【連続小説】2025クライシスの向こう側 19話
連続小説 on note 『2025クライシスの向こう側』
第2部 クライシスの向こう側で
第19話 『失われた地平線』の向こうへ
1 ものがたりの村
アイソンとフレアと矢追は、
迎えてくれた雪之丞、渡瀬、大河内と
テーブルについた。
まずは、アイソンが矢追を、
雪之丞が大河内を紹介した。
そのあと、
雪之丞からこのエコビレッジの説明を受けた。
雪之丞は、
この村を『ものがたりの村』と名づけた。
物語の中に出てくるような
平和で愛に溢れた村を目指すという
思いを込めてつけられた。
かつては栄えたが、
今は寂れてしまった温泉街の跡地に作られた。
エコビレッジ建設地を探していた雪之丞と、
過疎に苦しむ村をマッチングさせたのは、
人タラシの渡瀬だった。
雪之丞のエコビレッジの
暮らしの基盤はこうなっている。
水の自給システムは、
メインは雨水を活用。
屋根で集めて、フィルターで浄化する。
ただ、乾季には不安定になるため、
地下水を井戸から汲み上げて、
ろ過・殺菌したり、
湧水や渓流水から
パイプで水を引いたりしている。
さらに貯水槽も用意され、
水草や微生物で浄化し、
段階的フィルターと併用している。
何よりも安定供給には水質管理が必須なのだ。

エネルギーの自給システムは、
発電方法として太陽光、風力、地熱、
渓流の流れを利用した小水力、
そして バイオマスの五本柱。

蓄電方法もリチウムバッテリー、
鉛蓄電池、水素活用、
そして太陽熱温水器や薪ストーブ、
温泉熱などの熱活用の四本柱が併用されている。
さらに家屋の建築にも工夫が施され、
断熱材の活用、通風や南向き設計にこだわり、
冷暖房負荷を軽減している。

食に関しても持続可能な自給自足を目指す。
米、野菜、果物は自然農法。
不耕起、無施肥で
土壌の生命力を活かすやり方だ。
緑肥、輪作、天敵活用で
生態系と共存する有機農法。
果樹、野菜、動物が共生し、
炭素循環農法により地域資源を活かした、
微生物豊かな土作りを行っている。

周辺のゴミ収集も行い、温泉宿や住宅、
エコビレッジ内から出た生ごみを堆肥化し、
それで育てた作物を
再び宿で提供するという循環型システム。
養鶏、養蜂も行い、
ニワトリやミツバチとも共生している。
ミツバチは受粉、
ニワトリのフンは肥料となり、
畑の恵みとなる。

動物や昆虫好きな者は、
養鶏や養蜂に携わり、
ある者は左官作業に、
またある者は美味しい米づくりに没頭している。
最初は着の身着のまま、
金も持たずに集まった人々が、
雪之丞の指導のもと、
この村の土台を作り上げた。
今では、SNSのサイトを通じて
全国からこの村での暮らしを望み、
集まる人々は80人にのぼる。
先月からは温泉が
パイプで供給されている。
その代わりに
温泉の持ち主である旅館に対して、
無償で米や野菜などの食料を提供している。
自然条件を最大限に活かし、
エネルギーと水を自給し、温泉まで引かれた
「癒しと再生の村」を構築しているのだ。
最後に自慢げに雪之丞が言う。
「世間じゃさ、“働かざる者食うべからず”って言うでしょ? ここでもまあ同じなんだけどさ。世間はさ、摂取する人のために働かなきゃならなくなってきてるのよ、この頃は。一生懸命政府は隠してっけどね。普通に働いて家も持てねえし、子どもも作れねえ。その前に結婚もできねえんだからさ。戦後の日本より酷いよこれ。でもここは、自分たちの好きなことして、自分たちのために働くだけだからさ。遊びとなんも変わんねえもん。自分たちで家建てて、食い物作って、暮らしてるだけだから。見てみな。みんな楽しそうな顔して、建物建てて、米育てて、ミツバチめでて、ご飯食ってさ、夜な夜な飲んでんだから。ストレスゼロだもん。すべてに感謝。地球に、雨に、太陽に、動物に。喧嘩もなんもないもん」
雪之丞の話を聞きながら、
皆の顔にも笑みが溢れる。
「なんか俺ばっか喋ってるけど、アイソンくんの話きかねぇとな」
と大声で笑う雪之丞。
渡瀬も、
「もうワシらこんなん雪之丞の自慢話、聞き飽きとうけん。早よアイソンの作戦会議、始めんとな」
とアイソンを促す。
「はい。これから話すことはフレアと矢追先生にはすでに話しました。俄には信じがたい話だと思うんですけど。聞いてください」
と切り出したアイソンは、すべてを皆に話した。
フレアや矢追にしたように、
出版社の屋上から飛び降りようとした夜のこと。
そこでリチャードと出会い、
過ごした奇跡の七日間のこと、それから今日までのことを。
皆が真剣にアイソンの話に最後まで聞き入った。
大河内が最初に口を開く。
「あるでしょ多分。そんなこと。だって化学が証明できてることなんてほんの一部だよ。人間なんて宇宙がどうとかいう前に、人間自身の身体のことだってまだまだ謎を解決出来ていないし、地球上の生き物も当然すべて把握できていないし、海の深くに何があるのかもまだ分かっていない。でもアイソンもフレアもそのリチャードに触れたんだ。それだけが真実でしょ! それに後で話すけど、実際にフレアの声の周波数の話だけど本当のことだと思うよ」
とアフロヘアを揺らして興奮している。
渡瀬が、
「大河内に全部言われたんじゃしゃーないわ」
と笑う。
「僕、大河内高次だから、コーディって呼んでよ。向こうではずっとそう呼ばれてたんだ」
という大河内の肩を叩いて、
「分かった分かったコーディ!」
と渡瀬が笑う。
「いやいや。すごいなこりゃあ。ま、なんかオモロいよ! ヒーロー六人衆ってことだろ? 俺たちが? 地球を救うなんてロマンチックじゃん!」
という雪之丞に同調して盛り上がる渡瀬と大河内。
それを笑って見ているアイソン、フレアと矢追。
アイソンの表情には安堵の色が見える。
フレアもそれを感じとりほっとしている。
「で、アイソンくんの具体的な計画なんなの?」
と雪之丞がひとしきり笑ったあとに聞いた。
アイソンはそこで、
この「ものがたりの村」を世界に発信し、
多くの穏やかな集合無意識を集め、
その意識の質をフレアの周波数により高める。
そのためにこの村でフレアのライブを行う。
という計画を話した。
一同はそれに賛同する。
そこで、立ち上がった大河内が、
「僕はフリーエネルギーを作り上げたいんだ。そうしたら世界からほとんどの戦争がなくなると思うんだ」
と言った。
2 未完の夢を継ぐ者たち
大河内は、交流電気の生みの親である
19世紀後半から20世紀初頭に活躍した
発明家で電気技師のニコラ・テスラの話を始めた。

