バックテストで"効いた"のに、手数料を入れたら消えた
こんにちは、クロンです。インフラエンジニアの管理職をしながら、AI(Claude Code)と一緒に日本株のスイングBotを自作しています。プログラミングもデイトレも素人です。
これは連載の5本目です。前回まではこちら↓
「月1%」が「月0.6%」に。バックテストの数字を26年でならしたら
バックテストの次は「フォワードテスト」。口座ゼロでも今日から始められる
損切りもショートも効かない。効いたのは地味な「分散」だけだった
こまめに売買したほうが損だった。手数料ゼロで回しても負けた
僕のBotは、これまで「守りを厚くする工夫」をいくつも試しては、ぜんぶボツにしてきました。損切り、こまめな入れ替え、下げたら株を減らす……。どれも過去データで回すと成績が落ちる。
今回のはちょっと違いました。手数料をゼロにして回すと、初めて「最大の落ち込み」が浅くなったんです。「お、ついに当たりか」と思った。……のに、実際の売買コストを入れ直したら、その改善がきれいに消えました。
この記事で分かることは2つです。
持ち銘柄を「全部おなじ金額ずつ」以外で持つやり方(=リスクでそろえる)と、その落とし穴
バックテストで数字が良くなっても、採用しないときの判断のしかた
いじったのは「選ぶ銘柄」じゃなく「持つ量」
5本目から読む人へ、ざっくりだけ。
僕のBotは、毎月1回、その時いちばん"勢い"のある大型株の上位数銘柄に入れ替えるだけ。業績や割安さは見ません。過去の値動きの強さ(モメンタム=勢い)だけで機械的に決めます。
これまでは、選んだ銘柄を等分で持っていました。銘柄数で均等に割るだけ。今回いじったのは、ここです。「どの銘柄を選ぶか」じゃなくて、「選んだ銘柄を、それぞれどれだけの量持つか」。
アイデア:荒い株は軽く、静かな株は重く
やり方はシンプルです。値動きの荒い銘柄は少なめに、値動きの静かな銘柄は多めに持つ。
株には、よく動くやつと、あまり動かないやつがあります。全部おなじ金額で持つと、よく動くやつがポート全体の揺れを支配してしまう。だから荒いやつを軽く、静かなやつを重くして、それぞれがポートの揺れに"おなじくらい"効くようにそろえる。
これは「リスクパリティ」とか「逆ボラ加重」と呼ばれる、機関投資家では定番の考え方です(参考:三井住友DSアセットマネジメント 用語集、野村證券 証券用語解説集)。個人でも取り入れられるのかな、と思ってやってみました。
手数料ゼロだと、初めて"足し算"が効いた
いつものバックテスト(=過去のデータで作戦を試すこと)で回します。日本の大型株、過去およそ21年分。「等分」と「ボラ等分」を、手数料あり/なしの両方で比べました。
数字はすべて僕の実測で、過去データ上の結果です。将来を保証するものではありません。
持ち方 年利 最大の落ち込み リスク効率 等分(今の設定)・手数料あり +11% -25% 0.80 ボラ等分・手数料あり +11% -25〜-26% 0.81 等分(今の設定)・手数料ゼロ +12% -26% 0.88 ボラ等分・手数料ゼロ +12% -22% 0.92
「最大の落ち込み」=いちばん資産が減った時の下げ幅。「リスク効率」=取ったリスクに見合うリターンが出ているか、数字が大きいほど良い。
見てほしいのは一番下です。手数料ゼロだと、ボラ等分は最大の落ち込みが -26% から -22% に浅くなった。年利はほぼ変わらず。守りの工夫でこれがはっきり出たのは、金の分散を別にすればかなり久しぶりでした。
正直、ちょっとテンション上がったんだよね。
実際の手数料を入れたら、改善が消えた
で、現実に戻します。
株は、売り買いのたびに細かいコストがかかります。手数料そのものと、注文した値段と実際に約定する値段のズレ。僕のBotは、このコストを片道0.2%として見込んでいます。
これを入れ直したのが、さっきの表の上2行です。
