【連続小説】2025クライシスの向こう側 20話
連続小説 on note 『2025クライシスの向こう側』
第2部 クライシスの向こう側で
第20話 約束の場所
1 神秘の滝
渡瀬が運転するワンボックスのロングタイプに、
アイソン、フレア、雪之丞、大河内、
そして矢追が乗車している。
早朝、「ものがたりの村」で
朝食を済ませた一行は、一路剣山を目指した。
昨夜のうちに、渡瀬が旧知の仲である、
剣山の麓にある勧善寺の改源住職に連絡を取り、
「アーク伝説」についての
説明を受ける段取りを立ててくれていた。
矢沢永吉の曲をかけ、
ノリノリで運転する渡瀬が、
皆に届くように大きな声で言った。
「直接行ったら2時間半か3時間かそこらで着くけど、せっかくやけん、秘密の場所連れてくわ」
「あ、俺わかった」
と雪之丞が得意げに手をあげる。
「何どこ? 教えてよ渡瀬さん」
と笑いながらフレアが答えを促す。
「神秘の滝や」
と渡瀬が答える。
「ほおー、滝ですか」
と矢追が食いつく。
「お! 先生、滝好きなん?」
と、しめしめと言わんばかりの渡瀬。
「滝は古来から修行の場としても大切にされてきた。とても聖なる場所です。香川と徳島の県境付近と言えば、ひょっとして神通の滝ですか?」
と矢追が穏やかな顔で訊く。
渡瀬はサングラスを下げて、ミラー越しに矢追を見て、
「お! 先生さすがやな! 知っとん神通の滝?」
と驚いて訊き返す。
笑みを浮かべた矢追が言った。
「一度行ってみたいと思ってたんです」
渡瀬の説明によると、神通の滝は徳島県那賀郡にあり、
四国山地の深い渓谷部に位置する滝だという。
その落差は、四国でも有数の約70メートルを誇る。
名前の由来は「神仏の霊力(=神通力)」に由来し、
地元では「滝行の聖地」「自然霊が宿る場」として
長く信仰の対象になってきた場所らしい。
「地元にはな、“この滝には龍が棲む”ちゅう言い伝えがあって、龍神信仰や水神信仰の対象となってきた。滝壺付近では、運が良けりゃ青白い霧や光が立ち昇るっちゅう話もある。そんで、“神の気配がする場所”として崇められてる滝らしいで」
すっかりガイドになり切って渡瀬が言った。
すると、
「ワオ! アメージング!」
と、PCで調べていた大河内が続ける。
「磁場や“気”の異常を感じたっていう体験談も多くて、訪れた人の中には“体の感覚が変化する”とか“方位感覚がおかしくなる”、“空間の圧を感じる”なんて報告もあるって書かれてる。しかもレイライン上にあるんだ! もしかしたら“ゼロ磁場的”な場所なのかもれない! いいね!」
と興奮して渡瀬を見る。
「ゼロ磁場って?」
とアイソンが訊く。
フレアも、
「あと、レイラインって何?」
と食いつく。
「えっと、まず“ゼロ磁場”っていうのは、地球の磁場のN極とS極の力が拮抗して、互いに打ち消し合って磁力がほとんどゼロになる場所のことさ。レイラインっていうのは、古代の聖地や遺跡が、何らかの意図で一直線に並ぶように建てられたとされるラインのこと。その場所ではエネルギーが高まると言われているんだ。とにかく、どちらもとても特別な場所ってことだよ」
と皆に大河内が説明する。
「そんな場所があるのか……」
とアイソンが感心している。
そんなアイソンを見ながら、
「地球のエネルギーである“気”や磁力を通すラインとされてて、日本で有名な幾つかのレイラインは、“御来光ライン”と呼ばれる、富士山―伊勢神宮―出雲大社の一直線。“レイライン・オブ・ジャパン”といわれる、富士山―明治神宮―皇居―高尾山―長野の戸隠神社―鹿児島の霧島神宮なんかがあるよ。剣山も、富士山―高野山―剣山―宮崎・高千穂というレイラインに含まれてる。そして、この神通の滝も伊勢神宮―神通の滝―白山―立山といったラインに含まれてるんだ。まさに、目には見えないエネルギーのラインで繋がってるのさ。今はまだ、科学的な解明はされてないんだけどね」
