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シミュレーションの作り方 〜不安を「数字で握る」技術〜

「来月の資金繰り、大丈夫かな」
「売上が伸びたのに、なぜ利益が残らない?」
「採用を増やすべき?広告を止めるべき?」

——この手の悩みは、気合いでも根性でも解決しません。
解決策はひとつ。“シミュレーション(数値の未来予測)”を作り、意思決定を数字で握ることです。

経理は、過去の記録(会計)に強い。
でもキャリアが伸びる経理は、そこから一歩進んで 未来の議論(経営) に入ります。
シミュレーションは、その入口です。

この記事では、未経験でも作れる形で「シミュレーションの作り方」を、実務の手順に落とし込みます。SaaSにも対応した考え方で書きます。



1. シミュレーションの正体は「仮説を置くこと」

シミュレーション=複雑なExcelモデル、と思われがちですが本質は違います。
本質は 「仮説を置いて、結果を確かめる」 こと。

  • 受注が10%落ちたら、何が起きる?

  • 採用を2名前倒ししたら、キャッシュはいつ尽きる?

  • 単価を上げたら、解約率はどう動く?

  • 広告費を増やしたら、回収は何ヶ月?

つまりシミュレーションは、未来を当てる道具ではなく、未来の不確実性を“管理可能な形”にする道具です。
当たるかどうかより、意思決定の質を上げるのが目的です。


2. まず決めるべきは「何を決めたいのか」

ここがブレると、Excelが地獄になります。
シミュレーションは、次のどれかに必ず紐づけます。

よくある目的(経理・FP&A)

  1. 採用:何人採って良いか/いつ採るか

  2. 投資:広告・開発・新規事業にいくら投下できるか

  3. 資金繰り:いつ資金が足りなくなるか(バーンとランウェイ)

  4. 予算達成:どのKPIが足りないか(打ち手の優先順位)

  5. IPO準備:成長ストーリーと収益性の整合性

目的が決まると、見るべき数字が自動的に決まります。


3. シミュレーションは「3つの箱」で作ると速い

シミュレーションは、構造を固定すると爆速で作れます。
おすすめはこの3つ。

箱①:入力(Assumptions)
仮説を置く場所(変更するのはここだけ)

箱②:計算(Model)
入力から売上・費用・キャッシュを計算する場所

箱③:出力(Dashboard)
意思決定者が見る場所(結論だけ)

入力をいじれば結論が瞬時に変わる——これがシミュレーションです。
逆に、入力・計算・出力が混ざると、翌月には誰も触れない“化石Excel”になります。


4. 最小構成:まずは「売上→粗利→営業利益→キャッシュ」だけ

最初から完璧を狙うと、100%挫折します。
まずは“最低限の未来”だけ作るのが正解。

最小の出力(これだけで価値が出る)

  • 売上(またはARR/MRR)

  • 粗利(売上−変動費)

  • 営業利益(粗利−固定費)

  • 現預金残高(キャッシュ)

  • ランウェイ(月数)

これが出れば、経営は意思決定できます。


5. SaaS向け:まずは「MRRツリー」を作る

SaaSなら、売上を一発で当てに行くよりも、構造で作るほうが精度が出ます。

MRRの基本構造

  • 新規MRR(新規獲得)

  • 解約MRR(ロゴ解約+ダウングレード)

  • アップセルMRR(単価上昇・席増)

  • リテンション(NRR) の影響

最初は難しければ、こう割り切ってOKです。

  • 新規:月◯件 × 平均MRR

  • 解約:MRR × 解約率(%)

  • アップセル:MRR × アップセル率(%)

この3つを入力にすれば、MRRは積み上がります。
そしてMRRが積み上がれば、PLもキャッシュも積み上がります。


6. 手順:シミュレーションを“誰でも作れる”7ステップ

Step1:期間を決める
まずは 12ヶ月 で十分(3年は後で良い)

Step2:KPIを1〜3個に絞る
例:新規獲得数、解約率、ARPA(単価)
※KPIを増やすほど“当たらない未来”が増える

Step3:仮説(入力)を置く

  • 新規獲得数:月30→35→40

  • 解約率:1.5%→2.0%(悪化ケース)

  • 採用:4月に2名増

  • 広告費:月300万→400万

Step4:計算ロジックを固定する
「入力→MRR→売上→粗利→費用→利益→キャッシュ」
この一本道にする(分岐は増やさない)

Step5:固定費は“塊”で入れる
最初は人件費・外注費・広告費・家賃など、大項目でOK。
明細化は後で良い。

Step6:出力は“意思決定に必要な3枚”に絞る

  • 月次PL(簡易でOK)

  • キャッシュ推移

  • KPI推移(MRR/NRRなど)

Step7:ケースを3つ作る(これが刺さる)

  • ベース(現実ライン)

  • ストレッチ(攻め)

  • ワースト(守り)

経営陣が本当に欲しいのは、1つの予測ではなく、**「どこまで耐えられるか」「どこに賭けるか」**です。


7. よくある失敗パターン(ここを避けるだけで勝てる)

失敗①:過去の延長で未来を作る
成長企業ほど、過去の平均は役に立ちません。
重要なのは「打ち手を変えたらどうなるか」。

失敗②:入力が多すぎる
入力20個は、運用不能です。
まずは5個以内に絞る。

失敗③:“当てる”ことに執着する
当てるのが目的になると、数字を捏造し始めます。
シミュレーションは 議論の土台。外れても良い。むしろ外れた理由が学び。

失敗④:結論が見えない
意思決定者はExcelを読みません。
出力は「結論→根拠→次のアクション」の順に。


8. 経理がシミュレーションを作れるようになると、人生が変わる

正直に言うと、経理がしんどいのは「責任が重い」からだけじゃない。
未来の議論に呼ばれないからです。
月次締めを頑張っても、経営判断の場で発言権がないと、消耗します。

でもシミュレーションを握れると立場が変わります。

  • 「いくら使っていいか」を言える人になる

  • 「いつ危ないか」を先に言える人になる

  • 「どうすれば達成できるか」を設計できる人になる

この瞬間、経理は“作業者”から“経営のパートナー”に変わります。
評価も年収も、キャリアの選択肢も、ここから跳ねます。


9. すぐ使える:シミュレーションの最小チェックリスト

  • 目的は1つに絞ったか?

  • 入力は5個以内か?

  • 出力はPL・キャッシュ・KPIの3つか?

  • ベース/ストレッチ/ワーストの3ケースがあるか?

  • 更新できる構造になっているか?(入力と計算が分離)


まとめ:あなたが「責任感で潰れそう」なら

予算・中計・IPO準備・予実…全部を抱えている人ほど、シミュレーションが武器になります。
なぜなら、仕事を減らすには「やらない理由」を数字で示す必要があるから。

  • これ以上の採用は無理(キャッシュが尽きる)

  • ここを先に整備しないとIPOが遅れる(工数の優先順位)

  • このKPIが崩れているから、今月はここだけ見ればいい

責任感が強い人は、全部抱える。
でも全部を抱えた人ほど、最初に倒れる
シミュレーションは、「抱えないための根拠」を作る道具でもあります。


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