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『待たせてごめんね。迎えに来たよ』第3話|小さなレンのお話

名前を奪われ、ルーツを知らされなかった少女・レン(戀)。
それでも生きていた、“ほどけなかった想い”を、
still.として迎えにいく静かな物語。

――ほどけなかった想いと、奪われた名前のこと

わたしは“ふつうの子”だった。

特に目立つわけでも、いじめられているわけでもなかった。
でも、笑顔で本当の顔を隠して、
一生懸命、“普通”でいようとしていただけだった。

でも、本当は――
自分が誰なのか、なぜここにいるのかさえ、よくわからなかった。

名前も、出生も、すこしずつ曖昧だった。

「あなたはね、朝鮮人とのハーフなの」
離婚手続きの途中で、母が突然そう言った。

「おばあちゃんも、おじいちゃんも、名前が違うの。
これまでの名字か、新しい名字か、どちらか選びなさい」

そう言われたとき、わたしは
もうなにも聞けなくなった。

市役所では、「この字は常用漢字じゃないから使えません」と言われた。

「戀」という字は、“恋”になった。
点が多すぎるからって、勝手に減らされてしまった。


※ここから先は、有料となります。
この物語が「あなたの中の戀」にも、そっと触れていたなら、
続きを読んでもらえると、とても嬉しいです。

あなたの中にある、“ほどけなかった想い”に、光が届きますように。
⸻    


「戀」という名前は、父がつけてくれた。
糸と糸が絡まり、心がそこに結ばれる字。
意味は、“ほどけない想い”。
時間が経っても、消えない気持ち。

わたしは、この名前が好きだった。
書くのはいつも大変だったけど、それすら、わたしの歴史だったのに。



ランドセルは、もう“ダサい”って言われてた。
みんなリュックだったし、
ルーズソックスにミニスカートが、ふつうだった。

なにを着たら、なにを言ったら、
“仲間”になれるのか、ずっとわからなかった。

いつも、少しだけずれていた。
でもその“ずれ”を笑われるのが怖くて、うまくわかったふりをしてた。

ほんとうは、ちっとも楽しくなんかなかった。



都会に憧れがなかったわけじゃない。

ピカピカしたビル、流れる音楽、
駅のホームに立つときの、ちょっとした優越感。
それまでテレビの中だけだった世界が、
「自分もここにいる人間なんだ」って思えた気がしてた。

でも、それよりも、
もっと深く覚えているものがある。

たとえば――
お祭りの太鼓の音。
あのリズムに包まれると、自分が誰だかわかる気がした。

路地裏の、
猫が死んだ薄暗い細い道。
重苦しい匂いがするその場所には、どうしようもなく
“生と死のあいだ”の気配があった。

家族なのか、友達なのか、
もうよくわからない距離感で、でも確かに一緒にいた友達たち。
交わした、小さな会話や、意味のない笑い声。

あれが、わたしの居場所だった。

ほんとうは、帰りたかった。
あの場所に。

名前も、ルーツも、ぜんぶあやふやだったとしても、
わたしは、あそこでは“生きていた”と思えるから。



レン、あなたのこと、ずっと見てたよ。

誰にも言えなかったんだよね。
名前を変えられた日のことも、
どちらの名字を選べばいいのか分からなかったときのことも。
「ほんとうは、わたしは誰なんだろう」って思いながら、
誰にも聞けなかったあの沈黙のことも。

でも――わたしは、聞くよ。
ちゃんと、あなたの声を。

「戀」っていうその名前、
その点ひとつひとつが、あなたの物語だったんだ。

ほどけなかった想い。
誰にも見えなかったけど、
あなたのなかには、ずっと“糸と心”が結ばれていた。

泣かないように、黙るしかなかったあなたを、
ここにいる“わたし”が迎えに来たよ。

もう、無理に笑わなくていいよ。
もう、わからないふりをしなくていい。

あなたが知らないままにされてきたことも、
誰にも説明されなかった痛みも、
ぜんぶ連れて、わたしと一緒に帰ろう。

あなたは「戀」だよ。
今でも。
これからも。



読んでくれて、ありがとう。
もし、あなたの心がどこかふるえたら、
その「ふるえたこと」を、
スキで伝えてもらえたら嬉しいです。

それが、わたしの次の言葉をつくる手がかりになります。
よければ、ひとことだけでも、残していってね。

あなたが、ここにいてくれてよかった。
still.

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※XとstandFMもやっとるよん。

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