ベルギー&オランダひとり旅#12.マウリッツハイス美術館~旅に刻まれる出逢いとともに~
先程まで小雨が舞っていたはずの空は、いつの間にか澄んだ青色を取り戻していました。ひんやりとした空気を胸いっぱいに吸い込み、来た時と同じように小川を辿って戻る道――。
Depot での余韻を胸に抱きつつも、ゆっくりする余裕はありません。足早に次の目的地へと向かいます。
到着したのはデン・ハーグ(Den Haag)。
アントワープ → ロッテルダム → デン・ハーグ → アムステルダム
この日は4つの都市を移動する計画を立てていたのですが、意外にいけるものですね。まあ、計画の段階で大丈夫だと踏んで来たわけですが――。

再び小雨模様
マウリッツハイス
デン・ハーグに来た目的は、マウリッツハイス美術館(Mauritshuis)です。
1822年に開館したマウリッツハイス。17世紀のオランダ黄金時代を代表する画家のレンブラントやフランス・ハルス、そして西洋美術史に多大な影響を与えたフランドルの大巨匠・ルーベンスの傑作が迎えてくれます。なかでも、同美術館はフェルメールの《真珠の耳飾りの少女》を所蔵していることで有名で、世界中から多くの人々を惹きつけています。
規模はというと、美術館としては小さめです。・・・が、それがいい!
館名にあるハイス(huis)はオランダ語で「家(ハウス)」を意味し、もともとはオランダ貴族・マウリッツ家の邸宅だったそうです。そのためか、どこか温かく、居心地の良い雰囲気が漂っていて、個人的には今までに訪れたどの美術館よりも魅力を感じました。

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◆印象に残ったコレクション
規模は小さくても傑作ひしめくマウリッツハイス。ここからは、特に心に残った作品について記したいと思います。

パウルス・ポッテルは牛や馬を多く描いたオランダの画家で、《若い牡牛》は彼の代表作です。《真珠の耳飾りの女》が来る前は、本作品がマウリッツハイスの顔だったとか。
訪問した際は修復中でした(おそらく現在も)。
レンブラントの《夜警》然り、こうして修復中のプロセスを直接見ることができるのはオランダの良い所ですね。

今回初めて知った画家のルーラント・サーフェリー。
鳥獣画を得意とし、この絶滅したドードー鳥を描いたことで有名だそうです。

こういう絵画を見ると、ピーテル・ブリューゲル?って思っちゃう。

ヤン・マイテンスはオランダ黄金期を代表する画家の一人で、デン・ハーグで活躍しました。貴族や有力者の肖像画を中心に描き、人気を博したそうです。

ルーベンスだ~!
アントワープの聖母教会で観た『聖母被昇天』を思い出します。

こちらもルーベンス作。
おばあちゃんと男の子(孫?)という組み合わせが素敵。心が温かくなる作品です。

フランスハルス美術館に行って以来、見事に魅了されてしまった画家のフランス・ハルス。
荒い筆の動きから生み出されるリアルな質感と、人物の性格までをも映し出すこの画力。
本当に見事だこと。

まさにヤン・ステーンの絵って感じ。
人間の嫌な面を描かせたら右に出る者はいないんじゃないかって思っちゃう。
けど、犬はとってもかわいく描くのね。

こちらの作品も有名なのだとか。
とても小さい作品でしたが、現存するヤン・ステーンの絵画の中で最小だそうです。

「静寂」という音を表現する静物画。結構好きなジャンルです。
そこから伝わるメメント・モリ――。
ピーテル・クラースゾーンは、ウィレム・クラースゾーン・ヘーダと並び、17世紀のオランダで最も重要な静物画家と言われているそうです。へぇ~。
同じ「クラースゾーン」ということで兄弟か何かかなって思ったけど、そういうわけではないらしい(多分)。記録があまり残っていないそうです。

