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心の境界線って、知ってる?

昼休み、コーヒー片手に、
なんとなく夫婦の話になった。

「わかってほしいのに、伝えられないんだよね」
そんなふうにこぼしたら、
友達がふと、こんなことを言った。

「ねえ、境界線って、知ってる?」

………それは、思ってたよりも深い話だった。

**

「ねえ、境界線って、知ってる?」

そう聞かれたのは、仕事の休憩中。
ぬるくなったコーヒーを飲みながら、
お互い、ちょっと疲れた顔で、夫婦の話をしてたときのことだった。

「境界線?…なんとなくは。
人とのあいだに線を引くやつ、だよね?」

「うん。
もう少し言うとね、
“自分と相手をちゃんと別の人間として見られてるか”ってこと。」

「……別の人間、かぁ。」

私は紙コップのふちを指でなぞりながら、
少し考えてしまった。

「それ、もしかして、
私にとって、いちばん難しいやつかも。」

**

わかってほしい」って、
ずっと思ってきた気がする。

夫にも、子どもにも、
親にだって。

なんで伝わらないの?」
どうして、こんなに近くにいるのに、わからないの?

そう思って、勝手に傷ついて。
そして、何も言わなくなる。

**

「わたしもそうだったよ」
彼女は、静かに言った。

「でもさ、
それってたぶん、“この人は私と同じはず”って、
どこかで思い込んでるからなんだよね。」

「……ああ。」

言われてみて、
ずるっと何かが剥がれ落ちる感じがした。

「でもさ」
私は、ちょっと笑いながら言った。

「家族じゃん。夫婦じゃん。
“同じ気持ちでいてほしい”って、
願うくらいは、してもいいよね?」

「もちろん、心の中で、願う分にはね。」

彼女も、少し笑って返してくれた。

「でも、それが“当然”になると、
自分の輪郭が、少しずつ消えていくんだよね。」

**

私は最近、
「言わないこと」が増えていた。

ほんとは伝えたいのに、
「わかってもらえなかったらどうしよう」って思って、
やめてしまう。

それね、境界線があいまいになってるサインかもよ。」

彼女はそう言った。

「自分の気持ちと、相手の反応がごちゃまぜになってると、
話すのって、怖くなるんだよ。」

**

「じゃあどうしたらいいの?」って、思わず聞いた。

まずはね、
“ほんとはどうしたい?”って、
自分に聞いてあげることかな
。」

彼女のことばをコーヒーで流し込み、
少し沈黙して、
私は、ため息みたいにこう答えた。

「……ちゃんと伝えたかっただけだったのかも。
ただ、
“私はこう感じてるよ”って。
本当は、それだけだったかもしれない。」

「それ、すごく大事な気持ちだと思うよ。」

彼女はそう言って、コーヒーを飲み干した。

「わかってもらうためじゃなくて、自分の声に耳を傾けてみるのも大事かも。
わたしも、やっと最近、それを練習してるところ。」

**

午後の小さな休憩時間。

境界線って、
誰かと距離をとるための線じゃなかった。

あなたと私は違う」って知ったうえで、
「それでも一緒にいたい」と思える、優しい線のことだった。

**
読んでくれてありがとう。読者の中にも、この線があるなら、わたしもうれしいです。

よければ、ひとことだけでも、残していってね。

still.
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※初めて有料記事を書きました。
冒頭部分は無料。ぜひ一度覗いてね。
『夫を訳す。──わたしの怒り方には、理由があった。』


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