。
紅葉からだった。
『スマホ完全復活! じいちゃん神!』
『昨日はマジで手のひら焼けるかと思った』
『蛍石持たされた?』
『……うん』と返すと、すぐに続く。
『あれ持つと余計なもんまで細かく見えて疲れるから、無理すんな』
『他人のゴミ箱の中身までわざわざ覗く必要ないからね』
蓮は小さく笑った。
少しだけ、肩の力が抜けた。
中庭に差しかかったところで、拓海がいた。
フローライト越しに見る拓海は、以前とは違って見えた。
単純な怒りの塊ではない。
もっと奥に、冷たく沈んだ薄墨色の霧のようなものが、静かに渦を巻いている。
怒っている……?
でも、それだけじゃない気がする。
拓海のスマホが鳴った。
「あ、うん。……は? 結衣を? いや、俺今日部活――」
声が沈む。
「……分かったよ」
「兄ちゃんは模試だから無理って、いつもそう言うじゃん」
「……別に。うん、迎え行く」
電話が切れる。
拓海はしばらくスマホの画面を見つめたまま、動かなかった。
指先が、画面の端をなぞるように動いている。
「……また俺かよ」
誰にともなく呟く。薄墨色の霧が、ゆらりと揺れた。

蓮はそれを、ただ見ていることしかできなかった。
何を言えばいいのかも、そもそも自分に言う資格があるのかも分からなかった。
通りがかった別の生徒の肩に、拓海がわざとぶつかった。
「おい、どこ見て歩いてんだよ」
理不尽な言いがかりだった。
相手は戸惑いながら謝る。
それでも拓海は舌打ちを続け、相手が逃げるように立ち去るまで睨みつけていた。
――だからって、あの人に当たっていいわけじゃない。
蓮はそう思う。
同情はしても、全部を許せるわけではなかった。
それなのに、頭の隅で別の疑問が膨らんでいく。
石で吸ったのに。
家も、拓海くん自身も、何も変わってない。
拓海が、ふと蓮に気づいた。目つきが変わる。
「……お前」
その輪郭が、じわりと崩れていく。以前と同じ、禍々しい姿へ。
怖い。嫌だ。
過去にされたことも、消えてなんかいない。
それでも、さっきまで、普通の顔をしていた。
その事実だけが、蓮の中に引っかかったまま消えなかった。
気づけば、蓮は司のすぐ隣にいた。
ブツッ、と。
耳鳴りが消える。
拓海の姿も、ただの高校生に戻る。
司が面倒くさそうに拓海を一瞥する。
それだけで、拓海は気圧されたように舌打ちをして、その場を離れていった。
司はヒーローらしい台詞は何も言わなかった。
ただ、隣の蓮を見て、
「お前、今日ずっと俺の後ろ歩いてるな」
と言った。心臓が跳ねる。
「ご、ごめん。ボク……」
「別にいいけど」
司はそう言ってから、少しだけ目を細めた。
「さっきの奴の何見てたんだ? 化け物でも見るみたいな顔してたぞ」
蓮は答えられなかった。
うまい嘘も、正直な説明も、どちらも思いつかなかった。
司はそれ以上追及せず、興味を失ったように視線を外した。それが余計に、蓮の胸に何かを残した。
日が沈み、石動墓石店に明かりが灯る頃、蓮は二つの石を手に、源造のいる作業場を訪ねた。
蓮は源造に思い切って聞いた。
「じいちゃん。あの日、拓海くんから嫌なもの、なくなったよね?」
源造は曖昧に頷く。
「でも、今日また出てた」
源造は何も言わなかった。
「あの人、家でずっと……たぶん、誰にも見てもらえてない」
蓮はそこまでしか言えなかった。
それ以上、他人の家庭を分かった気になるのは怖かった。
「石で吸い取っても、その人がずっと同じなら……また溜まるの?」
長い沈黙のあと、源造は短く答えた。
「……溜まる」
「じゃあ……」
「出たもんを拾う。それがわしらの仕事じゃ」
蓮は納得しきれない。
それだけで本当にいいのだろうか?
石は悪意を吸い取れる。でも、悪意が生まれる理由までは、たぶん、何も変えられていない。
源造はふと、タイガーアイを蓮の手から取り、しばらく黙って眺めた。表情が硬くなる。
「問題は、あの坊主一人じゃない」
「え?」
「最近、この辺りの澱み方が妙じゃ」
それ以上の説明はなかった。
源造はタイガーアイを蓮に返すと、
「明日も、あの小僧から離れるな」
とだけ言った。
布団の中で、蓮は今日一日を思い返す。
司の言葉が耳に残っていた。
「お前、今日ずっと俺の後ろ歩いてるな」
頼らなければ、危険かもしれない。
でも、何も知らない司を、これ以上利用したくない。
答えの出ない気持ちを抱えたまま、蓮は目を閉じた。
一番初めから読みたい方
第一話①はこちら ↓