「かつてニコラ・テスラは、地球を巨大な導体として捉え、地球共振や電離層と共鳴を利用した無線エネルギー伝送を構想していたんだ」

「テスラは投資家の支援を受けて、ワーデンクリフ・タワーという巨大な塔を使い、地磁気やエーテルのような自然界のエネルギーを取り出しそうとした」

「そして、誰もが無料で使える『電力インフラ』や『電力網』を作ろうとした」
皆、大河内の話すテスラの話に聞き入った。
「だけどその試みは、J.P.モルガンなど投資家たちの支援を失って頓挫した。理由は“収益化できないものには金を出せない”っていう産業構造上の矛盾だった。加えて当時の科学技術も、テスラのビジョンに追いついていなかった。でも今なら可能性がある」
皆、次の言葉を待ちわびるように大河内の話を聞いた。
「僕は考えたんだ。テスラの未完の夢を継ぎながらも、低予算で、AIの力を融合させて、地球と共にエネルギーを受け取る方法を見つけようって」
渡瀬が身を乗り出し訊いた。
「それで見つかったんかい? その答えは?」
「結論から言うと……まだゴールには届いてない」
皆が少し落胆した空気になったとき、
「でも、僕には相棒がいる。そいつと一緒に、かなりいいところまで突き詰めてる」
フレアが訊いた。
「相棒って?」
「NOOS(ヌース)。僕が開発したAIの名前だよ」
大河内は続けた。
「僕らが導き出した“フリーエネルギー”に必要な要素は、3つある。ひとつは人々の持つ“意識の強さ”。ふたつめは地球と宇宙のエネルギーが共鳴する“磁気の聖地”。そして最後が、"機密性が保てる場所"。Facebookで『ものがたりの村』を知った時、直感したんだ。ここなら“意識の強さ”が育つ。地球と共鳴する。だから、僕は来た」
そして衝撃の話を続ける。
「先月、高松で行われたフレアのライブの時、乱数発生器に乱れが起こったんだ」
「乱数発生器って?」とアイソン。
「世界中に設置されてる装置なんだ。人間の意識の変化が数値に影響を与えるのかという研究が、ずっと続けられてきた。発端は9.11。事件の少し前から、数値に有意な偏りが生じた。その後も、年明けの瞬間やワールドカップの決勝、インドでの大規模な瞑想……“喜びや愛”が強まった時に、数値が乱れる傾向がある。それと同じ乱れが、フレアのライブ中にも起きていたんだ」
アイソンが驚きの声を上げる。
「フレアの声で!? すごいよフレア!」
フレアはアイソンの手を取り、噛みしめるように言う。
「ワタシ、ここで歌う。新しい曲も作る」
皆がその言葉に勇気づけられた表情を浮かべる。
だが、大河内が言う。
「でも、場所については……ここよりも適した“聖なる場所”がある気がするんだ」
「えっ、ここじゃないのか?」と雪之丞。
大河内は頷いて言った。
「ヌースが言うには、“四国”にあるらしい。でも、まだ場所は特定できてない」
「じゃあ、その場所を見つけんとフリーエネルギーの実現は難しいってことか?」と渡瀬。
大河内は黙って頷いた。
そして言った。
「もうひとつ大事なのが機密性。テスラは資本主義の中枢にいた搾取者たちに潰された。だからこそ、情報拡散の前に、静かに成功させる必要がある」
その言葉に場の空気が緊張と戸惑いに包まれた。
雪之丞がそんな空気を破った。
「頭使ったから腹減ったろ? 今日は歓迎を込めてジンギスカンやっから。うちの羊、美味いよ!」
そして笑顔で言う。
「ただ動物食べる時は、ちゃんと感謝してな。“ありがとうございます”って。みんな自然の一部なんだから」

