モーゼ物語:第2話 ファラオの娘に拾われた少年――王宮で育ったモーゼ
ナイル川の葦の茂みから発見された一人の赤ん坊。その子を救ったのは、なんとファラオの娘でした。さらに、乳を飲ませるために呼ばれたのは、赤ん坊の実の母親。こうしてモーゼは、命を奪われるはずだった運命から救われ、やがてエジプト王宮で育てられることになります。ヘブライ人として生まれ、エジプト王宮で成長する少年モーゼ。彼の中に、二つの世界が刻まれ始めます。そしてやがて、その二つの世界は、モーゼ自身によって大きく動かされることになります。
ナイル川のほとり。一人の赤ん坊を乗せた小さな葦の籠が、静かに水面に浮かんでいました。その子の母親は、もう自分の手では守ることができないと知りながら、最後の望みを籠に託したのです。

そして、遠くからその様子を見守っていた少女がいました。赤ん坊の姉、ミリアムです。やがて、川へファラオの娘がやって来ました。侍女たちを伴って水浴びをしていた彼女は、葦の茂みの中に何かがあることに気づきます。
「そこにあるものを取ってきなさい」
侍女が籠を取り上げました。蓋を開けると、中から小さな赤ん坊の泣き声が聞こえてきます。ファラオの娘は、その子を見ました。

そして、すぐにその子がヘブライ人の赤ん坊であることを察します。
父であるファラオは、ヘブライ人の男児をナイル川へ投げ込むよう命じていました。それでも彼女は、その子を見捨てることができませんでした。
「これはヘブライ人の子です」
ファラオの娘は、その赤ん坊を哀れに思い、助けることにします。
その様子を見ていたミリアムが、そっと近づきました。そして尋ねます。
「この子のために、ヘブライ人の中から乳を飲ませる女を呼んでまいりましょうか」
ファラオの娘が答えます。
「行っておいで」
ミリアムは急いで母親のもとへ戻りました。
こうして呼ばれたのは、赤ん坊の実の母親でした。母親は、自分の息子を再び腕に抱くことができました。しかも今度は、ファラオの娘から、その子を育てるように命じられたのです。
「この子を連れて行き、私のために育ててください。報酬も与えましょう」
母親は、息子を育てました。
しかし、その時間は永遠ではありません。
やがて少年が成長すると、母親はその子をファラオの娘のもとへ連れて行きました。その子は、エジプト王宮で育てられることになります。

そしてファラオの娘は、その子を「モーゼ」と名づけました。
ナイル川から引き上げられたことにちなむ名前でした。
こうしてモーゼは、ヘブライ人として生まれながら、エジプト王宮というまったく異なる世界で成長していくことになります。

彼の目の前には、壮麗な宮殿がありました。
巨大な柱。神々の像。王家の人々。
そして、ナイル川の恵みによって栄えるエジプトの文明。
しかし、その王宮の外には、重い労役に苦しむ同胞たちがいました。
モーゼはまだ、その意味を知りません。自分が誰なのか。
なぜ自分だけが、この場所で生きているのか。
そして、なぜ自分の生まれた民が苦しんでいるのか。
少年モーゼの人生は、二つの世界の間で始まったのです。
やがて彼は、その二つの世界を結ぶ運命を背負うことになります。
それはまだ、誰にも分からない未来でした。
(つづく)
※本シリーズは『出エジプト記』を中心とする聖書の記述を基本とし、古代エジプト・古代オリエントの歴史的背景を尊重して構成しています。
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