ボラ等分・手数料あり:最大の落ち込みは -25〜-26%。等分とほぼ同じか、むしろ少し悪い。
手数料ゼロのときの「-22%」は、どこかに消えました。
しかも、期間を前半・後半に割ると、前半はボラ等分のほうが落ち込みが深い(-23% → -24%)。僕の採用の条件のひとつは「前半・後半どちらでも良くなること」。これも満たしません。
なぜ消えたのか:組み替えのコスト
理由は、たぶんこうです。
ボラ等分は、毎月ウェイトを組み替えます。値上がりして値動きが荒くなった勝ち銘柄を削って、出遅れて静かになった銘柄を買い増す。中身の銘柄が先月とおなじでも、量の調整で売買が発生する。等分なら「上位に残ってる銘柄はそのまま」で済むところが、ボラ等分は毎月ちょこちょこ動く。売買が増えます。
手数料でどれだけ年利が削られたかを比べると、等分は年およそ1.3ポイント、ボラ等分は年およそ1.7ポイント。差の0.4ポイントが「余計な組み替え」のぶん。そして、この0.4ポイントが、せっかくの落ち込み改善をちょうど食い尽くす。
「じゃあ組み替えを減らせばいい」と思って、値動きの荒さを測る期間を長くしてみました。組み替えは減ります。でも今度は、落ち込みの改善そのものが出なくなる。古い荒さで測ると、だんだん「等分」に近づいていくから。ちょうどいい設定が、どこにもない。
これ、連載4本目の「こまめに入れ替えると負ける」話と、根っこはおなじでした。売買の量を増やす方向の工夫は、実際のコストで薄まる。今回はマイナスまではいかなかったので、軽症ではありますが。
拾いもの:リスク効率は少しだけ良くなった
全部ダメだったかというと、1つだけ残りました。リスク効率(さっきの表のいちばん右)は、手数料ありでも少し上がった。0.80 → 0.81。前半・後半に割ると +0.04〜0.06 くらい。
これは意味があります。年利を落とさずに、ポートの揺れだけが減っている。「株を減らして下げ幅を小さくしただけ」なら年利も落ちるはずだけど、そうなっていない。純粋に乗り心地が良くなっている。
ただ、今回の僕が探していたのは「最大の落ち込みを浅くすること」。リスク効率が少し上がっても、狙いが外れていたら採用はしません。
教訓:採用ラインは、数字を見る前に決めておく
今回いちばんの収穫は、採用の条件を先に決めておいたおかげで、踏みとどまれたことです。
条件はこれ。「年利をほぼ落とさず(僕の基準で年0.5ポイント以内)、最大の落ち込みを下げる。しかも前半・後半どちらでも」。
手数料ゼロの「-22%」を見たとき、正直「採用でいいかな」と傾きました。でも条件に照らすと、手数料ありでは落ち込みが下がっていない。前半はむしろ悪い。だからボツ。
もし条件を決めていなかったら、「リスク効率が上がったから採用!」で押し切っていたと思います。数字は、良く見えるところだけ切り取れば、だいたい良く見えるんだよね。
もうひとつ。検証は「手数料あり」と「手数料なし」の両方で回す。これで「アイデアそのものがダメ」なのか「コストが重いだけ」なのかが切り分けられます。今回は後者でした。アイデアは悪くない。個人の売買コストだと、割に合わないだけ。
次にやること/同じところで迷ってる人へ
次の一手はあります。毎月きっちり組み替えるんじゃなく、「目標から大きくズレた銘柄だけ戻す」やり方。これなら組み替えのコストを抑えられる。ただ、それでもリスク効率しか良くならなそうなので、優先度は低めで保留にしています。
ライブの運用は、これまでどおり等分のまま。9月末の入れ替えも予定どおりやります。
同じように「バックテストで数字が良くなったんだけど、これ採用していいのかな」で迷っている人へ。良い数字が出たときこそ、「何をもって"効いた"と言うか」を、数字を見る前に決めておく。順番が逆になると、自分に都合のいい数字を後から拾ってしまいます。僕がまさに、危うくそうなりかけました。
※この記事は僕の開発記録です。特定の銘柄や手法をすすめるものではありません。投資は自己判断で。