皆が笑顔で食事を囲み、
目の前の食材に感謝して美味を味わった。
そして星空の下、
村人たちと焚き火を囲み遅くまで宴は続いた。
3 夢はかく語りき
その晩、アイソンは夢を見た。
それは、
夢というよりもはっきりとした感覚だった。
――意識が身体を離れて、浮かび上がる感覚。
高松の病室で感じた、あの感覚に似ていた。
今回は“スルリと滑らかに”抜けていく。
リチャードの波動を感じる。
それは言葉というよりも“お告げ”のようだった。
「テスラからコーディへ。コーディとヌースに欠けているもの」
アイソンが大河内の
「ここよりも適した”聖なる場所”」
と言う言葉を思い浮かべた瞬間、
意識が光の中をものすごいスピードで移動する。

そして異国の古代神殿のような場所に到着する。

そこでは3人の男たちが重厚な箱を港へ運び、船に積み込んでいた。

その船はやがて出航し、たどり着いたのは――日本、長崎・諫早。

そこから四国へと旅を続け、ある山の麓に辿り着く。

その山の頂から、天へと閃光が柱のように立ち上るのを、アイソンは見た。
――そして意識は、自室の天井へと戻っていく。
浅い夢のように時空を超えた旅は終わった。
4 旅立ちの前にフレアが言った
翌朝、僕は
昨夜の夢の話をみんなにした。
フレアは目を閉じて、
「アイソンが見たものが浮かんでくるよ。すごくリアルに感じる」
と言ってくれた。
そして渡瀬さんが、
「それ、剣山(つるぎさん)違うん? あそこは光の柱が立つって、言い伝えがあるけん」
と教えてくれる。
「しかもアーク伝説もある。剣山の麓に埋められちゅうとか言われとるよ。ホントかウソかは知らんけど」
と渡瀬さんが続ける。
すると、ずっとPCを操作していたコーディが、
「剣山の地磁気と共振を使った発電……。そうか! 剣山には石英が多くある。石英は、圧力を加えると電気を発生する圧電体なんだ! それに、地殻エネルギーとの親和性もあると言われてる。もしかすると、地殻の鼓動と圧電鉱物を使えば、テスラが夢見た“自然と調和したエネルギー”を僕たちの手で生み出せるかもしれない!」
と興奮して言う。
「なんや分からんけども、ワクワクするするね〜」
と渡瀬さんがステージの上の
永ちゃんのような身振り手振りで言った。
「はい。ワクワクしますね」
と矢追先生も言う。
「よし! じゃあとりあえず明日、剣山行ってみっぺ」
と言った雪之丞さんが、
「まあ、とりあえず、うまい朝飯食って、ゆっくり村ん中、案内すっから。飯飯!」と食堂へと連れて行ってくれる。
食事のあと、
昨日は回れなかった様々な場所を
雪之丞さんが案内してくれた。
野菜畑。田んぼ。養鶏場や養蜂場。
食堂。建設中の家々。
本当にこの村では、
みんなが笑顔だ。
そこここに笑顔が溢れている。
それから僕らは雪之丞さんに連れられて、
近くの温泉旅館へと向かった。
矢追先生が
傷口に大きな防水テープを貼ってくれた。
とても気持ちの良い温泉だった。
戻ってギターを持ったフレアが
「アイソンがこの物語を書くんだね」
と僕をまっすぐに見つめていった。
その黒い瞳には夕焼けの色が揺れていた。
そして、彼女はゆっくりと、しっかりと、
何か大切なものを抱きしめるかのように、
「ワタシはそこで曲を作って、そこで歌う。ワタシたちってさ。本当に幸せだね。"何かをしなきゃ"とか、"何かの決まり"だからとかじゃなくてさ。ワタシたち今、"自分たちにしか出来ない大切なこと"をただやってる。それって、こんなにも楽しいんだね」
と言って僕の頬にキスをした。
窓から夕方の少しひんやりとした風が、
森の木々と土の匂いを運んでくる。
フレアはベッドに腰かけて、
ギターを弾きながら歌を歌った。

フレアは時折、
はにかむような目線を
僕に送りながら歌う。
その声は、
少しくすぐったいような甘くて、
とても美しい声なんだ。
その声を聴きながら、
歌うフレアの横顔を見つめて、
僕は思う。
僕も、今、最高に幸せだよ。と。