と細かく大河内が説明してくれた。
高松自動車道を美馬ICで降り、
国道から県道へと進む。
道は少しずつ細くなっていく。
滝が近づく頃には、
カーブでは対向車とすれ違うのも困難で、
車寄せに停めて譲り合わないと通れない。
県道の道幅が少し広がったところに停車し、
一行は道路下へと降りた。
舗装されていない道を
徒歩で3分ほど進んだ時、
一同は息を呑んだ。

皆、その圧倒的な美しい光景に言葉を失う。
次に感じたのは、
滝の水が滝壺に落ちる音と、
そこから生じる上昇気流、
そして説明のつかない空気圧。
それを全身で受け止める一同。
そこにある草木や空気が、
生き生きとしていた。
ゆらゆらと揺らめく草木たちは、
その生命力を爆発させて踊っているようだ。
アイソンが思わず口走る。
「これっていわゆる、マイナスイオンってやつかな? すごい波動だよね、これ」
大河内が応じる。
「滝や森みたいな自然豊かな場所でマイナスイオンが出てるってことは科学的に立証されてる。でも、その効能は科学的にはまだ立証されてないんだ。今の科学では“癒し”や“生命力”といったものを数値化する概念がないからだと、僕は思う」
フレアも、
「すごいなあ……生きものの躍動を感じる。小さな虫や苔や木々の……きっと土だって生きてる。地球って、すごいよ!」
と言って目を閉じ、両手を大きく広げて、その波動を受け取る。
「ありがたいべ~自然の力は。自然の食べ物は、身体を動かすエネルギーになって、癒して、元気までくれる」
と雪之丞が言う。
「縄文人たちは、この草木の声をちゃんと聞くことができたんですよ。その時代、大切に守られた美しく生き生きとした自然が、そこら中にそのままの形であった。そして人々もまた、当たり前のようにその一部として崇高に生きていたからですね」
と矢追がしみじみと語る。
皆がそれぞれ、身体いっぱいで
この波動を受け止める姿を、渡瀬が愛おしそうに見つめる。
アイソンの傍に立ったフレアが、アイソンの手をそっと握って、
「素敵なメンバーが集まったね」
と言ってアイソンを見つめた。
アイソンもフレアを見つめて、
力強く頷いた。
そして、そこに漂う生命力を――
二人は手を繋いだまま、しばらく受け止めていた。
2 伝説の霊峰
国道483号線を走ること、約2時間弱。
一行を乗せた車は、
剣山の麓に伽藍を構えた、
改源住職の待つ勧善寺へと到着した。
住職は6人を優しい笑顔で迎え、
応接の間へと案内してくれた。
「長旅でしたろう? お疲れ様でした」
という労いの言葉の後、お茶と菓子が振る舞われ、
さっそく住職がアーク伝説の話を語りはじめた。
改源住職の説明によると――
旧約聖書に登場する「契約の箱(アーク)」。
神の臨在を宿すこの聖なる箱は、
ソロモン神殿の崩壊とともに歴史の闇に消えた。
しかし、戦前の日本では一部の研究者が、
驚くべき仮説を立てたという。
――アークは太古、日本に渡り、
徳島県・剣山の山中に封印されたのではないか。
剣山山頂近くには、
「宝蔵石」と呼ばれる謎の石積みが存在し、
昭和初期には軍や宗教家が
極秘調査を行ったという記録もある。

この伝説の根底には、
「日ユ同祖論」――すなわち、
日本人とユダヤ人が
共通の祖先を持つという仮説がある。
「アークを携えて日本へ渡った古代イスラエルの末裔がいたとのことで、それが後の秦氏とされる説もあります」
と住職は一息ついて語る。
「一昨日見た夢の中で、どこか外国の神殿から重厚な箱が運び出されて、船で日本に運び込まれたんです。長崎の諫早を経由して、四国に……」
と、アイソンが記憶を辿るように言った。
住職は何も言わず、少し驚いたようにアイソンの話に何度か頷いた。
渡瀬が訊ねる。
「でも住職、それ、あくまでも伝説やろ? 事実とちゃうもんな?」
