「お前、頭いいと思ってるだろ」と胸倉をつかまれた
※本記事は実際の経験をもとに、個人・企業が特定されないよう、一部の属性や状況を変更しています。
「お前、頭いいと思ってるだろ」
昔、ある仕事の現場で、スタッフに胸倉をつかまれて言われたことがあります。
私は、
「うん、思ってるよ」
と答えました。
それで終わりました。
そのまま会議を続けました。
別に、喧嘩をしていたわけではありません。
今振り返ると、お互い必死だったのだと思います。
当時の私は、今よりずっと「正しいことを言えば、人は動く」と思っていました。
そして厄介なことに、私が言っていたこと自体は、それほど間違っていなかったと思っています。
だからこそ、なかなか気づけなかったのかもしれません。
「こうした方がいい」が止まらなかった
その現場では、仕事の進め方にかなり非効率なところがありました。
外から入った私には、
「ここを変えれば、もっと楽になるのに」
「このやり方を変えれば、もっと効率的になるのに」
ということが、いくつも見えました。
だから私は、
「ここはこうした方がいい」
「このやり方は変えた方がいい」
「こっちの方が早い」
と、矢継ぎ早に言っていました。
自分としては、現場を否定しているつもりはありませんでした。
むしろ逆です。
みんな大変そうに働いている。
だったら、もっと楽にすればいい。
余計な仕事を減らせばいい。
仕事が回るようになれば、顧客への対応にも余裕ができる。
その方が絶対にいい。
そう思っていました。
でも、以前からそこで働いていた人からすれば、見え方は違ったのでしょう。
自分たちがやってきた仕事を、外から来た人間に次々と否定されている。
そんなふうに感じたのかもしれません。
そして、
「お前、頭いいと思ってるだろ」
と胸倉をつかまれました。
当時の私は、それでも、
「でも、こっちの方が良くなるじゃん」
と思っていました。
実際、現場は良くなった
その後、仕事のやり方は少しずつ変わっていきました。
結果として、働く環境はかなり改善しました。
以前より仕事が回りやすくなり、顧客への対応も良くなりました。
すると、胸倉をつかんできたスタッフとの関係も変わっていきました。
むしろ、とても良い関係になりました。
その人は自分で、
「これはどうしたらいいだろう」
と考え、私に意見を求めてくるようになりました。
私がその現場を離れた後も、しばらくして会うと、
「あのとき話していたことを、今もやっています」
と言ってくれました。
自分たちの仕事が楽になり、顧客からの反応も良くなったことを、とても喜んでいたのを覚えています。
だから、この話を、
「昔の私は間違っていました」
という話にはしたくありません。
変えた方がよかったことは、実際にあったと思います。
問題は別のところにありました。
正しいことと、人がそれを受け入れて動けることは、別だった。
当時の私は、その二つをほとんど同じものとして考えていました。
正しいことを言えば、分かってもらえると思っていた
当時の私は、かなり理屈で考える人間でした。
経営についてもかなり勉強していましたし、数字やロジックから考えることには自信がありました。
「この方が合理的だ」
「この方が早く良くなる」
と思えば、それをかなり直接的に伝えていました。
なぜなら、その方が相手のためでもあると思っていたからです。
遠回りする必要はない。
問題があるなら問題だと言えばいい。
改善方法が分かっているなら、早く変えればいい。
その通りにやれば良くなるのだから、やった方がいい。
今考えると、ずいぶん単純です。
でも、本気でそう思っていました。
だから相手が動かないと、不思議でした。
「なんで理解できないんだろう」
「やれば良くなるのに、もったいない」
そんなふうに思っていました。
人を泣かせたこともある
別の会社で会議をしていたときのことです。
ある方と仕事について議論になりました。
私はいつものように、
「なぜそう考えるんですか」
「でも、それだとこうなりますよね」
「だったら、こちらの方が合理的ではないですか」
と、一つずつ理屈を積み上げていきました。
すると、その方が泣いてしまいました。
そこで私は、何も言えなくなりました。
自分としては、相手を責めているつもりはありません。
ましてや、泣かせようと思っていたわけでもありません。
仕事の問題について話していただけです。
でも、泣かれてしまったら、
「俺が悪いじゃん」
となる。
それ以上、何もできなくなりました。
今なら少し分かります。
私は「仕事のやり方」について話しているつもりだった。
でも相手には、
「自分自身を否定されている」
ように聞こえていたのかもしれません。
仕事のやり方について話すことと、その人自身を否定すること。
私の中では別のことでした。
でも、それが相手にも同じように伝わるとは限らなかったのです。
正しくても、人や組織が動くとは限らない
同じ頃、組織の中でも何度か大きな失敗をしました。
私は、おかしいと思ったことを比較的そのまま言う人間でした。
「これはおかしいでしょう」
