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旅行記⑤:ほっこり高知ひとり旅 〜3日目〜

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3日目


この日は本来、夕方の飛行機の時間まで特に予定もなく、
市内でダラダラのんびり過ごすつもりでいた。

だがしかし、私は突如、思い立ってしまった。


そうだ、中土佐町に行こう。

昨日聞いた、日本一おいしい鰹が食べられるという場所。

ここまで来て、『日本一おいしい』という鰹を味わわずに帰るわけには、いかない。
だって、この旅は、おいしい鮎と鰹を食べるために始まった、旅なのだから。


というわけで、突発で中土佐町(土佐久礼駅)への特急券を購入した。

土佐久礼駅のホームへ降り立ってみて、驚く。
この駅には、改札がない。開け放しの引き戸があるのみである。

駅舎を出ようとしたら、窓口の係員さんが、
「帰りの切符は持ってる? 昼までに買ってね」
と、声をかけてくれた。

どうやらこの窓口は昼に閉まってしまうらしく、自動券売機もないため、
今のうちに切符を買っておかないと、買う手段がなくなるらしい。
まじか。

慌てて帰りの切符を購入する。

係員さんは、
「なくさんように持っちょってね」
と、切符の上にパイン飴の包みをひとつ乗せて、手渡してくれた。


駅舎を出ると、
地元の観光案内係?らしき2人組の男性が、私に声をかけてきた。

鰹が食べられる市場までの地図を渡してくれて、
「ここをこう行って、こう行けば市場だよ」
「朝は○時から食べられるよ」
と、親切にいろいろ教えてくれる。

「今日の鰹もうまいよ!満点!」
「行ってらっしゃい」

そう見送ってくれる男性たちに感謝を告げ、私は駅舎を後にする。

なんというかここ、すっごく、人があったかい。
圧倒的ホスピタリティ。


そうして市場に辿り着いたが、開くまでにはまだ時間がある。
暇をつぶせるところ、この辺にあるかなあ、と歩き回っていたら、
和菓子屋さんを見つけた。

わー!和菓子屋さんだー!

私は静かに、和菓子屋さんに近寄る。
努めて無表情を保っているが、内心はテンション爆上がりである。

何を隠そう、私は和菓子屋さん大好き人間なのだ。
有名店の和菓子もいいけど、地元の個人経営の和菓子屋さんも好きで、見かけたらつい入りたくなってしまう。
こういうローカルな和菓子屋さん、一期一会の出会いって感じがするよね。

ほくほくと弾んだ気持ちで店頭のお菓子を眺めていると、
「久礼は初めて?」と、店員さんが話しかけてくれた。
初めてなんです、と伝えると、店員さんは市場での注文の仕方を丁寧に教えてくれる。
みんな、優しい。


そんな感じで時間を潰して、いよいよ本題の鰹が食べられる時間になった。
注文方法が独特で、先に市場で鰹をサクごと購入しておいて、
それから店内のテーブル席で待っていると、切った鰹を持ってきてくれる。というシステムだった。

さて、肝心の味であるが。
久礼の鰹は、食べた瞬間のインパクトや驚き、というようなタイプではない。
もっと後から、じわじわ来るタイプのおいしさだ。

まず、まったく臭みがない。だからタタキじゃなくて、刺身でもおいしくいただける。
そして、歯ごたえがしっかりしてて、噛めば噛むほどじわじわと、味が染み出してくる。
そんな味わいだった。


市場で鰹を堪能した後、帰りの特急まではまだ時間があったので、
折角だからということで、久礼の町をしばし探索してみる。

雨の降る港町を、傘を差して歩き回る。
たまたま立ち寄った神社の境内から、鳥居越しに海が見えた。


しばらく歩いて、足が疲れてきたので、
『古民家カフェ』なる場所に立ち寄ってみる。

しいんとしたカフェの中は、店主さんが一人だけで、他に客はいなかった。
若干緊張しながら席に座ると、クラシックのBGMが流れ出す。店主さんがかけてくれたのだろう。

さすがは古民家カフェ、店内のアンティークな小物や家具の雰囲気は落ち着いていて、趣がある。
私の座った窓際の席からは、静かに雨に濡れる中庭の景色を見ることができた。

私はメニュー表を眺めて、わらび餅とアイスオーレのセットを注文する。
運ばれてきたわらび餅をそっと写真に収めたり、庭を眺めたりしてくつろいでいると、常連さんらしきお客さんが一人、入ってきた。

「今日は一人かよ?」
と、お客さんが店主さんへ、声をかける。

「ふたりでやるほどぎょうさんおらん」

顔なじみらしき店主さんとお客さんは、わはは、と快活に笑い合う。
どうやら、普段は奥さんも接客しているらしい。

私は、わらび餅をモチモチと噛む。
入るときは静かで緊張したけれど、落ち着ける素敵な雰囲気のカフェで、入ってよかったなあ、と思う。


わらび餅を味わい、しばらく休んでから、
そろそろお暇しようかな、と、荷物をまとめていると、
店主さんが「お茶飲んでけ」と、あたたかいお茶を出してくれた。

はわわわわわ。
いいんですか、わらび餅セットしか頼んでないのに、お茶いただいちゃって。
ほんとに、あったかいなあ。ここの人たち。

夏とはいえ、長い間雨の中を歩いた身体は、少し冷えていた。
あたたかいほうじ茶を、ありがたくいただいた。


ちなみに、その時いただいたのが、このお茶です。


え、『なんだか見覚えがある』、ですって?

ふふふ。そうですね。

どうやらこのnoteの世界でも、このお茶をお裾分けしている場所が、
どこかにあるらしいですよ。
もしかしたらお茶じゃなくて、お団子か、わらび餅が出るかもしれないですけどね。




帰りの土佐久礼駅の中は、しいんと静かだった。
パイン飴をくれた係員さんも、もういない。
ほんとうの無人駅である。

私は切符を携えて、駅舎に入る。

この駅に、改札なんてものはない。
線路の前の踏切バーも、ない。
電車到着のチャイムやベルもない。
電光表示板もない。


私はなんとなくずっと、駅やホームというものは他の空間から隔絶されているイメージがあったのだけど、
どうやら無人駅というものには、明確な境界線が無いらしかった。

家や畑や道路なんかと、そのまんま地続きに繋がった空間に、ホームや線路が置いてある。
その感覚がなんだか不思議で新鮮で、面白い。

ぬるっとホームに上がり込んで、
ぬるっと到着した電車に、
ぬるっと乗りこんだ。

がらんとした特急列車の中、切符を持って座っていたら、
途中で車掌さんがやって来て、切符を確認していった。


電車に乗るときに改札に切符を通さなかったので、
降りるときも、切符を通さない。

帰ってきた高知駅、人混みの中へとまた、ぬるりと混ざりこんだ。




そんな感じの3日間だった。
どこに行っても人があたたかくて、ご飯もおいしくて、すてきな旅だった。

ハイライトはやっぱり、2日目の居酒屋さんかなあ。

かつては、外に出て人と話すのが怖いと感じていた時代もあった私が、
旅先で偶然出会った初対面の人たちと、あんな風に楽しく話せたこと。
ずっと忘れないよ。

ひとり旅だけど、ひとりじゃない。 
そんな旅だったな。


さて、じゃあ次は、どこに行こうかな。


〜ほっこり高知ひとり旅・完〜


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