「戦後、GHQが剣山に関心を寄せたという都市伝説が囁かれておるけんども、天皇制解体と神話構造の調査を進めていたっちゅう可能性はあるわな。実際、剣山周辺ではGHQ関係者と思しき外国人たちが、測量器を手に山中を歩いていたという証言が複数あります。だども、正式な記録は存在しておらん。まあ、仮にそれが事実だとしても、当時の厳しい検閲体制のもとで、その痕跡は闇に葬られたんちゃうかな」
「なるほどな」
と渡瀬が頷く。
「それから……山の山頂から空に向かって、一直線に光の青白い柱が立ったんです」
と、アイソンが昨夜の夢の話を続ける。
「たしかにね。夏至や冬至の頃に、そういった目撃談が数多く語られてきたのは事実です。ただ、証明はされていません。一部の人々の間では、この光は“アークが放つエネルギー”、“高次元からの交信のゲート”だとされていて、特に夏至や秋分の日には、そのエネルギーが活性化すると信じられてるんです」

「科学的には、光の柱は雲間から差し込む“薄明光線”などの自然現象とされています。剣山特有の地形と雲海が、視覚的な神秘性を際立たせとるかもわからんです」

ここまで黙って聞いていた大河内が口を開いた。
「剣山周辺では、“コンパスが狂う”とか“スマホのGPSが誤作動する”といった現象があるという記事や書き込みを見たのですが……」
住職は丁寧に応じる。
「地質学的には、磁性鉱物である石英が多く含まれた地層の影響が考えられるとのことですわ。ただ、いわゆる“ゼロ磁場”と呼ばれる“気”の交差点じゃないかという説もあって、それぞれの体感によりますけど、“異様な静けさ”や“意識の変容”を訴える方もおりますな」
納得しながらも興味を深めた大河内が、さらに質問を投げる。
「剣山は、日本各地の聖地を結ぶ“レイラインの交差点”ともされていて、高次元エネルギーが集中する場だという説もありますよね?」
住職は微笑みながら頷き、
「どうなんでしょうね。ただ、UFOなんかはよく見かけますよ」
「えっ!? 本当ですか?」
今度はフレアが食いつく。
「ええ。しょっちゅう見ますよ。特に夏至や冬至の頃は、よく見かけますな」
大河内が前のめりになって訊く。
「じゃあ、やっぱり何か高次元のエネルギーがあるんですね?」
「分かりません。私には確かなことは分かりません。ただ、この世界は目に見えるものだけでできているとは思うてません。そして、ここらには不思議な力があるのだろうと、個人的には思っています。さきほど話したアーク伝説にしてもね。臨死体験を三度体験し、残念ながら去年の12月1日に亡くなった彗星探索家の木内鶴彦さんも、よくこちらにいらしていました。そして、こう仰ってました――『キリストが生き延び、この地で余生を過ごした』『アークも持ち込まれたのではないか』と。臨死体験中に見たらしいですわ」
住職はそこでアイソンを見て、静かに問う。
「木内さんは“諫早経由でこの地にキリストが入った”と仰ってた。あなたも、臨死体験をなさったのですか?」
「あ……似たような体験をしました」
と、アイソンが答える。
住職は深く頷き、静かに語った。
「そうですか。……まあ、ここは自然現象と神話、失われたアークと古代の神が祀られたという点で、科学とスピリチュアリズム、歴史と陰謀が交差する場所なのかもしれませんな。本当のところ、“それ”が存在するかどうかではない。この山に“そう感じさせる何か”があるということなのでしょうなあ」
3 誰がために鐘は鳴る
昼食を皆でとったあと、
スイミングクラブの所用がある渡瀬が、
病院に戻らなければならない矢追を乗せて、
高松へと戻っていった。
残った四人と住職が寺へと戻った。
そこで、大河内が真剣な表情で言った。
「ずっとここへ来てから考えてた。それと、ヌースの解析の結果も出た。物理的なことはまったくノープランだけど……僕はこの地で、フリーエネルギーの開発をしてみたい!」
「それって、この場所が“磁気の聖地”っていうこと?」
