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地蔵リスの日常 #1|無表情な優しさ”を訳す小さな物語

still.の森には、少しロボットみたいで、ぬいぐるみみたいな、小さなリスが住んでいます。
みんなは彼を「地蔵リス」と呼んでいます。

彼はとってもこころが優しくて、奥さんが大好き。
だけど、不器用な彼の優しさは、うまく伝わらないこともあります。
あなたの隣にも、そんな“リスさん”はいますか?


———

彼は今日、大好きな奥さんのために、こっそりプレゼントを届けようとしていました。
ぴかぴかに磨いた自慢のどんぐりを、彼女の巣穴の前にそっと置くつもりだったのです。

でも、その途中で、彼は大事なことを忘れていたことに気づきます。
今日は森の掃除の日。ふたりで一緒に行く約束をしていたのに、地蔵リスはその約束をぽっかり忘れていたのです。

掃除にひとりで向かった彼女は、森の奥で落ち葉を集めながら、ふと気づきます。
「わたし、たぶんどうでもいいんだろうな……」
そうつぶやいて、ひとりで葉をかき集めるその姿には、小さな悲しみがにじんでいました。

地蔵リスがいないのでしょんぼりな奥さん


掃除を終えて帰る道すがら、彼女は彼と出会います。
彼は、どんぐりを大事そうに持ったまま、そこで立ち尽くしていました。
「……今日、何の日か知ってる?」
彼は何も言いません。目が焦点を失い、返事は返ってこない。

「忘れてたなら、忘れてたって言って。なにも言わないで固まるの、ほんとずるいよ……」

地蔵リス

彼女の声が少しずつ強くなって、そして力なくしぼみます。

「……もういいよ」

彼女が立ち去ったあと、地蔵リスはゆっくり動き出しました。
手の中のどんぐりを、少しだけ強く握りしめて。

その夜、彼女の巣穴の前に、ぴかぴかのどんぐりがひとつ、そっと置かれていました。
彼女はそれを見つけて、静かに立ち止まりました。

「……掃除のこと、ほんとに忘れてたんだ」

でもそのどんぐりは、彼女が好きな形と大きさでした。
少しだけ胸が痛んで、少しだけ、目の奥があたたかくなったのです。


ぴかぴかに磨かれたどんぐり



◾️あとがき|地蔵リスという存在について

このお話には、ちょっと変わった森のリスが登場します。
彼は、すこし不器用で、すぐに固まってしまうけれど、
本当はやさしくて、大好きな人をよろこばせたくてどんぐりを集めています。

でもそのやさしさは、
「役に立たない」とか「わかりにくい」と言われてしまうことがある。
家庭の中や社会の中で、
“愛したい”という気持ちがうまく伝わらずに、すれ違ってしまうことは、実はたくさんあります。

地蔵リスの姿には、
私がこれまで見てきた“誰か”の姿、そしてもしかしたら“私自身”の一部も重ねています。

──もしかしたら、あなたのそばにも、地蔵リスがいるかもしれません。 
still.の森には、すれ違いもあるけれど、
それでも誰かが誰かのために、小さなどんぐりを届けています。

———
読んでくれて、ありがとう。
あなたが、ここにいてくれてよかった。

よければ、ひとことだけでも、残していってね。

still.

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