なぜバックオフィスの属人化は「ある日突然」崩壊するのか——放置した会社に起きること
はじめに
バックオフィスの属人化が進むとある日突然、会社の業務が止まることがあります。AI時代においてこのリスクがさらに高まっています。
「うちのバックオフィスは安定している」
そう思っている経営者に、ある日突然こう言われます。
「経理の担当者が来月で退職します。」
そのとき初めて気づきます。
誰もやり方がわからない。
どこまで進んでいるかもわからない。
マニュアルを見ようとしても、実は更新もされていない。
過去、誰も読んでいなかった。
どんなに大きい企業でも小さい企業でもこれは非常に多く起きていることです。
問題はなぜ気づけなかったのか——ではありません。
気づけない構造になっていたのです。
なぜ「安定しているように見えた」のか
現場では3つのことが同時に起きています。
担当者が抱え込む。
周りには見えない。
表面上は回っている。
この3つが重なると「問題がない」に見えます。
それで全部うまくまわってしまうからです。
でもこれは「問題がない」のではなく「問題が見えない」状態です。
これが一番起きるケースが一人の優秀な社員がいる場合です。特にエクセル、マクロ、システムに強い社員がいる場合に起きやすいです。
さらにベテランが活躍している会社ほど、これが起きます。
優秀な担当者が一人でうまく回してくれている。
だから経営者は安心します。
でも中身は完全なブラックボックスです。
回っているときこそ、業務を設計するのが鉄則です。
業務の崩壊のきっかけは些細なこと
ある日、その担当者が退職する。
長期休暇に入る。急に異動になる。
その瞬間に業務が止まります。
止まるのは通常業務ではありません。
その人の頭の中にあった「イレギュラー対応の知識」が消えるからです。
業務の件数でいえば、通常業務が9割・イレギュラーが1割です。
しかし業務時間の配分は逆転します。
イレギュラー対応に9割の時間が費やされていた。
そしてその知識を持っていたのは、その担当者だけでした。
このイレギュラー対応ほどドキュメント化されずに、各部署と口頭で調整しているケースが多いです。
得意先とのイレギュラー事項であれば営業部と
仕入先とのイレギュラー事項であれば調達部・購買部と
決算に関するイレギュラー事項であれば、税理士もしくは社長と
個別に調整を行っているケースが多いです。
典型的な崩壊の流れ
① 誰も判断できない
② 過去の経緯がわからない
③ 資料の意味がわからない
④ 確認先がいない
こうして全員が止まります。
「マニュアルを見てください」が機能しない理由
このとき必ず起きることがあります。
「マニュアルを見てください」
しかし実際にはほとんどマニュアルは見られません。 なぜか、忙しくて目の前の仕事こなすことでいっぱいいっぱいだからです。
それだけ万全の準備をしたうえで仕事をする人はよっぽど暇な人です。たいていは急に引き継ぐケースが多い。そうなるとマニュアルを見ることよりも今目の前の業務を進めることに集中します。だからマニュアルを読むことの優先順位が下がります。なぜか、これは業務の期限があるからです。期限を過ぎたら怒られます。だから怒られるのを回避するのが優先順位の高い行為であり、マニュアルを読むことは優先順位を下げるのです。
そして優秀な人ほど自分でできてしまうので、マニュアルを見ません。それで仕事が回るからです。マニュアルを見るよりも自分自身で業務を構築して満足する人がいます。マクロを組んだり、今だとAIで業務効率をすることがいい例です。
また経理の知識のない人がマニュアルを読むとき、とりあえず読もうとはしますが、ページ数が多い、どこが重要かわからない。「困ったときに見ればいい」と思っている。すなわち読む気が失せている状態です。 これは怠惰でも悪意でもありません。人間として自然な心理です。 「見てください」は指示ではなく期待です。 期待は設計に変える必要があります。 マニュアルが「使われる仕組み」を作ること。業務が発生したタイミングで開く導線を作ること。重要箇所を対面で指さして伝えること。これが設計です。
「この仕事は簡単です」という引き継ぎの罠
もう一つ、崩壊を加速させる言葉があります。
「この処理は簡単です」という言葉です。
確かにそういったものであれば、 9割は進みます。
でも残りの1割で必ず止まります。
なぜならイレギュラーが説明されていない。
判断基準が共有されていない。
そういったイレギュラー事項である1割が業務時間の9割を占めます。
「簡単」という言葉には
「単純入力だから誰でもできる」
「これを見たらすぐわかる」
という意味が込められています。
でも「簡単」かどうかは人それぞれです。
前任者の「簡単」は20年の経験値に基づいています。
さらに「簡単と言われた」後任者は困っても相談しにくくなります。
「簡単なはずなのに理解できない自分がおかしい」という申し訳なさが加わるからです。
引き継ぎから「簡単」という言葉を排除する。
通常ケースとイレギュラーケースを明確に分けて伝える。
これが引き継ぎ設計の基本です。
簡
なぜこうなるのか——性弱説という考え方
属人化が繰り返される根本的な理由があります。
実力のある人、スキルのある人が回す前提で仕組を設計しているからです。
「任せれば正しくやってくれるはず」
「渡せば読むはず」
「伝えればわかるはず」
——この前提で設計すると、優秀な人が辞めた瞬間にすべてが止まります。
なぜならその業務は優秀なその人だからできた業務であって、そうでない人ではとても同じ時間でこなせないからです。これはマクロを組んで業務を行っている、というものであればイメージしやすいでしょう。最近だとこれがAIによる業務設計にあてはめることができます。
本来、仕組みは「性弱説」で設計すべきです。 人は弱い。怠惰になる。報告を怠る。面倒を避ける。自分を管理しようとしない。 これを前提に、それでも業務が回る仕組みを作る。これが持続可能な設計思想です。
「優秀でない人でも回る業務」
これが一番最高な業務の設計です。
属人化の本質
属人化とは「特定の人しかできない状態」ではありません。
正しく言うと 「人が弱い前提で業務が設計されていない状態」
です。
最終的に起きること
ミスが連鎖する。修正に時間がかかる。取引先からの信頼を失う。
そして経営者がこう言います。
「なぜもっと早く気づかなかったのか」
しかし早く気づかなかったのは、あなたの責任ではありません。
気づけない構造になっていただけです。
まとめ
問題は人ではありません。 構造です。 属人化は自然発生します。放置すれば必ず崩壊します。 強い会社は問題が起きてから対応しません。最初から設計します。 人に依存しない。設計に依存する。
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