とフレアが訪ねた。
大河内は首を振りながら、
「確証はない。けど僕も、ヌースも、ここなんじゃないかと思ってる。あとは実際に地下を掘り下げて、実験してみないと分からない」
と答えた。
「素晴らしいアイデアと思いますよ。地球と人間の本当の共存の未来は、そこにあるんじゃないかと思う。土地はあるにはあるんよ。廃業した農家の土地が」
と住職が応える。
フレアが大河内に訊く。
「コーディのプランを聞かせて」
「名付けて、『剣山地殻共振発電システム』。これは剣山にたくさんある石英(水晶)を使って、地下の小さな地殻の動き、つまり“地球の鼓動”のような自然の振動を利用して、電気をつくる仕組みなんだ。石英には、振動や圧力を加えると電気を生み出す“圧電効果”っていう性質がある。それを応用してる。剣山ならではの地質が地磁気と共鳴したとき、石英がわずかに振動し、圧力がかかることで安定して電流が発生する。外からエネルギーを加えず、自然の力だけで動く、自立型で環境にもやさしい、新しい発電システムなんだよ」
一気に説明する大河内。
その大河内をまっすぐ見つめながら、フレアが言った。
「それじゃあ難しいよ、コーディ。もっとキャッチーに!」
「地球環境に一切負荷を与えない、真の意味での“自然調和型エネルギー”なんだ」
と大河内が言って、固まる。
思わず笑うフレア。
「地球に一切負担を与えないってとこ。ワタシ気に入った! ワタシはコーディを信じたい!」
それから改源住職の方を向き、
「住職さん、ワタシがその土地、買います」
と言った。
慌ててアイソンが、
「ちょっと、フレア本気なの?」
と肩を掴む。
フレアはアイソンの手をとって、
「これはパパが残してくれた夢を繋ぐ投資でもあるの。この場所に、ワタシたちのエコビレッジを作ろうよ!」
とアイソンの瞳を覗き込む。
「ちょっと、待った! フレアがお金を出すのは、何か違う気がする」
とアイソンは戸惑いながら、自分の中で葛藤していた。
「ちょっと外の空気を吸ってくる」
と言い残して出ていくアイソン。
「ちょっと……」
あとを追おうとするフレア。
その腕をそっと押さえる雪之丞。
驚いて雪之丞を見るフレア。
雪之丞は首を振り、
「ちょっと待ってやろう」
と言って、フレアを鎮めた。
4 宇宙の法則
ひとり、麓の道を歩くアイソン。
頭の中には、さきほどのフレアの言葉が残っていた。
やがて小道は、ひとつの洞窟へと突き当たる。
そこには、神聖な空気が満ちていた。

たたずむアイソン。
フレアに負担を背負わせる罪悪感。
自分の力のなさへの情けなさ。
エコビレッジと資本主義への違和感。
その三つの思いが、頭の中をぐるぐると巡る。
――自分はどうすべきなのか?
背後から人の気配が近づいてきた。
振り返ると、こちらに手を振り歩いてくる雪之丞がいた。
「こりゃあまた、すごい洞穴だな。やっぱこの辺りは、神様でも住んでる場所なのかもしれんな。滝も山も洞穴も、全部命が宿ってるみてえだもんな」
そう言って、にこにこと笑う雪之丞。
アイソンの隣に並び、洞穴を見ながら言った。
「気持ち、わかるよ。複雑だもんな。急ぎすぎだもんな。起こってること、全部」
アイソンは黙って、雪之丞の話を聞いていた。
「俺はね、そのうち金に縛られない暮らしが来ると思ってんの。でも、そんないきなりは変わらねえ。ブランド物や高級車を手にするために商売やってる人だって沢山いるし、それはそれでいいんだよ。幸せならさ」
差し込む日差しを
眩しそうに見上げて話す雪之丞。
「だから、俺が村でやってる物々交換を押し付けようとも、無理やり広めようとも思ってない。ただ、うちの村には、おしゃれな服を作る人もいる。カッコいい家を建てる人もいる。うまい米を作る人もいる。心震わす絵を描く人も、歌や物語を作る人もいる」
足元の石ころを拾い上げ、
手のひらで転がして、