なんと、ジェーン・シーモア!
イングランド王のヘンリー8世の(何番目かの)奥さんだよね?なぜここに?
・・・なんて考えていると、同じようにこの絵に反応を見せる方がいらっしゃいました。その方は一緒に来ていた友人相手に、ヘンリー8世が歴代王妃に対してどのような仕打ちをしたのか一生懸命語っておられました。わかる、話したくなるよね。わかる。

実はこれ、マウリッツハイスで一番心に残っている絵です。
かわらしくて、ほっこりする。
アドリアーン・コールテはオランダの画家ですが、生涯については記録があまり残っていないそうです。小ぶりの静物画を多く残したのだとか。
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◆やっぱりレンブラント

フェルメールの《真珠の耳飾りの少女》と並んでマウリッツハイスが世界に誇る傑作です。
アムステルダムの外科医たちを描いた集団肖像画で、画力も然る事ながら、それまでにはなかったシチュエーションを取り入れ、強い陰影を用いてその様子を劇的に表現しました。
思ったよりも大きな作品で、多くの人が群がっていました。
かくいう私も絵の前のソファーに座り、しばらくの間、眺めていました。

(左)《Saul and David》1651-1654年頃と1655-1658年頃
(右)《Two African Men》1661年
こちらの二作品も好きでした。
右の《Two African Men》を見た瞬間、王立美術館で観たルーベンスの《黒人の頭部の4つの習作》を思い出しました。こちらもルーベンス作品かと思いきや、レンブラントでしたね。

レンブラント後期の作品でしょうか。
上記の作品にはない人間臭さと深みを感じます。
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◆フェルメール作品と想い出

言わずと知れた《真珠の耳飾りの少女》。
「史上最大のフェルメール展」以来、一年ぶりの再会です。


◇
"Could you take my picture?"
廊下に飾られている絵画を前に、このまますぐに列車に乗るのは惜しいと思っていたその時、ふいに声を掛けられました。
振り向くと、そこにはスマホを手に持つ中国人らしき女性が。50代、あるいは60代でしょうか。同じアジア人でひとり旅。初対面なのにどこか懐かしさと親近感を覚えたのは、そのせいかもしれません。
話を伺うと、この方も西洋画好きで、休暇のたびに美術館巡りをしているそうです。普段は母親とふたり暮らしで、お母さまは娘の旅行写真を見るのが楽しみなのだとか。「絵を観ることに夢中になって、写真を撮るのを忘れてたわ」と、柔らかい表情で話してくれました。
"Where do you live?"
「韓国に住んでます。日本人ですけどね」と答えると、彼女は少し弾んだ声でこう言いました。
「That’s interesting! 実は、私も中国人だけどノルウェーに住んでるの!」
ああ、なるほど。
"Where are you from?" ではなく "Where do you live?" と尋ねられた理由がわかった気がします。そして、出身地も住む場所も異なる彼女と、絵が好きという共通点に導かれ、こうして遠い国で出逢えたことがとても嬉しく思いました。
「この中で一番好きな絵はどれですか? その前で写真を撮りましょう。」
その提案に「申し訳ないわ」と、目を細くして首を振る彼女。
私は、「すべて観終えたので大丈夫ですよ」と伝えました。
「名画ばかりだから悩むわねえ・・・」と、少し思案した後に彼女が向かったのはフェルメールの《デルフトの眺望》。ノルウェーに移る前、デルフトに10年以上住んでいたそうです。
「フェルメールといったら《真珠の耳飾りの少女》だけど、私はこの作品が一番好き。大好きなあの街の風景を思い出すから。」
一年前の旅行でデルフトを訪れていた私は、この言葉に、深く頷きました。
その後も、短い時間ではありましたが、旅の思い出を分かち合いました。温かく迎えてくれたマウリッツハイスのように、朗らかな笑顔をする彼女。名作に囲まれた空間でふと訪れた、心を癒すひとときです。

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