㉒母親の認知症(5年振りの母へ面会の日)
▶︎最初から読む:姫路への道のり-①母親の認知症
▶︎前回のお話:㉑母親の認知症(荒れ果てた家と消えた記憶…)
面会当日…
施設の受付で手続きをしている最中、自分が緊張していることに気づいた。
私、びびってるな…
5年間、泥棒と罵られ、責め立てられ続けてきた。またあの時みたいに絶叫されたら…
▶︎ 当時、激しく疑われていた頃のお話
母がいる階へと上がり、扉が開く。
ホールのような広くなった場所では、皆が椅子に座ってテレビを眺めていた。
背を向けてはいるが、後ろ姿ですぐに母がわかった。
職員さんに挨拶をすると、「最近はとても穏やかに過ごされていますよ」と教えてくれた。
持ってきた手土産を渡すと、職員さんは笑顔で言った。
「お母さんに、直接渡してあげてください」
私はその場に固まってしまった。
「私は…集中砲火に遭っていたので…」
何と言ったらいいかわからなくて、言葉に詰まる。
固まる私を見て、職員さんはすぐに察してくれ、代わりに母へ持っていってくれた。
母は差し出されたお菓子を受け取ると、なぜ自分だけに渡されるのかわからず、周りの人にもあげてというようなジェスチャーをしていた。
その姿を、私は離れた場所から見つめていた。
人にやってもらっていてはいけない。
自分でやらなくては。
私は覚悟を決め、笑顔で母に近づいた。
「お母さん、(名前)だよ」
母は一瞬驚いた顔をした後、笑顔を見せた。
「あっ、(名前)!」
「お母さん、久しぶり!」
「(名前)、元気だった?」
やはり母は覚えていた…
今まで受けてきた激しい罵声は、嘘のように消えていた。
楽しそうに話し始めた母を見て、職員さんが部屋の隅にあるテーブルを使うように勧めてくれた。
2人で席に座ると、母は機嫌よく話し始めた。
「ここはみんながいるから安心」
記憶が抜け落ちていき、ものがどんどんなくなっていく。きっと1人で不安で、怖かったんだろうな…
「お父さんのおかげで、私はお金に困ったことがないの」
嬉しそうに笑っていた。
あんなにお金を返せと騒いでいたのにね…
やっぱりお父さんがいいんだな。
いいことだけ記憶が残っているようだ。
お母さん、良かったね…
▶︎次回のお話はこちら
㉓母親の認知症(母娘の確執)