「でも今すぐ、どっちかの暮らしだけってわけにはいかんのよ。俺も最初は私財投げ打ったわけさ。でも、ちゃんと自然と順繰りに回ってくる。ターンがあるんだよ。それぞれの。自然と宇宙は、そう出来てんのよ。コーディのエネルギーが出来たら、ホントに世界が変わるよ。きっと」
そう言って、アイソンの肩に優しく手を置いた。
「見たくね? そんな世界。エネルギーを奪い合って、不条理に命を奪い合うことのない世界。どんな国に生まれようと、どんな家に生まれようと、誰でも“好きな未来”を選べる世界」
「俺は見たいわ。フレアちゃんも、見たかった。アイソンくんが、ここまで引っ張ってきたんだべ? 見たくねえわけねえもんな」
優しく微笑みかける雪之丞。
「……フレアちゃん、気にしてたよ。アイソンの気持ち、考えてなかったって」
「確かに、心が追いついてなかったのかもしれません。でも前に進めないと……」
雪之丞の言葉に、アイソンが前を見た。
戻ってきた二人を、心配そうに見るフレア。
アイソンはフレアの隣に座り、
「作ろう、みんなの村を。そして素敵な暮らしを」
と、微笑んで言った。
フレアも微笑み返して、アイソンに言う。
「うん。村の名前は、アイソンが考えて」
少し考えて、アイソンが言った。
「シャングリラ……。……シャングリラ村。ジェームズ・ヒルトンの小説『失われた地平線』に出てくる、理想郷の名前なんだ」
フレアの顔にみるみる笑みが広がって、
「うん。いいね。シャングリラ村。うん、いい!」
と言って、アイソンに抱きついた。
5 Shangri-la村
雪之丞とアイソンと大河内の構想を、
大江が事務所を挙げて完全バックアップした。
フレアの自宅、アブソリュートスペースの社屋も、
レコーディングスタジオも、
「シャングリラ村」に作られることとなった。
渡瀬が地元のゼネコンに掛け合い、
大規模に人手を手配し、工事が始まった。
シャングリラ村の構想は、
水・電力・食を自給し、
自然と共鳴しながら生きる“未来の部族村”を目指していた。
霊峰・剣山の清らかな湧き水。
小水力+太陽+薪による分散型エネルギー。
そして、極秘裏に大河内とヌースによる
フリーエネルギー開発も行われていた。
食生活の基盤は、
自然農、棚田、薬草を活かした循環農法。
この地の精神文化と親和性が高い、AIや波動、
そして“直感”を受け入れる
“ネオ縄文的生活”を志向していた。
建設初期は、「ものがたりの村」を起点に、
アイソン、フレア、雪之丞らが
通う形で建設が進められた。
大河内だけがテント生活で、
調査・研究を行っていた。
やがて仮住まい用のプレハブ家屋が完成し、
皆がそこで暮らしながら、村の完成を目指した。
アイソンは真っ黒に日焼けしながら、
家屋やスタジオ、事務所や集会ドームなどの
建築に加わり、物語を綴っていた。
フレアは曲作りに没頭した。
フレアのママのお腹には、
新たな命が宿った。
アレックスはこの環境をえらく気に入り、
新作を次々と描き上げていった。
フレアは母親の大きなお腹を見つめながら、
穏やかな顔でアイソンに語りかけた。
「ママのお腹に赤ちゃんがいるって聞いた時、なんかリアルに“未来のこと”を意識したの。パパの夢をワタシたちが引き継いで、今度はまたそれを、ワタシの兄弟が引き継いでくれるんだね。きっと」
渡瀬が現場のムードを盛り上げる。
雪之丞が建設の中心にいる。
矢追が診療所の準備を進めている。
今日も、アイソンは上半身裸で、
褐色に焼けた身体を躍動させている。
曲を作り終えたフレアも、アイソンの隣で
オープンデッキにレンガを埋め込んでいく。
フレアが笑顔で言った。
「ありがと、アイソン」
「なんだよ急に」
鼻の頭にセメントをつけたアイソンが訊く。
フレアは首を振って、
そのセメントを指先で拭ってやり、
「最高に楽しい! ワクワクするね」
と、笑顔を弾かせた。
「ああ。ワクワクする」
と、アイソンが答えた。
