故障は、突然に見えているだけかもしれない。
──成長期の選手を故障から守るために
昨日まで普通に動いていた選手が、
今日、突然故障した。
現場では、そんな言葉をよく耳にします。
でも、
25年以上、身体を見続けてきた僕には、
故障は決して突然起きたようには見えません。
なぜなら、
身体はその前から、
小さなサインを出し続けているからです。
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発育発達期の身体は、強く、そして繊細です。
発育発達期の身体は、
柔らかく、吸収力が高い。
新しい動きも覚えやすく、
刺激への反応も速い。
可能性に満ちた時期です。
その一方で、
とても繊細でもあります。
身体は大きく見えても、
骨端線がまだ閉じていない時期があります。
また、急激な骨の成長に伴って、
筋肉や腱の柔軟性や張力のバランスが、
一時的に変化することもあります。
この時期に強い負荷が繰り返されると、
筋腱付着部や、成長途中の骨へ、
ストレスが集中することがあります。
オスグッド病。
膝蓋骨周辺の痛み。
野球肘。
腰椎分離症。
シーバー病。
成長期に起きるスポーツ障害は、
単なる「使い過ぎ」だけでは説明できません。
成長している身体に、
どんな負荷が、
どんな方向から、
どれくらい繰り返されているのか。
そこをしっかり見る必要があると思います。
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痛みは、ある日突然始まるわけではない
多くの場合、
身体は故障する前に、
小さな違和感を出しています。
膝が少し重い。
スネが張る。
腰を反らすと違和感がある。
肘が伸びにくい。
ジャンプの着地で膝が内側へ入る。
いつもより呼吸が浅い。
疲れが抜けにくい。
こうした小さな変化を、
どれだけ早く拾えるか。
そこに、
指導者の目が問われます。
痛みが出てからだけ対応するのでは、
十分ではありません。
本当に必要なのは、
痛みになる前の違和感を見逃さないことです。
そして、
選手自身も、
自分の身体を観察できるようになること。
今日の身体はどうか。
昨日と何が違うのか。
どこが張っているのか。
動きにくい場所はどこか。
そんなセルフチェックの習慣が、
障害予防の土台になります。
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休むことは、負けではない
成長期の選手ほど、
休むことに罪悪感を抱きやすいものです。
休んだら置いていかれる。
パフォーマンスが低下する。
レギュラーを外される。
サボっていると思われる。
メンタルが弱いと思われる。
だから痛みを隠してしまう。
でも、
休むことは負けではありません。
競技を長く続けるための、
大切な戦略です。
例えば、膝を休ませながら、
股関節や体幹を整えることはできます。
肘を休ませながら、
肩甲帯や胸椎、
骨盤との連動を高めることもできます。
完全に止まることだけが、
休養ではありません。
必要なのは、
痛みを我慢することではなく、
身体全体を見ながら、
負荷の調整をすることです。
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女子選手に必要な視点
第二次性徴の進み方には個人差があり、
身体の形だけでなく、神経と筋肉の働き方や、
ホルモンの変化など、複数の要因が重なります。
特にジャンプや切り返しの多い競技では、
前十字靱帯損傷のリスクにも、
注意が必要です。
さらに見逃してはいけないのが、
競技に必要なエネルギーを、
食事から十分に補えているかということです。
エネルギー不足が続けば、
月経や骨の健康だけでなく、
回復やパフォーマンスにも影響することがあります。
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良い指導者は、故障する前を見ている
指導者に必要なのは、
技術を見る目だけではありません。
全体を俯瞰する目だと思います。
今、
この選手はどんな成長段階にいるのか。
どこへ負担が集中しているのか。
疲労は抜けているか。
動きの癖はどこに出ているか。
呼吸は浅くなっていないか。
表情は変わっていないか。
ストレスを抱えていないか。
僕は、
技術の向こう側にあるものまで見る目が、
指導者には必要だと思っています。
それは、
空から監視するような目ではありません。
未来の故障を想像する目。
まだ起きていない変化を感じ取る目。
選手の未来を守ろうとする目。
故障してから気づくのではなく、
故障につながるす前に気づく。
その違いが、
競技人生を大きく変えていきます。
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強化とケアは、対立しない
強くすることと、
守ることは、
本来対立しません。
本当に強くなるためには、
ケアが必要です。
柔軟性と安定性。
強化と回復。
練習と休養。
個人の成長とチーム全体の底上げ。
これらを切り離さずに見ること。
学校。
保護者。
指導者。
ドクター。
トレーナー。
それぞれが分断されるのではなく、
選手の身体を中心に連携する。
その環境があるだけで、
選手は安心して競技を続けられます。
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スポーツの現場には、
今もどこかで、
「少しくらい痛くても大丈夫」
という空気が残っています。
でも、
その小さな痛みが、
競技人生を大きく変えてしまうことがあります。
指導者の役割は、
勝たせることだけではありません。
選手が長くスポーツを楽しめる身体を育てること。
競技を離れたあとも、
自分の身体を信頼して生きられるようにすること。
強化とケアは、
選手を伸ばすための両輪です。
どちらか一方だけでは、
長く走り続けることはできません。
成長期の身体は、
未来そのものです。
今日の一勝よりも、
一年後。
十年後。
競技を終えたその先まで、
自分の身体を信頼して生きていけること。
それこそが、
本当の育成なのだと思います。