と思えば言う。
相手の立場が上だからといって、明らかにおかしいと思っていることまで「そうですね」とは言えませんでした。
その結果、人間関係が悪くなったこともあります。
組織の中で仕事を外されたこともあります。
納得できないまま、自分が謝ることになったこともあります。
当時は本当に意味が分かりませんでした。
「どう考えても、自分が悪いわけではない」
と思っていました。
悔しくて泣いたこともあります。
そして、今振り返っても、
「あのとき、本当は私が間違っていました」
とは思っていません。
時間が経ってから、当時私が問題だと考えていたことが、実際に問題として表面化したこともありました。
だから、ここで言いたいのは、
「正しくても黙っていた方がいい」
ということでも、
「組織では空気を読んだ方がいい」
ということでもありません。
私が何度も失敗して分かったのは、もっと単純なことです。
自分が正しいかどうかと、人や組織が動くかどうかは、別の問題だ。
正しさは必要です。
でも、正しさだけでは人は動かない。
正しさだけでは組織も動かない。
私は何度も失敗して、ようやくそれを理解しました。
人に期待しなくなった
昔の私は、人に期待していたのだと思います。
ちゃんと説明すれば分かってくれる。
良くなる方法を示せばやってくれる。
本人のためになるなら、受け入れてくれる。
でも、人はそんなに単純ではありません。
変えた方がいいと分かっていても、今までのやり方を変えたくないことがある。
頭では理解していても、動けないこともある。
「やります」と言っても、できないこともある。
だから今の私は、以前ほど人に期待しません。
少し冷たく聞こえるかもしれません。
でも、人を信用しなくなったという意味ではありません。
むしろ、
人そのものと、その人の行動を分けて考える
ようになりました。
私は、人を信じます。
でも、行動は信じません。
「この人はいい人だから、ちゃんとやってくれるだろう」
とは考えない。
その人の人間性と、仕事がきちんと行われるかどうかは別だからです。
だから、必要なら仕事を標準化します。
誰がやっても、ある程度同じようにできる仕組みにする。
「やります」と言ったことではなく、実際に何が行われたのかを見る。
できていなければ、
「なんでやらなかったんですか」
と責めるのではなく、
「何があってできなかったんですか」
「どうしたらできそうですか」
を一緒に考える。
それでもやらないのであれば、それもその人の選択です。
「そのままでもいい」と言えるようになった
今、経営者と話していると、
「そのままでもいいと思います」
と言うことがあります。
本当に、そのままでもいいと思っています。
ただ、
「おそらく、そのまま進むとこういうことになると思います」
とは伝えます。
そのうえで、
「もしそれを避けたいなら、こうしてみませんか」
と提案する。
でも、強制はしません。
最後は本人に決めてもらえばいい。
昔の私なら、
「どう考えても、こっちでしょう」
と言っていたと思います。
今は違います。
私が正しいかどうかより、その人が何を望んでいるのか。
その結果を得るために、今の行動がつながっているのか。
そこを一緒に見ます。
その人自身を否定する必要はありません。
「あなたはそのままでいい」ということと、
「今の行動のままで、望んでいる結果が出る」ということは別です。
そこだけは、今でも曖昧にしないようにしています。
あの頃の自分に言うなら
今の私の支援スタイルは、何かきれいな理念から生まれたものではありません。
正しいと思うことを言って、人を怒らせた。
人を泣かせた。
自分も泣いた。
組織の中でうまくいかなかった。
「なんで分からないんだろう」
と何度も思った。
そんな失敗を繰り返した結果として、今のやり方になりました。
だから、もしあの頃の自分に会えるなら、
「もっと人の気持ちを考えなさい」
とも、
「正論を言うのをやめなさい」
とも言わないと思います。
たぶん、一言だけです。
「そんなに頑張んなくてもよくね」
人を動かそうとしすぎなくてもいい。
正しいことを全部理解してもらおうとしなくてもいい。
人は信じる。
でも、行動は事実で見る。
必要なら仕組みを変える。
できなければ、できる方法を一緒に考える。
そして最後は、その人自身に決めてもらう。
今は、それくらいでいいと思っています。
もし今、社員に対して、
「何度言っても分からない」
「どうしてやってくれないんだ」
と思っていることがあるなら、一度だけ分けて考えてみてください。
あなたが問題だと思っているのは、その人自身でしょうか。
それとも、
望んでいる結果につながっていない、その人の「行動」でしょうか。
熊谷 篤
実戦経営アドバイザー/中小企業診断士
事業承継後の後継者、第二創業、新規事業責任者を中心に、経営者の意思決定整理と実行接続を支援しています。
次の記事
前の記事
いいなと思ったら応援しよう!
よろしければ応援お願いします! いただいたチップはクリエイターとしての活動に使わせていただきます! 