見出し画像

【第2話/後編】『島根と神話の語り』(歴史王国編)



【前回までのあらすじ】
異世界「歴史王国(ヒストリア)」へ転移した女子高生・悠。
国王の雪也に案内された豪華な自室で、彼女は元の世界で絶望の象徴だった「13点の歴史のテスト用紙」を差し出す。

すると雪也は、現代日本の高度な製紙技術と複雑な日本語の文字体系に驚愕し、その紙には「家一軒」に匹敵する価値があると断言する。
悠が語る「日本語は『愛(あ)』で始まり『恩(をん)』で終わる」という哲学は、傲慢だった守護者・拓夜の心をも動かした。

島根では「出来損ない」と蔑まれた赤点の用紙が、この国では国宝級の財産として認められたのだ。自信を取り戻し始めた悠は、自らの知識を武器に、さらなる日本の歴史を語り始める。

第1話はこちら

第2話はこちら


「……でも、まずは私の故郷、島根の話をさせてください」

悠は、窓の外に広がる歴史王国の夜景を見つめながら、遠い故郷の空を思い出した。


「私の生まれた島根は……八百万(やおよろず)の神々が集まる場所と言われていました。日本という国が形作られるずっとずっと昔、神様たちがこの世界を整えていた時代の物語が、今も息づいている場所なんです」


「神が集まる場所……」
雪也が吐息をもらすように呟いた。
歴史を重んじる彼にとって、それは何よりも魅力的な響きだったに違いない。

「はい。例えば……十月。日本中では『神無月(かんなづき)』、
神様がいなくなる月と呼ばれますが、私の地元だけは『神在月(かみありづき)』と呼ばれます。
全国の神様が島根に集まって、人々の縁について会議を開くんです」


悠は、自分の言葉が熱を帯びていくのを感じた。
島根にいた時は当たり前すぎて、むしろ「何もない田舎」だと思っていた風景。けれど今、こうして語ることで、その尊さに気づかされる。


「大きな海があって、そこには『国譲り』の舞台となった浜があります。
巨大な神殿があって、目に見えない縁を結ぶ神様がいて……。
私は、そんな神話の物語の上に立って、毎日学校に通っていました」

「おい、待てよ……」
拓夜が、どこか呆然とした様子で口を開いた。

「お前、そんな神様たちが会議するような、とんでもない場所から来たのか? ……ただの迷子じゃなくて、聖域の住人かよ」

「ふふ、自分でも驚いてる。
あんなに嫌いだった日常が、実は神話の続きだったなんて」

悠は、テーブルの上の「13点のテスト」を指先でなぞった。


「私の国では、神様も失敗したり、泣いたり、兄弟喧嘩をしたりします。
完璧じゃないんです。
だからこそ、私たち人間は神様を遠い存在じゃなく、身近な家族のように大切にしてきました。
……この13点のテストに書かれた歴史も、その神話から繋がっているんです」


雪也は深く、深く椅子に体を預けた。
「悠。君は島根という『物語の源流』を背負ってここに来たんだね。
この国に、神話の風を運んでくれたんだ」

雪也の瞳には、先ほど以上の敬意と、そして「もっと知りたい」という飽くなき知的好奇心が渦巻いていた。

「よし、決めたよ。
悠、君には明日から僕の専属の『語り部(ストーリーテラー)』になってもらう。島根の神話、そしてそこから続く日本の歴史……。
そのすべてを、僕たちに刻んでほしい」

悠は力強く頷いた。
島根の女子高生、悠。
彼女は今、異世界で「自分のルーツ」を武器に、新しい一歩を踏み出した。


続きが気になる方は『スキ』やフォローをお願いします♡

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集