あの沈黙も、ちゃんと、あなただった
あの頃のあなたへ。
どんな言葉で、話しかければいいのだろう。
うまく話せなくて──
すぐに感情があふれてしまっていたね。
泣いているとき「寂しいんでしょ」と言われたことがあった。
でも、あのときのあなたは、それが寂しさなのかどうかも、わからなかった。
何も思っていなかったわけじゃない。 むしろ、言葉にならないものばかりが、内側に溜まっていた。
妹は、言葉が早かった。 その隣で、あなたはいつも追いつけなかった。
言葉を探しているうちに、まず涙がこぼれたり、悔しくてものにあたったり。癇癪を起こすこともあった。
体が先に感情を吐き出してしまう。
誰にもわかってもらえないと、ひとり膝を抱えた夜もあったね。
もし、すぐに言葉にできていたなら、 あなたはどんな顔をしていただろう。
妹の言葉はいつも先を行っていて、 あなたはその背中を、ずっと見ていた。
何かを言おうとする前に、もう言い切られてしまうことがあった。 自分の中にあったはずのものが、言葉になる前に、どこかへ押しやられていく。
正しさのある言葉で話されると、何も言えなくなることもあったね。 間違っているのは自分のほうだと、言葉を持たないまま、引き下がるしかなかった。
でもね、今ならわかる。
あの頃のあなたは、言えなかったんじゃなくて、まだ言葉を持っていなかった。
感情のことを、誰かに教わった記憶もない。
嬉しいとか、悲しいとか、そういう名前は知っていたけれど、 それが自分の中で何をしているのかまでは、誰も教えてくれなかった。
何かを感じているのに、名前がわからなかった。
恋だってそう。
最初は、ドキドキして、苦しくて、何が起きているのかわからない。
でも、それが、きっと恋の始まりだった。
感情は、名前がつく前から、もうそこにある。ただ、そこにあっただけなのに、言葉にしようとした途端、 それが自分のものではなくなるような、そんな感覚も、どこかに残っていた。
不思議なことに、あなたは今、言葉を扱っている。あの頃、何も言えなかった人が、いまは言葉を探して、書いている。
それでも、全部を言葉にはできない。
取りこぼしてしまうものがあることを、知っている。
だから、あの頃のあなたに、うまく言葉を渡すことはできない。
ただひとつだけ、伝えたい。
言葉にできなくても、大丈夫だったということ。
わからないまま感じていたものは、間違いじゃなかった。
あの沈黙も、ちゃんと、あなただった。
言葉にならなかった時間は、あとになって少しずつ輪郭を持ちはじめることがあります。
「あのとき感じていたものは、何だったのだろう。」
そんな問いを、もう少し静かに見つめてみたくなったら『自己理解・感情編|「本当のわたし」に戻る30のヒント』を、必要になったその日に開いてみてください。
《言葉になる前に》
言葉にできなかった時間は、消えてしまうわけではなく、その人の中で、静かに息を続けているのかもしれません。
あの日の沈黙を見つめたあとに、少し違う角度から心をたどれる、そんな4つのまなざしです。
✦ 名前をつけた瞬間、少しだけ輪郭が見えてくるものがあります。
けれど、その前から確かに存在していたものも、きっとあるのでしょう。
✦ 誰かの言葉ではなく、自分の感覚に耳を澄ませたとき、
言葉は、少しずつ居場所を見つけていきます。
✦ あの日、言えなかったことも、
まだ書かれていないページとして、人生の中に残っているのかもしれません。
✦ すぐに答えが見つからなくても、
ただ感じていることが、次の一歩につながることがあります。
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