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転職して分かった、会社が変わっても通用したもの

32歳で転職をしたとき、少しだけ不安だったことがある。

「今の会社を出たら、私は何ができるんだろう。」

それまで約10年間、同じ会社で働いてきた。当然、その会社の仕事の進め方には慣れている。業界の知識もある。社内に知り合いも増え、困ったときに誰に聞けばいいのかも分かっている。

でも、会社が変われば、それらはいったんリセットされる。名刺から会社名が消れたとき、それでも残るものは何だろう。

転職活動中は、そんなことを考えていた。
実際に転職して10年近く働いてみて、今なら少しだけ答えられる。

会社が変わっても持っていけるものは、ちゃんとあった。それは、特定の業界についての知識というより、長い時間をかけて身につけた「仕事の型」だった。


モヤモヤを、仕事にする


転職後、ある顧客から相談を受けたことがある。
ただ、最初から明確な依頼があったわけではない。

顧客自身も、「何か問題がある気はする。でも、何をどう変えればいいのか分からない」という状態だった。しかも、まだ新しい領域で、社内にも「この分野ならこの人」という専門家はいなかった。

正解は誰も持っていない。
だから、まずは話を聞いた。
何に困っているのか。何がうまくいっていないのか。本当はどうなりたいのか。

話を重ねながら、モヤモヤしていたものを少しずつ言葉にしていった。
そこから要件を整理し、まずやってみる。結果を見て、改善する。誰か一人の経験や勘に頼らなくてもPDCAが回るよう、仕組みを整えていった。

気づけば、その仕事は数年続くプロジェクトになっていた。
最初から、その分野に詳しかったわけではない。
でも、「よく分からないものを、まず整理する」という仕事の進め方は、前の会社から持ってくることができた。

炎上案件でも、まず見える化した


別のときには、途中から炎上気味のプロジェクトに入ることになった。

何が問題なのか、よく分からない。
誰が何を担当しているのかも曖昧。
いろいろなところから、「これどうなっていますか?」という声だけが飛んでくる。

こういうとき、私はとりあえず見える化する。
WBSを引き、課題管理表を作り、「何が問題なのか」「誰がやるのか」「いつまでにやるのか」を一つずつ書き出していった。

すると、ぐちゃぐちゃに見えていたものが、少しずつ整理されていく。何から手をつければいいのかが分かれば、人は動ける。

プロジェクトは何とか立て直すことができ、その後、継続案件まで受注することができた。

もちろん、見える化すれば炎上案件が解決するわけではない。でも私は、混乱したときほど、まず状況を外に出して整理する。

これもまた、会社が変わっても変わらなかった仕事の型だった。

人を育てるときにも、型があった

もう一つ、意外と持ち運べたものがある。
人を育てることだ。

転職して2年目、新入社員の指導員になった。
最初はサブ担当だったはずなのに、いつの間にか私がメインで見るようになっていた。

育成するときに意識していたのは、できていないことを指摘するだけで終わらせないことだった。

その人の良いところはどこだろう。
そこをどうすればもっと伸ばせるだろう。

逆に、うまくできていないことがあるなら、何が原因なのか。どうしたらできるようになるのか。
一緒に考えた。

すぐにできるようになることもあれば、何度言ってもうまくいかないこともあった。それでも、少しずつできることが増えていくのを見るのは楽しかった。

その新入社員とは、その後部署が離れた。
でも関係は続いていて、結婚するときにはスピーチを頼んでくれた。

「あのとき、ちゃんと向き合ってよかったな。」
そう思った。

考えてみれば、人を育てるときにも私は同じことをしていたのかもしれない。
今どこにいるのかを見て、どこへ行きたいのかを考え、その間にあるものを一つずつ整理する。
対象がプロジェクトから人に変わっただけだった。

会社が変わっても、自分の「型」は残った

転職する前の私は、会社が変われば、それまで積み上げてきたものの多くが使えなくなると思っていた。

確かに、使えなくなったものもある。
業界特有の知識。
社内でしか通じない常識。
「あの人に聞けば何とかなる」という人脈。

そういうものは、会社を出ればリセットされる。
でも、全部がなくなるわけではなかった。

話を聞いて、まだ言葉になっていない課題を整理すること。
混乱しているものを分解して、誰が何をすればいいのか見えるようにすること。
その人の良いところを見つけ、前に進めるように一緒に考えること。
そういう仕事の「型」は、名刺が変わっても残った。

そして今、私は中堅社員の育成や評価という、これまた少し曖昧なテーマを仕組みにしようとしている。
何を期待するのか。どう育てるのか。何をもって成長したと考えるのか。
まだ答えはない。

でも、ふと思う。
「ああ、また同じことをしているな。」
会社も変わった。仕事も変わった。
相手も、顧客から社員へ変わった。
それでも、自分なりの仕事の進め方は、案外変わっていなかった。

名刺から会社名が消えても、残るもの

転職を考えていると、「自分は他社でも通用するのだろうか」と不安になることがある。
私もそうだった。

でも今なら、専門知識や実績だけではなく、もう一つ見てみてもいいと思う。
自分は、仕事をするときに何を繰り返しているだろう。

困ったとき、最初に何をするのか。
人から頼られたとき、どんなふうに考えるのか。
うまくいかない状況を、どうやって前に進めてきたのか。

そこには、自分では当たり前すぎて気づいていない「型」があるかもしれない。

32歳の私は、「会社を出たら、私に何が残るんだろう」と思っていた。10年近く経った今なら、少しだけ答えられる。

会社が変わっても、残るものはある。
名刺から会社名が消えても、自分の中に残っているもの。

それが、案外いちばん長く使えるキャリアなのかもしれない。

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